邂逅
西暦2126年、5月中旬。この日、日本のとある山を4人の少年少女たちが登っていた。
「ねぇ~~~疲れたぁ~~~もう帰ろうよぉ~~~」
女子高生のような半袖シャツにショートスカートを着たこの少女、二宮舞衣は不満げに声を上げる。歩を進める山道は、かつて階段状に綺麗に整備されていたのだろう。使われていた木材は朽ち果て、凸凹になりむしろ来るものを阻むかのようである。
「…まだ山頂についてすらいないぞ、我慢しろ」と二宮を宥める、古風な服を身に着け、黒の細長い袋を背負っている大人しそうなこの少年は名を三条御來だ。
「だってぇ!五月なのにもう真夏日みたいな暑さなんだからしかたないじゃん!」
「おおっとぉ?野生児マイさんが早速リタイアかぁ?」
「はぁ!?まだまだ全然いけるし!てか野生児言うな!!」
二宮と掛け合いを繰り広げているのはセンター分けに黒と白のリバーシブルパーカーを着た陽気な男子、四谷彼方だ。
一方で、山を登り始めてから一言も話さない銀髪の少女が一人、集団の最後尾を歩いている。
「…」
名前は五十嵐紗雪。現在日本は五月中旬で初夏の暑さが段々と厳しくなってくる時期であるが、彼女は冬用のブレザーに冬用スカート、そしてマフラーを口元が完全に隠れる程に巻いているという、あまりにも季節にミスマッチな服装をしている。
「五十嵐、大丈夫か?」
「……(コクッ)」
三条の呼びかけに頷きで返答する五十嵐。二宮も声をかけるが、
「サユキ~~ン!ちょこっと!ちょこっとだけでいいから涼しくして~~!!」
「......やだ」
「ううぇ~~~んお願いだよぉ~~~~!!」
「お?マイさんがいつものさっむ~いギャグ言えば涼しくなるべ?」
「うるさーい!てゆーか、カナタ道中の調査記録ちゃんと採ってんの?」
「ん?まーあとから思い出せるし楽ショウっしょ!!」
「適当すぎーーー!!」
こんな感じの会話(うち二人は罵り合い)を繰り広げているうちに4人はやっと山頂についた。
「着いたー!休憩休憩っと♪」
「二宮、そんなことをしてる暇はない。早速調査に移るぞ」
「ってか調査ってそもそもなにするんだいミクルくん?」
「……(お前マジか)」
ここに来る前に説明されていただろと呆れる三条、問題児二人を相手する彼の姿はさながら引率の先生といったところか。15か16ほどで、まだまだ子供だといえる彼らの中で最も大人びているのがこの三条御來だ。
「今回俺たちが調査するのはここ、皿倉山だ。三日ほど前からここ周辺で観測される幻素の量が著しく増加している。」
「それ、なんか問題なの?」
「ああ。本来皿倉は幻素量の変化が安定している土地だ。普通ならば幻素量は二倍程度にまでしか変化しないんだが、今はその量が10倍以上に跳ね上がっている」
「10倍ってヤベーなおい…、うまい棒100均に並んじまうじゃねーか」
意味不明な例えに対してハァ、とため息をつきつつも
「とにかく、俺たちは幻素量増加の原因を見つけ、それを取り除く。わかったな?」
「おぉーーっ!てことは『コンパス』使うんだね!」
コンパスとはいわゆる方位磁針のことではなく、二宮たちが使用する半径数メートルの中で細かい幻素の流れを走査出来る端末のことだ。
4人は男子と女子で分かれ、二宮と五十嵐は西側を、三条と四谷は東側へ調査に当たった。
皿倉山は福岡県北九州市にある標高622メートルの山だ。彼らの活動拠点も同市にある。
「でもよぉ、幻素がいきなりドカァーンて増えることあんのか?」
「他の土地の例になるが、あるにはある。…しかし過去と比較しても、これほどの量は初めてだな。四谷、何か違和感はしないか?」
「う~ん、うん?うん、なんもしない!」
腕を組み、首を右に左にかしげながら答える四谷、何があるかわからないため、できる限り大人しくしていてほしいと思っている三条、対照的な性格をしている二人だが彼らなりに互いをリスペクトしているのだろう。
幻素量の変動を観測すること自体は彼らが所属している施設でもできる。しかし、より詳細なこと、例えば今回の幻素量増加の原因のようなことまではモニター出来ない。そのため、その原因究明には三条達が派遣されたのだ。
『コンパス』を片手に、自身の幻素感覚も頼りにして異常の原因を突き止めようとさらに奥へ進もうとしていたその刹那、
「きゃあぁぁぁぁぁぁ!」
声の元は反対側を担当している二宮だ。三条たちは何かあったのかと彼女のもとに駆け付けた。
「どうした?何があった?」
「え、えっとね、『コンパス』にすっごい反応が出たからこっちの茂みに来てみたんだけど、そしたら...こんな...」
二宮が指さす方向に目をやる三条。
そこには患者衣のような服に身を包んだ小柄な少年が倒れこんでいた。




