誤解。
「どういうことなのでしょう。旦那様」
馬車の中でずっと怒りを抑えていたエーリカ。
帰り着きジークハルトの着替えを手伝いながらそう云って。
もうマーヤが戻りジーク付きのメイドとして普段のお世話に戻っている。エーリカがお世話をする機会も常にというわけではなかったけれど、今夜はもともと帰りが遅い予定であったこともあってマーヤには本日の仕事は終わり仕舞いにさせていた。
だから。
今夜は自分の着替えより前にジークハルトの着替えを終わらせて、就寝の準備を整えてから自分の部屋に帰るつもりだったのだ。
しかし。
「いきなりあんな様子では王族の方々にもとても失礼で、不敬に思われてもおかしくないのではないでしょうか」
どうしてあんなことしたんですか!
あれじゃアナスターシア様を怒らせてしまったかもしれないじゃないですか!!
直接な言葉だったらこれ。だけれど。
流石に言葉は選んでそう云うエーリカに。
「あんな女とエリカが楽しそうに話しているのを見たら、腹が立つだろ!? そんなこともわからないのか?」
「あんな女、とは、アナスターシア様のことでしょうか?」
「ああ、そうだ。ほかに誰がいる!?」
「アナスターシア様は王族になられる方なのですよ? 春には婚姻だとお伺いいたしました。それなのに旦那様、周りの噂だけであの方をそんなふうに決めつけて。間違った情報、勘違いで人を非難するのはおやめください。それでは非難した旦那様の方が悪くとられます」
「っつ、お前になにがわかるというんだ!」
「わたくしは旦那様に貴族としての品位を落として欲しくないからそう諫言しています。それに、わずかな時間でしたけどアナスターシア様とお話しして、あの方の人となりは理解したつもりです。彼女はけっして旦那様の思うような女性ではないですよ?」
「王族としての地位欲しさに婚約者をすり替えても堂々としていられる女じゃないか。そんな厚顔な女、エリカには近寄って欲しくないんだよ!」
「ですからそれが誤解なんです」
「どこが誤解だ? 事実じゃないか!」
「最初の婚約は確かに政略的なものだったようです。国王陛下からの要望でことわることができなかったとそう漏らしていらっしゃいました。それでも本当はアナスターシア様は子供の頃からナリス様をお慕いしていらっしゃったのですわ。たぶんナリス様もそう。おふたりは幼馴染だったそうです。お互いのお母様が従姉妹同士で幼い頃からご一緒に過ごしていらっしゃったと、そう話してくださいましたわ」
「それは……」
「素敵ではありませんか? まるでロマンス小説のような純愛なんです」
「ほんと、なのか?」
「仲良くお話しさせて頂いている間に少しずつ聞き出しました。おおむね間違ってはいないはずですわ」
「そうか……。であれば……。俺の全くの思い違いということ、か……」
「そうですよ? 旦那様。お分かりいただけました?」
ぱんぱんとハンガーにかけた上着を叩き、整えてクローゼットにしまう。
そのままベッドも整えて。
「本日は湯浴みはどういたします?」
「もう遅いから悪いよ。君はお湯を使うのかい?」
「わたくしは軽く身体を拭くだけですけど」
「じゃぁ、そのついででいい。俺にもお湯とタオルを頼む」
「承知いたしました。ではわたくしも少し着替えてまいりますね」
「ああ。今日はごめん。エリカ」
ちょっとだけしょぼんとうなだれた表情のジークハルトに、少しだけ笑みを見せて、
エーリカは自分の寝室に戻った。
お湯を持ってくる時は夜着でいいかな。メイド服じゃなくっても。
そんなふうに思って。




