第22話「アルカナ・ディーヴァ」
凍てつく吹雪が容赦なく吹き荒ぶ雪原。周囲の景色を白一色に染め上げる極寒の戦場にて、裕也と桃華の前に立ち塞がったのは、不気味な気配を纏う三人の敵影――ハウンド、スラッシャー、ファントムの三人衆だった。
「来るぞ……ッ!」
裕也が歯を食いしばり、全身の神経を研ぎ澄ませながら、周囲の空間へ【P・Z】の重圧を鋭く張り巡らせる。だが、敵もただの雑兵ではない。歴戦の場数を踏んできた気配を纏い、一斉に牙を剥く。
先陣を切ったハウンドが野生の獣の如き低く身を屈め、地面を抉るほどの超高速突撃で凄まじい殺気を放ちながら迫り来る。その死角を完璧に縫うように、スラッシャーが腕を振るって鋭利な切断波を乱れ飛ばし、空間そのものを切り裂かんと襲いかかった。さらに、ファントムが自らの気配を極限まで周囲の風景に溶け込ませ、揺らめく無数の幻影となって裕也たちの視界と判断力を激しく狂わせていく。
苛烈を極める攻撃の嵐に晒され、冷や汗が頬を伝う。追い詰められた気配を敏感に察知し、裕也が持てる力の限りを振り絞って絶叫した。
「頼む、桃華……ッ!」
「任せて、裕也くん……ッ!」
重々しく轟く衝撃音と共に、シュウシュウと闘気を燻らせながら、その場に降り立ったのは華やかな歌姫の戦闘服衣装に身を包んだ神楽桃華だった。その全身からは、周囲の凍てつく雪原を圧倒するほど眩い黄金のオーラが力強く立ち込められている。
自身の心拍数や足音のステップと完璧に連動し、空間に物理的な衝撃波を刻み込む打撃・リズムの固有能力――【BEAT】。
「いくよ……! 私のビートについてきてっ!」
桃華の足元から放たれた衝撃波が、大地を激しく揺るがしながら放射状に爆発四散する。圧倒的な物量と怒涛の連撃が、ハウンドの猛烈な突撃を正面から粉砕し、スラッシャーが放つ切断波の軌道すらも自身の打撃音で完全にかき消していく。ファントムが繰り出す幻影の数々は、空間を切り裂くリズムの奔流によって次々と暴かれ、本物の本体へと容赦ない連続打撃が叩き込まれた。
音符の軌跡を描くような変幻自在の猛攻が戦場に圧倒的なリズムの嵐を巻き起こし、桃華は自らの固有能力を思う存分に披露して、三人の強敵を文字通り圧倒的な実力差で容赦なく追い詰めていく。
だが、敵もこのままでは終わらぬとばかりに捨て身の反撃に出ようと、禍々しいエネルギーを全身へ急速に収束させ始めたその瞬間――。
「そこまでよ!」
凍てつく空気をつむじ風が一閃して切り裂き、鮮やかな芸能ヘアーとステージ衣装に一瞬で姿を変えた如月るなが戦場へと舞い降りた。
圧倒的な格の違い。その存在感だけで戦局の空気が凍りつく。
「……チッ、増援かよォッ!」
絶望的な状況から逃れるため、ハウンドは獣のように地面を蹴り、スラッシャーは全方位へ切断波を乱れ飛ばし、ファントムは無数の幻影を重ねて三方向から一斉に襲いかかる。
迎撃の構えすらとらない。
るなは桜と星の紙吹雪が舞う中、軽快なステップを踏むようにピョンと優雅に宙を跳ね、敵の真っ直ぐ中へと瞬間移動(【HOP(ホップ!)】)してみせた。
「えいっ!」
着地と同時に両手を前に突き出し、あざやかにポーズをとる。
放たれた見えないサイコキネシスの壁が、猛るハウンドの突撃をゴゴゴッと正面から押し返し、そのまま地面へと頭から激突させる。
間髪入れず、スラッシャーが放った無数の切断波が襲いかかるが、るなはあざとく小首をかしげ、胸元でぎゅッと拳を握りしめた。
その圧倒的な可愛さに胸がキュンと締め付けられたスラッシャーは、文字通り心臓が跳ね上がり、全身がガチガチの金縛りに囚われて動けなくなる。自らが放った切断波の軌道すら制御できず、その鋭利な刃は自らの四肢を容赦なく両断した。鮮烈な血飛沫が凍てつく雪原の白を赤く染め上げる。
「あ、が……あ……っ!」
残されたファントムが、恐怖に駆られて幻影ごと後退りようとしたその瞬間、るなは両手でカメラに向けるかのように指先を向けた。
指先から放たれた星型の高エネルギー弾が、可愛い音を立てながらファントムの幻影を次々と撃ち抜き、本体ごと地中深くへ容赦なく縫い付けていく。
「終わりよ」
冷徹な一言と共に、るなが完璧な指ハートとウインクを叩き込む(【CHARM】)。
敵の精神は完全にハッキングされ、その動きは完全にロックされる。
そして、すべての敵を圧倒したるなは、締めくくりとばかりにカードに封印した異能の数々を歌のメロディに乗せて全方位へ一斉に解き放つ大技(【SONG】)を発動した。
眩い光の奔流が戦場を包み込み、残されたすべての残骸を完全にかき消していく。
閃光と凄まじい爆風が収まったあと、そこには敵の姿は影も形もなく、ただ静寂と冷気だけが残されていた。
死闘の末、その3人が完全に消去された戦場の中央に、ぽつんと――【初めてひとつのSCC】が現れていた。
「……これって……」
裕也が息を呑み、足元に浮かぶカードを凝視する。
なんと、序盤に消去された鎌瀬独を含めた【4人で一人分の能力(13人衆の末席)】だったという、あまりにも歪で衝撃的な事実がそこには示されていたのだった。
◇
その頃、幾重ものモニターが冷たい光を放つ本部の一室。
戦場の惨状をリアルタイムの映像で目撃していた四天王・黒崎烈治の顔面は蒼白から凄まじい怒りに染まり、その場に響き渡るような絶叫を轟かせていた。
「なんだよあいつらァァァッ!! 四人で一人前だったのかよ!! モングレルの奴も含めて、四人集まってようやく13人衆のカード1枚分かよ!!」
頭を抱え、自分のデスクを激しく叩きつけて狂ったように暴れる黒崎。その醜態を見下ろすように、背後には最後通告を持ったワルキューレ(獅子王零華)が冷淡な美貌をたたえて静かに佇んでいた。
「仕方ないじゃないか。誰も君の下で働きたくないって言っているんだよ。うちは強制はしないことになっているだろ?」
「うるさいッ!! 姫香様には悪いが、四天王の職を辞退して遠隔地に部署移動だなんて、そんな温情飲めるかァァァッ!!」
完全に理性を失い、醜く喚き散らす黒崎。その見苦しい姿を一瞥し、隣に控えていた氷室聖人と、先ほど逃げ帰ってきたばかりのもえが呆れたように深い溜息をつき、揃って肩をすくめた。
「せっかくの姫香様からの温情を無駄にするようじゃ、もう無理だね。バイバ〜イ」
二人は冷酷に黒崎を見限り、その場から光と共に完全に姿を消した。残されたワルキューレは、冷ややかな瞳で黒崎を見据えながら小さく息をつく。
「そうかい残念だ。せいぜい健闘してくれ」
冷たく言い放つと、ワルキューレもまたその場を後にしようと踵を返した。
しかし――彼女が扉へと歩みを進めかけたその時、凍てつく雪原の風を抜け、戦いを終えた裕也たちがその進路へと真っ直ぐに立ちはだかった。
足を止めたワルキューレの視線の先で、裕也が静かに、だが決して揺らがない強い意志を宿した瞳で彼女を見据える。
その眼差しに宿る熱量を感じ取った瞬間、ワルキューレの唇に微かな笑みが浮かび、彼女は静かに戦闘態勢へと移行した。
(第22話「アルカナ・ディーヴァ」おわり / 第23話へ続く)
メインヒロインのひとり神楽 桃華が歌う、らいだ~くの挿入歌です
『アンリミテッド・スパークル』
架空アニメ 「らいだ~く」 挿入歌
歌:神楽 桃華
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