11.家族会議
「おかえりなさいませ、イザベラ様」
私が家に帰ると、メイド軍団とベッキーが
出迎えてくれた。
「みなさん、ただいまですわ」
最初は毎日繰り返えされるこれに驚いていたけど、最近は大丈夫になった。
「イザベラ様、王様から談話室に来るように言いつけがございます」
王様?なんだろう?
メイドに案内してもらいながら、
私は呼び出しの原因を考える。
心当たりがあるかと言われると、
ありすぎる。
まず入学してすぐの水晶トラブルでしょ、
それから陛下の件でしょ、
あと派閥のこともあるかぁ。
…どれだろう?
「失礼します、イザベラです」
談話室に入ると、王様と皇后様と、ルシアン様が待っていた。
「疲れているところすまないのぉ。
久しぶりに家族の交流を持ちたいと思ったのじゃ」
あぁ、そういうことか。
怒られるとかじゃなくてよかった。
私はほっとしながらルシアン様の隣に座る。
「さて、イザベラには聞きたいことが沢山あるのじゃ」
聞きたいこと、沢山?
やっぱり怒られるんじゃん!
「まず、イザベラは光属性で、膨大な魔力を持っていると聞いたのだが、
なぜ始めに言わなかったのじゃ」
知らなかったんだもん!
言えるわけないでしょ。
「し、知りませんでした」
王様は不思議そうな顔をする。
「イザベラは王族じゃろう?
12歳の魔力登録の時に測らなかったのか?」
魔力登録?
ナニソレ?
よくわからないけど、多分やってないよ。
不思議そうな私を見て、王様も不思議そうな顔をする。
「レアトルク、報告を」
「はいっ」
レアトルクさんが前に進みでてくる。
レアトルクさんは、王族に一族で仕えている、とっても有能なひとらしい。
「イザベラ様の戸籍について調べました。
名前:イザベラ・コナリザ
階級:王族
属性:風
魔力量:10/10
いずれも12歳のものです」
へー、私の戸籍ってこんなふうになっているんだ。
「ふむ、魔力量も平均的じゃし、
特に変わったところはないな。
王族にしては少なすぎる気がするがな」
私って、風属性なの?
知らなかった。
でも、こんなの測定した記憶ないよ。
「この魔力登録は、12歳になった国民が全員大教会に行って行うのじゃ。
水晶に手を当てて行うのじゃが…
覚えているか?」
全くですね。
水晶なんて見たことなかったし。
「記憶にございませんわ」
私がそう言うと、部屋を困惑が支配した。
『???』
「…考えられるとすれば、
戸籍の偽造じゃな。王族なら容易い。
だがそんなことをしても何もならないぞ」
わざわざ偽造して何をしたかったんだろう?
私からすると、ずっと落ちこぼれって言われて、魔法を使わせてもらえたことがなかったからなぁ。全然気が付かなかった。
「私は魔法に関しても落ちこぼれでしたので、魔法を使ったことなどございませんでしたわ」
私がそう言うと、ルシアン様が問いかけてきた。
「ではどうやって生活していたのだ?
水を出すにしても、湯を沸かすにしても、魔法は必須だろう?」
そうなの!?
知らなかった。
「水は井戸から運んでいましたし、
湯は火に焚べて沸かしていましたわ」
私がそう言うと、その場にいる全員が、
ギョッと目をむく。
「お前が運んでいたのか!?」
何を言っているのだろう。
そんなこと常識じゃないか。
「そうですけど…なにか?」
そう言われて見ると、姉妹たちはおろか、
使用人でさえも運んでいるところを見たことがない気がする。
「お前、はっきり言って、いじめられていたぞ」
ルシアン様がため息をついて言った。
それは知ってます、知ってたけど…。
「あれもいじめだったんですか!?」
「逆になぜ気がつかなかった!?」
だって普通だと思っていたし、
昔からそれだったし。
「それよりも」
その場に凛とした声が響く。
声の主は、いつもは話さない皇后様だ。
「今、『あれも』って言いましたわよね。
どういうことかしら。
他にもいじめを受けていたの?」
鋭い視線が私を射抜く。
この視線からは逃げられない。
「は、はいぃぃ」
「全て話しなさい」
「ひぇぇ」
こうして私は皇后様によって、
王城での生活を洗いざらい報告させられた。
たしかに辛い生活だったけど、ルシアン様と婚約して、もうそのことは忘れて生きていこうと思ってたのに…。
「それは大変だったわね。
始めに言ってくれればよかったのに」
皇后様は優しく話しかけてくれるけど、
私はなんとなく罪悪感を感じている。
「ごめんなさい…」
言ったら婚約廃棄されちゃうと思って…
って婚約廃棄はダメ!
絶対に阻止しないと!
「ルシアン様っ!!」
「ん?どうし…うおっ!」
「婚約破棄はやめてください!
嫌です!」
「ちょっ…」
「お願いします」
「まって…」
私は必死だ。
また王城に後戻りなんて嫌だ。
それに、ルシアン様のことも好きだし。
「わ、わかったから…。
落ち着いて」
「本当に?本当ですか?」
「約束する、だからそこ、どいてくれない」
「へ?」
気づいたら私は、ルシアン様の上に馬乗りになっていた。
「…」
……。
「も、申し訳ございませんでしたぁぁぁ」
ご、ごめんなさい。
王様たちの方を見ると、
「ふふふふっ」
なぜか笑われていた。
「大丈夫じゃ。婚約廃棄になどせぬわい」
よかったー。
大丈夫だった。
「それにしても、面白い物が見られましたね」
そう言って皇后様はルシアン様の方を見る。
さっきまでは必死だったけど、
途端に顔から火が出るほど恥ずかしくなる。
「うぅ、ごめんなさい…」
穴があったら入りたい…。
「わたくしは息子とイザベラさんの仲睦まじい様子が見られて嬉しいですわ」
「わしもじゃ」
「あわわわわ」
恥ずかしいからやめてえぇ。
ルシアン様の方を見ると、
「…つっ」
真っ赤になっていた。
「は、恥ずかしいから見ないでくれ」
その様子を見て、私も恥ずかしさが再燃焼する。
「あらあら、2人揃って真っ赤になって、可愛らしいですわね」
「や、やめてください」
「オホホホホホホ」
皇后様の笑いが響きわたったのだった。
ー数分後ー
「えー、気を取り直しまして…」
やっと恥ずかしさのループから抜け出した私たちは、話し合いを続けていた。
「確認じゃが、イザベラはいじめられていて、魔力登録もしておらず、今の戸籍は偽造されたものじゃと」
「おそらくそうかと…」
「実際には光属性じゃと…」
「は、はい」
「分かった。次の質問に移ろう。
メノルガのカリユゼ陛下とは何もないのじゃな?」
「はい、ただの同級生です」
「分かった。次に移ろう」
ん?
「やけにあっさりしてますね」
私がそう言うと、王様はニヤリと笑って言った。
「あの言葉を聞いたからのぉ」
あ、あの言葉とはまさか…。
「確か、『私の愛する人はルシアン様ただ1人』じゃったか?のう、レアトルク」
「えぇ、たしかに。
メノルガの王子にそう言っておりました」
2人してニヤリと笑みを浮かべて話し合いあっている。
さらに隣の皇后様も私もルシアン様を見比べながらニヤニヤしている。
「っっ…」
「2人とも真っ赤になって面白いわね。
婚約者同士なんだから、別に照れなくていいのよ」
ルシアン様を見ると、私と同じで
耳まで真っ赤になっている。
「こ、これは違うんですの」
「ほぉ、何が違うのじゃ?」
「ち、違わないけど…」
お、王様うるさいっ!
「ぅぅぅ…」
ー数分後ー
「えー、気を取り直しまして…」
さっきもこのくだりやった気がする。
「お主の派閥についてじゃ」
やっぱり派閥のことかぁ。
「この間見た感じでは、どちらとも仲が良さそうじゃったな。
まぁ、自由に決めてくれ。
一つ言うとすれば…
1つ上の学年の、エリナザを頭とする派閥には絶対に入るな。というか関わるな。
あそこは危険じゃ」
エリナザね。分かった。
上の学年なら会うこともないだろうし、大丈夫だろう。
「分かりましたわ」
「これで質問は終わりじゃ」
「息子との仲の良い様子も見られたことですし、満足ですね」
「…っつ」
「ふふふふ」
「ふぉっふぉっふおっふおっ」
〜ルシアン視点〜イザベラ
婚約者のイザベラが部屋に入ってきた。
美しいピンクゴールドの髪を揺らしている。
それにしても、本当に慈愛の神にそっくりだ。
もしかしたら、生まれ変わりなのかもしれない。
父上とイザベラが話を進めている。
どうやらイザベラは光属性だったらしい。
戸籍と違っているようだ。
さらに魔力測定をやったことがなかったらしい。
「私は魔法に関しても落ちこぼれでしたので、魔法を使ったことなどございませんでしたわ」
イザベラがそう言った。
本人は当たり当たり前のように言っているが、とんでもないことである。
思わずどうやって暮らしていたのか問いかけたら、自分で水を運んで、湯も沸かしていたという。
これは確実にいじめられていたとみて間違いないだろう。
案の定、母上が問い詰めると、他にもいじめが出てくる出てくる。
「それは大変だったわね。
始めに言ってくれればよかったのに」
「ごめんなさい…」
イザベラはなぜかすっきりしない顔をしている。
もしかしてだが、家族にごめんなさいとか思っているのか?
優しすぎだろ!?
っていうかもはや自分をいじめていた家族に謝るとか、問題なのでは?
すると、それまで微妙な顔をしていたイザベラが、何かに気づいたような表情をする。
そして私を見てくる。
「ルシアン様っ!!」
綺麗な紫の眼だな…っておおっ!
「婚約廃棄はやめてください!
嫌です!」
イザベラが涙目で私を見つめてくる。
「ちょっ…」
「お願いします」
「まって…」
イザベラが必死な顔をしている。
驚くほどに軽いが、顔が近くて落ち着かない。
「わ、わかったから…。
落ち着いて」
「本当に?本当ですか?」
「約束する、だからそこ、どいてくれない」
「へ?」
イザベラが我に返ったような顔をする。
そしてその直後、
「も、申し訳ございませんでしたぁぁぁ」
真っ赤になって飛び退く。
「ふふふふっ」
母上の笑い声がした。
母上が笑うことはめったにない。
何年ぶりだろうか。
そしてその後
「やっと終わった…」
私は、部屋に戻った瞬間、ベッドに倒れ込んだ。
「お行儀が悪いですよ」
レアトルクが注意してくるが、それどころじゃない。
イザベラが色々言ってきたせいで、私の
頭は完全にフリーズしてしまっていた。
部屋に戻って冷静になってみると、
さっきの記憶が蘇ってくる。
婚約廃棄しないでくれと訴えかけてくる
イザベラの必死な顔。
「私の愛する人はルシアン様ただ1人」
という発言を暴露された時の耳まで真っ赤になった顔。
イザベラの安心した顔。
不安なのか、心なしか私との距離が近く、
イザベラの顔が良く見え…って
イザベラのことばっかり考えるではないか!?
イザベラのことを考えていたら、
なんだか顔が熱くなってきたような…?
それに心臓がものすごいスピードで脈打っている。
私は顔を枕に沈めた。
このままではイザベラに会うときにどうなることか…。
ルシアンの苦悩は真っ暗な夜に沈んでいったのだった。
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