伊佐波メイド
万家へと帰ってみると。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「伊佐波、さん?」
「音子さん……」
伊佐波さんは私を見るや否やに頭を下げたのだった。
「申し訳ありませんでしたわ。わたくしの姉が……」
「いや、いいけど何してるの……?」
伊佐波がメイド服を着て出迎えてくれたのだった。
なにがどうしてこうなっているんだろうか。
「私の贖罪です」
「贖罪?」
「音子を刺したってことで神和住家だけじゃなく、従姉の伊佐波家にも万家の怒りが向いちゃってさ。財前家としても看過できなかったからどう落とし前つけるんだってなってこれ」
「なるほど、わからん」
「香住姉さまを止められなかった自分にも罪がありますわ。もとより、香澄姉さまは私のためを思ってやってくれてたんです」
だろうねぇ。
私を刺したときも伊佐波のためだとヒステリックになっていた。
「というわけで、今日からしばらくよろしくね」
「ええ。任されましたわ」
今日からなんだ……。
「……今はもう音助様でよろしいのですのよね?」
「うん」
「知ってるの?」
「話したの。さすがに家では気楽に過ごしたいでしょ」
「まぁ……」
「最初聞いたときは驚きましたわ。万 百花様の体に男性のかたの記憶が……」
「あはは……。それでユキと付き合ってるって知ってドン引きでしょ?」
「いえ、腑に落ちましたわ。どうにも異性の距離間ではないなと前々から思っておりましたので」
あー、まぁ、たしかに異性の距離感ってのを意識してなかったかも。
「言いふらしたりしないでね」
「わかっております。私は負けた身ですので」
「ならいいけど……」
「荷物お持ちいたします。音子様」
と、荷物を手に取り、部屋まで運んでくれたのだった。
働き者になったっていうかなんていうか。あれからすごい丸くなったという感じがする。文化祭以前の伊佐波とは違い、とっかかりやすくなったっていうか。
雰囲気ががらりと変わった。失恋って人をこんなにも変えるんだな。
「それより音子様」
「もう音子でいいよ~。私の正体も知ってるし様づけされるとやっぱちょっとむず痒い」
「わかりました」
「それでなに?」
「……あの、厚かましいのですけれども」
「うんうん」
「……私たち、友達になりません、か」
「友達に?」
「あんなことしておいてなんなのですが……」
あんなことねぇ。
まぁ、確かに最初は気分良くなかったけど……。別に丸くなった今なら不快って思わないし、ユキと付き合うならそういう綺麗さも必要にはなるだろうと今ならわかっている。
ユキの隣に立つに値する価値があるかどうか。見定められるのも無理はない。
「いいよ」
「ありがとうございます……!」
とりあえず伊佐波との間に確執はすべてなくなったってことでいいんだろうか。
「つっても、私もちょっと打算あるかも。私より優里亜さんのほうが付き合い長いだろうし」
「よろしいですわ。情報が欲しいのならいくらでも」
「敵に塩を送るようなものだけどいいの? 別れたら奪うとか言ってるくせに」
「あなたたちが別れるのは死別以外にないでしょう?」
そりゃまぁたぶんそう。




