歌を歌おうか
気まずい空気の中、俺らは帰り道を歩いていた。
千智ちゃんも、ユキも一言もしゃべらない。まぁ無理もないが……。
車に乗り、まずはユキの家に向かうとき。
俺はカラオケ店の看板を見た。
「なぁ、こういう時はさ」
「ん?」
「歌おうぜ」
俺はカラオケ店に降ろしてもらい、カラオケ店に入っていく。
個室に案内され、気まずい空気の中、俺はそのまま曲を入れたのだった。音楽が流れ始め、俺はマイクを片手に歌い始める。
「バカサバイバー! 生き残れこれ!」
好きな曲の一つでもある曲を全力で歌う。
選曲はまぁ普通にあれだけど俺はとりあえずのどを作るためにまずは激しい曲だったり歌う。今はこの空気を変えるためにノリノリな曲を選んだまでなんだけど。
曲を一曲歌い切り、俺はマイクをおいた。
「ふぅー。あったまったぜ」
「この空気の中でその歌にするのか……」
「いーだろ? ハジけていこうぜ?」
「……」
千智ちゃんがちらっとマイクを見た。
「お、千智ちゃん歌う?」
「い、いやいい……。私歌下手だから……」
「デュエットもあるよ。俺と一緒に歌おうぜぇ?」
「……デュエットなら」
「千智ちゃんが好きな曲を入れていいよ。俺は歌詞見ながら歌うから」
というと、千智ちゃんはパネルを操作し、好きな曲を入れていた。
千智ちゃんはやはりというか、イメージ通りものすごくおとなしい曲。俺は基本的にロックとかそういうのを好むのだが、千智ちゃんはどうやらバラード系のほうが好きらしい。
静かな歌いだしで、千智ちゃんが歌いだす。
歌い終わり、千智ちゃんはマイクをおいた。
「んじゃ、次は順番的に俺だな。何歌おうかね……」
「もろみけんしは?」
「あー、いいな。最近の曲を歌うってのもアリか。じゃ、これだな」
ユキはマイクをもって歌いだした。
顔がいいユキは本当に男性アイドルのように歌がとても上手で、本当に焼ける。俺は合いの手を入れていると、突然扉のほうから視線を感じた。
扉の隙間からカラオケ店のバイトの子がユキが歌う姿を覗き込んでいる。
「ねぇ……」
「見られてるな」
「ユキってこういうのひきつけるよねー……。そういうところマジでむかつくー」
「本人はむしろ寄ってくるなって言ってるぐらいなんだから許してあげなさいよ」
まぁユキも視線には気づいてそうだけどな。
ユキが歌い終わり、今度は俺がまた歌を入れる。そして、歌が始まり歌いだそうとしたその時だった。
部屋の扉が突然開かれる。
いや、開かれたというより扉が倒れたというのが正しい表現だろうか。もたれかかっていた体重を支え切ることができなかったのか、それとも扉の老朽化で運悪く扉が取れてしまったのかは定かじゃないが、店員がこちらを向いて苦笑いしていた。
「申し訳ございません……」
「いや、いいんですけど……」
「…………」
ユキが明らかに不機嫌モードに入った。
黙ってしまい、じっと睨むかのような冷たい視線を向けていた。
「違う部屋に案内いたします! 申し訳ございませんでした!」