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拝啓、あの世の私へ  作者: りんごあめ
第八章 終末編
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114話 お出迎え

 学園の屋上。

 街全体を見渡せる場所で、エレナは瞑想していた。

「世界の樹を介して、全てを見通す」

 小声でステラが言っていた手順を繰り返し呟き、全神経を集中させる。

 今までやった事がない事だが、不思議と何でも出来るきたした。

「出来た……」

 この街を覆うようにできた膜を、この世界から切り離す。

 無事に処置が完了したことを確認すると、ステラさんから通信が入る。

「はい、完璧です。これで、この街は外部から認識されなくなります」

「けど、こんな対処で大丈夫なんですか?」

「時間の問題でしょうね。向こうの戦力を完全に無力化するまでは、気を抜けません。後の維持は私が行うので、エレナ様は他の方の援護に向かってください」


「悠!」

「ゆず、こっちは全員終わった」

 割り振られた地区の確認を済ませた柚葉は、人型を拘束しつつ悠と合流した。

 瓦礫の間を跳ねるように移動する彼女の後には、ステラとエレナが作った特殊な糸に絡め取られもがく人型の山が築かれている。

「白陽の生徒も終わってるし、後は……紅輪の生徒は神楽で対処してるって言ってたから」

「茜ちゃんからはまだ報告が来てないのが……」

 学園で別れてから報告の来ない茜の様子を見に行こうとした二人は、目の前に現れた一人の女性によって行く手を阻まれた。

「……ししょー」

「いや~、事前の計画がちゃんと立ってるだけあって、流石のスピードだにゃ~」

「アステリア……」

 悠の呟きに柚葉が振り返ると、背後には手を叩く紫紺の髪の女性が宙に浮き立っていた。

「久しぶりだね、悠、柚葉」

「本当に……本当にししょーがこんな事したの? なんでっ!」

 何度聞いても、悠は彼女がこんな事をするとは思いたくなかった。

 元々謎が多かったし、超然とした態度を取る事が気になってはいた。

 それでも、彼女に助けられた恩とそれ以上に彼女の性格を信じたかった。

「ステラから聞いてるんでしょ。興味本位だよ。知りたい事の為に実験をして、結果を元に考察をして次の実験に繋げる。こうして知見を深めていくんだよ」

「だからって、こんな事して……」

「何事にも犠牲はつきものだよ。犠牲を恐れれば何も得られない。それが私とルナの受けた教えだよ」

 自身に非は無い、そう言った態度のアステリアに柚葉は目を吊り上げる。

「わざわざ出て来て、負けを言いにいたんですか」

「まさか。まだ災厄が発生してないのに、なんで降参しに来るの?」

 糸を手に巻き、いつでも戦闘に持ち込めるように準備をする柚葉を見て、アステリアは笑いをこらえられないという様子でいた。

 一歩、また一歩と柚葉に近寄ろうとするアステリアの動きに合わせるように、柚葉も一歩、また一歩と後ろへ下がる。

「そんなに警戒しないで良いんだよ。私も痛い思いはしたくないからね」

 両手を広げ、自身が無害であることをアピールするアステリアは、柚葉が瞬きする間に彼女の目の前へと移動した。

「ね? 何もしないでしょ」

 アステリアが確認するように言うが、柚葉は彼女の言葉を全く信じてはいなかった。

 柚葉は指先で糸を器用に操り、アステリアの拘束を試みる。

 手に巻かれていた糸は伸び、勢いよく彼女へと向かうが……。

「はぁ、こんなもので……」

 詰まらなさそうに言うアステリアが指を鳴らすと、糸はほつれ地面へと落ちた。

 次の一手を必死に考える柚葉は、背後で響く爆発音に思考を遮られる。

「悠! ダメッ!!」

 咄嗟に叫び止めようとする柚葉の声に耳を貸さず、悠は自身の全てを燃やす炎を身に纏う。

 その炎が使用者に何をもたらすか、柚葉も悠も事前に桜から説明され軽率に使わないよう釘を刺されていた。

「もう二度と…………。真奈を助ける為にっ!」

 何がトリガーになったのか本人でさえ分からないが、怒りに支配された悠は白く輝く炎でアステリアへと殴りかかる。

「酷いにゃ~。こんな事されるために助けたわけじゃ無いのに」

 凄まじい風圧と共に迫る彼を、アステリアはマッチの火を消すかの様に手を振る。

 炎を掻き消すだけにとどまらず、その勢いに悠だけでなく柚葉の身体も浮く。

「ダメなんだよっ! ここで止まる訳にはっ!!」

 何かに取りつかれたように悠はもがき、前へ進もうとする。

 これ以上は取り返しがつかなくなる、そう判断した柚葉は悠の意識を奪おうとした寸前、一人の少女の登場によって彼は理性を取り戻した。

「ようやく見つけた、アステリア」


「いやはや、こうも勢ぞろいでお出迎えとは。神の座も捨てたものじゃ無いのかもね」

「一応確認してあげるけど、諦めるつもりは無いんだよね」

「そりゃもちろん。だって、まだ実験は始まってないんだから」

 どれだけ犠牲を払おうと、自分たちの勝利を確信している桜は愛刀の太刀を片手に最後の確認をする。

 それでも、アステリアは恐れるどころかその状況を楽しんでいた。

「もういい。先生の本気をっ!」

 桜が刀を抜こうと手を動かそうとすると、次の瞬間彼女の手から刀は鞘ごと無くなり、アステリアの手元に現れる。

「これはなかなか、手の込んだ作りをしてるね……」

 余裕そうにその刀を眺めるアステリアに対し、桜は慌てることなく抜刀の動きを続ける。

「全てを断ち切る」

 手に何も持たないまま、桜は手を振った。

「ッ、この力は……」

 無から作り出された斬撃は一直線に飛んでいき、アステリアの片腕を切り落とす。

 彼女は驚きこそしたが大して痛がるそぶりを見せない。

 それでも、桜の目的は刀の開放だった。

 宙を舞うそれの主導権を奪還すると、主の指の動きに合わせて刀も鞘から抜かれアステリアへ切りかかる。

「ルナの後継者がもう一人……。けど、まだ足りない。これじゃ、全然だよ」

 アステリアは飛んでくる刀の柄を掴むと、桜めがけて投げ飛ばす。

「ッ!」

「まぁ、人間にしては上出来な方だね」

 あと僅かで彼女に刺さる寸前、ギリギリの所で威力を殺しきれた。

 それでも、その為に意識を寄せた彼女は接近するアステリアへの対応が遅れてしまう。

「本体への攻撃の対処は教わらなかったの?」

 空から落ちてくるアステリアの顔が目前に迫り、桜はそのまま地面に叩き伏せられる。

「はぁっ……はぁっ……」

 肩で息をする桜を見下ろすようにして、アステリアは彼女の刀をそばの地面へ突き刺す。

「守りたいって思だけじゃダメ。その為の力をつけなきゃ。そう思うでしょ……柚葉?」

 アステリアが振り向くのとほぼ同時に、糸を巻いた柚葉の手が頬をかすめる。

 それでも彼女の表情は変わらないどころか、これで良いという風にアステリアには見えた。

「フェニックス!」

 そう叫ぶ悠の隣には、いつの間にか炎で形成された一羽の鳥の姿があった。

 その鳥が翼を広げると同時に、アステリアめがけ白い炎が燃え上がる。

「はぁ、やっとだよ」

 アステリアの笑いながらの呟きは炎にかき消され、全身を焼き尽くされる。

 衝突によって発生した煙が晴れ、地面へと落ちる炎の姿を見ながら、その中心に立つ人物に悠は目を見開く。

「なんで…………」

 柚葉を巻き込んでしまうことは元々想定していたし、特殊な炎だから彼女へのダメージはある程度抑えられているはずだ。

 しかしその場に無事に立っているのはアステリアで、全身を焼かれ苦しむように蹲るのは柚葉だった。

「ゆずっ!」

「今こそ目覚めの時。さあ『世界』、お前の答えを見せてくれ!」

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