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追放聖女ニーナの下町暮らし【旧題:私は陥れられていたようです】  作者: kae
3章 聖なる泉

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4話 全部

「ふざけんなよお前!」

「えっ」

 泉の浄化が終わったと思ったら、いきなりガレンさんが声を荒げて怒り始めた。

 その怒りの矛先、目線の先にいるのは、私だ。

 怒りに任せたような荒いどうさで、大股で近づいてくる。

「なんですか」

「なんですかじゃねーよ! 呪文すら唱えず、サボりやがてって!」

「きゃあ!」

「止めろ!」

 手を伸ばされて、服の胸倉あたりを掴まれかけるけれど、アイリーンに付いてきていた衛兵さんたちが、寸前で止めてくれた。

「なんなんだよお前! ギャレット様が夢に見たんだかなんだか知らねーけどよ! 俺たちが今までどれほどの思いでこの地位を得たと思っている! それをいきなり外からきて……やる気がないなら帰れよ!!」

 体格の良い衛兵にとり抑えられながらも、ガレンさんは怒りが収まらないようだった。

「ガレンだったか。お前には見えなかったのか?」

「……なにがですか、水の筆頭魔術師様。俺はこの女を候補者とは認めません。アンワース家出身の聖女? だからなんだよ。名前だけじゃないか! ろくに試験を受ける気もない者は、排除すべきです!」

「それはお前が言うべきセリフではないのだがね」

「なっ」

 アイリーンが、相変わらずの平坦な声音でそう言うと、ガレンさんは真っ赤になって押し黙った。


「一応聞くが、あとの二人はどういう考えなんだ?」

 アイリーンが、ケンリックさんとルーシーさんに尋ねた。

 二人とも、冷たい視線を私に向けた。


「私はニーナがサボっているとは思いませんが、腑に落ちないのはガレンと同じです」

 そう言ったのは、ルーシーさんだった。

「外から突然やってきて、やる気がないようでしたら、辞退されるのがよろしいかと」

「……」

「そちらの……ケンリックは?」

「私は特に。ニーナ殿に対して、思うところはありません」

「そうか。とりあえず今回のところは浄化も終えたし、各自宿に戻って休むがいい。明日王都へ戻る。皆の意見も踏まえて、選定の結果に反映させておく」



 その日の夜、皆が寝たころを見計らって、私はもう一度泉までやってきていた。

 聖像の浄化が不十分だったことが気になっていたからだ。

 それに泉が濁った原因もまだ分かっていない。

 汚れる原因が分からないのに、ただ浄化だけしても、意味がないのではないかと思ったのだ。


 暗い森の中を、明かりの魔法を点けて進んでいく。

 最初は少し怖かったけれど、森もつ神聖な雰囲気に圧倒されて、次第に気にならなくなっていく。

 葉が擦れる音、虫や鳥の声。本来人が踏み入れない世界。

 濁っていても、ここは確かに、聖域だった。

 聖なる力が体中に取り込まれていくのを全身で感じた。


「あ」

「来たか、ニーナ」

 泉に着いたら、予想外な先客がいた。

 アイリーンたち一行だった。

 昼間は仕事中だからか真剣な顔で警備に徹していたコナーさんや衛兵さんたちが、私に気づくとニコニコ笑って「こんにちはー」と親し気に挨拶をしてくれた。

「アイリーン。なぜまたここに来たんですか?」

「ニーナと同じ理由だろう。まだ泉が濁っていた原因が分かっていないからな」

 そう答えるアイリーンの隣でコナーさんも、うんうんと頷いている。

 やっぱりアイリーンもそのことに気が付いていたのか。

「だったら昼間に全員で原因を考えればよかったのに。なぜ浄化だけして解散したんですか?」

「ああ。あれはただの選定試験だろう? だから候補者たちに分かりやすい浄化をさせた。これからは私の仕事だ」

「なるほど」

「協力的な雰囲気でもなかったしな」

 言われてみれば、同じ条件で候補者たちの浄化魔法をさせたほうが、選定試験としては判断しやすいのかもしれない。

「……気にするな。私も昔はああいったことはよくあった」

「アイリーン……ありがとう」

 あまりフードを取りたがらず童顔を隠している。とっても優しいのに、物言いがちょっとキツイアイリーン。

 筆頭魔術師の彼女も、色々苦労としたらしい。

 ガレンさんたちに誤解されて、落ちこんでいた気持ちが少し軽くなった。


 アイリーンが月を映している暗い夜の泉に、真っ白で繊細な手をポチャリを浸していた。

「また少し、濁り始めている」

「えっ、もう?」

 昼間に完全に浄化したのに、もう濁り始めているなんて。

 これほど光のエネルギーに満ちた森で、普通なら考えられないことだった。

 慌てて私も、泉に手を浸してみる。

「……本当だ」

 まだわずかだけど、確かに濁りがある。


 この濁りは、どこからくるんだろう?

 目を閉じて、泉の中に感覚を広げていく。意識を集中してみると、泉にも濁りの濃い部分があることに気が付いた。

 その濁りの濃いほうへと追っていく。

 やがてある方向から、濁りが流れてきているのが分かってきた。

 あの方向は……

「さっきの聖像があるところらへんからですかね」

「えっ」

 コナーさんの声に驚いて、思わず目を開けた。

 いつのまにかコナーさんもアイリーンの隣に片膝をつき、泉に手を浸していた。


 ――コナーさんって、そんなことが分かるの?


 水の魔力があるアイリーンや、光の魔力があって濁りが分かる私ならともかく、なんの魔力も持たない人には、この暗い泉のわずかな濁りが分かるはずがない。

「おい……お前、魔力があるのか?」

 どうやらアイリーンも驚いているみたいで、可愛らしい顔の眉間にしわを寄せながら聞いている。

「いえ、ないですよ」

 あっさりとコナーさんが答えた。ないない、と手を軽く振っている。

「魔力検査をした時、全部基準に満たないくらい、ほんのちょっとずつしかありませんでしたから」

 ほんのちょっとずつ。ということは――。

「あるんじゃないか」

 呆れたように、少し嫌そうな顔で「この天才めが」とアイリーンが呟いた。

「それで? ちょっとずつあったというのは、どの属性の魔法だったんだ」

「ですから、全部です」

「だから、全部、とは?」

「風、水、火、土の四元素魔法の全部です」

 コナーさんの言葉に、アイリーンだけでなく、衛兵さんたちも口を半開きにして固まってしまった。

 



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