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ぎりぎりの瀬戸際

 俺が意識を失っていたころ、どうやら百花ちゃんが活動していたようだった。どおりで目覚めたのが病院でもなく保健室だったわけだ。

 1か月も俺は意識を失っていた……。ってことは俺がさっきまで溺れていたのは意識の中だったってこと? あのまま沈んでいたら二度と戻ってこなくなってたんじゃなかろうか。そう考えるとちょっと怖くなってきた。


「何はともあれ……よかった」


 ユキがほっと胸をなでおろしていた。


「で、いろいろと俺を起こすためにやってくれたようだけど……。最終的にどうやって目覚めさせたの?」

「……お前のやりたいことをまずは片っ端からやっていった」

「俺のやりたいこと?」

「いろいろとゲームしたりとか」


 ユキはいろいろと俺のためにしてくれたらしい。なんだか本当に申し訳ない。ただそれでも目覚めなかったって言う。


「……最終的には、な。その」

「目覚めさせるのは王子様のキスってことで」

「千智!」

「いいじゃん」


 王子様のキス……。め、目覚めた方法ってまさか……!?

 俺は咄嗟に自分の唇を触る。き、キスで目覚めたって言うの……? どこかの眠り姫みたく……? そう考えるとちょっと恥ずかしいんですけども!?

 恥ずかしいのはお互い様のようで、ユキも俺から視線を逸らしていた。


「ファーストキスってわけじゃないでしょお互い……。なんならすでにディープキスは済ませてるくせに」

「その、なんだ。あんときは助けなきゃって思ってたからすんなりとできたんだが」

「…………」


 初めてじゃないけど初めての時でも俺はものすごく恥ずかしかった。

 ユキと恋人になって初めてのキスが俺を目覚めさせるとき。響きだけで言えばロマンチックだが、キスしたという事実は少し恥ずかしいものもある。

 俺はいつまでたっても初心うぶだから。キスなんて音助として生きていたときでは一階もしたことがなかったから。


「初々しいお二人だこと……。私が場違いみたいじゃん」

「すまん……」

「いいよ。それよりもう帰ったほうがいいよ。太陽も落ちてきたし」


 夕日がどんどん沈んでいくのが窓から見える。

 俺はベッドから起き上がり、玄関まで向かう。お互い、何もしゃべらなかった。


「じゃあな、ね、音子」

「あ、あぁ」


 俺はユキが車に乗り込むのを見届ける。

 

「ユキ」

「なんだ?」

「ありがとう」

「……あぁ」


 ユキは車に乗っていってしまった。

 俺も千智ちゃんが乗っている万家の車に乗り込む。


「いやぁ、音子も目覚めて万々歳だね。死んじゃったかと思った」

「……多分実際死にかけてたと思う」

「マジ? わかるの?」

「その、俺音助の状態で暗い空間にいたんだ。どんどん沈んでいっていたから」

「……まじで瀬戸際だったってこと?」

「たぶん。ユキの手が急に伸びてきてさ、頑張って掴んだら引き上げられたんだ」

「うわぉ」


 意識には底はあると思う。だけど、底についた瞬間に俺は浮上できなくなっていたんじゃないだろうか。

 俺自身、今はものすごく珍しい状態になっている。二重人格……って言えばいいんだろうか。俺と百花ちゃんがこの身体の人格として宿っているから……。片方が沈んでしまっても人格が一つ消えるだけで生命維持には問題がないから……。きっとそうなっていたんだと思う。


「マジでぎりぎりだったんだあぶねぇー……」

「俺も、自分が消えなくてよかったよ」


 俺だって死にたくない。

 

「そういえば、神和住はどうなった?」

「あぁ、カッターナイフで刺したこと、殺人未遂で処理されたよ。実刑。財前家もとことん追い込んで鑑別所いき。動機が動機だから同情もなかったしね」

「そっか。伊佐波はどうなった?」

「伊佐波ねぇ。まぁ、うちにいけばわかるよ」


 うん?







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