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拝啓、あの世の私へ  作者: りんごあめ
第八章 終末編
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115話 小さな花①

 屋上から黒い煙の上がる街を見て、少女は自分に何が出来るのか考えていた。

「とはいえ、どこに行くのが良いんだろう……」

 ステラさんに他の人の援護へ行くよう言われたが、どこに行くべきか全く考えがまとまらない。

 悔しい事に、今の私じゃ人型の対処は出来ない。

 悠さんや会長のような戦闘力は無いし、ステラさんのような技術も無い。

 やらなければならない事は山のようにあるのに、自分に出来ることがまるで浮かばなかった。

「私に……私にもっと力があれば……。みんなを守るだけの力があれば……」

「あるわよ」

「っ、誰」

 突然脳内に声が響く。

 周りを見渡しても誰も見当たらないし、人の気配も感じられない。

 それに、落ち着いて考えるとそれは聞き覚えのある声だった。

「力ならもうあるわ。私はあなたに、全てを託したもの。今のあなたなら、それを使いこなせるはずよ」

 脳内に響く声に促されるように、あの赤い表紙の本を取り出す。

 開いて確認してみると、やはりどのページも白紙のままだった。

 それなのに、そこに何が書いてるのか理解できる。

「全てを感じる。全てを理解し、この世界に溶け込む。時間も空間も、次元を超えて世界樹へ繋がる」

 目を閉じ意識を研ぎ澄ますと、確かに今まで感じられなかったものの存在を感じる。

 あるいは、水につかり沈んでいくような感覚。

 自分の存在全てを波にゆだね体を預けるように体重をかけると、身体が暖かくなる。

 そして、過去に見たことのない常軌を逸したエネルギ―を感じ取った。

「これは……草の匂い?」


 柚葉と別れ逃げ遅れた人が居ないか確認する茜は、崩れた建物のせいで思ったスピードを出せずにいた。

 それでも自分の分を確認し終わると、さっきから連絡の取れない柚葉の事で頭がいっぱいになる。

「お姉ちゃん……」

 彼女の担当する方を眺めながら今にも駆けださんとする茜を、ある者の声が遮る。

 その者は宙に浮き、茜の後ろ姿を見て落胆した様子だった。

「どうやら、あっちが当たりだったようね」

「ッ!」

 その声を聞き、あるいは突然現れたその存在によって茜は息が詰まる。

 今まで感じた事のない圧力。

 身体が固まり、この場に立っているだけで全身から汗が噴き出る。

「それよりあなた、この結界の剥がし方知らないかしら」

「……知ら、ない」

 一刻も早くこの場を離れないといけない、そう本能的に思うのに全身が緊張してうまく足が動かない。

 途切れ途切れでそう答えるのが精一杯だった。

「誰が張ってるかでも良いのよ」

「…………言わ……ない」

「そう、誰だか知っているのね」

 余裕に満ちるエレボスがその答えにニヤリと笑うと、周りを徘徊していた人型は茜に向かって一斉に飛び掛かった。


「結界のおかげで私もアステリアも本来の力を出し切れないし、通り抜ける事も出来ない。こういうのが得意なのは……そうね、ヴァレンタインの系譜のステラかしら」

「……ら、ない…………」

 多勢に無勢、ただでさえ足場が悪く戦いに向かないこの場での集団戦に、茜は為す術もなく敗北した。

 足元に転がる茜の返答を聞き、以外にもエレボスは彼女のことを高く評価する。

「偉いわね。どこかの誰かと違って、口が堅いことはとても良いことよ。けど、引き際も教えてもらうべきだったわね」

 抵抗出来ない彼女の首根っこを掴み持ち上げると、力の入らない腕はだらりと垂れる。

 それでも微かに開く瞼の下には、未だ消えぬ闘志のこもった目が見えた。

「はぁ、もういいわ」

 彼女のこだわりなのか、ため息をつくと茜を近くの瓦礫に寄りかからせて寝かせる。

 面白い人間に出会えた、そう言う意味で言えば収穫はあったものの、本来の目的は全く進捗が無い。

 次の情報源を求めて歩き出そうとするエレボスは、近づく気配に全く気付けなかった。

 もしくは、相手が自分よりも格上だという可能性を考えていなかっただけかもしれない。


「ねぇ、何してるの」

 突然聞こえたその声にエレボスが振り返ると、先ほど寝かせた彼女を抱きかかえるようにする見知らぬ少女が居た。

「あなたは……どこから現れたの?」

「何してるのかって聞いてるんだよ」

「はぁ。あなたには関係のないことよ」

「ダメ……この人は…………」

 彗に抱えられる茜は、怒りに満たされ気配の変わりつつある彼女の事をどうにか止めなければいけないという使命感に駆られていた。

 いくら彗が強いからと言って、あれは相手に出来ない。

 身をもって得た情報をどうにか次に繋げなければいけない、そう思っていた。

 それでも彗は茜の制止には耳も貸さず、彼女を抱えないもう一つの手にはエネルギーが集まり一つの球体へと形成される。

「……せっかく育ってきて、後ちょっとで柚葉に並べる力がつくのに!! 彗の楽しみだったのに!!!!」

「私には関係のない事でしょ」

「神だかなんだか知らないけど、彗の楽しみ奪うなら殺すよ」

 顔を上げた彗は静かに呟くと、片手に集めたエネルギー弾を打ち出す。

 一直線に飛ぶ弾の風圧で、少女らの周りを囲んでいた人型は瓦礫もろとも吹き飛ばされる。

 軌道がそれたおかげで直撃こそしなかったものの、万が一直撃していれば今の状態のエレボスであれば少なくとも半身は持っていかれていただろう

「あなた、本当に人間?」

 神格に近い純粋なエネルギーをこれだけ扱える人間など、エレボスは今まで見たことも聞いたことも無い。

 その光景を見て、彼女にはその少女の存在に対する疑問が山のよう現れる。


「何……この力」

「ここでちょっと待ってて」

「う、うん」

 驚いたのは茜も同じで、その景色を信じられずにいた。

 彗は茜を再び座らせると、彼女を覆い囲むように半透明な葉の玉を作る。

 不思議な光に包まれる茜は、だんだんと傷が治っていく事に気づく。

 それと同時に、彗の気配が変わっているような感覚を覚えた。

 実際彼女の歩みを目で追うと、なびく髪の長さは明らかに伸びているしその隙間から覗く耳は見慣れない形をしているように見えた。


「我らが繁栄の礎である木々を創りし母なる大地。星の加護をお与えくださる天上の神々」

「……ッ! どこでっ! なんでそれを知っているっ!」

 呟く言葉の内容にエレボスは大量の疑問の答えを得て、同時により難解な一つの疑問を抱く。

 なぜ彼女がそのことを知っているのか。

 かつてアステリアの説いた内容に反するケースを前に、彼女の思考は散らかる。

 地面に膝をつき手を合わせ、祈りを捧げるような恰好の彗は、どこからどう見てもちっぽけな人間にしか見えない。

 だというのに、その言葉に答えるように彼女の周りには緑に輝く光の玉が舞い、地面には彼女を中心に小さな芽が姿を現した。

「我ら森に住む小さき花々。深き影に脅かされる我らに、安らぎの大地をどうかお与えください」

「燃やし尽くしなさい!」

 もしこのまま詠唱が完了すれば、流石に無事ではいられない。

 そう悟ったエレボスは、常に傍らに沿うようにする九尾の獣へと指示を出す。

 人間の数倍の大きさの獣が炎を吐き出すのと同時に、少女の祈りは最後まで綴られた。

「咲け、ここが我らの楽園である!!」

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