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嵌められて異世界  作者: 池沼鯰
第四章:信賞必罰
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037 夢に死すは本望なれば


 酒盛りを始めていたオレの所へ、バルンストと名乗った騎士が戻って来た。隣には壮年の渋い男性がいる。


「よっ、バルなんちゃらさん! さっきぶり!」


 蜂蜜酒を炭酸水で割った物を飲みながら、昼飯用に包んでくれた弁当を開いて、中のサンドイッチを摘まむ。

 うむ、照り焼き風のポークサンドか。キャベツかレタスっぽい野菜が良いアクセントになっている。


「き、貴様は! こんなところで何をしている!」


 赤くプルプル震えながら、オレに人差し指を向けて怒っていらっしゃる。


「興奮するな、バルンスト。別に外で酒宴をすることを咎める法など、無いぞ。……それより、貴様が手紙を持って来たミツルと言う人間か?」


 渋いおっさんが何か言ってる。


「ああ、まあ。オレがミツルだけど、何か用かい?」

「ふむ。私はエンテバ侯爵の次男、エアリ・エンテバだ。今は将軍の任を拝し、この都市ザルミナを臨時に治めている者だ」


 へー。


「となると、皇帝陛下からの手紙は、ちゃんと届いたんだな」

「そうだ。それで、特殊隷属兵士たちを率いて戻るとあったが……」

「うん、そのつもりだ。皇帝のお墨付きもある」


 懐からもう一つの書類を取り出す。地球からベラスティア皇国が拉致した人間を、オレが連れて行って良いと許可している物だ。

 こっちは別に封蝋とか無く、最初から簡単に閲覧出来る。


「……確かに。だが、一人ならともかく大所帯では、コールン・イエール公国の警戒網を突破出来ないであろう?」

「そうか? 邪魔をするなら潰すだけだが」


 物理的に潰す。ぐしゃりとな。


「はっ、言うだけなら簡単だが、あれはそんな生易しい物ではないだろう。ザルミナ王国を攻め落とした関係上、こちらも兵士が減っていて、あの数の正規軍を片手間には相手に出来ん。今は半数をいて警戒網を攻めるか否かの議論をしているが……。本国から挟み撃ちにでも出来れば、より容易くなるのだがな」


 エンテバ将軍が、テーブルの上の鹿肉ジャーキーへ手を伸ばし、一枚取って口へと運ぶ。


「む、美味いな」

「いざとなれば船便で連絡でも取れるんじゃないか?」

「海上封鎖まではおこなっていないみたいだから、そうするか。問題は、いつ頃本国からの援軍が来るかと言うことだな。ロークト王国へ進軍した軍が壊滅したと言う流言飛語まであるのが、やや心配だ」


 将軍が二枚目のジャーキーに手を伸ばす。おい、それ高いんだから、もっと味わって食えよ。


「ロークト王国へ侵略して来た奴らは、オレが7,8万人殺して追い返しておいたけど」


 ワインを口に含み掛けたエンテバ将軍が、噴き出した。将軍からの視線で強引に席を譲らされた一般兵君が、立位でしょんぼりしてる。靴に少し掛かったらしい。


「ごほっ、がはっ! な、何を言ってるんだ?」

「だから、オレは当時ロークト王国側の防衛に味方していて、ベラスティア皇国の軍の奴等を魔法でミンチにして、追い返したんだって」

「はははっ、何を馬鹿な……」

「『硬き大地を砲弾とし、敵を穿て。StoneCannon【巨岩大砲】』」


 一発だけならサービスだ。

 少し離れた所の平地へと、魔法を放つ。上空から轟くソニックブームの破裂音と、遠方の地面を打ちのめす衝撃音に、周りが沈黙した。


「ま、これを何十発、何百発も撃ってあげれば、地獄のような光景が出来るって寸法さ」


 食べ掛けのジャーキーを、将軍が口から落としてしまう。


「これを……? 何十……何百? 嘘だろ、おい……。と言うか、貴様はベラスティア皇国の味方では無かったのか?」

「そんなことは言ってないぞ? 皇帝の手紙にも、書いてなかっただろう」


 エンテバ将軍がすぐさま懐から手紙を取り出し、読み返す。何か唸ってて不気味。


「……どう言った立ち位置なんだ? 教えて欲しい。正直、どう扱えば良いのか迷ってる」

「皇国に少し要求したいことがあって、皇帝を脅して言いなりにしている。従っている限りは、協力者だよ」


 鹿肉ジャーキーを噛み締めながら、気怠そうに答える。


「脅し……ッ!? 貴様……っ、皇帝陛下に……!」


 敵意満々と言ったつらで、こちらを睨んで来る。おお、怖い怖い。


「お前たちが『特殊隷属兵士』とか言ってる奴等を連れて行くのも、要求内容の一環だ。皇帝はもう白旗を上げている」


 しばらくオレを睨んだままだったが、目を瞑って考え込み、大きく深呼吸をしてワインを一気に飲み干し、空のコップを机に叩き付けた。


「納得はいかん。だが皇帝陛下の決定には従う。手配はするから好きに連れて行け」

「意外だな。人質にでもする可能性を考えていたが」

「馬鹿を言え。そんなことをしたら……貴様なら、皇帝陛下に危害を加えかねん」


 肩を竦めて明言を避けた。




 将軍直々の命により、地球からの拉致被害者こと『特殊隷属兵士』は集められ、旅路の用意をさせられた。

 日本の高校生12人、中学生5人、日本以外の様々な国籍の外国人29人、合わせて46人。

 国籍は、ユーロと中国でほとんどが占められている。

 馬車が9台に、最低限の御者が出来る兵士も随行させられ、日持ちする食料が数日分乗せられた。途中で街や村に寄って新鮮な食品を調達するのは、この人数ならば問題無い。街道沿いの村々での、収入形式の一端でもある。






 翌朝、旧王都ザルミナへ【瞬間移動】で跳び、用意の整った『特殊隷属兵士』たちと顔合わせをする。

 やや不安そうな顔をしている者が居るな。ついでだし、説明がてら軽く演説でもやってみるか。


「地球から無理矢理連れられて来た諸君! 私も同じ被害者だ。

 だが、偶然力を手に入れ、今では諸君を一時保護出来るようになった。

 地球へと帰還する為の準備は行っているが、しばらくはこの世界に留まって貰わざるを得ない。

 念の為、一所ひとところに集まって貰い、準備が出来た場合、迅速に帰還させられるようにしたい、との考えだ。

 なお、これに不満がある者、あるいはこの世界での戦いや環境に満足し帰る気の無い者は、この場で離脱して貰って構わない。

 その場合も、しばしの援助や訓練を施す用意があるので、相談してくれ。以上」


 こうは言ったが、予想外に留まりたい者が結構居た。


「あー、日本の中高生諸君は、基本的に地球へ帰って貰いたいんだが……」


 明らかに、魔法とか異世界とかに憧れている奴等が相談に来ていた。

 外国人については、ちょっと待って貰って、まずは学生に対処する。


「この数ヶ月、いや半年近くか? それだけこの世界の生活を経験している訳だ。

 それでも地球へ戻りたくないのか? 親とか親戚兄弟姉妹に、二度と会えなくなっても良い、そんな覚悟があるのか?

 魔法は確かに心惹かれるのかも知れない。だが、例え才能があったとしても、加護で将来性を約束されていても、結局少し便利なだけだぞ?

 その代償は、地球の現代社会での文明的な生活を、永遠に失うことになる。連載漫画や小説、アニメの続きを見たいと思っても、叶わない。周囲の関係も途切れてしまう。

 もう一度良く考えろ。

 その上で、『全てを捨てた上で、この世界に留まりたい』と言えるなら、話を聞こう」


 それで13人中7人が諦めてくれた。


 高校生の二人のうち片方はかなり可愛い子で、事情があったらしい。日本では片親と暮らしていて、数年前から性的虐待を受けていたとか。おいおい。そんな親と離れられるなら……って言ってたが、これはまあ、オッケーした。仕方ない。

 ただ、援助や訓練の為に、フーケンバケットの集団施設でしばらく暮らすことは同意して貰った。


 高校生の男の方は、母親が重度の教育ママのようで、ノイローゼになっていたみたいだ。この世界に来てから、むしろ解放感で生きてる実感がしていると、良い笑顔で語って来る。どんだけだよ、教育ママ。

 さすがに一時の気の迷いの可能性があると断って、タイムリミットが来るまでフーケンバケットで過ごして、それでも考えが変わらないなら考慮すると言っておいた。


 中学生の一人は女生徒で、これまた同性の片親から乱暴を受けていたそうだ。「あんな生活に戻るくらいだったら、死にます」って……。あーた、この世界に来る前に死んでなかったんだよね? ちょっとメルヘンっぽいから触りたくないんだけど、フーケンバケットでしばらく様子を見ることになった。




 中学生のうち3人は仲良し組みで、ノリで生きているようだ。


「死ぬぞ?」

「夢の異世界で死ぬのなら、それは本望でごわす」


 ごわすとか何処の言葉よ。死語じゃね?


「生きる為の生活費すら稼げないだろ?」

「ドブ浚いでも、子守りでも、草刈りでも、何でもするつもりであります!」


 うん、覚悟があって大変宜しい! じゃなくて。


「お父さんやお母さんが泣くぞ?」

「親不孝者の息子を許して下さい。ただ僕は、この異界の地に骨をうずめたい」


 打つと変な角度で戻って来るような、微妙な感覚。

 短いやり取りだったが、何となく嫌いになれない感じだった。

 とにかく、一旦フーケンバケットで過ごして貰って、心変わりしないようなら、この世界で暮らすことも考慮すると言うことになってしまった。オレってば意外と押しに弱いのかも知れん。




 外国人については、15人が離脱を希望していたが、フーケンバケットでの訓練はタダだと言ったら10人は撤回してくれた。

 しばらく鍛錬して力を付けてから独立してくれても、構わないしな。

 残りの5人については、二人組と三人組に別れていた。どちらも既にそこそこの腕前のようで、心配する必要は無いとエンテバ将軍が太鼓判を押してくれた。

 それならばと、一人につき小金貨10枚ずつの見舞金を渡し、別れを告げた。『奴隷の首輪』については、46人全員分外して貰っている。

 そのまま軍で働くなり、傭兵やハンターとして生きるなり、好きにすると良い。




 こうして、46人改め41人とオレ、そして御者9人の合計51人が、馬車9台で都市ザルミナを出発した。

 8時頃集まったはずなのに、9時近くになってからなのは、ちょっとばかり計画性が足りなかった為だな。


 1日目は野宿、2日目は宿場町で停泊、3日目と4日目は野宿だ。

 なおオレは、野営の準備などを始めたら、ウェントの屋敷へと戻っている。訓練や金の採取など、しなきゃイケナイことが沢山あるからだ。ここの所、座標の把握対象が増えて来たので、複数の魔石を使って形にバリエーションを持たせ、判別し易くなるように配置し直している。ベラスティア皇国の首都スティアには前方後円墳とか、色々試していた。

 道中の旅を仕切って貰うリーダー役は、御者兼任の兵士ミルリスさんにお願いしてある。一応責任者だからオレも同席しているけれど、移動中はすることも無いのでボーっと過ごしていた。あっ、あの雲の形、鯨っぽい。




 5日目。旧国境を越え、いよいよコールン・イエール公国の軍が警戒網を張っている所へやって来た。

 少しだけ気を引き締めておく。

 昨晩の娼館巡りの疲れを寝て癒して過ごしていたら、昼頃に動きがあった。馬に乗って武装した人物が10人ほど、進行方向の道を塞いでいるのだ。


「何者だ!」


 オレが【拡声】を使って誰何の声を投げ掛けた。ちょっと遠慮無しに拡大したから、周囲1kmくらいには響いただろう。


「ここから先は通行止めだ! 戻れ!」


 フェイスマスクの口の部分をずらし、こちらへ警告して来る。


「戻らん! このまま進む! 妨害したら、命を捨てることになるぞ!」


 そう断って、【火球】を10発周囲へばら撒く。

 相手は吃驚したようで、散開して避けて行った。いや、当てるつもりないから、そんな動きをされた方が余計危ないんだけど。

 そのまま300メートルほど進んだところで、1,000人前後の集団で遠巻きに囲まれているのが分かった。窪みで段差がある場所や、小さい林などを利用して、姿を隠していたようだ。

 仕方ないなぁ。


「やれやれ」


 呟いて、両刃の槍パルチザンを『アイテムボックス』から取り出す。

 こちらの馬車を順次停めるよう指示を出し、向こうの集団へとオレ一人で歩いて近づいて行った。


「一人か」

「ああ」


 一番偉そうな人物が声を掛けて来た。


「惜しいな。この人数を前にして、全く怯えていない。素質があるぞ」

「怯える理由が無いな」

「何ィ!? 貴様……我々を舐めているのか!」


 ニヤリと笑う。


「舐めるのとは少し違うな。オレからすれば、例え今、ドラゴンと対峙していても、恐れる対象にはならない」

「はぁ!? ふざけるな!」


 興奮する御山の大将に、周りが言葉を投げて宥めすかしているようだ。


「ふん! 一人で来たと言うことは、少しは腕に覚えがあるようだな。もし一騎打ちで力を見せたのなら、残りの奴等は元来た方へと無事に返すことを約束しよう」

「こちらの話を聞くつもりは?」

「無い! 一騎打ちでそちらが勝ったら、少しは聞く耳を持とう」


 面倒な奴だ。

 槍や回避、各種の魔法を<臨界突破>して、100倍くらいの【肉体強化】を10分程度の効果時間で発動しておく。

 相手は馬から降りるつもりも無いようだ。

 10メートルほどの距離まで、お互いに近づく。血の気の多いこの大将は、腰に剣もあるようだが、馬上用の大きめの槍を装備している。


「もう始めて良いのか?」

「ああ、せめてもの情けだ。先手は譲ろう」


 そいつはどうも。

 だが馬から降りないのは、こっちの心象的に微妙だ。なんか偉い奴が横着してるように思える。

 【風防】【重力操作】【念動力】の3つを次々と発動させ、宙へ浮かび上がった。


「何!?」

「そっちは馬を駆ってるんだ。こっちが空を駆けても、何も問題無いよな?」


 そう言いつつ、上空へと高度を上げ、1,000メートルほどで俯瞰する。

 槍を逆に持ち、石突きの方を主体として揮う格好にしてから、高度を下げた。

 オレの急激な移動に、相手は戸惑って大振りで攻撃して来るが、全然見当違いだ。

 緩急を付けて相手の周りを飛び回り、誘った攻撃で無駄に振り回して来た隙に、思いっ切り石突きで腹部を突き飛ばした。

 馬上から吹き飛ばされ20メートルくらい空を舞い、地面にぶつかって転がり、更に10メートルは回転してから止まった。大の字になってピクリとも動かない。

 近くに寄って飛行を辞めてから、槍でつついて見る。

 反応が無いので、生きているかどうか確かめることにした。更に寄って、首筋の脈があるか触れてみる。

 一応、脈はあった。

 意識は少しばかり無かったみたいだが、オレが観察している間に咳き込んで呼吸を取り戻した。しかしその呼吸もすぐに乱れて咳き込んで、の無限ループに陥る。


「がっ! ぐはっ! ……ぅ、ぐ、かはっ……はぁはぁ……ぁぐっ! ぐぁ! ……見事……がはっ!」


 呼吸するのも辛いんなら、喋らなきゃ良いのに。

 そんな感想を抱きながら、放置されていた相手の馬を近くに連れて来て、腹を下にした状態でその大将を乱暴に乗せる。呻き声は無視。

 そうして先ほど対峙していた場所へと戻った。






バルンスト君は、10日ほどの謹慎処分です


高坂こうさかミツル 年齢:25

精神11 魔力1,030 魔力量116,699


所持現金:4億3031万円相当+Gold 1,478kg



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