6話 魔力検査
3日後、約束した時間に大神殿に訪れた。
神殿で私が泊まる部屋は、女子寮の一室なのだそうだ。
白い聖衣を着た見習いの聖女が、部屋や食堂などの必要な施設を一通り案内してくれた。
本来神殿に入ったばかりの見習い聖者は6人部屋に入るのだそうだけど、私は選定のための候補者として一時的に泊まるだけなので、特別に同じ候補者であるルーシーと同格の一人部屋を用意してくれていた。
神殿に入ったその日、早速魔力検査が行われると伝えられた。
検査の方法は、一般的な魔力検査と同じ。
魔力を込めると色が変わる、彩聖石――さいせいせきを使用する。
これは魔崗石の一種だけれど、色が変わるとても希少な物で、各地の神殿にある以外は王家や大貴族がほんの少し所有しているくらいしかない。
……実はランスの実家であるドレスディア伯爵家にもあったのだけど。
大神殿の彩聖石は、一般の人の立ち入れない2階の奥まった部屋にあった。ドレスディア伯爵家にある物やドレスディア領にある神殿の物よりも比べ物にならないくらい上質で大きく、見事なものだ。
私の顔の大きさくらいある。
通常の国民全員が受ける魔力測定では、まずは精度の低い石が使用される。
それに反応があれば、もう少し反応の良い石で改めて力の強さを測定するのだ。
でもある程度以上力が強い聖者になると、もう石では実力を測れなくなるものだ。
分かりやすく説明すると、私の聖なる力が10だとすると、一般の人の能力検査用の彩聖石ではそのうちの1くらいしか測れない。それ以上は2の力の人も、9の力の人でも、石の反応は同じなのだ。
だから神殿にある、もうちょっと精度の高い彩聖石で測りなおす。
それもせいぜい3くらいまでしか測れないけれど、それに反応があった者が正式に聖者と認められるというわけだ。
大神殿の彩聖石は素晴らしいものだけど、多分これでも5くらいまでしか測れない。候補者になるほどの人たちの力は測れないはずだ。
一応この石で測れるだけの最低限の魔力があるかどうかを確認するということだろうか。
部屋には祭祀長のギャレット様に、候補者のケンリックさん、ルーシーさん、ガレンさんが既に揃っているけれど、まだ検査は始まらない。
ガチャリ
神殿の警備兵が、部屋のドアを開ける。
「お待ちしておりました、神殿長様」
入ってきた人物に、祭祀長であるギャレット様が深々と頭を下げる。
神殿長……この人が。
グウェンさんのお兄様のオーウェン王子だ。
今まで検査を始めなかったのは、神殿長を待っていたからなのか。
オーウェン王子は燃えているような赤髪のグウェンさんと違って茶色い髪をしていた。
背格好や顔の造りはグウェンさんとどことなく似ているのに、緊張しているみたいで顔の筋肉がこわばっているのか、なんだか怖い印象だ。目はギョロリとしていて、忙しなく部屋の中に視線を動かしていた。
「俺は時間通りに来たが、遅れたと言いたいのか?」
「い、いえ。決してそんな意味ではございません。時間通りでございます」
見た目は少し似ているけれど、話し方は、グウェンさんとは似ても似つかないキツイものだった。
『俺は10歳で師匠に出会ったことで色々と大事なこと教わったけど、あいつには誰もいない』
グウェンさんの言葉が、ふと脳裏をよぎった。
「そ、それでは神殿長様にもいらしていただいたので、魔力検査を行いましょう。ある一定以上の魔力がある者は彩聖石では測りきれないと一般的には言われていますが、大神殿のこの石は神話の時代からあるという特別製です。そのため候補者たちの魔力を正確に測定することが可能です」
その説明に、少し疑問を抱く。
確かに今まで見た中で最高品質の石だろうけれど、とても候補者の実力を測れるものではないように感じる。
「最初は誰から測りますか」
ギャレット様が、焦りを誤魔化すかのように、汗を拭きながら言った。
「祭祀長、是非一番初めに、ニーナ・アンワースの実力を見させていただきたいです」
そう希望したのは、候補者の一人、青灰色の髪のガレンさんだ。
「おお、いいですね。ニーナ殿、それでよろしいですか」
「はい結構です」
ギャレット様に促されて、石に近づき手をかざす。
少しずつ魔力を流しこんでいく。
――やっぱり今まで見た石の中では一番魔力が入りそう。
最初透明だった石が、金色に光る。
彩聖石が金色に光るのは、光の魔力――聖なる力があるという証明だ。
もしも風の魔力があれば緑、火の魔力があれば赤、水の魔力だと青、土の魔力だと黄色に光る。
光の魔力以外の魔力を持つもの自体が相当少ないのであまり例はないけれど、もしも2種類や3種類の魔力が使えたら、虹のように様々な色の光が一度に見られるらしい。
一度にあまり強い魔力を込めたら石が壊れないか心配だったけれど、これならまだ大丈夫そうだと判断して、どんどん力を込めていく。
それにつれて、金色も鮮やかに、どんどん明るくなっていく。
――あれ?
力を込めていくと、ある時点から光が徐々に白く変化していった。
今まで彩聖石にこれほど力を込めたことがなかったので、知らなかった。
彩聖石には沢山聖なる力を込めると、白く光るものなのか。初めて知った。
金色が徐々に薄れて、白く淡い光になっていく。
――これ以上込めたらどうなるのかな?
興味津々で観察しながら力を注ぎ続けていくと、今度は白い光もなくなり、徐々にまた元の透明に近づいていく。
だけどただの透明じゃない。魔力が石の中でうねっていて、角度によって、見たこともないような煌めきを放つ。
力がある人には分かるだろう。純粋な光の魔力の煌めきは、ため息がでるほどに美しい。
「そこまで!」
「……はい」
神殿長のオーウェン王子の声に、力を込めるのを止めて石から離れた。
「ふんっ、なんだこいつは。全然光らない。見習い聖者よりも弱いんじゃないか?」
「え?」
オーウェン王子の言葉に驚いた。




