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クリートに支えられて、何とか立ち上がるクリーティア。エイユンと、ポチを抱いたナデモも駆け寄ってくる。全員傷だらけ、魔力気力体力を消耗し尽しているが、それでも笑顔だ。
エイユンなど、感極まって涙を溢れさせて、
「見事……見事だったぞ、クリーティアっ」
あちこち破れた僧衣越しに、クリーティアの華奢な体を抱き締めた。すると今のクリーティアの体は、細いだけでなく丸みと柔らかさがあることに気づく。以前とは抱き心地が違うのだ。
そのことに一瞬、エイユンの表情が強張ってしまう。が、すぐ笑顔に戻ってクリーティアに頬擦りする。そして一際強く、クリーティアを抱き締めた。
「構わぬ。女の子であるのならば、それはそれで愛でようがあるというもの」
「エ、エイユンさんっ、あの、その」
「尼さんもなかなか言うようになったにゃ。まあそっちもそっちで面白いからいいにゃ」
「ポチさんは、何でもいいんですね」
「ぅお~い、ここは数々の困難を乗り越えてようやく障害がなくなった、ヒーローとヒロインがめでたく結ばれるハッピーエンドシーンのはずだが?」
と一堂が騒いでいると、
《……はぁい、す、すみませんが、ワタシ、の、機能停止、間近……話、聞いて下さい》
無敵ロッドの弱々しい声がした。クリーティアが慌ててロッドを見て、
「き、機能停止? どうしたんです?」
《ダメージ……受け過ぎ、まして……》
「ご主人様っ!」
「あ、ああ! すぐ持って帰って修理する!」
とクリートが無敵ロッドを受け取るが、
《いえ……もう、手遅れ、それより……ワタシが消えた後も、あの異物を……封じる為に……》
「え? 異物って、シンクリがまた出てくるのか? ど、どうすればいいんだ?」
「そうはさせぬわっ!」
クリートの横っ面に、白い拳が叩きつけられた。顔を歪めて吹っ飛ぶクリートの手から無敵ロッドをもぎ取ったのは、黒い髪と紅い瞳の美少女。
体を起こしたクリートが、悲鳴を上げた。
「そ、その目はシンクリかああぁぁっ⁉」
「何を驚いておるか。元々この美しい体も強き力も、全て此方のものじゃぞ。無論、ゴルドテクターとやらも。この杖はただの鍵に過ぎん。しかも今や朽ち果てる寸前……じゃっ!」
背後に回ったエイユンの首筋に、シンクリは振り向きもせずに無敵ロッドを叩きつけた。
エイユンが呻き声を上げて片膝をつく。シンクリは無敵ロッドを両手で持ち、力を込めた。
「こうして真の力の門が開いた以上、もはやこんな物は不要。へし折ってくれるわ」
「ま、待てっ!」
クリートがシンクリに掴みかかろうとしたその時、
《だ、大丈夫でぇす……鍵は、門を開けることができ……閉めることも、できまぁす……だから異物……アナタを、消すことはできなくても……門の中に閉じ込めることなら……》
「そ、其方っ⁉ おのれええぇぇっ!」
シンクリが慌てて無敵ロッドを折ろうとする。負けじと無敵ロッドは最後の力を振り絞って、
《製作者さんっ! 今、アナタを、マスター登録、しまぁす! 開放のキーワードは「シンクリ出て来い」封印は「クリーティア出て来い」でぇす、よろしく!》
「って、何だかえらく適当だがそれでいいのか無敵ロッドっ?」
というクリートの突っ込みも、シンクリのへし折りも間に合わず、無敵ロッドの全体に細かいひび割れが走る。と思った次の瞬間、まるでガラス細工のような高く軽い音を立てて、ロッドは粉々に砕け散ってしまった。金色の欠片がキラキラと宙に舞う。
すると、そのキラキラに染められていくかのように、シンクリの髪が金色に変わっていく。瞳の色も、紅から碧へと。
「……ぅ……あ、ご、御主人様……」
「クリーティアか? じゃ……シンクリ出て来い?」
ぽむっ! と音がして煙が立ち、金髪は闇夜の色に碧眼は鮮血の色に。
「今じゃああぁぁ! 今、其方を殺せば!」
「クリーティア出て来いっ!」
ぽむっ!
「ご、御主人様? 今、僕……僕は?」
意識と肉体の混乱に怯え、震えているクリーティアを、クリートはそっと抱き締めた。
「は、はは。なるほどなるほど。こういうことか……」
無敵ロッドが壊れ、消滅したせいだろう。ゴルドテクターもなくなっている。元から着ていた服はテクターの出現時に弾け飛んだので、今クリーティアは一糸纏わぬ姿なわけで。
その裸の胸は白くて滑らかで、まっ平らで。
「シンクリめ、女の子の体をしっかり持っていきやがったんだな」
「はい。すれ違う時、『絶対また、この体で出てやるからの~!』と」
「あいつめ……だが、負けんぞ俺は! 絶対にあの、女の子の体を取り返してやる!」
「はいっ、御主人様! 僕も頑張ります!」
「そう言ってくれるか、クリーティア!」
「もちろんです、御主人様っ!」
ひしっ! と熱血涙を流して抱き合う煩悩魔術師と、創られた美少年。妙な図である。
その横合いからエイユンが、袈裟を取って差し出した。
「クリーティア、頼むから前は隠してくれ。男の子としての嗜みだぞ。男の子としての」
赤い顔を背けて、でも目だけはそ~っとクリーティアの方に向けていたりするエイユン。
そしてそんな三人を見ているのは、雑貨屋店員と白い猫。
「何とか一応、めでたしめでたしですよね。いろいろありましたけど」
「にゃ。前進したというか、何も変わってないというか、難しいにゃ。まあとりあえず尼さんにとっては、ほっとしたってとこだろうけどにゃ」
「クリーティアちゃんは?」
「あのコはまあ、変わらないにゃ。ケダモノが少年愛に目覚めれば、すぐにでもハッピーエンドなんだけどにゃ」
「聞こえたぞ猫畜生! 俺が男の子を愛するなんて、絶っっ対、ないからなっ!」
「そ、そうですよね御主人様。ですから僕は、頑張って女の子に……」
「クリート! お主の粘っこい性癖などはどうでも良いが、クリーティアを悲しませるような発言は断じて許さんぞ!」
「ね、粘っこい性癖って。俺はただ、正常かつ清浄な男女交際を」
「にゃ~。想い人の性転換クローンに「御主人様♡」って呼ばせて喜ぶなんてネバネバにゃ」
「性転換は不可抗力だって、お前も知ってるだろうが! つーか猫畜生は黙ってろ!」
「御主人様は粘っこくなんかないですっ」
「だからクリーティア、それは創られた意識でだな……」
いろいろあったが、こうなった。
結局、【大戦争】も【ネオ・ヒューマン】も彼らの前では大した意味はないようだ。
兵器生物よりも、それ専用の強力な武器よりも。目の前にいる男の子、女の子の方が大切。
それは明日も明後日も百年後も千年後も、きっと変わりはしないのだろう。
最後までご覧頂き、ありがとうございました!
最初に書きました通り、この作品は非常~に古い、
おそらく今までここに投稿した作品の中で一番古いものです。
どうしてそういう投稿順になったかは、まあ、いろいろありまして。
でも、私の執筆歴自体はもっともっと古いんですよ。
正真正銘の一番古い作品なんか、一太郎の3で描きましたからねえ。
まだ、ウインドウズなるものが搭載されていないPCで。
電光掲示板みたいな画面で。5インチフロッピーで。
登録されていない漢字を使いたいと思ったら、ドット打ちで自分で作って。
そんな時代でしたよ、ええ。
インターネットのイの字もなく、
携帯電話なんか少なくとも学生は誰も持ってなかった。
……と。
そんな年寄りの作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。
次の作品は、どどーんと近年のものです。
おそらく、私自身も気づかないほどたくさんいろいろ、
文体やら何やら変わっていることでしょう。
その辺り、読み比べなんかして頂ければ幸いです。
ではまた、次の作品で!




