第五話 修業編①
ゲートを抜けると、そこにはすでに一人の少女と若い青年ーーロッドが立っていた。
赤い髪に整った顔立ち、そして腰には大業物とみられる剣。前は焦っていたからそこまで詳しくは外見を把握できなかったが、綺麗な顔立ちをしている。
うん。間違いないね。
――当代の勇者、アイゼル=アンナ。
「……来ましたね。」
腕を組み、じっとこちらを見る。
「おう、きましたよー」
俺は軽く手を振った。挨拶は基本中の基本だからね。
「いやー、森の中で迷うかと思ったわ。てか、この結界の中、相変わらずファンタジーすぎだわ」
「……本当に……神……なんですか?」
アンナはまっすぐ問いかける。
「神っていうか、元人間の神。改めて自己紹介だ。俺の名はエイド。君らとは時間軸が違いすぎるから、年齢は俺の方が上ね。神とか、肩書き重すぎるから“エイド”でいい。」
ロッドが横から口を挟む。
「アンナ、失礼のないように……!こんな人でも一応神だぞ!」
「……はい。」
「こんなんでもって.........」
が、そんな冗談に付き合う暇はアンナにはない。
アンナはロッドを制し、俺をじっと見る。
「ロッド様から聞きました。魔王は……倒されていなかったと。」
「そだよ。封印止まりらしいね。」
あっさり言うエイド。
「んで、そろそろ時間切れ。」
「……」
アンナの表情が、固まる。
「……私は……」
その拳をぎゅっと握る。
「魔王を倒した英雄の末裔として、世界を守る存在として……」
「うん」
「なのに……」
声が、かすれる。
「……世界は……まだ、救われていなかった……」
俺は頭をかいた。
「まぁ、そりゃショックだよな。封印したんだと思ってたんだし」
「私は……」
アンナの声が震える。
「私は……今まで……何のために……剣を……」
言葉が途切れる。
視線が、地面に落ちる。
ロッドが苦しそうに目を伏せる。
その沈黙を、エイドが破る。
「あらら......はい、ストップ。」
「……え?」
「それ以上いくと、“自分責めゾーン”に入るから。」
アンナは戸惑う。
「……ですが……」
「わかるけどさ。」
エイドは少し真面目な顔になる。
「狭いコミニティとかの感情とかさぁ、魔王を倒し斬れなかった後悔?そんなもの意味がない。そんなもんでいちいち後悔してちゃあ自分を"殺す"ことになるよ」
「……」
「今のお前、“勇者”じゃなくて“落ち込んでる唯の女の子”だから。」
アンナが、はっとする。
「……っ」
「だからまず、気持ち切り替えよう。」
エイドは腕を上に上げた。
「ほら。」
「……?」
「深呼吸しよ?」
「……深呼吸、ですか……?」
「そ。はい、吸ってー。」
俺は大げさに息を吸う。ここまで大袈裟にすることはないんだけどね。
「……すぅ……」
アンナもつられて吸う。
「吐いてー。」
「……はぁ……」
「もう一回。」
「……すぅ……」
「……はぁ……」
三回目。
アンナの肩の力が、少し抜けた。
「……少し、落ち着きました……」
「だろ。」
エイドはにっと笑う。
「いいか?お前が今までやってきたこと、無意味だったとか思うなよ。」
「……でも……魔王は……」
「封印されてた。」
エイドは真面目な顔で真っ直ぐ言う。
「その間、世界は平和だった。」
アンナは黙る。
「それってさ、お前らが戦った結果だろ。」
「……」
「もし何もしなかったら、魔王が目覚めてても、とっくに世界終わってた可能性ある。」
アンナの目が揺れる。
「……私は……まだ……」
「うん。」
俺はは即答する。
「まだ足りない。」
アンナがびくっとする。
「でもな。足りない=無価値、じゃねーから」
「……っ」
「足りないなら、足せばいいだけ」
アンナは顔を上げる。
「……間に合いますか……?」
俺は考えもせずに即答した。
「違うな。間に合わせる。」
「……え?」
「間に合うかじゃなくて、絶対に間に合わせる」
アンナは目を見開く。
「それ……神の考え方ですね……」
「うん、わりと。」
俺は指を鳴らし、アンナの目の前に剣を創り出す。
「じゃ、まず実力チェック。」
「……はい?」
「その剣を使って俺に一発当ててみ。お前が使ってる剣がぶっ壊れるのは嫌だろ?剣は君のサイズに合わせたから」
アンナは剣を構える。
「……わかりました。」
「うん、さっきより顔いい感じ。まあ頑張ってよ」
アンナは、ほんの少しだが、確かに笑った。
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