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ノブリス・オブリージュ(4)

「は、が……っ! ぐ……っそ!! なんでこの俺が……この、俺があっ!!」


 いつからこんな風に変わってしまったのだろう――。記憶の原初、綺羅の心の中に映される物はいつだって同じ光景だった。

 まだ、この街に秩序が無かった時。まだこの街に、沢山の夢があった時。綺羅は純粋な気持ちで生きる事を楽しんでいた。それ以上も以下も無かった。ただ、楽しみたいからジャスティスに居た。ジャスティスは、彼の憧れだった。

 ジャスティスがまだ、数人のメンバーで構成されていた時代、彼はその四人目として出迎えられた。四番目のジャスティス……。彼の上にはリーダーがいた。そしてリーダーが絶大な信頼を寄せる、丞がいた。

 丞とリーダー、その二人がジャスティスを作った。この街に平和を齎した。些細ないざこざや擦れ違いが蔓延る街に、一つの境界線を引いた。希望と絶望、同時に二つの意味を持ち合わせるライン……。それを引き、街の人々を導くのが自分たちの役目なのだと信じていた。

 そう、自分たちは正しい事をしているのだと、そう信じていた。なのにいつの間にかそんな事はどうでもよくなり、心の中に巣くう憎しみは次第に殻を破り表に飛び出し、自分もまた憎しみをばら撒く存在になってしまった……。

 ダメージフィードバックにより、肩には痛みが残留している。胸ごと弾き飛ばされたような激痛を片手で押さえつけ、壁に体を擦りつけながら綺羅は走った。走り、逃げ回りながら彼はずっと考えていた。こんなはずでは、なかったのだと……。

 出来れば全てをやり直したい。やり直せるものなら、全部なかった事にして、全てを救いたい……。それが今、目前にまで迫っていた。あと一歩だった。本当に、あと少しだった。なのに――邪魔されてしまった。


「くそっ! くそくそくそっ!! くそぉっ!!!!」


 昔から、他人に馴染むのは苦手だった。人と上手く話せず、友達も作れなかった。綺羅の友達はいつでもパソコンだった。それ以外、彼を見てくれる人はいなかった。

 気づいたらこの街に居て、気づいたら親を失っていた。気づいたら言葉を無くし、気づいたら触れ合う感情さえ消えてしまっていた。それを取り戻してくれた。正しい事をさせてくれた。そんなリーダーが大好きだった。初めて尊敬できる人に出会えた。そして初めて、その尊敬する人が最も信頼している丞に嫉妬の念を覚えた。

 それでも丞の事を、綺羅は認めていたのだ。誰よりも強く、かっこよかった丞……。なのに彼は裏切った。信頼を裏切った。自分を裏切った。この、羨望の念を、彼は断ち切ったのだ。

 許せなかった。初めて出来た友達だと思っていたのに。でももう、今ではそんな気持ちも思い出せない。恨む理由も忘れ、ただ憎んだ。意味と理由を失い、全ては今や夢の中。語る事も無く、知る術も無い。


「俺は……優れているんだ……。あいつらより、上なんだ……。俺は……。俺はっ!!」


 重苦しく閉じられた扉を開く。部屋の中に満ち溢れていた光が綺羅を出迎え、そして――。



「――――銃声!?」


 綺羅を追跡していた二人は同時に顔を上げた。大きなダメージを負った鳴海に肩を貸し歩いていたケイトが眉を潜める。聞こえてきた銃声は一発だけではなかった。凄まじい、嵐のような銃声――。


「ガトリング砲でもぶっ放したっていうの……!?」


 遅れ、悲鳴が届く。それは人の物とは思えないような絶叫であった。声の主が綺羅であることに気づき、二人は先を急ぐ。慌てて乗り込んだ巨大な部屋の中、真っ先に目に付いた物は白い何かだった。遅れて足元に目をやる。そこには綺羅が倒れていた。両足は無数の弾丸で打ち抜かれ、既に原型を留めていない。熱く血が泡を吹き、絶え間なく流れ出している。


「俺の……俺の足があああ……っ!! あああああああ〜〜〜〜っ!!」


「……くっ!!」


 正面を見据える。一瞬では気づかなかった、想像を絶する存在がそこには立っていた。白い、とても白い鎧――。機械的なデザインで構築された純白の装甲。何枚も重ねられ、マントのように体を覆っている巨大な剣。その存在を、果たして現実の物と定義してもいいのだろうか? 鳴海は眉を潜める。そこに立っていたのは、白い騎士――。騎士の腕の装甲板の隙間、鈍く輝く銃口が顔を覗かせていた。


「――ケイト、伏せてッ!!」


 次の瞬間、瞬く。風を斬り、音が世界を支配していく。規則正しく放出される弾丸、銃身が熱く焼け付く程に何度も何度も、弾き出された弾は出入り口でもある鋼鉄の扉を破壊してしまう。

 咄嗟にケイトごとその場に倒れこんだ鳴海の頭上、凄まじい破壊の嵐が通り抜けて行った。剣の翼を持つ騎士はゆっくりと腕を下げる。鼓膜が破けるのではないかと言う轟音に思わず舌打ちし、麻痺した聴覚のまま鳴海は立ち上がる。


「なんなのっ、アンタッ!? そんな物騒な玩具……冗談じゃないわよっ!!」


「話しかけても無駄だ……! 鳴海、逃げるぞ! アレと正面から争った所で死は覆らない!」


「どういう事!?」


「ノブリス……オブ……リー、ジュ……ッ」


 血塗れの両足を押さえ、綺羅が震えながら呟く。ゆっくりと顔を上げた少年は鳴海を見詰める。その目だけで何を言いたいのか、瞬時に理解出来てしまった。


「丞は、奥の部屋に居る……。あいつの、脇を抜けて……行けっ!」


「……死ぬつもり?」


「足の感覚が……ないんだ……。ていうか見ろよこの足……もう、あってないようなもんだろ……」


 腰を落とし、鳴海は少年の肩に手を乗せた。つい先程まで殺しあっていたと言うのに、鳴海の目は慈愛に満ちていた。その表情に綺羅は傷の痛みが消えて行くのを感じていた。その笑顔、どこかで見覚えがある――。

 血塗れの手で鳴海の手を握る。そうして振るえながら、涙を流しながら、綺羅は笑った。鳴海がきつく目を瞑る。綺羅は優しく微笑み、それから最後の力を振り絞ってマイノリティを召喚する。


「相手がアレじゃ、何秒も持たない……。行け……行っちまえ、畜生ッ!!」


「……でもっ!!」


「行けって言ってんだよぉおおおおおおおおおおおおッ!!!! マイノリティイイイイイイイイッ!!!!」


 光の渦と共にマイノリティが召喚される。長い腕を繰り出し、その白い騎士――“ノブリス・オブリージュ”に攻撃を仕掛ける。しかしそれは空しく阻止されていた。騎士の周囲に展開していた剣が盾となり、攻撃を阻害する。同時に騎士は片手を挙げ、剣を全て整列させる。美しく揃った剣の羽、その数十二枚――。

 僅か一秒足らずの間、ケイトは鳴海の手を引いて走り出していた。脇目に鳴海たちの存在を探知し、そちらに剣を向けようとする。しかしそれを阻止するようにマイノリティは雄叫びと共に体ごと突撃を繰り出していた。


「こっち向けっつってんだよォオオオオッ!!!! テメエエエエエエ――――ッ!!!!」


 正面からマイノリティが激突する。腕を鞭のように揮い、ノブリス・オブリージュへと叩き付けた。その衝撃に大地が砕け、しかし騎士には傷一つない。直後、反撃の一撃が放たれる。射出された無数の剣がマイノリティの頭部に集中して突き刺さった。直後、痛みに綺羅が悲鳴を上げた。

 マイノリティの頭部から血飛沫が上がり、悲痛な声が広がって行く。鳴海はその声に振り向いた。綺羅は両足から血を流し大地に這い蹲りながらも前へと進んでいた。


「止まるな……! 行け……!! い、っけえええええええっ!!!!」


 その刹那、ノブリス・オブリージュの両腕の装甲が開き、銃口が露出する。次々に弾丸が放たれ、それは容赦なく綺羅の体を撃ちぬいて行った。次々に繰り出される衝撃に綺羅の身体が浮き上がり、蹂躙される。奇妙な踊りを踊らされる人形のように、くねくねとのたうつ。そうして血飛沫と共に体は吹っ飛び、マイノリティもその場で姿を消してしまった。

 綺羅が最期の瞬間目にしたのは、二人が無事に奥の部屋へと移動した所であった。綺羅はゆっくりと微笑を浮かべる。そうして小さな声で、最期の言葉を口にした。


「……お、ねえ、ちゃん――」


 轟音が全てを掻き消して行く。死体を更に死体に変え、徹底的に死体としてからノブリス・オブリージュは動きを止めた。追跡する相手は既に判明している。ゆっくりと踵を返し、ノブリス・オブリージュは薬莢の山に背を向けた。

 鳴海は泣いていた。泣きながら走っていた。立ち止まる事は綺羅の最期の気持ちを無駄にする事に他ならない。鳴海は止まれなかった。そう、ずっと前から――。


「……大丈夫か?」


「ええ……。もう平気。でも、あの子――」


 ふと脳裏を掠める景色、心の中、いつかは判らない記憶。もう思い出せない場所……。森の木陰、携帯ゲーム機を片手に膝を抱えていた少年。何かを思い出しそうになり、しかしそれは遠ざかって行く。

 片手を額にあて、目を細める。どうして思い出せないのだろう。心の中に引っかかるもの。せめて彼の名前、最期に呼んであげたかったのに――。


「鳴海、呆けている場合じゃないぞ! 直ぐに追い掛けてくる! 追いつかれたら終わりだ!」


「なんなの、ノブリス・オブリージュって!? ジャスティスでも、アタシたちでもない物って……! 他のVS!?」


「違う。あれはVSだが、VSではない。あれは――ッ!?」


 次の瞬間、背後で爆発音が聞こえた。何もかもが余りにも無茶苦茶すぎる。二人は一気に通路を駆け抜け、狭い部屋へと出た。そこは別の通路へと続く中継地点であり、床には丞が倒れていた。そして――綺羅が逃げた理由がそこにはあった。

 大勢のジャスティス構成員たちがそこで二人を待ち構えていたのである。そう、綺羅はここまで逃げて二人を倒すつもりだったのである。ノブリス・オブリージュの事で頭が一杯だった二人は反応出来ずに固まってしまう。しかし次の瞬間、背後をノブリス・オブリージュが走ってくる音で気を取り直した。同時に二人は丞の方へと跳んだ。直後、脚部装甲のローラーで猛進してきていたノブリス・オブリージュが出入り口を吹っ飛ばして部屋の中に入ってくる。

 突っ込んできたそのシルエットは変形し、まるで小型の戦車のようでさえあった。集まっていたジャスティスの兵士たちを派手に吹き飛ばし、急ブレーキをかけながら旋回する。同時に両腕を構え、何の警告も無く容赦も無く、両腕の機関銃を掃射した。

 周囲に陣取っていたジャスティスの兵士たちが次々に撃たれて死んでいく。彼等は皆、何も出来なかった。鳴海は目を見開き、絶叫した。


「やめてぇぇぇぇええええええ――――ッッ!!!!」


 彼等は、自分の意思でそこに居た。だが、それは決して望んだ事ではなかったはずだった。彼等の誰に、死を与えられねばならぬほどの罪があったのか。こんな地下深く、誰の目も届かないようなところで、誰が誰だか判らないほどに銃で撃たれ、肉塊へと変貌せねばならない、過酷な結末を背負わされねばならなかったのか――。

 血飛沫と肉が飛び散る中、鳴海は絶叫した。その声は銃声に掻き消されてしまう。人が、死んでいく。子供たちが、死んでいく。死んでいく、死んでいく、死んでいく。その景色に――鳴海は見覚えがあった。そう、それを見るのはこれで“二度目”――。

 燃え盛る炎。噎せ返るような血のにおい。全てが死に満ちていた――。頭が割れるような頭痛が突然襲い掛かる。泣き叫ぶ鳴海の腕を引き、ケイトは走った。この場にこれ以上留まれば、死は免れられない。白い騎士は全身を返り血で真っ赤に、真っ赤に、美しく染め上げて、大きく吼える。

 部屋を飛び出したケイトは泣きじゃくる鳴海を連れてエレベータに乗り込んだ。本来の侵入口とは異なるルートで脱出するしかなかった。普段は冷静を装おうケイトも今だけは冷や汗が止まらない。開いたノートパソコンを叩く手が震える。歯を食いしばり、怯える自分に何度も言い聞かせた。“もう、悲劇は繰り返せない”と――。

 エレベータを抜けた二人はあとは出口まで走るだけ――そのはずだった。しかし二人の前には二つの人影があった。出口へと続く闇の通路の中、立ち塞がる影の一つが動く。次の瞬間エレベータをよじ登ってきたノブリス・オブリージュが猛進してくる。銃口がケイトと鳴海を捉え――しかし、死はいつまで経っても訪れなかった。

 何故死んでいないのか。何故生きているのか。二人は顔を上げる。闇の中立っていたその男はゆっくりと優しく微笑んだ。それに従うように、ノブリス・オブリージュは移動し、男の背後に控える。鳴海は目を見開いた。そこに立っていたのは、二人とも彼女の良く知る人物だった。


「お久しぶりです――鳴海姉さん」


「…………かな、で……?」


 さらさらと、奏の髪が風に靡く。ノブリス・オブリージュはまるで主人に懐く犬のように、傍に身を寄せた。その白く冷たく、血で染まった装甲を撫で――櫻井奏は笑う。


「何故ここに居るのかというのは聞きませんが……必要以上に関わりすぎているようですね。感心しませんよ、そういうのは」


「奏……。アンタこそ、どうしてここに……? それに――どういう事なの、これはっ!? “舞”ッ!!」


 奏の背後、ユニフォンを手にした舞の姿があった。しかし舞は何も言わず、無表情に目を瞑る。まるでもう鳴海と話すことは何もないとでも言うかのように。


「これは警告です、鳴海姉さん。もうこの件には関わらないで下さい。さもなければ……貴方とて、僕は許す事が出来なくなる」


「待ちなさいッ!! どういう事なのか説明して! 今直ぐに!!」


「些細な事ですよ、全ては」


「人が死んでいるのよッ!? 子供が死んでいるの!! それをッ!! 些細な事で済ませてるんじゃねえッ!!!!」


 鳴海の怒号に対し、奏は目を瞑りあきれたように微笑んだ。そうして二人は背を向け、去って行く。追い掛けようとする鳴海の肩を抱き、ケイトが首を横に振る。二人を守るようにしてノブリス・オブリージュが銃を向けていた。

 体も既に限界だった。もう、追い掛けられない。戦えない――。鳴海は目を閉じ、体を震わせた。閉じた扉の音を合図にしたように、鳴海は拳を乾いた大地に叩き付けた。



ノブリス・オブリージュ(4)



 夢を、見ていた。それは遠く、霞の中に埋もれてしまった過去……。

 鳴海はゆっくりと歩き出す。その景色をもう一度思い出すために。全ては霧の中……。もう戻る事はない。そのはずだった。

 呼吸が苦しくて喉に手を伸ばす。そうして気づいた。自分の両手が血にまみれている事に。周囲は血塗れだった。何処を向いても、血、血、血……。

 目の奥に赤の色がしみこんでくる。全てが燃えている。熱い。熱い。熱い――。


「ここ、は……」


 よろめき壁に背を預ける。ここはどこ……? そこに見覚えなんかないはずだった。なのに、何故だろう? 鳴海はその景色を酷く恐れていた。その結末を、恐れていた。


「こじ、いん……」


 どこからとも無く声が聞こえた。それは悲鳴だった。ゆっくりと歩き出す。足を向けた先、逃げ惑う子供たちの姿があった。彼等は例外なく頭を潰され、死んで行った。真っ赤な真っ赤な中身をぶちまけて、誰もが等しく死んでいる。

 尊く与えられる死の雨の中、たった一人だけ無傷で歩く人影があった。ふらふらと、歩いて行く。近づく物を、全て殺しながら。


「きょ……う……?」


 その後に続いて行く。子供は近づく全てを殺し、孤児院は炎に包まれ、何もかもが死んで行った。もう止めてほしかった。こんなの見たくない。こんなの、知りたくない――。


「でも……だからって忘れてもいいの?」


 振り返った先、そこには一人の少女が立っていた。長い黒髪の少女……。白いぼろぼろのワンピース、それは血に染まっていた。

 鳴海は片手で頭を抑え、少女を見詰める。少女が近づいてくる。鳴海に近づいてくる。それは凄まじい恐怖だった。


「思い出して……」


「いや……」


「わたしたちのこと、思い出して――」


「いやああああああああああああああああああああっ!!!!」



「〜〜〜〜〜〜ッ!! あ……っ!! は、あ……っ!!」


 全てはそう、夢……。しかし鳴海は肌にあの炎の熱ささえ覚えているかのようだった。感触が残っている……。身体が燃えていないことを確認し、ようやく鳴海は一息付く事が出来た。


「はあ、はあ、はあ……」


 ゆっくりと、体をベッドの上に放り投げる。腕で視界を遮り、静かに胸を上下させる。最悪の夢だった。何故あんな夢を見たのか……その理由は判りきっている。

 腕を退け、目を開く。次の瞬間眼前に少女の顔があり、鳴海は叫び出しそうになってしまった。しかしそこにあったのはあの少女の顔ではなく、柊蓮の顔であった。


「ど、どうしたの鳴海……。そんなビックリしちゃって……」


「れん……ちゃん?」


「うん、蓮だよ? 大丈夫……? ご飯作ったから、一緒に食べようって惣介が……」


 そういわれて漸く現状を思い出した。あの地獄のような世界から命からがら抜け出そうとして……鳴海はその場で力尽きてしまった。気を失った後、どうなったのか……それは判らない。だがこうして寝床としていた櫻井のマンションの一室に戻っている所を見ると、どうもケイトが送り届けてくれたらしい事だけは判った。

 ぼんやりとした頭が急激に覚醒して行く。飛び起きた鳴海は下着姿のままテレビの電源を入れた。既に時計は昼を回っており、ニュース番組ではあの事件の事が報道されて――。


「ない……」


 訳がわからなかった。あれだけの大事件、あれだけの人数が死んだのだ。二十や三十ではきかない数の人が死んだ……。それも、地下とは言え機関銃をぶっ放し、ロボットが大暴れしたではないか。なのに、何故……?

 まだ露呈していないだけなのだろうか。様々な可能性を考えた。頭を抱え、思い出す。ケイトは無事だろうか。結局助けられなかった丞は……? 振り返ると、蓮が不安げな表情で鳴海を見ていた。


「鳴海、怪我したの……?」


「え? あ」


 鳴海の体にはいたるところに治療の跡があった。大きく巻かれた包帯も、全てはケイトのお陰なのだろう。しかし蓮には余計な心配をかけてしまった。苦笑いし、少女の頭を撫でる。


「なんてことないわよ、こんなのへっちゃら」


「ほんと……? 痛くない? 大丈夫?」


「大丈夫大丈夫! 見ての通り、お姉さんは健康そのものよ……あいたたたっ!? れ、蓮ちゃん!?」


 突然背後に回った蓮が背中を強打する。鳴海には見えていなかったが、背中の包帯は血塗れだった。痛くないはずがないのだ。嘘を付く鳴海をじっと上目遣いに見上げ、蓮は悲しげに首を横に振った。


「無理しちゃだめだよっ! 蓮が看病してあげるから、いい子にしてなさい!」


「は、はい……。うぅ〜、痛いよう〜しんどいよう〜」


「よしよし、鳴海はいいから大人しくベッドで寝てて。蓮がご飯持ってきてあげるから。ね?」


「はい……蓮ちゃん、ありがと」


「うんっ!」


 元気良く返事をして去って行く蓮を見送り鳴海はベッドにうつ伏せに寝転がった。


「……うつ伏せだと胸が苦しいんだけどね、お姉さんは……」


 枕に顔を埋め、小さく息を付く。思い出すのはあの景色。沢山の子供が死んで行った。誰もがそう、裁きを受けるには余りにも無邪気な子供たちだった。


「助けられなかったのね、鳴海……」


 自分に言い聞かせる言葉。悔しくて唇を噛み締めた。何も、救えなかった。何もかも。何一つ――。

 枕に染み込んだのは血だけではなかった。それは彼女がずっとずっと我慢してきた、枯れ果ててしまったはずの涙。誰も居ない今だけ。もう少しだけ……弱いままでいて。


「ちくしょう……っ」


 呟き肩を震わせる鳴海。その部屋の外、トレイの上に昼食を乗せた蓮は扉に背を預けて待ちぼうけしていた。中から鳴海のすすり泣く声が聞こえて開きかけた扉を音も無く閉めたのがつい先程の事。少女は小さく溜息を漏らし、魚の塩焼きつまみ食いした。


「しょっぱいね……」


 目を瞑る。もう少しだけ、待っていてあげよう。鳴海が泣いて、少しでも楽になれるまで。少女はその場で空を見上げた。出来れば青空が、涙の色を薄めてくれますように――そんな事を、祈りながら。

〜とびだせ! ベロニカ劇場〜


*やっと40部*


響「というわけで、漸くここまで漕ぎ着ける事が出来ました。これも全ては皆さんの応援のお陰でございます」


鳴海「今後も対岸のベロニカをよろしく御願します」




鶫「え? それだけですか? せっかく四十部だからもっと他になんか……」


響「これから一気に進めて行くから大変なんだよ」


鳴海「あと、やるネタが特にないわ」


鶫「そ、そうですか……」


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