18話 気になって仕方ない
おかしい。
腹だか胸だか喉だかよくわからないところがもやもやしてる。
昨日、朝日川が『恋人にプレゼントしたい』って言った時からだ。
別に普通だろ。
クリスマスが近づいてきたら恋人が欲しくなるのも、恋人ができたら何かプレゼントしようって思うのも。
普通のことだろ。
それがなんでこんなに引っかかるんだろう。
昼休みになったのにいまいち食欲がわかなくて、おにぎりを机に置いたままにしてしまってる。
ぼーっとしながら、窓際で女子と話してる朝日川を見る。
逆光になってるせいで、朝日川が物理的に眩しい。後光がさしてるみたいだ。
(あの子かな......恋人候補......)
登校してからずっと、気づいたらそればっか考えている。
久々に寝不足なせいかもしれない。
俺は込み上げてくる欠伸を噛み殺した。
「アホらし」
ずっと朝日川が見えてるからだめなんだ。
あいつが常に誰かといるから、好きな人は誰なのか気になってしまうんだ。
こういう時は目に入れないに限る。
別の場所に移動しよう。
そう決めて、おにぎりだけ持って俺は廊下に出た。
すでに食べ終わった生徒や、これから食事のために移動する生徒で廊下は溢れていた。
別の学年の人と食べるヤツもいるんだろう。階段も、上行ったり下行ったりと生徒が行き交っている。
だから、俺は思わず足を止めた。
(......一人でぼーっとできる場所とかなさそうだな。食堂で弁当食ったあと、適当に歩き回るか図書館にでもいくか)
それなら行き先は一階だ。
改めて階段へと足を進めようとした俺の目に、ふと窓の外の景色が入ってくる。
そこには、体育館の屋根が見えていた。
「......ベタだけど、意外とありだな」
俺は体育館裏にやってきた。
壁に背中を預けて、コンクリートの床にベタンと座る。
風が吹くたびにサワサワと目の前の木の葉が揺れた。
子供の手のひらのような赤い葉っぱがひらりと舞う。
ここにある木が紅葉だったなんて、俺は今初めて知った。
体育館と木のせいで、良い天気なのに木漏れ日くらいしか注いでこない。
やっと秋らしくなってきた気温が正直ちょっと寒くて、俺はブレザーしか着てない腕をさすった。
「明日はコートも持ってくるか......? でもわざわざ着てくるのも微妙な寒さだな」
俺しかいないから遠慮なく独り言を呟き、おにぎりに巻いたアルミホイルを剥く。
なんとも歯が痒くなるような音を聞きながら、ため息をひとつついた。
「なんでこんなに気になるんだよ......」
昨日も朝日川はゆりかごコールをしてくれた。
あいつは普段通りで、寝る前って感じの力の抜け切った声だった。
でも、俺は上手く話せてたかわからない。
いや、話せてなかったんだろう。
『朔弥、大丈夫か? すごく眠そうだし、もう寝ようか』
って言われて、いつもより早く電話を切った気がする。
切った後もなかなか眠れなかったせいで、久しぶりに寝坊ギリギリで目が覚めた。
学校についてからはずっと寝たふりをしていて、朝日川から声をかけられることもなくて。
俺は勝手に朝日川を気にして盗み見ている、そんな午前中だった。
「気持ち悪過ぎだろ俺」
気になるなら聞いてしまえば早いのか?
あいつ......一応、友だちだよな。
友だちの好きな人を聞くの、変なことじゃないよな。
『昨日は流しちまったけど、結局お前の好きな人って誰だよ』
そう聞いてしまえば、朝日川はケロッと答えてくれるんだろうか。
そうしたら、俺はすっきりするのか?
答えのない自問を悶々と繰り返す。
頭の奥の方に答えがありそうなのに、届かない。
手に持ったおにぎりを食う気にもなれず、俺は頭を壁に預けた。紅い葉っぱの隙間から、チラチラと漏れる光を見る。
木漏れ日より、朝日川の方が圧倒的に眩しいな――
ピロンピロンピロン
人が物思いに耽ってるってのに、無粋な電子音が邪魔をした。
しかも連続で鳴ってて止まらねえ。通話だ。
学校にいる時間に通話とか何事だ、と思ってズボンのポケットからスマホを取り出すと「アサ」の二文字。
俺の通話履歴を占領してる名前だ。
名前を見てホッとして、そのあとすぐに焦りがきた。
なんで頭を悩ませている張本人から連絡が来るんだ。お前を視界から追い払うために、俺はわざわざ肌寒いところにいるってのに。
(……無視……できるけど……)
無視したら朝日川はどんな顔をするだろうって想像してるうちに、俺は通話ボタンを押してしまっていた。
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