4話 紫水晶の秘密
「ランスお疲れ様。優勝おめでとう」
「ありがとう」
ランスとどうやって落ち合おうかと考えていたら、剣技大会の運営の人が迎えにきてくれて、選手控室に案内してくれた。
「ジャックとオリーブ亭の手伝いはもういいのか?」
「うん。あっという間に売り切れちゃった」
「そうか」
試合が終わったばかりだというのに、ランスは汗一つかいていない。予選から考えたら、かなりの試合数をこなしているはずだけど……。
「ダンスの時間までまだ時間があるが、いきたいところはあるか?」
「大市場に行ってみたいわ! あ。そういえば私、まだお昼ご飯も食べてない」
「俺もだ」
「まずはご飯ね」
「……あ!」
まずは腹ごしらえと入ったお店で、知り合いを見つけて思わず声が出てしまう。
「ああ、ニーナじゃないか」
「ニーナさん! ……ドレスディアさんも、こんにちは」
そこにいたのは、つい先日一緒にローデン領まで遠征したアイリーンだ。コナーさんも一緒だ。
いつも深くかぶっている魔法使いのフードが今日はない。
するとどこからどう見ても、ただの可愛らしい女の子だった。
まさか国一番の水の魔法使いだとは、誰も分からないだろう。
「そこ知り合いかい? 今日は混んでいるから、悪いけど相席で頼むよ」
「あ、はい」
確かにお店は満席だ。
二人ずつ座るより、一つのテーブルに四人で座ったほうが、その分お客さんを入れることができるだろう。周りをみたら、皆相席をして詰めているようなので、大人しくアイリーンたちの席に座らせてもらう。
「今日はフードは着ないでいいの? アイリーン」
周りに聞こえないように、小さい声でひっそりと聞く。
「ああ。あんなもの着てたら、逆に自分が誰だか言って回っているようなものだからな。今は仕事も休みだ」
「なるほど」
お仕事が休みだから、衛兵さんたちもいないのか。
あれ、だったらなんでコナーさんはいるんだろう。
「実は今日は春祭りだから休みの予定だったんだけどね。気になることがあって魔術師塔へ行ったらアイリーンもいて、結局二人して普通に研究をしていたんだ」
私が気になって見てしまったせいか、コナーさんがなぜここにいるのかを教えてくれた。
「気になることって?」
「ああ、これだよ」
「これは……」
アイリーンが手を広げて見せてくれたのは、私が大鹿様にもらったのと同じ小さな紫水晶だった。
あの時アイリーンもいつの間にか手に握っていたらしい。
「これは何の意味があるのか、気になっていてな。まさかただ綺麗な石だからくれたわけでもないだろうし」
「確かにそうだね」
私もペンダントに細工していつもつけているので、ポケットから取り出してみる。
実はお守りみたいなものかなくらいに思っていたことは、内緒にしておこう。
「でもこれがどう調べてもただの石なんです。砕くわけにもいかないし」
「別に砕いてもいいんじゃないか」
「それは最終手段にしましょう、アイリーン。……ってちょっと待って」
コナーさんはそこで言葉を切って、アイリーンが持っている石と、私の持っている石を忙しく交互に見比べ始めた。
「どうしました、コナーさん」
「この二つ、共鳴していないか?」
「共鳴……」
意識を石に集中させてみせると、確かに全く同じ波長で振動しているみたいだ。
「ちょっと二人とも、石に魔力を込めてみてくれませんか」
コナーさんに言われた通り、魔力検査の時の要領で、石に魔力を込めてみる。
すると石同士の共鳴が強くなり、繋がっている感覚になる。
「……繋がっているな」
「はい。えっ! ちょっとアイリーン!?」
石同士が繋がった思ったら、いきなりアイリーンが立ち上がって、スタスタと店の外へと歩いていってしまう。
「ちょっと失礼」
慌ててコナーさんも追いかけていった。
「あいつら、食事代は払っていったのか?」
「……多分、まだだけど」
「食い逃げか」
「そんなまさか」
さすがにいきなりの食い逃げではないと思いたい。けれどランスの言葉に一瞬だけもしかしたらと考えてしまう。
『誰が食い逃げなどするか』
「え! アイリーンの声!?」
姿は見えないのに、すぐ近くからアイリーンの声が聞こえた。
その声の発生源は、探さなくてもすぐに分かった。
『これは便利な道具だな』
なんとこの石同士は、離れていても繋がって、持っている人同士の声を届けることができるらしい。
便利な石なことは分かったけど、なにに使うかというとすぐには思いつかなかった。
なにせアイリーンと私は、出会ったばかり。離れている時に話す用事もない。
恋人同士で持っているならものすごく便利だろうけど。
――でもランスには魔力がないし、一緒に住んでいるから必要ないかも。
「そういえば、泉のところにある紫水晶の聖像は、大鹿様に繋がっていて、人々の願いが届いていたのだったな。どういう原理か分からないが、それと同じ原理なんだろう」
「水の力を持った石なので、空気中の水分を振動させて声を伝えているのかもしれませんね」
「…………」
……というのがアイリーンとコナーさんの推測だった。
アイリーンのコナーさんをジトリと見る目が、少し怖かった。
これからコナーさんの推測を検証するというので、今度研究のお手伝いをすることを約束して、ご飯を食べたらアイリーンたちとは別れたのだった。




