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30位目

「ああ、まあ、従兄弟がね」


 なんてね。そんな馬鹿な勘違いがあるわけが無い。

 つまり彼女はこの村の基準でも相当な美人なのだろう……いや、時々あるんだ。というかあるらしいんだ。エルフとかゴブリンとかの異人種との混じり具合が絶妙で、超絶美人しかいない村とか。まあ、義姉の曽祖母がそういうところの出身らしいんだが、残念ながら僕は4歳の時に一度連れてってもらったきりなので詳しくは知らない。弟は一昨年兄に連れられて行ってきたが、帰ってきたあと一週間くらい口を開けたまま空を見てた。ちなみに兄の感想は『え、ゲーナで見飽きてるが』だった。美人は美人でもみんな似たような顔になるそうだ。

 とにかく美人の彼女は、日々夜這いの危険にさらされており、同時に彼女に貢物をしてでもハートを射止めたい男達がいる、と。あの迎えの男は後者だったわけだな。そしてあの鳴子やら糸やらは前者を防ぐための手段だ。

 なんというか、一瞬よぎった複雑な事情は勘違いだったわけだ。普通の村じゃ無いか。よかったよかった。

 まあ、さすがにあの『迎え』に遭遇したことは言えないから、適当にごまかすけど。


「おと……男性に同じ名前の……人が、いましたか」

「だからちょっと驚いたんだ」

「へ……不思議なこ……縁ですね」


 うん、まあこれでよし。

 それにしてもこの子すごいな。今のは多分『変なこと』って言いそうになったんだろう。その前は『男に同じ名前のがいたのか』とかそんな感じかな。よくもまあこれだけ口を回すもんだ。前任の教師についての話はなかったけど、いたんだろうか? それともどうにかして自力で身につけたんだろうか。

 あんまり詳しく聞きだすのもなんだかな。まあそのうちわかるだろ。

 しかし歩きにくいなこの辺り。ちらっと彼女の足元に目をやってみる。切り込み スリット入りの揃筒 スカート草履 スリッパ。しかし切り込み スリットから時々見えるのは足にはしっかり布が巻いてある。一見こういう場所で歩くのに適さない服装なのに、草履にも細い紐が何本か巻いてあって足をしっかり固定しているし、何かを偽装する気配というか、なんだ? 一見するとあんな場所にある家に住んでるようには見えないけど、実はよく出入りしている……そんな感じだ。


「あの家」

「は、あ、はい? なん……ですか?」

「あ、いや、なんでも無い」


 そういえばさっき鳴子のこと言ったら注意されたし、変なこと言わないほうがいいか。

 教師と生徒の関係になるかもしれないってだけでしか無いんだし、村のことに変に踏み込むことも無い。


「というか、この辺に君以外にいる?」

「……いない、と思います」

「そう。村長の家って遠い?」

「……それなり、ですね、あの、暇なんですか?」

「それなり」


 というか、余裕が出来てきたから沢山しゃべりたいんだ。口閉じたままにしてたら、村長のところに行っても口が開かなくなりそうな気がしてね。あとどんな話題があったかな。


「そういえば村長の名前を聞いても?」

「ゴフェン、です」

「もしかして、村長のことも『ゴフェン』って言うんじゃ無いか?」

「……そうですけど、よくわかりましたね」

「しかも結構若い」

「……あの」

「具体的には多分君の3つから10っこ上の間くらいかな」

「……」


 いや、全部何と無くなんだけど。

 ゴフェンて言葉に詰まった感じがしたんだよ。さすがに人の名前で詰まるのは変だし、名前を言ったあとにさらに詰まったしね。だからヨゼウさんみたいな世襲名なんじゃないかと思ったんだ。なおかついいよどむってことは、ゴフェンの名を継ぐ前の名前を知っているってことになる。したがって若い。ちなみにちょっと年上と思ったのは、なんとなく声を呼ぶ口調に嫌悪感があるように思ったから。言い寄られたことがあるんじゃ無いかなと。

 以上。まあ、説明しないけど。若干、彼女の目は薄気味悪いものをみる目になっている。いや、なんていうかさ、無理に口調を変えようとするから不自然な言動が目につくんだよ。とても普通のことさ。


「……」

「お、歩きやすくなった」


 足元が道らしくなってきた……その脇にはちらほら家らしきものがある。やっぱりこの子の家はそういう家の群れから外れてることになる。もちろん、畑の位置とか、家が受け持つ仕事によってはそういうこともあるけれど、なんとなくそういうんじゃなかったんじゃ無いかなって気がする。だとすれば……隠れ家か。

 うん、あんまり言わないでおこう。特にさっきからひどく視線を感じる。

 あっちこっちの家々から、こちらを観察する気配。見られてる。まあ、よそ者だからな。しょうがない。


「あのさ、この道まっすぐいえばいいんなら、僕一人で行ってもいいけど」

「……いえ、ここまできましたから」

「そう」

「それに私の家、この先なんです」

「なるほど」


 え、それ僕に教えちゃうの? さっきあの家のそばにいた時、私の家のそばで火を出すなとか……そんなこと言ってたよね? 普通ならすごく疑問に思って聞き返したりしちゃうよ? ……僕値踏みされてる?

いつも読んでくださってありがとうございます。

遅刻ばかりで申し訳ありません。

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