9話 勇者の弟子と二刀流
「あなたが『剣精』ね! あなたはあたしが倒すわ!」
(どうしてこんな人ばっかり?)
準決勝の相手は女の子だった。
王都では有名な冒険者パーティーのホープで名前はケイと名乗った。
セミロングの明るい赤髪に緑色の眼をしている。
歳は私の3こ上らしい。
「学院の中だけでぬくぬく過ごしてるくせに『剣精様』とか呼ばせていい気になってるあなたが前から気に入らなかったのよ!」
「ええと、ケイさんは学院には通ってなかったんですか?」
「そうよ!あんな子供のお遊びになんて付き合ってらんないわ!あたしは12歳から冒険者になって、魔物と戦ってきたのよ!」
「まぁ!12歳から働いていたなんてすごいですね!」
「それに何よ?特例措置って?あたしなんて血の滲むような努力で3年かけてようやく中級剣士になったのに、何の苦労もしないで中級に昇格なんて、絶対に認めないから!」
「あっ、それは私も同感です。ちゃんと順番に試験を受けたかったです」
「いちいち癇に障るわね!何なのそのいい子ぶった演技は?」
(さっきも同じこと言われた気がする)
「とにかく!あたしがあなたを倒して化けの皮を剥いでやるんだから!」
(なんか戦う前からどっと疲れた)
ケイさんは幅広のロングソード2本を両手に装備している。
かなりの重量で本来大柄な男の人が両手で使うものだ。
それをそれぞれ片手で軽々と持ってるってことは『身体強化』でかなり強めの『腕力増加』を使ってるのだろう。
大会の規定で武器は支給品を使う事が義務付けられているが、二刀流は認められている。
私はいつもどおり細身のミドルソードだ。
「始め!」
試合開始の合図と共にケイさんはロングソードを両手に構えて私に突進してきた。
二刀流との戦いは初めてだ。どう対処すればいい?
相手の出方をうかがっていたら、左右両側から同時に剣が迫ってきた。
私のいた場所でハサミのように2本のロングソードが交差する。
私はとっさに後ろに跳躍し、すかさず横に移動して距離をとった。
「よくかわしたわね?」
「今のかわさないと死にますよね?」
ケイさんはすでに振り向いてこちらに剣を向けている。
「次で仕留める!」
再び仕掛けてきた。
今度は右手の剣だけで来た。
私はそれを紙一重で避け、ケイさんの懐に入り、切りつける。
しかし、もう一方の剣に阻まれた。
幅広のロングソードは刃を横にするとほとんど盾だ。
私は体を一回転させて、はじかれたミドルソードをそのまま逆サイドから切り付ける。
だがそこには右手のロングソードがあり攻撃を受け止められた。
両手のロングソードを防御に使われると切り込む隙が無い。
私は一旦距離をとって様子を見る。
『身体強化』は魔力を消耗する。女の子の細腕であれだけの重さのロングソード2本を持ち続けていては魔力が持たないはずだ。
「あたしの魔力切れを待っても無駄よ!」
私の考えている事が読まれたらしい。
「あたしは『中級魔法士』でもあるのよ。この程度の試合時間で魔力切れになる事は無いわ!」
魔法士の級はその人の持つ魔力量によって決まる。
下級は生活魔法レベルの魔力量。
中級は魔物を倒せる攻撃魔法を連続で発動できる魔力量。
上級は大規模魔法を発動できる魔力量。
中級以上の魔力量を持つ人は魔法士として職に就いた方が優遇されるため、他の職業に就く人は少ない。
剣士のほとんどは下級レベルの魔力量しか持たず、その魔力を使って『身体強化』を行なっている。
「その一見無謀な戦闘スタイルはそのためだったんですね」
待っても無駄なら攻撃するしかない。
私は再度ケイさんに切りかかる。
しかし、やはり攻撃は2本のロングソードに阻まれる。
「でも、だったらなおさらなぜ学院に入って魔法士にならなかったんですか?」
「以前私が住んでいた村が魔物に襲われたのよ」
今度はケイさんが攻撃を仕掛けてきた。
「もう助からないって思った時、勇者様が現れて村を助けてくれたの」
私は攻撃を躱しつつ反撃する。
「ケイさんもだったんですね」
「あたしはもう一度勇者様に会いたくて冒険者になった。魔物の現れるところにいればいつか会えるって信じて!」
私の攻撃はやはり防がれる。
「そしてついに、再会できたのよ!」
ケイさんからの攻撃が来た。
「助けてもらったお礼がしたかったけど、私がささげられるのはこの体しかなかった。決死の思いで勇者様の寝室に忍び込んだのに!」
「ちょっと待って!勇者様に夜這いをかけたのってケイさんだったんですか!?」