理不尽。
「アナスターシアさま。ご一緒にしてもよろしいですか?」
「ああ、先ほどの。でも、わたくしと一緒にいると他のご令嬢方からよく思われないかもしれませんし……」
「それなら大丈夫です。わたくし、こちらにいらっしゃる令嬢方とどなたとも交流はありませんし。きっと皆さま、わたくしがどこ誰かもわからないでしょうから」
「え? ですが、今日のパーティーにいらしているということは、貴女もどちらかのお家の方なのでしょう?」
「まあ、そうだと言えばそうなのですけど」
「ふふ。変な人。お名前をお伺いしてもよろしいかしら?」
「わたくしはエーリカと申します。バークレー男爵家の四女で、今はフォンブラウン侯爵家でおせわになっております」
「ああ、貴女が。フォンブラウン侯爵の御子息の奥様、エーリカ様だったのですね」
アナスターシアさま、わたくしのことご存じだったの?
と、少し驚いて。
ああでも彼女なら、本日の招待状の全てに目を通していらしてもおかしくはないかも。
そうも納得する。
流されて結婚をしそうになったところで婚約破棄だなんてものに見舞われ、きっと絶望をあじわられただろうに、自分の本当に好きだった人と結ばれることができたその行動力に。
尊敬と、羨ましさと、そんな気持ちが入り混じって湧いてくる。
「わたくしのこと、ご存じなのですか?」
「それは、まあ。このパーティーの招待状、わたくしが書きましたのよ」
そうほほえむ微笑む彼女。
「そういうことでしたか。ご招待頂きありがとうございました」
こちらも笑みを浮かべ、彼女の隣に腰掛けた。
両手に持った料理とグラスをそばにあったチェストに乗せて、彼女の方に向き直ると、
「ご婚約おめでとうございます。お幸せに」
あらためてそう云って。
「ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです」
そう笑顔で応えてくれたアナスターシア嬢。
それからしばらく、美味しいお料理の話とか飲み物の話とか会話が弾み。
アナスターシア嬢はお酒を召し上がっていたのか少し顔も赤みをさしてきたかなと、そう思った頃合いだった。
「エリカ! 帰るぞ!」
いきなり目の前にやってきてエーリカの手をひき無理やり立たせるジークハルト。
「旦那様!?」
力強い手でぐいぐい引かれ、逆らうこともできずその場を離れる。
「アナスターシアさま、ごめんなさい、また」
なんとか振り返りそれだけ云って会釈して。
アナスターシア嬢に申し訳ない気持ちと、ジークハルトの理不尽な行動への怒りとを感じながら帰宅の途につくエーリカだった。




