↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/26

第21話「るなともえ」

挿絵(By みてみん)


黒崎が声を荒らげて何を喚き散らそうとも、三人は見向きもしなかった。

ただ、耳元まで引き裂かれたような歪な笑みを貼り付け、濁りきった瞳を凍結湖の向こう――裕也たちの気配へと執念深く向ける。次の瞬間、雪を蹴る音すら一切残さず、三つの影は猛吹雪の暗がりへと弾丸のように掻き消えていった。



荒れ狂う猛吹雪の中、るなは黒崎がここを選んだ理由――最終話の怜花が沈む湖の周辺に眠る遺跡の調査へ向かうため、裕也と一瞬だけ行動を分かつ。

だが、そこは最初から敵の掌の上だった。

裕也が一人になるところを完璧に計算し、待ち構えていたかのように、冷え切った大気に三匹の鋭い遠吠えが響き渡る。


――アオォォーーーンッ!!


その野蛮な咆哮を合図に、リミッターを完全に取り払った犬どもが一斉に裕也へと牙をむいた。


「ガァッ……!」

「逃がすかよ、消え失せろ……っ!」


死角を完全に、容赦なく塞いだ3対1の猛攻。異常な膂力を伴った狂気の拳が、凍てつく冷気を纏って裕也の肉体に叩きつけられる。人間離れした蹴撃の嵐が吹き荒れ、激しい痛みが全身の神経を駆け巡る。防御するのがやっとの極限状態で、ついに裕也は片膝を雪原へと深く突きかけた。


(このままじゃ……押しつぶされる……っ!)


圧倒的な物量の暴力の前に、意識の灯火が暗闇へ沈みかけたその時。脳裏の底で、かつてるともに行った過酷を極めた特訓の記憶が激しく明滅する。

――極限の果てに辿り着くべき、真の覚醒。その扉をこじ開ける鍵は、今ここにある。


「くっ……俺だって……!!」


極限の闘気の中で、裕也の肉体が神秘的な光を帯びて激しく発光を始める。瞳の色が彼のパーソナルカラーへと鮮烈に変色し、心の底から沸き立つ烈しいオーラが、周囲の猛吹雪を一瞬にして吹き飛ばした。

瞬間、裕也の周囲の空間がぐにゃりと歪む。絶対的な超能力の支配領域――【P・Zパーソナルゾーン】が、この戦場において初めて展開された。


空間の主導権を完全に掌握した裕也は、冷酷なまでの瞳でハウンドたちを真っ直ぐに睨みつけ、その素手を突き出す。

その肉体から、先ほどまで敵が放っていた凍てつく冷気の異能や空間を抉る斬撃の波が、そのままダイレクトに、何倍もの膨れ上がった出力で凄まじい勢いで逆流して放たれた。


「なっ……バカな……!? 俺たちの能力を、なんでテメェが……っ!?」


あらゆる異能を無限に受け止め、自らの肉体を器として我が物のように放つ暴威と、P・Zによる絶対的な空間支配。その底知れぬ力の前に、これまで圧倒的だった犬どもが冷や汗を流し、恐怖にその顔を大きく引きつらせる。

だが、さすがに3対1という圧倒的な物量の差から、次第に戦いは長期戦の様相を見せ始めていた。


「くっ……さすがに3人相手では……持久戦はキツいか……っ!」



その只ならぬ気配の変異を遠くで察知し、裕也の元へ急ぎ引き返そうとする、るな。

だが、その進路を文字通り塞ぐように、ふわりと軽やかな影が目の前に降り立った。


「!」


そこに現れたのは、勝ち誇ったような自信たっぷりの笑みを浮かべた七瀬もえだった。


「うふふ、ひさしぶりね、るな」

「もえ……」


周囲の激しい戦闘の喧騒を背に受けながら、もえは余裕の笑みを少しも崩さず、ふわりと裾を翻しながら、るなの首元に嵌められた黒銀のリングを指差してせせら笑うように言い放つ。


「無駄な抵抗はやめて、おとなしく降参しなさいよ、るな。その首輪……組織があなたたちの異能を完全に封じるためのプロテクトチョーカーでしょ? 自分がそんな危うい枷を嵌められていることすら、気づいていないわけじゃないよね」


もえの脳裏には、微塵の疑いもない確信しきった猜疑心が渦巻いていた。

てっきり、自分よりも格上の姫香か、あるいはこの組織の生みの親にでも無理やり嵌められたものだと思い込んでいるのだ。絶対的な恐怖と服従の呪縛でがんじがらめに縛り上げられている、哀れな少女なのだと。


だが、るなは微塵も怯えるどころか、むしろ滑稽な道化を見るように不敵にニヤリと冷たい笑みを浮かべた。

そして、臆面もなく自分の首元にあるプロテクトチョーカーへとスッと指をかけ、カチリ、カチリと余裕の表情で留め金を緩めていく。


「これ? ……これさ、るなが自分で勝手につけたやつだからさ、いざとなったらいつでも自分で緩めて力を使えるんだよ♡」

「っ……!? 嘘でしょ、バカな……そんなのあり得ない……っ!!」

「そう? やってみるね」


もえの喉から、先ほどまでの余裕が完全に抜け落ちたひきつるような絶叫が漏れ出す。

首元のチョーカーが緩められた瞬間、るなの身体から底知れぬエネルギーが奔流となって溢れ出し、戦場の空気を盛大に震わせた。まだ完全に外すわけにはいかないが、それだけでも十分にすぎるほどの圧倒的な暴力の気配だった。


「うっ……」

「さあ、いっくよ~~~!」

「!!!」


同じ体系の魔法を互いに行使し、真っ向からぶつかり合う激戦の舞台。

しかし、もえが必死の思いで放つあらゆる攻撃、その手から繰り出されるすべての異能は、るなが見せる圧倒的な格の違いの前に、まるで児戯のようにはかなく霧散していく。


「ぐわっ」

「あれ~~~っ?! もえ、動きが止まってみえるよ?」

「なぜだ?! 同じ魔法を使っているはずなのに、どうして――っ!?」

「おっかしいなあ~~~、何かるなに余裕で勝てそうムーブ出していたけれど?」

「おっおのれ~~~っ!!! 【BEAMビーム!】」


もえの放った攻撃は、るなの前で無効化された。


「なっ……!?」

「へっへ~~~ん」


もえが心底から愕然とした絶叫をあげる。

それもそのはずだ。彼女が全霊を込めて放つすべての魔法は、るなの前ではまるで歯が立たずに打ち砕かれていくのだから。


「ぐうっ」

「しょせんコピーはコピーということかな?」

「いっ言うなあ~~~っ!!!」


頭に血の上ったもえは、もはや正常な判断が出来ずにるなに突進していった。

もえの繰り出す遮二無二な連撃のすべてを、るなは最小限のステップだけで完全に見切り、あざやかに捌いていく。


「ぐわあああ~~~~~~っ」


るながすっと両手を前に突き出した瞬間、目に見えないサイコキネシスの衝撃波が空間を爆発的に押し返し、もえの身体を前方から容赦なく吹き飛ばした。銃弾すらも容易く弾き返すその絶対的な不可視の壁の前に、もえは防ぐ術もなく激しく地面へと叩きつけられる。


「ふっふっふっもうおしまい?」

「おのれ~~~~っ!!!オリジナル!!!」


もえが形振り構わず会心の一撃を叩き込もうと踏み込んだその瞬間、るなはあさやかに、余裕の笑みを浮かべてみせた。

無数の軽やかな紙吹雪が舞い散る中、空間そのものを自在に跳ね回る【HOP(ホップ!)】の瞬間移動で、もえの必殺の一撃を文字通りかすりもしないゼロ距離であっさりとすり抜けてみせる。


不意を突かれてバランスを崩したもえが、あわてて体勢を立て直そうとしたコンマ数秒の決定的な隙――その網膜に、完璧なタイミングで放たれた一瞬の挑発的なウインクが焼き付いた。


「やれやれ、しょうがないなあ」


脳髄を直接狂わせるような強制的な魅了【CHARMチャーム】がもえの神経系を一瞬で支配し、全身の自由を完全にロックして釘付けにする。


「っ、身体が……動かない……だと……っ!?」


冷や汗が一筋、もえの頬を伝い落ちていく。

しかし、悪夢の猛攻はこれだけで終わるわけではなかった。焦燥と恐怖に精神を蝕まれたもえが、プライドをかなぐり捨ててありったけの魔力を無理やり込めた強烈な魔法を乱れ撃つ。

だが、るなはそのすべてを真正面から、底知れぬ余裕をもって完全に迎え撃った。


「これでもうおしまいだね」

「うっ……」

「さ・よ・う・な・ら」


カードに秘められた異能を、あふれ出る美しくも危険なメロディに乗せ、空間のすべてを一掃する最大の大技――【SONGソング】。

解き放たれた圧倒的な波動は、もえが繰り出したすべての魔法をまるでおもちゃのガラス細工のように粉々に打ち砕き、そのまますべてを飲み込んでいく。


「ぐっぐわあああああああああ~~~~~~っ!!!!」


同じ技術、同じ体系の魔法であるはずなのに、質の高さも、練度も、その身に宿る生命力の出力も――すべてが桁違い。

その奥底に秘められていた規格外のポテンシャルが、今まさに完全に解放される。圧倒的な才能の圧力の前に、もえは青ざめた顔で一歩、また一歩と後じさりを余儀なくされ、完全に逃走一歩手前の極限状態へと追い詰められていった。


「はあっはあっはあっはあっ」

「そろそろゲームオーバーだね」

「嘘……でしょ……こんなのって……あり得ない……っ!!」


もはや戦意のかけらすら残されていない。

プライドも威厳も粉々に打ち砕かれたもえは、冷まじい冷や汗にまみれながら、震える声で叫ぶのがやっとだった。


「クッ……!まっまさか、 るなのプロテクトチョーカーがダミーだったとは…こんなことなら、もっとちゃんと準備してくるんだったわ……っ!」


もえはこれ以上の戦闘続行は自身の死を意味すると本能で悟り、見るも無惨な捨て台詞を吐き捨てるのがやっとの状態で、空間を揺らす【HOP(ホップ!)】の瞬間移動によってその場から忽然と姿を消した――。


「ふうっ逃げちゃったか・・・。まっ、いいか」

(いつでもやっつけられるし)

「さてと、【HOP(ホップ!)】」 


るなはその詠唱と共にその場から消えたのだった。



一方その頃――。

P・Zを展開した裕也の圧倒的な空間支配のなかではあるものの、3対1という数的不利から、戦いは次第に長期戦の様相を見せていた。


「くっ……さすがに3人相手では、手数が……っ!」


追い詰められかけたその瞬間。


「――そこまでよ!」

「っ……!?」


自身の心拍数や足音のステップと完璧に連動し、空間に物理的な衝撃波を刻み込む打撃・リズムの固有能力――【BEATビート】。


ドゴオオオオオッ!!


重く轟く衝撃音と共に、シュウシュウと闘気を燻らせながら、その場に降り立ったのは、華やかな歌姫の戦闘服衣装に身を包んだ神楽桃華だった。

その全身からは、周囲の吹雪を圧倒するほど眩い黄金のオーラが力強く立ち込められている。


「お待たせ、裕也くん!」

「桃華……!」


圧倒的な存在感と神聖な気配を纏い、雪原の空間そのものを切り裂くように、覚醒した桃華が降臨する。響き渡る声の波動――『アルカナ・ディーヴァ』。


「ちっ、くそしょう……これじゃあ持久戦の予定が狂っちまう……っ!」

「残念でした、これで形勢逆転ってやつね」

「くそう……っ!」

「さあ、一気に畳みかけるわよ、裕也くん!」

「ああ――!」


高僧の元での過酷な荒行を経て極限まで研ぎ澄ませた圧倒的なオーラが、P・Zの絶対支配に捕らえられた犬どもへと容赦なく迫る。

形勢逆転の狼煙が高らかに上がった雪原で、二人の熱い共闘による反撃が、今まさに幕を開ける――。


(第21話「るなともえ」おわり / 第22話へ続く)

メインキャラクターのひとり多々木 ナナミ(HED)が歌う、らいだ~くの挿入歌です


『Dreaming Parade』


架空アニメ 「らいだ~く」 挿入歌


歌:多々木 ナナミ & HED


https://suno.com/s/duAjMMWNYZQUo1sn

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。