5話 ダンス会場
日も落ちて暗くなってきたので、ランスと一緒にダンス広場へと移動する。
王都の中心近くにある、普段は大きな市場などが開かれる広場だ。
広場の四隅には、既に大きな松明で照らされはじめ、広場の上のほうにたくさん張り巡らされた紐に吊るされたランプが、地面に星や花の模様を描いていた。
ランプは星や花型の模様の部分だけが光るように細工をしているみたいだ。こんなの初めてみた。
演奏をする人たちが、楽器を試しに鳴らす音が時折聞こえる。
ダンス会場もあちこちにあるけれど、ここはベルさんに聞いたお勧めの会場だった。
夜に開催されるだけあって、子どもの姿はあまりない。
若い男女――恋人同士できているのが、ほとんどのようだった。
続々と人が集まってきて、もうすぐダンスが始まる。
「すごい綺麗だね。あんなランプ初めてみた」
「ああ。……ニーナ、こっち向いて」
「なに? ランス」
呼ばれて振り向くと、ランスが花冠を持っていた。
先ほどの剣技大会で優勝賞品としてもらった、あのピンクの石があしらわれた特別製の花冠。
――贈った相手と必ず結ばれると言う……。
ランスが私の頭の上に、そっと花冠をかぶせて、優しく笑った。
「春祭りは花冠をかぶらないとな。……似合っている」
「……あ、ありがとう」
小さい頃から、ランスはよく私に花冠をくれていたっけ。
嬉しくって、故郷では私はその花冠をかぶって春祭りに参加していた。
大きくなって、ランスがよそよそしくなってしまった時期があった。
花冠なんてもらえないだろうなと思って自分で用意するか、家族から贈ってもらおうかと考えていたら、他の男性がくれると言うので、じゃあお願いしようかと思ったら、ランスが「ニーナの花冠は俺が用意する」と言って止めたんだっけ。
毎年ランスが用意していたから。俺が用意しないと困るだろう? って言って。
だからこうやって花冠を贈ってもらうのは初めてじゃないけど、恋人からとして贈ってもらうのは初めてで。
体が甘くしびれるみたいな喜びが湧き上がってくる。
「音楽が始まった。踊ろうニーナ」
「うん」
貴族のダンスパーティーと違って、笛や太鼓での演奏がほとんどだった。
バイオリンに似た弦楽器もある。
最初は速いテンポの曲が多かった。
周りの人たちの真似をして、ステップを踏んでみたり、ランスの手を借りてクルクルと回っているうちに、あっという間に時間が過ぎていく。
たまに休憩をして、広場の周りにある屋台から果実水を買って飲んだり、また踊ったり。
そうしているうちに、完全に子供の姿も見なくなり、曲もスローなものに変わってきた。
暗くてランスの顔がよく見えないけれど、時折ランプの明かりに照らされるたびに、思った以上に近くにある顔に驚いてしまう。
先ほどまでは飛び跳ねて踊っていたのに、スローな曲になってから、ドキドキが止まらない。
笛の音が細く長く響き、太鼓は静かに優しいリズムを刻んでいる。
ランスの手を握りながら、最後の曲が終わるまで、幻想的な時間が過ぎていった。
ダンスの時間が終わり、ジャックとオリーブ亭まで歩いて帰ることにした。
春祭りの日は遅くまで辻馬車があるけれど、ゆっくりと二人で歩きたい気分だった。
なんとなく、ダンスを踊った時のまま、手を繋いで歩いていく。
ランプの明かりのせいで会場では気が付かなかったけれど、離れてみたら夜空に無数の星と、三日月が出ていた。
その月が、今まで見た中で、一番綺麗な月だった。
ゆっくり歩いたつもりだったけど、気が付けばすぐにいつもの下町の端のほうに着いていた。
「あ、下町にこんな家があったんだね。素敵な家」
「本当だ」
下町の端に、大きな古い家を見つけた。
丈夫そうな2階建てで、外壁にはツタが這っている。
庭も広くて、春の花、リンゴやナシの木が植えられている。
古いのに、とっても温かい雰囲気で、よく手入れされていることが分かる。
だけどなぜか、窓に木の板がバッテンに打ち付けられていた。
人の気配も感じられない。
不思議に思っていたら、『売り家』と書かれた立札を見つけた。
とっても大切に、丁寧に住んでいただろう家。今もしっかりと誰かが手入れをしている。
なにか事情があって、売りに出されているんだろう。
きっと悪い事情ではない気がした。
「こんな素敵な家に、住んでみたいね」
何気なくそう言ってランスを見上げたら、ランスが予想外に真剣な顔をして、私を見ていた。
星空とランスをしばらくの間見つめていたら、少しずつランスの顔が近づいてきたので。
ゆっくりと目を閉じた――。




