5話 別の世界
「私はなぁ。小さいころから水の流れが分かったんだ。雨が降りそうだなとか、どの辺りに水脈がありそうだとか。空気中の水分が多いなとか」
「へえ、それはすごいですね。あ、そういえば以前井戸を掘りあてていましもんね」
唐突に語りだしたアイリーンに、コナーさんが呑気そうに答える。まるで他人事みたいだ。
「……お前は四元素の全てを感じることができるのか。そうかどおりで……。よくお前が勘だの気がするだのと言っていたのはそういうことか」
なるほど。思い返してみれば、私にも心当たりが数多くあった。
コナーさんはよく「火の魔石を土に混ぜたら、薬草が育ちやすいんじゃないか?」などと言っていたっけ。
不思議とコナーさんのそんな勘は、試してみたら大体当たっていたのだ。
四元素全てを感じることができるのならば、彼に見えている世界は、普通の人が見ている世界とは全然別の物だということになる。
「俺は全然、アイリーンが言ったようなことまでは分かりませんよ」
普通です、普通、などと言うコナーさん。
「だからお前は普通じゃないんだって。なんでさっき、穢れの出てくるほうが分かったんだよ」
この旅では警備に徹していて、ほとんど話さなかった衛兵さんが、呆れたように言った。
昼間に私をガレンさんから助けてくれた、体格の良い衛兵さんだ。
「それはなんとなく…………え、もしかしてこれがそういうことなのか?」
「そうだよ。普通はそんなの分からないって。やっぱなー、ただ者じゃないとは思ってたよ」
今度は赤毛の衛兵さんが言った。
どうやら今は気軽に話していい時間みたいだ。
以前から思っていたけれど、アイリーンとコナーさんと、衛兵さんたちはとても仲が良い。
「えーっと、じゃあ俺、これからどうしましょう」
「……基準値以下の魔力だったんだろう? まあ今までどおり、その感覚を利用して、研究に役立てるのがいいとは思うが。帰ったら一応魔力検査をし直して、少しくらいは使える魔法がないか、試してみてもいいんじゃないか。水魔法ならみてやれる」
「いいですね、それ。なにか魔法が使えたら便利になるかもしれない。お願いします」
四元素のうちのどれかの魔法を使える人で、光の魔法を使える人は今までに聞いたことがない。
神話でも光の魔法を使えるのは創光神イルミナの子孫で、四元素の魔法はイルミナから人類に贈られたものだと言い伝えがある通り、魔力と言ってもどうやら別の物らしい。
実際に先ほどコナーさんが検査で反応があったと言ったのも、風・水・火・土の四元素だけということだったので、私は何も教えることができそうになかった。
――あれ、というか……。
「四つの魔法を使える人っていうのも、聞いたことありません……よ、ね」
「……」
四つの魔法を使える人の話なんて、それこそ見たことも聞いたこともない。神話にも歴史書にも載っていなかった。
まあコナーさんみたいに、基準に達しないくらい魔力が弱くて、気が付かなかった人がいたのかもしれないけれど。
それを何気なく思いついて呟いたら、この場にいる全員が沈黙してしまった。
アイリーンはなぜだか困った顔をして、片手で頭を抱えている。
「基準以下の弱い魔力なら大丈夫とは思うが……お前たち。このことはとりあえず、誰にも言うな」
長い沈黙の後、アイリーンが声を絞り出すようにして言った。
「特に王族には言うなよ。あいつらはやっかいだから」
「やっかいって……」
自分の国の王族に対しての軽口に、冗談だと思ったけれど、アイリーンの目は本気だった。表情も必死と言っていいくらい真剣なものだった。
まるでなにかを警戒しているように。
「特に国王だ。目を付けられたくなかったら、絶対に言うな。エドとフリンもだ。さっきの会話は聞かなかったことにしておけ。忘れろ」
「はい。まあ衛兵は基本的に、護衛対象の会話は聞いてはいけないことになっていますからね。なにも聞かなかったということで」
「上司に問われたら、答える義務はありますが。こちらから報告しなければ聞かれることもないでしょう」
衛兵さんたちにも、しっかりと念を押している。
王族がやっかいって、どういう意味なんだろう。
第四王子であるグウェンさんはあんなにいい人なのに。
あ、でもグウェンさんも確か、うちの家族は変わっているって話していた。
「はあー……、気が付かなければよかった」
「ええ……やめてくださいよ、アイリーン。なんだか怖いじゃないですか」
大きくため息をつくアイリーンを見て、コナーさんが不安そうに呟いた。




