33話 ウルの護衛任務
――数日後。
冒険者ギルドに呼び出され、ギルドマスターの部屋に案内される。
テイマーギルドのギルドマスターと、ライとルイの姿もあった。
ウルを召喚してほしいとのことだったので呼び出すと、冒険者ギルドのギルドマスターが口を開いた。
「先日、3人から報告をもらっていたキンベル伯爵から、苦情というか言いがかりが来てね。
こうして関係者を集めさせてもらったよ」
「まず苦情だけど、今回は直接来たから対応が楽な部類ではある。
内容は、大きなグレーウルフを従魔にして、獣人の兄妹を連れた男に襲われたというものだ」
「すみません、直接来る以外に方法はあるんでしょうか?」
「あるよ。
貴族から直接、騎士団経由、国王経由の3つだね。
苦情といったけど、正式には申し立てもしくは抗議と言って、直接は貴族本人もしくは屋敷の代理人がギルドなどに、冒険者からの侮辱などを抗議し対応させる行為だね。
騎士団は、貴族が騎士団へ事実と証拠をもとに申し立てを行い、騎士団からギルドへ確認が来る形だ。
これは証拠なんかもあるから、ギルドがどのような罰則をしたか、最終的に騎士団へ報告が必要になる。
国王はめったにないけど、これがあった場合、ギルドは該当者の身柄を拘束して騎士団へ受け渡さないといけない。
今回は、よくある貴族が自分の思い通りにいかなかった腹いせに近い行為になるかな。
証拠がそろっていれば、騎士団に申し立てるほうが貴族の思う通りの対応が円滑に進むからね」
ギルドマスターは続ける。
「今回はゼオン君と、ライとルイの事前の報告もあったから、特にギルドから言うことはないよ。
形だけ、事実確認をしましたって報告が必要なだけだしね」
「ご迷惑をおかけしてすみません」
「いやいや、気にしなくていいよ。貴族はプライドの塊だしね。
安い報酬で依頼してきて、『なんで、この私の依頼を誰も受けない!』って苦情を入れる底辺貴族もいるし。
表向きには、ゼオン君はテイマーギルドへも冒険者ギルドへも登録していない一般人。
ライは冒険者ギルドの研修生、ルイはテイマーギルドの研修生になるから、ここにリゼラも来てもらっている」
「まあ、グレーウルフとフェンリルの区別もつかない貴族がおかしいということもあるけれど、注意は必要よ。
相手が先に剣を抜いたという証言があるから、ゼオン君の正当防衛が通っているけれど、ウルちゃんが攻撃していたら過剰防衛になっていた可能性もあるからね」
「ウルには人を傷つけないように言ってありますので、指示なく攻撃することはないですよ」
自分が答えると、ウルが吠える。
その光景を見てテイマーギルドのギルドマスターが微笑み、その場は形だけの事実確認ということで終わった。
――数日後、改めて冒険者ギルドへ呼び出される。
今回は冒険者ギルドのギルドマスターと、ライとルイの兄妹だけだ。
兄妹は元気がないように見える。
先日の件と関係するかもしれないためウルも呼ぶ。
呼び出すと、ウルも兄妹の変化に気がついたのか、兄妹のもとへ行き近くで伏せの姿勢をとる。
「また呼び出してすまないね。よくないことがあった。
今日、ルイが誘拐されそうになった。
幸いなことにライが気がつき、不意打ちで攻撃したため事なきを得た」
「相手はあの貴族ですか?」
自分でも驚くほど冷酷な声で、ギルドマスターに聞いていた。
ギルドマスターは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに表情を戻す。
「そうだと思うが、証拠がない。
実行犯はチンピラのようで、楽な仕事だと思ったのについてないと言って逃げたそうだ。
考えられるのは、証拠が残らないように貴族が雇って実行し、保護した貴族がその見返りを求めてくるか。
もしくは誘拐について情報提供を行い、その見返りとして優位に交渉を進めようとしているかのどちらかだ」
ルイはウルの毛に顔を埋めるようにしていて、こちらを見ようとしない。
ライも膝の上で拳を握りしめている。
無事だったとはいえ、怖くないわけがない。
「ギルドから護衛は出せないんでしょうか?」
「出したいところではあるが、ギルドはあくまで仕事の斡旋の場だ。
多少の礼金は出せるが、冒険者が稼ぐ日当に比べると少ない」
「じゃあ自分が護衛するのはどうでしょうか?」
「それも考えたが、ゼオン君が相手を撃退した場合、ギルドは表向きにはかばえない。
それに撃退した相手が、チンピラではなく貴族の関係者だったら?
まさに相手の思うつぼになる可能性が高い」
「関係者なら、それが証拠になるんじゃないんですか?」
「本来ならね。
前回の抗議でゼオン君とライ、ルイの関係性が記録として残っているから、前回のように第三者としてライとルイを使えない。
そして、ゼオン君が撃退した場面を見た一般人が貴族に買収されていたら?
貴族のいいように証言され、犯罪者にされ、示談の条件としてウルが交渉に出される可能性が高い」
厄介なことになったなと対応策を考えていると、ウルが吠える。
ウルを見ると、2人の周りをくるくる回っている。
「ウルが2人の護衛をするってこと?」
そう言うと、ウルは吠えて返事をした。
「俺は護衛はいらないよ。
一応訓練はしてて、自分の身だけなら何とか守れると思う」
ライはそう言っているが、最悪誘拐されても、箱庭転移をすれば何とかなる。
だが、そうなると言い訳が難しくなるのも事実だ。
ウルに任せていいのか判断に困っていると、ギルドマスターが口を開いた。
「ウルが問題ないのであれば、かなりいい案ではある。
もちろん、ウルが人に手を出さないというのが大前提だが、移動はウルに乗っていれば近づく者はいないだろうし、いざとなれば走って逃げることも可能だ。
ただ、2人の家はウルが入るには狭いから、家の出入り口で待機してもらうことになる。
それでも鼻が利くので、2人の部屋に誰かが入ったら気がつけるかもしれない」
「家の外で待機する形でも、2人の部屋に侵入者が入ったら分かるの?」
ウルが自信満々に吠える。
「入る前に気がつく」といった意思も伝わってきた。
「表向きには、ギルドがルイの護衛としてウルを一時的に預かり、同行を認めた形にする。
ゼオン君個人の命令で動いているわけではない、という建前にするよ。
こうすれば、ゼオン君の指示でウルが攻撃をしたという事実を消せる」
こうして、ギルドマスター立会いで、ウルにルイの護衛と、ライとルイに危害が及ぶ場合のみ相手をひるませる程度の攻撃を許可した。
ギルドマスターが証人となり、ウルの護衛は正式に認められた。
その後のウルがいない生活は、少し寂しいものがあった。
といっても、ウルはたくさんご飯を食べるので、朝昼晩と食事を運んでいるから会ってはいる。
それでも、いつでも会えていたものに制限がかかると、物足りなさを感じてしまう。
ウルはそういった感情を持っているというより、妹分を守るんだという使命に燃えている感じで、自分との差を感じた。
なので、会った時はウルの鼻の上あたりにめちゃくちゃ頬ずりしてやるのだ。
ポンタの時は鼻を直接ほっぺにつけていたが、ウルの大きさでそれをやると顔が結構濡れるのでやっていない。
代わりに、鼻の上のうっすら毛が生えている辺りがひんやりして気持ちいいので、そこに頬ずりをすることが多かった。
いつもは優しくやるが、会っていない期間は激しめにやった。
だいたい激しめにやると、ウルは終わった後にくしゃみをする。
こんな生活をして、1週間が経った頃に変化が起きた。
ウルの反応が消えた。




