文化祭二日目を乗り切れ! ①
メイド服に着替え、いざ出陣。
文化祭二日目、開業の時間となった。
「お帰りなさいませご主人様」
「あ、はいっ!」
俺は席へと案内していく。
お客の腕には紫色の紐が結ばれていて、これは主人として扱われたい人を差す。
メイドといえど、当主を相手するだけではない。
当然、客人のもてなしというのも業務にあるだろうということで、当主のような扱いを受けたいのならば紫色を、客人ならば黄緑色の紐を結ぶことになっていた。
それを確認し、俺らは対応を変える。
「お待たせいたしました、当主様が愛飲しているブレンドティーでございます。熱いのでお気をつけてくださいませ」
「こちら我が家が誇るブレンドのブレンドティーでございます。どうぞ、ご堪能あれ」
という風に言葉も変わる。
正直やりづらいけど、こういうコンセプトになっているのだから仕方ない。
次から次へとお客さんがやってくる。
大半が女子生徒なのはユキを目当てにやってきているのと、俺のほうをちらりと見る辺り、ユキの婚約者である俺を見定めに来ているのだろう。
あまり気分のいいものではないが、何も言わないでおくしかない。
「きゃっ」
と、一人の女子生徒のお客さんが紅茶をこぼしてしまった。
ユキが駆け寄っていく。
「大丈夫ですかお客様! 火傷はなさりませんでしたか!? ただちに拭きものをお持ちいたします」
「あ、いえ……」
メスの顔しやがって!
まぁ、たしかにめちゃくちゃ様になってた……。やっぱイケメンってずりぃ。
「あっ、やべっ!」
と、今度は大学生くらいの男の人がこぼしていた。
俺も見習いすぐに駆け付ける。
「大丈夫ですか当主様! ただいま拭くものをお持ちいたします!」
「あ、よいよい……。ハンカチ持ってるから……」
「それでは当主様のハンカチが汚れてしまいます。屋敷にはまだ使っていない清潔な布がございますのでただちに持ってまいります!」
小走りで取りに行く。
布を持ってきて、俺は濡れた個所を優しく布で撫でる。
「お、おう……」
「火傷はなさいませんでしたか?」
「だ、大丈夫です! むしろこぼしてラッキーでした! ありがとうございます!」
そういって元気になっていた。
俺は千智ちゃんにため息を吐かれる。
「そう簡単にボディタッチしちゃだめだよ」
「あ、ごめん。つい」
「役になりきるタイプなんだ音子って……」
ついメイド役ってなったらのめりこんでしまった。
多分こういうことはやる。セクハラ当主ならまだしも、まともな当主ならこうやって拭いてあげるのが仕事になってそうで。
やばいやばい。男同士ならまだしも今の俺は女の子なんだ。いや、男同士でもそれはそれで嫌だけど……。
そんなこんなで客をさばいていると。
「あら、随分と貧相な格好をなさっておいでですね、万様」
「伊佐波、さん……」
俺を敵視しているであろう伊佐波が店の中にやってきたのだった。
この状況は相当にマズイ。伊佐波は俺に恨みがあるだろう人物である。難癖をつけられていちゃもんつけそうな感じがプンプンする。