第八話 修業編④
「修業第二段階はね。俺の力の影響下のもとで、俺の能力から逃げてもらいます!」
アンナがぽかんとした顔をする。
「……はい?……」
隣でロッドが顔色を変えた。
「エイド様!それは無茶です!」
必死だなぁ。
まあ、普通はそう思うか。でも俺はそんなことは一切気にしない。
「どう?やるの?」
アンナを見る。
迷うかと思ったが――
「……はい。やります!」
即答だった。
お、いいね。
「やっぱり、そう来なくちゃ」
軽く肩を回す。
「ハンデとして、俺の力は0.001%に抑えておくよ。さて――始めようか」
その瞬間。
世界から、音が消えた。
――刹那。
アンナの真後ろの地面が、消えた。
「ごほっ!」
衝撃でアンナが吹き飛び、地面を転がる。
ロッドが息を呑んだ。
アンナの横腹が、ごっそり削れている。
「アンナ!」
ロッドがアンナの元に駆け寄ろうとする。
だが、その前に、アンナの傷が、巻き戻った。
削れた肉。破けた服。地面の血。
全部、元通り。
ロッドが目を見開く。
「これは……」
俺は肩をすくめた。
「言っただろ。ここは“俺の能力下”だって」
軽く指を鳴らす。
「死んでも十二時間以内なら、自動で元通りだ」
俺が展開しているのは創世魔法――月喰空虚
対象の情報子を保存して、
それが失われたら元の状態へ逆行リターンさせる。
まあ、簡単に言えば巻き戻しだな。
ロッドが息を吐いた。
「……確かに、それなら死ぬ心配はありませんね」
「だろ?」
俺はニヤッと笑う。
「じゃ、どんどんいくぞ」
次の瞬間。
アンナが横に転がる。
直後、さっきまでアンナがいた場所に、巨大なクレーターが生まれた。
「へぇ」
俺は素直に感心する。
「今の、よく避けたな」
アンナは剣を支えながら息を整えている。
「今のは予備動作なしの攻撃だぜ?」
アンナが息を切らしながら言った。
「……攻撃が出るところ、未来が見えました」
未来?
俺は首を傾げる。
その瞬間――違和感に気づいた。
「……待て」
アンナを見る。
「アンナ……お前、まさか」
少し声が低くなる。
「情報子を視認したのか?」
アンナは戸惑う。
「情報子、ですか?」
俺は目を見開いた。
まさか。普通、それを見るには、
「……因律の眼が必要なんだが……」
しばらく考える。放っておくか?……いや、確認だな。
「よし、休憩!!」
アンナがぽかんとする。
「……え?」
俺は手刀で目の前の空間を裂き、別次元を開く。
「ちょっと確認してくる」
そう言って、ゲートに入った。
※
俺が出たのは、七天使長ラグエルの私有次元。
研究バカの変人だ。俺は研究室の扉を開ける。
はぁ、やっぱりな。
あいつは机に突っ伏して寝てる。
地面には紙が散らかっているから歩く場所がない。
苦労してラグエルの後ろまで行き、
「おーい、ラグエル」
と声をかけるが、やはり返事なし。
「おーい」
「……なんだよ……」
寝ぼけ声。聞いていて腹が立つ。
「まだ仕事の時間じゃないぞ……あと一年……」
俺は無言で指を鳴らした。
次の瞬間、椅子が消・え・た・。
「うおっ!?」
ラグエルが床に転がる。
「誰だ!僕の眠りを妨げる奴は……。……え?」
俺の顔をラグエルは見て、数秒フリーズ。
「……エイド様?」
思わず俺は眉間に青筋を立てる。
「そうですよー。エイド様ですよー」
一歩近づき、ラグエルの顔を覗き込む。
「じゃなくて。神の御前だぞ!?」
ラグエルが慌てて跪く。
「失礼しました!エイド様」
「うむ。でよ」
腕を組む。
「ちょっと来い」
「へ?どこへ――」
言い終わる前に首根っこを掴む。
「ちょ、待っ!」
「待たない」
ゲートを開く。
「向こうで話すから、先行っといて」
そのままラグエルを放り投げた。
……え?ちょい待って、ここ、プライベート次元だよな?なんか、ミカエルの気配がするんだけど……。
ふと横を見ると部屋の窓ガラスにミカエルが張り付いている。
「エイド様ァァァ!」
見てないふりをして、速攻で俺はゲートを開き、潜った。
※
数秒後。修行場。
戻ると、足元が柔らかい。
「……ん?」
見るとラグエルだった。
「エイド様……重い……」
「あぁ、すまんすまん」
俺は退く。まあまあ踏み心地が良かったのは気のせいだろうか。
「アンナ、ロッド」
軽く手を振る。
「紹介する。七天使長のラグエルだ」
「紹介預かりました。どうもラグエルです」
ラグエルが頭を軽く下げる。
ロッドは滝のように汗を流していた。
「ラグエル様が……ここに……」
「敬わなくていいぞ」
俺は面倒そうに言う。
「こいつだし」
ラグエルが不満そうな顔をした。ロッドがアンナに言う。
「アンナ、このお方はミカエル様と同格の存在だ。失礼のないようーー」
「はいはい。もういい」
俺が遮る。
「要件が先だ」
ラグエルを見る。
「ラグエル」
「はい?」
俺は念話を送る。
『あの女の子、見える?』
『見えますよ』
『あいつさ、因律の眼使ってる』
ラグエルが目を見開き固まった。
「……は?」
数秒の沈黙が流れる。
「エイド様。冗談が過ぎます」
「冗談ちゃうわ」
俺は頭をかきながら言う。
ラグエルの眠気が完全に消えた。
「……あり得ません。因律の眼は、我々上位天使、ないしは十三血族の血統しか持ち得ない能力です。」
ゆっくりアンナを見る。
「人間が持つなど……」
沈黙。
「……それで。私に何を?」
ラグエルが俺に問う。
俺は少し気まずく笑った。
「悪い」
頭をかく。
「あの子、調べてくれないか?」
ラグエルが唖然とした顔で俺を見る。
なんとも間抜けな顔だなと思わず思ってしまったのは内緒である。




