15話 嫌がらせ
朝日川は前村のスマホ画面を指でつついた。
「ところで、なんで肥後の手だけはしっかり写してんの」
「だって、男友達ときたってわかりやすいでしょ? 前に二人分の食べ物だけ写したら『恋人?』って聞かれてさ」
イケメンって大変だな。
「あー......」
朝日川は一瞬納得したみたいな声を出したけど、不意に声を低くした。
「......男だったら、恋人じゃないとは限らなくないか?」
「そんなとこまで気にしてらんないから、それはいいのー」
仲良さそうな会話を聞きながら、俺はスマホをしまう。ようやくクレープにありつける。
まずは唐揚げから、と齧り付く。冷めてきてもカリッとした表面に歯を立てれば、中から熱い肉汁が溢れてきた。
「わ、わ」
大事なジューシー部分をこぼさないように、慌てて二口目を口に入れる。肥後みたいに一口でいくのが正解だったのかもしれない。
(うまー)
夕方の腹に沁み渡る味だ。
もう一口食べる前に汚れた口を指で拭う。すると、隣から紙ナプキンが差し出された。
揚げたてを食べるのが下手な俺に気づいて、朝日川がわざわざ持ってきてくれたらしい。
ありがとう、セルフサービスの紙ナプキン。
お陰で安心して食べられる。
「朔弥、美味しそうに食べるな」
「ん、うまいから。唐揚げクレープなんて初めて食った」
「放課後に買い食い、あんまりしない?」
「帰るのが最優先だからな」
「ブレないなぁ」
前村や肥後は気の置けない仲、というやつなのかズケズケと朝日川は喋る。それなのに俺と話してる時は、ちょっと柔らかく喋ってる気がする。
(前に『朔弥相手だと力抜ける』って言ってたけど......やっぱちょっと違うよな。力抜いてる方が扱いは雑だろ。リップサービスだったか)
他人行儀ってほどじゃないけど、朝日川との距離を感じた。
いつも通り「他人のことなんてどうでもいい」って思おうとするのに思えなくて。
もやもやして。
俺はバクバクとクレープを食べるのに集中した。
食べ終わったらさっさと帰ろう。俺は邪魔だ。
スマホを覗きながら何か話してる前村と肥後に、朝日川も混ざりたいはずだから。
ほんのり甘いクレープ生地と唐揚げの塩味がどんどん喉を通っていく。
それはもう夢中になって食べているように見えたのだろう。
笑い始めた朝日川の震える肩が、俺の肩に触れる。
「なんだよ」
「よかったなって」
「何が?」
「もしかしたら、朔弥は嫌々ついてきたかもって思ってた」
ペリペリとクレープの包み紙を剥き、朝日川は目線だけこちらに寄越した。
そんなこと気にしてたのか。
「......嫌なら来ねぇよ」
「初めは断ってただろ」
「早く帰ってゲームしたかったからな」
「知ってる。それなのに、なんで来たんだよ」
朝日川の質問に、俺は目線を泳がせた。
駅前のロータリーに一時停止する車を、特に意味なく見つめてしまう。
なんて言ったらいいんだろうと一瞬だけ考えて、結局正直に答えることにした。
「朝日川が来てほしくなさそうだったから、嫌がらせ」
「えっ?」
ほぼ耳元と言えるところでひっくり返った声がする。朝日川が相当驚いたことがわかる声だった。
「お、俺、朔弥が来てくれて嬉しいけど......どういうことだ?」
「嫌そうだったぞ。もし俺に来てほしかったら、前村が誘った時にもっと乗り気になってるだろ」
「あー......」
朝日川は否定しなかった。
笑顔が消えて、表情が全く読めなくなる。包みを剥がされて剥き出しになっているクレープにパクッとかぶりつきながら、何か考え込んでいるようだった。
「そうだな......嫌ってわけじゃ、ないんだけど......」
「でも間違いなく、嬉しくもねぇだろ。いっつもお前のペースに巻き込まれるから、嫌がらせでついてきたんだよ」
「全然、嫌がらせにはなってないけどな」
もう一口、朝日川がクレープを食べる。
柔らかい生地が、朝日川の口内に消えていった。
唇の動きや頬の動きから、目が離せない。
同じものを食べているのに、朝日川が食べているものの方が魅力的に見える。
俺がただ食べかけのクレープを持って突っ立っている横で、ゴクンと朝日川の喉仏が動いた。
「なぁ朔弥。俺さ、解決方法わかったかも」
「なんだよ」
「寄り道するときは、二人だけでにしよう」
なんだそれ。
どうして二人で寄り道が解決方法になるんだ。
なんの解決にもなってねぇ。
つーか、そもそも問題が起こったわけじゃねぇし。
「......やだ」
「なんでだよー」
反射的に出てきた言葉に、朝日川はガックリと肩を落とした。
なんでって言われても。
俺にだってわかんねぇよ。
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