4話 第三王子
「そんな事情で、しばらくお手伝いはできなくなりました。すみません」
「いいのよ、気にしないで大丈夫。ニーナちゃんが来る前は、私とおばあの二人だけで宿をやっていたんだから。今はアレフもいるし、ね」
「おう。心配しないでください、ニーナさん」
宿に戻ったら、ベルさんとアレンさん、そしておばあも心配して、食堂に揃って待ってくれていた。
「ニーナちゃん。大変なお役目だけど、頑張っておいで。辛かったらいつでも帰ってくるんだよ」
「おばあ。ベルさんとアレフさんも。ありがとうございます」
本当に、ここは私の第二の家みたいだ。
大神殿へ選定に行く前に、誰かに荷物のことなどを相談したかった。
本来ならドレスディア領にいる、聖者であるお父様とお母様に相談したいところだけど、3日しかないので手紙のやり取りは難しい。
そこでランスとも相談して、魔導具店『カエルの王子』へ相談しにいくことにした。
「こんにちは、グウェンさん」
お店に入ると、奥に引っ込んでいることもあるグウェンさんが、今日はたまたま店のほうにいた。
「いらっしゃい、ニーナちゃんにランスロート。今日はなにをお探しで?」
「それが、なにを用意すればいいのか、相談に乗っていただきたくて」
「ん? なになに。なんでも相談になりますよー」
グウェンさんに大神殿の選定に行くことを相談したら、思った以上に慌てていた。
「え、大神殿!? 選定者は筆頭魔術師と祭祀長と神殿長って、俺まだ聞いてない。……っていうか神殿長!? 本当かよ」
「はい、祭祀長のギャレット様が、そうおっしゃっていました。神殿長様がなにか?」
「いや、神殿長って、魔力がなくてもなれるんだよ。名誉職というか、王族が名前だけ代表になっているんだ。……今の神殿長は俺のすぐ上の兄だ。魔力なんてないのに、どうやって選定に参加するんだあいつ」
「グウェンさんのお兄様なんですね。どんな方なんですか」
「……知らない」
「え?」
「ほとんど話したこともない。うちの王室、ちょっと変でさ。第一王子には最高の教育を受けさせて可愛がる。第二王子は第一王子になにかあった時のために一応大事にされているんだけどさ。第三、第四王子は基本的に興味がないというか、放置なんだよね。子どもの頃は両親と話したこともなかったし、教師や使用人もいるにはいるけど、人選は適当だし。その辺の教育熱心な貴族の子供のほうがよほどいい扱いで。……俺は10歳で師匠に出会ったおかげで色々と大事なこと教わったけど、あいつには誰もいない」
「そんな……」
グウェンさんが話した内容は、とても悲しいものだった。
あっさりと話すところが、逆に大変だったことを感じさせる。
たまにグウェンさんが、とても悲しそうな瞳をすることがある理由が分かった気がした。
「ランスロートは、あいつと話したことある?」
「あいつとは第三王子か? ないな。俺は王都に来たのは今回の滞在以外に2、3回しかないから。それも親に連れられて挨拶まわりをしたくらいだ」
「そうだよなー。ランスは俺ともほとんど話したことなかったし。初めてこの店に来たときは、しばらく気が付かなかったくらいだ」
ドレスディア家は王家と縁が深い。現当主の妻である、ランスロートのお母様が、今の国王の娘にあたる。
けれどドレスディア家の人たちは、基本的には社交シーズンでもずっと領地で暮らしていた。国境の警備のためだ。
そのため今のランスロートのように、長期間王都に滞在するのはとても珍しいのだ。
「正直さ、俺あいつのこと苦手なんだよね。同じ立ち場のはずなのに、俺にだけ魔力があって、師匠がいることが申し訳なくて、合わす顔がない」
「グウェンさん……」
「お前のせいじゃないだろう」
自嘲気味に笑ったグウェンさんに掛ける言葉が見つからない私の代わりに、ランスが言った。
「第三王子には誰もいないとは限らないぞ。お前がブレイズ様と出会ったみたいに、第三王子にもなにか良い出会いがあったかもしれない。話してみたら意外と楽しくやっていて、拍子抜けするかもしれないぞ。……だから気にするな」
「そっか……うん、そうかもしれない。そうだよな! あいつももういい大人だもんな。そりゃそうだ。ハハッ、なんかずっと10歳の時のままのイメージだった」
ランスの言葉に励まされたのか、グウェンさんは少し安心したように微笑んだ。
「さて、じゃあニーナちゃんが神殿に持っていくものを考えましょうか。師匠も呼んでくるよ、ちょっと待ってて。おーい師匠―」
そう言って店の奥へと入っていくグウェンさん。
「ランスはすごいね。あんな風に考えられるなんて」
「いや。まあそうだったらいいなと、思っただけだ」
「そうだね」
グウェンさんがブレイズ様に出会えたみたいに。私が下町の皆と出会えて成長したみたいに。
第三王子もきっと、幸せに暮らしていてくれたらいいなと思った。




