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嵌められて異世界  作者: 池沼鯰
第四章:信賞必罰
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038 彼女の素行調査


 相手の大将らしき人物を馬に乗せ、最初に対峙していた場所へと戻った。


「で。少しは話を聞いてくれる気になったか?」


 こちらを遠巻きに見ている30人ほどが、困惑した表情で互いに顔を見合わせている。


「ひゅー、ひゅー、たすっ……ぐっ……息……」


 一騎打ちを仕掛けて来た大将は、腹部の強打の影響で、呼吸するたび痛むようだ。まあ、あれだけ飛ぶほどだったしな。ギャグマンガみたいだった。

 仕方ないので怪我の様子を見てやることにする。

 まずは馬上から地面へと降ろす。50cmくらいの落下は仕方ない。男を丁寧に扱う趣味は無いんだ。見逃して欲しい。

 片刃のナイフを取り出し、金属鎧の皮の留め具のところを狙って切ってしまう。鎧は、腹部の部分がもうメッチャ凹んでた。5cmくらい。

 鎧を外し、薄い着衣を切ってはだけさせる。衝撃を受けた腹部を中心に、真っ青と言うか真っ黒に変色してた。やべぇ。

 ちょっとこれは重症の類いだな。


「『怪我よ治れ。healing【治癒】』」


 魔力量を結構消費して、傷を癒す魔法を使った。見る見るうちに、真っ黒な部位が青く、青い部位が赤く、赤い部位が正常の肌の色へと変わって行く。


「はぁ……はぁ……ん? 息をしても痛くない……? お? おぉ? 怪我が……治ってるー!」


 大将が、腹部を擦りながら喜びの声を上げた。


「それで、勿論話を聞いてくれるよな?」


 にっこり笑いながら話し掛ける。


「それは……少しなら」

「少し? んー、オレの聞き間違えかな。少しな訳、無いよな。オレがコテンパンにやっつけたんだし」


 まだ持ったままのパルチザンで、ビュッ、ビュッと素振りをする。


「もし聞き間違えじゃないなら、話を聞く気をもっと引き出す為、手足の一本でも斬り飛ばさないとイケナイだろうなぁ」


 ニチャァと音がしそうな笑みを浮かべる。交渉に笑顔は大切だよね。


「あっ……分カリマシタ。何デモ言ッテ下サイ」

「うんうん。相手の話を聞くのは、文明的な人間として最低限の基本だよね。

 それで、オレたち50人ほどの団体なんだけど、ベラスティア皇国の軍とかじゃないから、通して欲しいな。

 正確に言うと、御者は兵士だけど、それは見逃して欲しい」


 ようやく要求を伝えられた。何で話をするのに、一騎打ちなんかしなきゃならないんだ。理不尽!


「えっ、それは、その。難しいと言うか……」

「仮に無理なら、ここの荒野が血に染まることになるな。オレが以前、ロークト王国のモギュ何とかの街の防衛戦で行ったみたいに」

「防衛戦? ロークト王国の? 噂では、皇国10万の軍が僅かな日数で壊滅したとか」

「おっ、何だ、知ってるんじゃん。オレが一人で殲滅したんだよなぁ。お陰で変な二つ名が付いてたけど」

「ば、馬鹿を言え! 一人で10万の軍を、どうやって……!」

「こうやってだよ。『硬き大地を砲弾とし、敵を穿て。StoneCannon【巨岩大砲】』」


 少し離れた所の、沼と言うか池と言うか、大きな水たまりみたいな所へ、【巨岩大砲】を撃ち込む。

 毎度のソニックブームの破裂音と、対象へぶつかった際の爆音で、囲んでいた奴等も驚いていた。

 一番近い奴は魔法の中心点から100メートル弱しか離れていなかったので、水の半分以上が吹っ飛んで雨みたいに降り注いだ際に、30人くらいが被って濡れている。


「この魔法を、100以上一度に叩き込む。相手死ぬ。地獄出来る。オレ高笑い。コールン・イエール公国は、犬死にがお好きか?」

「え? ちょっと待て。え? これ、お前がやったの? 今の。本当に?」

「目の前の光景を疑うなら、死んだ後で悔やめば良いんじゃね? ぶっちゃけ、コールン・イエール公国の軍人が何万人死のうが、オレ大して興味無いし」


 路傍の石でも見るかのような視線を送ってみた。


「……本気か?」

「試してみるか?」

「…………お前、こちらに付く気は無いか? 厚待遇で迎えるぞ」

「断る。で、交渉決裂で良いのか?」

「待て待て待て! ちょっと誘っただけだ!? 気が短過ぎるだろう!」

「そう言うの要らないから。次、オレの望んだ言葉以外を返したら、さっきの魔法を撃ち込む」


 バッ、と音がしそうなほどの勢いで、大将が取り巻きたちへと首を向ける。彼らは青い顔で首を横に振りまくる。


「ドウゾ、オ通リ下サイ」

「うん、分かった。助かるよ。オレも無駄な殺しをしたい訳じゃないしな。

 コールン・イエール公国の連中が話も通じない相手だったら、全員虐殺しなきゃイケナイところだったよ。ハッハッハ」


 オレの笑い声に合わせて、大将も微妙な笑いを浮かべた。


「まあ、多少は逃げるから、殺せても9割程度だろうけどな。今度、10割全員殺せるような魔法を考えなきゃと思ってたところなんだ」

「ヒィ!?」


 おっと。大将殿が悲鳴を上げて、取り巻きたちの所へ逃げてしまった。

 馬を忘れてるぞ。そう思って馬のケツのところを強く叩くと、こちらの意図を汲み取ってか、速歩はやあしで向こうへと合流してくれた。

 オレは自分の馬車へと戻ると、進む様に指示を出す。


「本当に大丈夫ですか?」


 御者をしてくれてるミルリスさんが、心配そうにしている。


「問題無い。もし襲って来たら、殲滅に切り替えるから」


 オレのその言葉に、引き攣った顔をする周りの人たち。しょうがないじゃん。人を襲う獣は駆除しないとね。

 あ、そうだ。一騎打ちを仕掛けて来た大将の名前、聞いておくのを忘れてたな。

 次会ったら治療代をボッタクッてあげようと考えながら、積んでいた飼葉用の草にうずもれつつ、目を閉じた。






「若、大丈夫でしたか?」


 ミツルに『大将』と認識されていた男へ、取り巻きの一人が呼び掛ける。

 取り巻きの30人ほどの集団は、ミツルたち御一行の進路から退いていた。


「死ぬかと思ったが、魔法で治されたみたいで問題ない。しかし……」

「あれは一体何だったのでしょうね」


 馬上戦闘では一流と言える腕を持つ『若』を軽々とあしらい、空を飛び、強力な攻撃魔法を扱い、治癒魔法まで達人レベル。


「正直、神の遣いと言われても、信じかねませんでしたよ」


 包囲していた者たちへ撤収の合図を送っていた男性が、『若』に近寄って内心を吐露する。やや歳のいった、顔に深い傷のある歴戦の強者つわものだ。


「……積極的に敵対する意思は無かったみたいなのが幸いだが、油断は出来ないな。何せ、一騎打ちとは言え一度攻撃を仕掛けてしまっている」


 暗澹あんたんとした気分で、先ほどの者が敵対した場合を考えてみた。どう考えても甚大な被害が味方に出る。


「敵として会うことが無いよう、祈るくらいしか出来んか。このナハド・コールンが」


 コールン・イエール公国の片翼、コールン家の九男であるナハド・コールンは愚痴る。

 国から8,000近い兵士を預かり、ベラスティア皇国の旧国境付近を任されていた。それだけの実績があり、その能力も備わっている自負もあった。

 だが、先ほどの一騎打ちで砕かれた。

 負けること自体は構わない。それで命を拾っているなら、誇ることはしても恥じることなど何もない。

 問題は、手も足も出なかった点にある。アレに抗える存在は、コールン・イエール公国には無い。搦め手ならまだ分からないが、楽観視も出来ない。少なくとも、まともな武力でぶつかっては、悪戯に被害が大きくなるだけだ。そのことを認識し、目を閉じて暫く考えた後、ナハド・コールンは考えをまとめた。

 現時点でのアレの情報と、アレとの敵対行為をしてはならないことを知らしめる為、ほとんどの伝令と重臣たちを、使いとして出すことにする。


「私も、ですか?」

「本来ならこのナハド自身が行くべきなのだろうが、ここで引き続き軍の指揮を取らねばならない。そしてこの滑稽な内容を最低限でも信じてもらうには、お前に行って貰うくらいしかなさそうなんだ。引き受けてくれるか?」

「御意」


 伝令や使者の選出はすぐに済んだが、文章は即刻には用意出来ない。緊急時は口頭のみも許されるが、文書化して情報の均一化を図るのがより良いと、ナハド・コールンは判断する。

 報告内容を要領良くまとめ、20近い羊皮紙に文書をしたためるのは、部下を使っても半日仕事になる。その為、近くの野営基地へと急ぐ彼らだった。






 一度コールン・イエール公国の警戒網を突破した後は、特に問題は発生しなかった。

 フーケンバケットまで更に12日ほど掛かった日程中、野宿は半分程度。襲って来る魔物も、ほとんどが5匹~20匹程度の編成で、一匹の強さは新兵前後。日中はミツルが発見次第撃滅し、野営中は見張りを常に複数用意し、魔物の数が多い場合は総出で対処する。怪我を負ってもほとんどが軽傷、1回だけ腱をやられた者が出たが、朝になってミツルが戻った際に、【再生】の魔法を使うことで完治した。


 イルセス殿下は元の屋敷だけでは足りないと判断し、近くの空き地を買い取って住居の建設を進めていた。さすがにまだ途中で、現状足りない分は、完成するまでテントを張って凌ぐらしい。冬が無い地域らしいぞんざいさだ。

 赤道付近で明確な四季が無いと言うのは、メリットもあるがデメリットもある。特に作物関連では、四季があり温度差が激しいほど、人の味覚を強く刺激する物が出来易い、らしい。草薙さんがそう言ってた。

 まあ、西の大陸ウェスティンの南端や、東の大陸イースティンの南部、北の大陸ノースティンの北部なんかはちゃんと四季があると聞く。ミドリ情報は普通の人が知らないことも含まれるから便利だ。


 そんなこんなで、イルセス殿下とヴィオネッタたちに地球人の統括は任せ、皇国のフーケンバケットからスエズエ共和国のウェントの屋敷へと戻った。




「これで、一区切りついたと言ったところかな?」


 戒や草薙さん、ミドリと共に、夕食を楽しむ。ミドリは卓上で不思議なダンスを踊っている。

 使用人も何人か雇い入れており、今後の為の布石を打っていた。その辺は、主に戒が担っている。


「そうですね。後は記憶を抹消出来るほど、精神魔法の練度を上げる必要がありますが、優先順位はやや低くて良いでしょう」

「えっ? 早く帰してあげないのですか?」


 草薙さんはミドリ&戒の悪巧みに参加することは少ない為、認識に差があった。


「ある程度資金の目途が立った以上、先に私たちの目的の為に行動しないと、場合によっては数年単位で遅れてしまいますからね」

「そう、ですか」


 戒の説明に、納得していない御様子。


「結局、草薙さんはどうする? 記憶を消して日本へ戻るか、このままこの世界でオレたちを手伝ってくれるか」


 オレの言葉に、難しい顔をして悩む草薙さん。


「……この世界に、地球の食文化の一部を導入する仕事は、大変やりがいがあります。しかし、母親と妹や彼女が日本に居ますし、悩ましい所ですね」


 最近は、鶏の卵の増産の為に養鶏所を設立、運営の責任者になっている彼。まだ日本に未練があったんだね。

 スパイスの調合も手掛け、自家製カレーっぽいのも出来ている。唐辛子、胡椒、ニンニク、生姜、クミン、コリアンダー、ターメリック、クローブ、シナモン、サフラン、パプリカなどを楽しそうに混ぜている姿が、週に一度見られる。調合された鍋一杯のカレースパイスは、その日使う分を除いてオレの時間魔法で1年保存の刑に処され、『アイテムボックス』の肥やしになっていた。

 豚カツもあるので、合わせ技のカツカレーだって思いのままだ。

 ただ、これらは公表するとインパクトが大きそうなので、今現在は身内のみで楽しんでいる。『アイテムボックス』の浸食され具合を鑑みるに、いずれカレーパーティーをやるつもりなんじゃないか。

 まあ、フーケンバケットの地球人保護地区で振舞う分には、構わないかもな。


「戒の場合は、両親に手紙を出すんだっけか」

「ワシが検閲するがな!」


 ミドリが口を出して来た。


「私たちがこの世界に連れて来られてから、もう10ヶ月近いです。そろそろ家族も諦めている頃かも知れませんね」


 今は7月6日。戒の指摘通り、拉致記念日は去年の9月半ば頃だったはずなので、もう少しで10ヶ月か。1年経つのも遠くないな。


「ふむ。草薙さんが気になるのは、ズバリ彼女さんのことですね?」

「えっ……。まあ、気にならないと言えば嘘になりますね」

「既に貴方が行方不明になって半年以上が経っている現状、その彼女さんが新しい恋人を見つけているかも知れない……」

「うぐっ。そ、そうならそれで、踏ん切りが付く! それを知ることが出来ないから、もどかしいんですよ」


 パチンと、戒が指を鳴らした。手袋をしてるのに良く鳴らすことが出来……穴開きだと!? なんて中二病溢れるアイテム。戒、恐ろしい子……ッ!!


「ヴィオネッタの部下に、地球へ行き慣れていた人が居ましたよね。その人に、その彼女さんの調査依頼をさせたらどうです?」

「経費は結構掛かりそうだけど、必要と割り切ってやらせてみるか」


 こうして、例の騎士のナルカンさんが、地球の日本へ出張することが決定した。






高坂こうさかミツル 年齢:25

精神11 魔力1,054 (最大)魔力量122,200


所持現金:4億531万円相当+Gold 3,938kg



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