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追放聖女ニーナの下町暮らし【旧題:私は陥れられていたようです】  作者: kae
第2部 1章 薬草畑を荒らすモノ

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3話 月明かりの下で

「これはこれは。立派な薬草畑……だったんでしょうね。王都でこれだけ育てるのは大変だったでしょう。食べられてしまったのは惜しいな」

 食い荒らされた畑を眺めて、ブレイズ様が残念そうに呟いた。

「またいくらでも作れますから。それよりもこんな町中にどんな獣がいるのかと思うと、心配です」

「いやいやいや、ニーナちゃん。この畑を作るのにいくらお金が掛かっていると思っているんだい? 特別製の火の魔石に、魔力だってふんだんに注ぎ込んでいるんだろう。ドレスディア領の水は実質無料とか言っているけれど、あれだって王都で売ればひと財産なんだよ」

「お金……は、グウェンさんにポーションを買い取っていただいているので、プラスになっていますし。魔力もこのくらいの大きさの畑なら、シレジア子爵家で働いていた頃に比べれば大したことは……」

「相変わらず感覚くるっているねー」

 グウェンさんに呆れたように言われて、シレジア子爵家で休息も取らずに働いていた時のようにまたやりすぎてしまったのかと心配になる。

「グウェン、来ていたのか。……そちらの方は?」

「おうランス、お邪魔してるよ。こちらは元火の筆頭魔術師のブレイズ様! 俺の師匠のじーさんだ」

ランスも薬草園のことを気に掛けてくれているのか、食堂の裏のドアを開けて中庭に出てきてくれた。

「ブレイズ様。ランスロート・ドレスディアと申します。よろしくお願いいたします」

「初めましてランスロート君。ブレイズ・ファルナスです」

 ランスとの挨拶も終わったら、さっそくブレイズ様は、畑の周りや中庭全体をゆっくりと歩き回って、観察し始めた。

一通り見終わったら立ち止まって、なにか考え込んでからまた畑を見て回る。

最後には難しい顔をして黙り込んでしまった。

「ブレイズ様……なにかお分かりになりますか?」

「うん。薬草を荒らされたのは、一度だけですか?」

「いいえ、何度か食べられています」

「だとしたらこれだけの薬草を食べても、元気に動き回っているということだ。きっと悪いモノではないのでしょう。宿の建物や塀も傷つけた様子はない。人間を害するつもりはないと思います」

「そうですね」

 宿の塀と言っても、宿泊客のプライバシーを守るために敷地を薄い板で囲んでいるだけのものだ。大人が押すだけで倒れるだろう。

 その押せばすぐ倒せそうな塀すらも、どこも傷ついていない。

 下町の人たちに聞いても、大型の獣なんて見たこともないというし、一体どこからどうやってきているのか、謎なのだ。

「被害は薬草畑だけで、人を傷つけないのなら、薬草畑だけ諦めればいいのかな」

「えっ、そうしたら、これからニーナちゃんの薬草を仕入れられないってこと⁉ それは困る! うちの店が困る! ね、ね、師匠!」

 悪いモノではなくて、他に被害がないのなら、薬草はドレスディア領から買って運ぶこともできるし諦めようかと思ったら、グウェンさんが必死になって止めようとしてきた。

「そうですねぇ。まあ退職後の趣味でやっているようなお店ですが、ニーナさんの薬草やポーションを頼りにしてくれているお客さんもいます。何者がやってきているのか単純に気になりますし……一度正体を突き止めてみましょうか」



 そんな訳で、一体何者が薬草を食べにきているのか、順番で見張りを立てることになった。

 薬草畑が食い荒らされていることに気が付くのは、大抵が朝起きた時だから、きっと夜中のうちにきているのだろうということで、グウェンさんとブレイズ様、そしてランスが交代で、夜中に寝ずに見張ってくれることに決まった。


 最初の夜の見張りは、一番張り切っているグウェンさんが名乗り出てくれた。

「申し訳ありません、グウェンさん。薬草畑のために、夜中に寝ずに見張っていただくなんて……」

「ニーナちゃんの薬草は魔導具店『カエルの王子』の看板商品だからね。うちの店のためでもあるから気にしないで。ランスロートが頑張るのはニーナちゃんのためか。お熱いね~」

 寝る前にせめてと、温かいお茶を届けにいくと、グウェンさんにからかわれてしまった。

 最初の夜は、何も起きなかった。

 今までも毎日食べられていたわけじゃなくて、2~3日に一度だったので、食べに来ない日だったのだろう。


 2日目の夜の見張りはランスだ。

「ランス、お茶をどうぞ」

「ああ、ありがとうニーナ。……少しだけ一緒に飲んでいかないか」

「うん」

 実は私も最初からそのつもりで、カップを二つ持ってきていた。

 中庭にあるテーブルで二人分のお茶を淹れると、私も椅子に座る。

 そうしたらランスが、見張り用に用意したブランケットを肩に掛けてくれた。

「これ、ランス用のじゃ……」

「俺は訓練で慣れているから、少しの間くらい大丈夫だ。春になっても日が沈んだら冷えるから、羽織っておけ」

「……ありがとう」

 ランスとお茶をするのは珍しくないけど、月明かりの下でお茶をするなんて、なんだかいつもと違う特別な雰囲気がする。

「あのさ。エリックが生まれた時にさ、ベルさんとおばあが、私のこと家族みたいに思っているって言ってくれたんだ」

「そうか、良かったな」

「うん、嬉しかった」

 そのせいか昼間はあまり話さないようなことを、ついつい話したくなってしまった。

 唐突に始まった私の話を、ランスは穏やかに微笑みながら聞いてくれた。

「もちろんお父様やお母様のことも、ドレスディア伯爵家の方々も、ドレスディア領の皆のこともとっても大事」

「そうだな」

「私、大切な人たちのこと、全員を守れるくらいに強くなりたいな」

 そんなこと大げさだって、笑われるかと思ったけれど、ランスは私の想いを真面目な顔で聞いてくれた。

「だったら俺は、そんなニーナを守るよ」

 2日目の夜も、なにもやってこなかった


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