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18話 遠く、近く、誓い合う

いつも読んで頂きありがとうございます♪

ストレス発散目的で緩く書いてますので拙い文章力ですが最期までお付き合い下さい。

 王都最高峰鍛冶師はその場で凍りつく。


 その理由は思い起こせば数々の狼藉を働いた元凶の片割れが自身の工房()に乗り込んできたからに他ならない。


 「何しでかしてきたんスか……。」


 「若気の至り……かな。」


 という冗談めかしたやり取りを交わしてからギランは久方ぶりの馴染みとの再会を喜び、親しげに手を差し伸べて握手すると笑顔で出迎えた。


 ジルゴに負けず劣らずな環境に俺は感動のあまりつい口をついた。


 胸を張る王宮筆頭鍛冶師の風格には鼻垂れ見習い鍛冶師の陰は視えない。


 つくづく思う。


 他者の成長した姿というのは、こうも気持ちいいものかと。


 かつては鉱石から延べ棒へと打ち鍛える事すらままならなかった鼻垂れ小僧が立派な工房を構え何十人という弟子を抱え、おまけに世帯まで持っているとなると、ついつい俺の悪癖が顔を覗かせてはギランの弟子達などに笑顔が溢れる。


 かたやギランは勘弁してくれと言いながらも泣き笑いする。


 束の間の再会で気が緩むとギランは弟子達に向かって仕事に戻るよう叱咤するが、幾分の優しさが込められていた。


 「立場が人を作るってのも(あなが)ち間違いじゃねぇのな。」


 「まぁ、オイラもお陰様で余裕ある人生を過ごせてますから。」


 ジェノと俺が挟むようにして付き添っていた日々も無駄じゃなかったのかもしれない。


 「そりゃあ、もうあの頃は、いつ逃げようかなんて考えた事も有りましたからね。でも、逃げなくて良かったです。」


 工房の金床群を抜けた突き当たりの一室から中庭へと出た俺達は優雅な憩い場に腰を下ろす。


 「息子のヘルンです。ほら、よく話してやってるだろ?この御仁がコウ ハルサメさんだ。挨拶しなさい。」


 「始めまして、魔王様!」


 自身でも判るくらいギランに向けた急転直下の視線。


 途端に慌てふためくギランに俺は冗談めかして問いただすが、両腕で抱えたヘルンの無邪気な顔に心は緩みきっていた。


 彼は話題を急いで変えるように妻のミヴを紹介すると土竜(ノーム)族とは違う透き通る蒼眼に気品ある容姿が眼に焼き付いた。


 〝水蜥蜴族〟とはいえその容姿はほぼ人族とは変わりない。


 しいて言うなら舌の細長さが違うくらいだろう。


 「父親に似なくて良かったなぁ〜ヘルン!」


 俺はあえて悪癖を魔王発言の仕返しに使う。


 ギランは笑いながら参ったと言わんばかりに天を仰ぐ。


 「なんだ、案外すんなり受け入れるんスね。拍子抜けっス。」


 傍らでロックがつまらなさそうに言葉を吐いたがギランも俺も顔を見合わせ、ふと思いにふけると互いに確かにそうかもと思いを打ち明かしたが、妙な違和感は感じる。


 長年会っていなかったにも関わらず、まるで家族が数日間顔を合わせなかった程度の錯覚。


 ましてや、俺はギランにとったら恐怖の対象でしか無かっただろうし、やけにあっさりと垣根を越えた気がしてならない。


 ギランからしても似たような感情が芽吹いているようだが、不思議と場は和みの一択である。


 「ひょっとしたら、()()かも知れないですね。そこから感じる気配がなんとも心地良いというか、懐かしいというか……。」


 ギランの指差す先は俺の魔法袋。


 そうか、宝玉(龍神)だ。


 土竜も水蜥蜴も其々の血脈に沿った加護がある。


 だからほんの僅かな感覚だろうとも感じるのだろう。


 宝玉を取り出し卓上に置くとギランは姿勢を正す。


 「良い心掛けであるな鍛冶師よ。」


 妻子は喋る宝玉に驚いたがギランは堂々と拝礼する。


 「やはり、龍神様であらせられましたか。崇高なる御神様に御目にかかれたことを光栄に存じます。」


 「うむ。流石は土竜(ノーム)族よのう。なに、そう堅苦しくなるでないぞ。お主のように信心深く礼節を弁える者に我は感謝しかないのだ。」


 「はっ!ありがたき御心、恐悦至極で御座います。」


 信仰心があったのは知っていたが、ギランがこうもすんなりと挨拶する姿を見るのは初めてだ。


 「コウよ。主も本来ならばギランの様に我に敬意を示せばねばならぬのだぞ?」


 「またそれか。知るかよ、人を見るなり面白そうだからって勝手に加護つけやがって、その上契約だぁ?礼儀知らずな相手に礼節なんて説かれたくねぇよ。」


 ギランは泡を食いながら膝から崩れ落ち、ロックは事もあろうか俺の頭を(はた)くが、龍神は大声をあげて笑う。


 「お主は実に珍獣よ。どんな聖人も魑魅魍魎も我に畏怖するというのに堂々としおって。だからこそ気に入ったのだ。お主という奴はこの期に及んでも尚、我と対等に接するのだからな。ロックもギランもそう邪険になるでない。此奴はこれで良いのだ、良いのだ。」


 龍神様の言葉に2人共に冷静に向き合うと椅子に座り直し、静寂を保つ。


 「この庭は良いな。土壌はしっかりと手入れが行き届いておる上に水路のせせらぎも清められていて実に心地良い……決めたぞ、コウよ。我はここを棲家とする!」


 「馬鹿言うな、王都のド真ん中に迷宮なんか造られてたまるか。」


 俺は龍神の波動を感知出来ていたから冗談だと判りきっていたが、ロックとギランからすればとても冗談に聞こえなかったのだろう。


 流石に気が引けている。


 「でも、龍神の気持ちも解らんでもないな。ここは……確かに安らぐ。」


 整備の行き届く草花の香りが微風に乗り庭を舞い踊る。


 近代化の進む王都でまさかこんなにも安らぐ場があるとは思いもしなかった。


 龍神曰く王都は鉄黴(てつかび)臭さや魑魅魍魎の〝悪臭〟が蔓延っていて幽閉中に何度も王都を塵にしようかと悩んだらしい。


 「ここは、まさに掃き溜めに鶴であるな。」


 「美人ならぬ美景だけどな。」


 爽やかな(いとま)が束の間の目的を忘れさせる。


 「お褒めに授かり光栄です、龍神様。ささやかでは御座いますが、此方をどうぞ。主人の渾身の力作で御座います。」


 ミヴが献上した物は土竜族特有の御神酒。


 古来から土竜族は成人として認められるには御神酒を造れるようにならないといけない。


 その出来具合で、その後の人生が大きく左右されるのだが、ギランはこの一点においてはジルゴに確実に勝る。


 昔からジルゴはそれだけはギランの才能を認めていたが、ギランは鍛冶師の腕を認めてくれと騒いでいたっけか。


 それにミヴはかなりの切れ者だ。


 絶妙な間で旦那を担ぎ上げて魅せた。


 〝良妻〟というより〝賢妻〟か。


 宝玉がすんなりと入る程の器に盛ってある御神酒に龍神が浸かると、信じられない程の奇声が発せられる。


 「実に、実に良いぞッ!」


 龍神の昂り口調は、まるで餌にがっつく犬かの様に感じた。


 きっと宝玉の中で尻尾を振り回しているに違いない。


 「貴方、良かったわね。龍神様がお認めくださったのだから。」


 優しい声色がギランに向けられるとヘルンも父親を褒め讃えギランは感情を照れ隠すように話の矛先をロックへと移す。


 「そうっスよ!本来の目的を忘れてもらっちゃ困るっス!」


 ギランが付いてくるよう促し俺とロックは龍神を連れてギラン専用の鍛冶場へと足を運ぶ。


 そこには、あらゆる武具や防具が整理されておりなぐり書きだろうか、色別けされた紙切れがそれらに一枚一枚貼られている。


 「これ全部、ギランが?」


 「えぇ、王宮に卸す物もあれば、他国に卸す物もあります。今は国内で流通しているウチの製品は弟子達の作品ですから。」


 目を配るとどの品も精巧かつ質が良い。


 何より目を引くのは……。


 「これ、魔剣だよな?この品質の魔剣を造れるまで腕上げたんだなぁ……流石王宮筆頭鍛冶師の名は伊達じゃないな。」


 ギランは照れくさくも右手の人差し指で鼻下を擦り終えると謙虚にも現状を語る。


 ことさら魔剣の品質に関しては未だジルゴの領域までは遠く、造れる種類に関しては木、火、土、金の四行(しぎょう)迄だと。


 この世界において五行とは木、火、土、金、水の五種類の精霊元素、もとい魔素という魔力の源で成り立ち、それら総てを扱える者の事を〝元素を極めし者(エレメントマスター)〟と呼ぶ。


 そのエレメントマスターまで辿り着けるものはほんの一握りで、才能や素質の他、地道な研鑽や意志の強さも求められる。


 誰しも生まれながらにして、一つはなにかしらの魔素を有するが、その使い道や磨き方は千差万別でそこに〝冒険者〟の適性が備われば〝冒険者〟製作の適性が備われば〝業師(クラフター)〟へと成長してゆくもので〝騎士〟や〝神官〟なども例に洩れず兵や僧侶として歩みを始める。


 そういう世界である為に自己研鑽欲の高い者ほど〝五行〟に関心が強くあり、〝元素を極めし者〟を目指すのだが、その諸行は険しいと言うには生易しく苛烈且つ自己研鑽は熾烈である。


 必要とされるのは才能、知識、知恵のみにあらず。


 己の感覚や感情を常に制し、ある種の犠牲を投げ打ち続けなければ到底成し得ない現実がそこにある。


 それゆえ、到達したものは敬意と称賛に包まれるわけだが……一行から二行獲得、二行から三行を獲得する事自体、ただでさえ酷く険しい道程。


 ギランからは僅か20年の間に如何にそれほどまでの経験を積み重ねてきただけではなく、ひたむきに研鑽と覚悟を示し続けてきたかが伺いしれる。


 それでもまだ、ギランの想いは未だ満たされずとなると本気で〝元素を極めし者(エレメントマスター)〟を目指す、他ならないという証明である。

 

 尋常ではない昇華速度。


 「驚いてはくれてますけど師匠やコウさんと比べると一つ足りちゃいないですから。」


 涼しい顔して吐いてみせたギランを見て俺は素直に打ち明けた。


 〝冒険者〟と〝業師〟の道程は全く別物であると。


 〝業師〟が極めようとする為には大量に素材が必要不可欠でその上、投資資金も桁違いに必要。


 〝冒険者〟の手当たり次第に魔物や迷宮に挑戦すればいいっていう短絡な考えもそこからの物量とも訳が違う。


 人それぞれ成長も成熟も切っ掛けも何かもが違って当然。


 他人は他人とギランに伝え、彼も少しばかりの安堵を得たようだ。


 そんな、やり取りを交わしつつギランがロックに手渡した一振りの剣と一具の弓。


 見慣れない装飾と彩りをしていたが、触れずともそれと分かる程の出来栄えである。


 「剣は英雄オイセの武具を(なぞら)えて【鳴神草凪】、弓矢は英雄ペルンを準えて【天雷】とした。どちらも今のお前さんにはぴったりとハマる魔剣だろう。」


 ロックは感激しつつもそれを手にしてはじっくりと眺めてから振り向いて俺に笑顔でその逸品を見せびらかす。


 案外お茶目な一面も残っているのものだなと、ふと感じた矢先、俺は大人びたロックに幼少時の面影が霞めたように思えた。


 「確かに。感じ取れる魔素はまさに〝魔剣〟よのぅ。」


 龍神もその出来栄えに深く感心し関心を示す。


 「こりゃ、金貯めて俺もギランに何か作ってもらうか。」


 それを聞いてかギランの眼光が鋭く変化すると、口を開いた。


 「コウさんからそう言われると思いませんでした。鍛冶師冥利に尽きます……実のところ、初めて造った魔剣はコウさんにと考えていました。それを御覧になってもらいたいんですが、どうでしょう?」


 俺はともかくロックまでもが驚く。


 この20年で唯一の心残りがあり続けてきたとギランが語るのは魔剣を初めて製作した頃らしく、その事実を知るのは妻のミヴの他に彼の師匠であるジルゴとその妻のバラだけであった。


 魔剣の中心となった題材や想像の原動力は、ついぞ前まで草臥(くたび)れていた万年中位冒険者だったらしく世話になりっぱなしの自分に出来ることで活力を取り戻させる一助になればと当時意気込んで勢いそのままに造ったものの師であるジルゴからは渡すべきではないと酷評されていたらしく、以来ずっと自室にて管理していたようだ。


 「当時のコウさんには不釣り合いな出来栄えだと、そればかりオイラは思い込んでいましたが、多くを経験していく最中、ふと師匠の真意は〝渡す時期を見計らえ〟の意味じゃなかろうかと思っていました。コウさんに活力を取り戻してほしいが為の必死の想いが死への連鎖になってはならぬと。汎用であろうと固有(ユニーク)であろうと業師が造る物は想いを尊び重んじるが真理。精魂込めて産み出した宝も扱う者の見極めを仕損じれば、ただの持ち腐れ。なんら〝魔〟と変わらん意味にしかならないので……でも、今日こうして会えて感じましたがやはり、受け取ってもらいたいのです。お願いします。どうか、此奴を納めて頂きたい!」


 両手で差し出された一振りの魔剣を断る道理なんて俺にある訳が無い。


 ジルゴもそうだが、鍛冶師に限らず〝業師〟の心の在り方に俺は毎度奮い立たされる。


 思えば死に場所を求めた頃も、ジルゴを頼っていたんだと、鼻垂れ見習いだったギランにそう教えられた気がする。


 「貰うからには……恥を塗り重ねる真似だけは出来なくなるな……。」


 俺がそう吐くとロックはそんな俺を見て何か声をかけようしたのを躊躇っていた。


 「死地はあれど、死なずに死んでいって下さい。目一杯冒険して、目一杯周りを巻き込んで、目一杯騒ぐ。それが、オイラの知る、〝(コウ ハルサメ)〟、遠くて最も近い英雄の姿なんですから。」


 俺はギランから魔剣を受け取りながら誓った。


 死地を駆け抜け続け、天命を全うすると。


 竈門に焚べられた薪の蒸気とは違う熱気に絆され自然と視界が滲む。

ここまで読んで頂きありがとうございました♪

一身上の都合により不定期更新ですが、また次話読んで下されば嬉しいです♪


書き溜め… …_φ(・_・

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