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6位目

村の名前を盛大に間違えていたことに気付きました……修正します。

「えーっと……ノークンラダル行きの乗り合い馬車は……あれか」


 結局、荷物は館の裏口に全部用意してあった。なぜかそこには壷や瓶を吊して担ぐのに良さそうな網のついた棒が一本添えられていたが、僕には必要ないので扉に立てかけておいて行くことにした。あれは多分、水の入った瓶に住む水精霊や、植木鉢のような物に住む地精霊を連れて行く人のために準備された物だろう。そう言うのは本来自分で用意するのがルールなのに、案外本気で贔屓してくれていたのかもしれない。

 さて、ノークンラダルと言うのはここからさらに下った方向にある都市の名前であり、僕がこれから勤めることになる村、ガロンガルの村を治下におさめる都市の名前でもある。


「すいません、この馬車ノークンラダル行きですよね」

「おう、あんたも旅立ちの日かい? 成人おめでとうさん」

「あ、あは……どうもです」


 成人は去年済ませたんです……一年留年してるんです……心中でそう呻きつつも、流石に口に出すわけにはいかないので愛想笑いを返す。乗り合い馬車の御者さんは中々愛想の良さそうな髭のおじさんだった。規定の運賃を手渡して荷台に乗り込む。端的に言えば乗り合い馬車とは、荷物を積む場所が余った隊商のおまけだったりする訳で、荷台も基本的には荷物を積むそれとかわらない。すわれるような段差を作るためか木箱が両端に釘で打ち付けられてること、端に袋詰めの座布団らしき物が転がってることだろうか? とりあえず座布団を一つ拾って箱に座る。

 なんだか箱が軽いような……? ああ、そうか。一端腰を上げて探ってみると、案の定ふたを開けることが出来た。自分の荷物をここに入れれば良いんだな。担いできた荷物を放り込んで、改めて蓋を閉め座布団の上に座り込む。常に膝の上とか足下だと転がったり倒れたりするかもだから、これはありがたい。最も、どうしたって手放す訳にはいかない物もあるし、それが一番丁寧に扱わないといけないんだけどね。


「それが?」

「ああ、精霊です」


 ちらっとこちらを見た御者さんにそう返す。そう、手放せない荷物と言うのは、要するに精霊が宿る道具なんかのことだ。これは精霊を連れて歩くならうっかり箱なんかにしまうわけにはいかない。最初の頃は特になにかの拍子に嫌われたりする可能性もあるしね。

 しかし……慣れている、という顔だ。もちろん隊商のおまけ的な立ち位置ではあるけど、それでも人を乗せて運ぶのが仕事として形になっている以上、彼はちゃんとそれ専門の御者なのだろう。そして毎月きまった時期にそれなりの人数が一斉にこうやって精霊を連れて乗り合い馬車に乗る訳だから、さもあらんといった感じである。精霊の数だけそれぞれの道具がある訳で、人によっては僕以上に変な物を持っている場合もあるだろう……と、木の板と革の帯を渡された。ああ、そういうこと。


「いくらです?」

「貸すならタダだが、買い取ってくれるなら銅3かな」

「これ、ただの端材ですよね」

「タダのじゃ無いな」

「うーん……」

「本当はあらかじめ用意しとくもんだろう? あるいはここに来る前に。本当なら勉強代として罰金を取るところだぞ?」


 おどけたような口ぶりだけど……言われてみればその通りだ。ちょっと気が緩んでいたかも。自分ではしっかりしてる人間のつもりなんだけどな……こうなってくると荷物の中身が大丈夫か心配になってくるけど、ここで荷物開くとますます情けない感じになるよね。大人しく借りておこう。言ってることは正しいけど、銅3はちょっとぼったくりだと思う。


「とりあえずお借りします、探せば荷物の中になにかあるかもしれませんし」

「あいよ。幌に穴あけてくれるなよ?」

「はいはい」


 しかし、先の三人と言うのはみんな僕とは違う方向に行くのだろうか。それともどこかで油を売っているんだろうか? のんびりとまだ見ぬ同期に思いを馳せる。確か、平均8人とか言ったかな。今日出る乗り合い馬車は3つだから、一人くらいはそう言う人に会えると思うけど……そう言うくじ運あんまりないんだよね。

 しばらくぼーっとしていたら、徐々に乗り合い馬車の客が増え始めた。商人風の男性一人、農夫っぽい男性が一人、なぜか騎士っぽい甲冑を着込んだ男性が一人。ほとんどは立派な大人で、今のところ同期だろう人間はいない。そのうえ誰も彼も馬車の奥に座っている僕を見るとギョッとしたような顔をする。旅装である黒い外套のせいだろうか? 義姉さん曰くあんたの顔は白すぎて暗いところだと怖い、青い目も透明度高すぎて怖い、あげく髪が黒いからよけい目立つ……のだそうだ。そう言うことを言うなら、一度くらい服の色を選んだりしてくれても良いと思うのだけど、そう言うのは全くしてくれないし。

 はぁ……何となくため息をつくと、全員が全員ちょっと飛び跳ねた。なんだと言うのだろう? ああ、彼らが入ってきたときに挨拶し忘れたのが不味かったのかな。とりあえず次のお客さんが来たらなんとか名誉挽回してみよう。


「こちら、ノークンラダル行きの馬車でしょうか」


 ちょうど良く次のお客さんも来たようだし。

×ハルウルン⇔ガロンガル○

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