その後の元王子様は……
ちょっとダークが入っていますのでご注意ください
ここはわが王国最西端にあるグノース砦、隣国と国境を接している最前線だ。
俺は先日の越権行為をとがめられ、継承権および王籍を剥奪され、ここの砦の司令官に任命された。
司令官と言っても名前ばかりの名誉職のようなものだが……
王国としては俺に死んでほしいんだろうな。
そしてここに配属されたはいいが、することがない。
いや、探せばあるのだろうが司令官という名目上雑用をするわけにはいかないしする気もない。
そして副司令官がここの実質上の最上位にいるのだが、どうやら俺は嫌われているようだ。
確かに俺は今まで王都で何不自由なく暮らしていた。
そう、我が国ではいまだに戦争で人がたくさん死んでいるのに、その事には全く目を向けず、やれお茶会だパーティーだとこいつらに言わせれば遊び惚けていた。
しかし、王族というのはそういうものだ。
第一に国内の政情をまとめる。
第二に他国との政治。
むろん、王族に一番求められるのは次代へ血を残すことだ。
そして俺は、愛想も付き合いも悪いアナスタシア嬢を妻にする気になれず、同年代一番の美人で頭脳明晰、そして地位も侯爵令嬢というレアナスタ嬢に目を付けた。
いや、目を付けたというのは語弊があるな……
そう、俺はそそのかされたのだ。
クラスにいたバーレン子爵令息レノウスに。
やつが俺に愛想の悪いアナスタシア嬢ではなく、学園一の人気者であるレアナスタ嬢を将来の王太子妃にするべきだと進言してきた。
確かに言われてみれば納得とその当時は俺も納得し、いかに効果的に他の貴族家にその事を伝えるかを考え、立太子の儀を翌日に控えた卒業パーティーで大々的に発表することにした。
そしてそのままパーティーではレアナスタ嬢を俺がエスコートし、そのまま夜は……
そう思っていたのに、なぜこうなった。
「セドリック司令官、敵襲です!」
「また何時ものやつだろう、どうせ俺には指揮権は無いんだから副指令に任せておけ」
「ですが、今回はいつもと違ってウギャーー」
なんだ、突然何を騒いで……
「お前がセドリックだな、グノース砦司令官の」
そこにいたのは、血に濡れた剣を構えた敵国の兵士。
まさかいきなりここまで攻め込まれたのか?ほかの兵士たちは何をしていた?
「お前、戦争中だっていうのに部屋に籠って昼間っから酒を飲んでいるとか、それでも司令官かっ!」
なんだこいつは、何を怒っているんだ?
そう思っていると他にも敵国の兵士が部屋にずかずかと入ってきて、いきなり頭を殴られた。
……
ぐっ、頭が痛い……なんだ、揺れているのか?
くそっ、頭に響く、誰か揺れを止めろ!
そう言おうとしたが、どうやら口に何かを詰められているようでくぐもった声しか出ない。
腕も後ろで縛られ、足も同様に縛られているようだ。
ここはどこだ?
どうやら俺は敵につかまり、馬車でどこかに移動させられているようだ。
……
「お久しぶりですね、セドリック王子……いや、今となってはただのセドリックですか。少し見ない間にずいぶんと太りましたね?」
馬車がどこかに到着し、降ろされたそこにいたのはレノウスだった。
「おっと、猿轡を外してやれ」
レノウスがそういうと俺の両腕を抱えていた方の一人が猿轡を外してくれた。
だが、その時見たそいつの顔は、部屋に入り込んできて俺を殴り倒した敵兵だった。
「レノウス、貴様まさか国を裏切ったのか?」
「私は裏切ったりはしていませんよ?私はもともと王国民ではありませんからね」
「なん、だと……まさかスパイだったのか!」
「ふふふ、今頃気が付きましたか。それにしても、アナスタシア嬢を王太子妃から罷免し、レアナスタ嬢をあなたの婚約者にすることで王家に対して貴族の反発を買わせ、内側から崩す案が、まさかあのようなどんでん返しに遭うとは思いもよりませんでしたよ」
「なっ、貴様、それはどういうことだ!」
「言葉通りですよ。愚鈍な王子に頭脳明晰なレアナスタ嬢を当てがい、彼女の頭脳を封じ込め、かつ王国内でも絶大な権力を持つファーブル公爵家と王家との間に亀裂を入れる。そのたくらみがパアですわ」
そう言ったレノウスは、それは残念そうな顔をしていたが、その顔がどこか厭らしい表情に変わったかと思うと
「ですが、あなたにもまだ使い道がありそうでしたのでね。こうしてさらってきたという訳ですよ」
「王籍も継承権も失った俺にどんな使い道があるっていうんだ」
そういうと、レノウスはそう言い返されたのが心外だと言わんばかりの表情をし
「王籍を剥奪されたとはいえ元王子のあなただ。王城の抜け道などいろいろご存じのはず。それを洗いざらい教えてもらおうと思いましてね?」
「そ、そんなものは知らんぞ!そもそもあの王城に抜け道など無いはずだ!少なくとも俺は聞いていない!」
「そんなはず、あるわけないでしょう。建国されすでに400年、その王国の王城に抜け道がないなどと、だれが信じますか」
いや、俺は確かにそんなもの教えられた記憶が……ハッ、まさか元から俺は王になる可能性が全くなかったと言う事なのか?
それらやり取りの後、俺は再び猿轡をされ馬車で運ばれて敵国の王都と思われる場所まで連れていかれた。
そこでは地下牢に閉じ込められ、様々な拷問にかけられ、知りもしない抜け道を延々と聞かれ続けた。
いくら知らないと言っても信じてもらえず、次第に俺の意識はうつろになり、何を聞かれているのか、何を言っているのかすらわからなくなっていった……