7話 理解されない実力
――オーウェン王子は、魔力がないから見えないんだわ。
きっと最初の黄金の光も見えていなかったのだろう。
自分の魔力を超える光は、感じ取れないものなのだ。
オーウェン王子は全く魔力がないはずなので、最初から見えるはずがないのだ。
そのことを知らないのだろうか?
きっと祭祀長のギャレット様には見えていたはずだけど。
「次はガレンがやってみろ。見本を見せてやれ」
「はい、かしこまりました神殿長様」
オーウェン王子に指名されて、次はガレンさんが進み出る。
ガレンさんは私のほうを一瞬見て、ニヤリと自信ありげに笑うと、石に手をかざして力を込め始めた。
オーウェンさんが力を込めるにつれて、少しずつ黄金に光っていく。
「えっ」
「静かにしろ! 妨害するつもりか」
「い、いえ。申し訳ございません」
驚きに、思わず声が漏れてしまった。
ガレンさんが、彩聖石を『光らせている』。ピカピカと、魔力がない誰の目にも見えるように。
これはただの『光らせるだけの魔法』だ。彩聖石の輝きじゃない。
――なるほど。魔力のないオーウェン王子にも分かりやすいように光らせているのね。
でもいくら視覚的に光らせても、本当の実力とは関係ない。
オーウェン王子には分かりやすくても、ギャレット様の目は誤魔化せないだろう。
それにピカピカ光らせるほうに集中しているせいだろうか。本来の彩聖石の輝きとしては、今一つだ。
この彩聖石は金色から白色、そして最後は透き通った輝きになるはずなのに、いつまでも黄金色が抜けない。
祈りの儀式の候補になるほどの聖者の輝きではない。
「いつ見ても素晴らしい! さすがだガレン」
「ありがとうございます、神殿長様」
ガレンさんの番が終わると、オーウェン王子は満足げに頷いた。
「本当に。いつ見ても素晴らしいよ、ガレン」
「っ!?」
驚きにまた声が出そうになるのをこらえる。
なんとギャレット様までが、ガレンさんを誇らしげに称えている。
お世辞……にはとても見えない。
ギャレット様も、本気でガレンさんを褒めている?
自分の魔力より高い魔力は、見ることができない。
――もしかしたらギャレット祭祀長は、この彩聖石の色の変化が分かるほどには、魔力がないのかもしれない。
次に彩聖石に魔力を込めたのは、ルーシーという女性の候補者だった。
ルーシーさんが力を込めると、すぐに金色に光り始める。
と同時に、ルーシーさんも明かりの魔法を使って、ピカピカと石を光らせ始めた。
もしかしたら神殿では、自分よりも低い魔力の人にアピールするために、このように魔力測定の際は同時に光らせることが慣習化しているのかもしれない。
だけどルーシーさんは明かりの魔法だけじゃない。
ちゃんと本来の彩聖石の黄金の輝きも増していって、ついに白色に輝きだした。
――あれ、止めちゃうの!?
白色になってからもまだ余裕がありそうに見えるのに、ルーシーさんは彩聖石に力を込めるのを止めてしまった。
徐々に金色に戻ってしまう。
「そこまで! ガレンよりは劣るが、中々の輝きだったな」
オーウェン王子の言葉に、疑問を抱く。
明かりの魔法のほうの明るさは、大して違いはなかったと思うのだけど。
それに彩聖石の本来の輝きは、ルーシーさんのほうが上だった。
「その通りですね。以前はルーシーのほうが実力が上でしたが、ガレンは最近の伸びが素晴らしい」
ギャレット様の言葉で理解する。
ルーシーさんが力を注ぐのを止めたあたり。
ガレンさんの実力の辺りが、きっとギャレット様が判定できる限界なんだ。
それ以上いくら力を込めても、逆にギャレット様からは見えなくなる。
ルーシーさんは最初からこうなることが分かっていたのか、驚くこともなく、反論することもなく、「ありがとうございます」と言って、下がってしまった。
「では次。ケンリック」
「はい」
最後にケンリックさんも進み出て、彩聖石に力を込め始めた。
もちろん同時に、ピカピカと光る明かりの魔法も使っている。
そのことに、私はもう驚かなかった。
どんどん力を注いで、あっという間に黄金の光が一番輝くところまでくる。
――きっとこの辺りまでが、ギャレット様が見える限界。
ケンリックさんもきっと、ギャレット様が見える限界あたりで力を調整するはず。
そう思った私の予想は外れた。
ケンリックさんはそこで止めず、力を込め続けた。
彩聖石が白色に光り始めても、ケンリックさんは止めない。
やがて白色も抜けて、透き通ったキラキラとした、オーロラのような輝きになっていく。
純粋な魔力の、美しい輝き――。
ふとケンリックさんの表情を見ると、私のほうを見ていたようで、目が合ってしまった。
ケンリックさんは、私がこの輝きを見えていることが分かっているみたいだった。
多分私たち二人以外には、この部屋にいる他の誰にも見えていない。
オーウェン王子は当然のこと、ギャレット様にも、ガレンさんにも。そして多分ルーシーさんにも。
ケンリックさんは今まで、この実力を誰にも理解されずにいたんだ。
「そこまで! この中ではイマイチだったな」
「そうですね、オーウェン王子。ケンリックも平民出にしては優秀なのですが、やはりガレンやルーシーには一歩及ばない」
ケンリックさんが、無言で頭を下げて、彩聖石から離れる。
やっぱり何も反論しない。
こんなのはおかしい。
ギャレット様は、自分の実力以上の魔力が見えないことは、知っているはずなのに――。
「ま、待ってくださ……」
「止めておけ」
なんとか説明しようとする私の肩に手を置いて、ケンリックさんが止めた。
そして耳元に口を近づけて、他に聞こえない低い声で呟いた。
「余計なことすんな。迷惑だ」
今までずっと、敬語で礼儀正しかったケンリックさんとは思えない言葉遣いだった。
「聖女ニーナは、実力不足だな。この調子だと、神殿の通常業務すら務まるかどうかも怪しいんじゃないか? ギャレット」
「そうですねオーウェン王子。神殿のやり方に慣れないだけで、ある一定の力はあるようですが……そうですね、慣れるまではガレンの補佐をして仕事を覚えていただきましょうか。ニーナさん、それでよろしいでしょうか」
ケンリックさんが、ギャレット様とオーウェン王子には見えない角度で、鋭い目線で制してくる。
「分かり……ました」
一瞬迷ったけれど、私は大人しくギャレット様の提案を受け入れたのだった。




