↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/145

第7話 一日目 魔力感知

「なあ……お前、いつ死ぬんだ?」


 嫌でも思い出すのは、ニコライの言葉。


「みんな、勇者と世界のために戦ってるんだ。お前みたいなクソガキは、死んで役に立たなきゃいけねえだろ……。なあ、お前は、いつオレたちのために死んでくれるんだ?」


 それと、最初の任務で同じ部隊の仲間が十人死んだこと。


 危なくなったらニコライが必ず来てくれるって、僕たちの勇者が言っていたのに――来てくれなかった。



 僕がいる家の外から、密偵ニコライが狼のように迫りくる。

 獲物は、もちろん僕だ。


「おいー!!」

 僕は、鳴き声を上げた使い魔の鴉に激怒する。

「カケル、最初の授業だ。密偵ニコライから逃げてみよう」

 鴉を通じて、魔法使いは笑っていやがった。


「って、先生は?」

「ソフィア様を連れて先に逃げた」


 僕を置いて!?

 ……いや、僕は囮。

 ソフィア様を逃がすためには最適解だと受け入れた。


 くそっ、ニコライから逃げろだって?

 冗談じゃない。今の僕にはアサシンの技巧スキルがあるんだ。返り討ちにしてやる!


 初めは、そう意気込んだ。

 けど窓からニコライの姿を一目見ただけで、アサシンの本能が告げる。


 ――うん、ムリ。


 今の僕では勝てない。

 僕は、背を向けて逃げることにした。

 家の廊下を走り抜け、ドラゴンのフロッティが四本脚で走ってついてくる。

 ニコライがいる反対側のドアを勢いよく開けて外へ飛び出すと、フロッティが肩に飛び乗るのを待ってから、


「ビューン!」


 移動呪文を唱え、廃村から空へ飛び上がった。


 取り残されたニコライが、空を見上げる。



『……逃げられたわね』

「どこ行った?」



 僕とフロッティは西に飛んで行って、大きな街の廃墟の前に降り立った。

 念の為、街の大通りを進んで、路地裏の建物の影に隠れる。


 僕は息を整えて、考える。

 フロッティは、僕の足元にちょこんと座った。

 アサシンのスキルを宿したはずなのに、どうして勝てないと思ったんだろう?


「まさかニコライは……アサシンより強い?」

「違う。君が彼の技を使いこなせていないだけだ。それができていれば、君はルナとだって互角に戦えた。あの子は随分と君を気遣ってくれたぞ」


 足元を見下ろすと、フロッティも向いている隣に、魔法使いの鴉がいた。


「ここに隠れたのはいい判断だ。合格点をあげよう」

「なんでいるんだよ!?」


 ウザい鴉に、僕はツッコんだ。


「そもそもあんたのせいでこうなったんだろ!!」

「だが果たして、本当に逃げられたかな?」

「えっ?」


 次の瞬間だった。

 空から何かが、街の入口の方へ飛んで来る。


 ――移動呪文だ!


 僕と鴉とドラゴンは、路地裏から顔を出して、街の入口の方を見る。

 そこに立っていたのは、やっぱりニコライだった。


 僕は慌てて、二匹は冷静に、また路地裏に隠れる。


 なんでニコライが移動呪文を!? 

 どうして僕の行き先が!?


 僕は勇気を振り絞って、街の奥へ逃げ出す。

 ドラゴンは走って、鴉は飛んでついてきた。



『……逃げたわね』

「ああ……ネズミみてえにな」



 アサシンの技巧スキルで気配を消し、《敵避コーコソ》と《加速ヒュン》の呪文を唱えて、建物の影に隠れながら走り続けた。


 異世界の暗殺者は、隠密と逃走の技だって超一流だ。

 このまま街の中に紛れ、逃げ切ってやる。


 そのはずなのに、ニコライは正確に追ってくる。


 そうだとわかるのは、僕は勘がよくて、アサシンの感覚センスが研ぎ澄まされているからじゃない。

 ニコライがわざと音を立てたり、瓦礫を崩したりして、僕に伝えているからだ。

 しかも足の速さを、いつでも追いつけるとばかりに僕の足に合わせていた。


 ――あいつ、遊んでいやがる。


 僕はたまらなくなって、また移動呪文で別の街の廃墟に逃げる。

 そうしたところで、ニコライがまた移動呪文で追ってきた。

 僕は街の中へ逃げて、たちまち同じ状況に追い込まれる。


 思わず逃げたその街は、最初の任務で十人の仲間が死んだ場所だった。



『さっさと捕まえて』

「いいじゃねえか。ずっとこうしたかったんだ。楽しませろ」

『……鴉だけには気をつけて』

「例の奴か?」

『ええ。手出ししないと言って、口出ししまくる最低最悪の魔法使い』



 クソ、クソ。わからないことだらけだ!

 ニコライは、どうして僕の居場所がわかるんだ?

 どうして勇者や聖女にしか使えない移動呪文ビューンが使えるんだよ!?


「移動呪文を籠めた呪符を使ってるのさ」

 そんな僕の心を読んで、鴉が横を飛びながら言ってきた。

「籠めてあげたのは、優しい聖女様だろう。ちなみに私も使えるよ」

 アーニャあああ! 

 ……いや、アーニャは悪くない。悪用されると知らずにやってあげただけだ!


「それじゃあ、僕の居場所がわかるのは?」

「魔力感知さ」

「魔力感知?」

「魔力を感じる魔術だよ。魔力の持ち主がどこにいるかがわかる」


 そんな魔術が……。


「魔術の基本さ。人間も魔族も使ってる。君もね」

「……へっ?」

「君の勘がよくなったのは、莫大な魔力をその身に宿して、自分でも気づかぬうちに魔力感知が使えるようになったからさ。《魔力感知マジフィ》とちゃんと呪文を唱えれば、もっと自覚的に感じ取れるだろう」

「そうだったの!?」


 それで、捜し物や敵の位置がわかるようになったのか。


「ただ……莫大な魔力は只でさえ外に漏れやすく、感知されやすい。そのために奴らは君を見つけられる」


 なんだって?


「移動呪文は、魔力を派手に放出して空を飛ぶ。君が飛んで行った後の空には君の魔力が残っている。それをニコライの後ろにいる奴が超広範囲の魔力感知で追えるから、君が飛んで行った先がわかる。猟師と猟犬が足跡と臭いを辿るように」

「足跡と臭いを猟師と猟犬が辿るように……」


「ニコライも、魔力感知が使える。だから君を追える」

「魔力感知なんて……僕、そんなの知らなかった」

「知らなくて当然だ。勇者が君に教えるべきだったのに隠していたのだから」

「……えっ?」

「君が偵察任務でいつも見つかっていたのは、自分の莫大な魔力を敵に魔力感知で察知されていたからだ」

「それが僕の弱点……」


 僕はショックで、立ち止まりそうになる。


「シリウスたちはそれを知りながら……僕にわざと隠していた!?」

「任務中、魔族に始末させるため。逃げた時にこうして追えるから。理由は色々あるだろうが、勇者のするべきことではない」

「……死んだんだ」


 あいつらに、最初から教えてもらっていたら……。


「最初の任務でこの街に来て……仲間が十人死んだんだ。ニコライが来てくれるって信じて、みんなで必死に逃げたのに……僕が見つかったせいで!」

「彼らの犠牲を背負え。誰のせいなのか、奴らに思い知らせてやれ!」


 魔法使いに檄を飛ばされ、僕は決意する。


「そのためにも教えよう。奴らの魔力感知を封じるための手段を、君は自分の中に既に持っている」


 なんだって。


「それって?」

「ここから先は、強くなるために自分で考えて。仲間のためにもだ」

「そんなこと言ってる場合じゃ……」

「落ち着いて。焦らずに。集めた情報を元に、殺す手段を自分自身で導いてこそ暗殺勇者。自分の中にある暗殺者の技と勇者の力を、君はどう使う?」


 どう使うって……。


 魔力感知を封じる?

 そのための手段は……僕の勇者の力?

 だから……僕が覚えた呪文?


「私が今まで言ったことを思い出せ」


 魔力感知は……魔術。だから!


「……《魔術消去マジポイ》」

「正解」


 魔法使いが笑ったのがわかって、僕はつい笑みがこぼれてしまう。


「……ずっと使えないと思ってた」

「大間違い。君の《魔術消去マジポイ》は、超使える!」


「……魔法の使い方というものを、教わらないといけないみたいだね」

「あとでたっぷり教えてあげよう――さあ、唱えろ!」

「《魔術消去マジポイ》!」



「――!?」

『……気づかれた?』



「ついてこい。北に向かうぞ」


 鴉の誘導に従って、僕とフロッティは逃げる。

 気配を絶ち、足音を消し、建物の影に隠れながら走り続けた。


 ニコライが追ってくる。

 凄まじい走りに変わった。僕よりずっと速い。

 僕の魔力感知とアサシンの感覚センスが、そうだと伝えてくれる。


 けど前と違って、真っ直ぐ追ってこない。

 途中で立ち止まったり、僕がいる方とは違う方向に行ったりする。


 いいぞ。

 《魔術消去マジポイ》のおかげで、魔力感知が効かなくなっているんだ。



『追える?』

「……黙ってろ」



 とはいえ、確実に迫ってきている。


「魔力感知は封じたはずなのに……」

「足跡は残る。足音は聞こえる。君がまだ消せていない痕跡を、奴は追っている」


 痕跡なんて、アサシンのスキルがほとんど消してくれているはずだけど、


「僕がアサシンのスキルを使いこなせていないから……わずかばかり残っている?」

「密偵ニコライは、この世界で最も優れた狩人ハンターだ。奴の見つける力に、君の隠れる力はまだまだ敵わないということだな」


 奴の追跡から、僕はまだ逃げられないということか。


「それで……あんたが案内する先には何があるのさ!?」

「喜べ。あの子が助けに来てくれている!」


 その時、背中に恐ろしい気配を感じて、僕は後ろを振り返る。


 僕たちが逃げてきた道の向こうに、ニコライが現れた。


 ――追いつかれた。


 僕を見て、あいつが笑った。


「ガキイイイイイ!!」


 その叫びが聞こえた瞬間には、ニコライが僕の目の前まで迫っていた。

 獣のような長い右手を、僕に真っ直ぐ伸ばしてくる。


 ――速すぎる。


 これが、密偵ニコライ。

 勇者パーティー三英雄の一人。


 そう思った瞬間、僕とニコライの間に、魔術の煙玉が投げ込まれる。


「おおおおー!?」


 煙玉が爆発し、ニコライの眼前に爆煙、閃光、悪臭、轟音が発せられて、奴を一瞬でも立ち止まらせた。

 それらは全て魔術によるものだったから、僕の《魔術消去マジポイ》が全て打ち消してくれる。


 煙に紛れ、誰かが僕の右腕を掴んだ。

 足元のフロッティに駆け寄ってきたのは、桃色のミニドラゴン!


「《魔術消去マジポイ》!」

 僕は、彼女にも魔術消去をかけてから、

「《移動呪文ビューン》!」

 彼女の腕を掴み取って、移動呪文でそこから逃げ出した。



『……逃げられたわね』


 煙に巻き込まれている密偵ニコライを残して。


『誰が助けに入ったかわかった?』

「知るか……あいつはどこ行った?」


『……追えないわ』

「……なんだと」


『魔力感知を無効化された状態で逃げられたから』

「チッ……」


『索敵範囲を広げた分だけ、感知力を落としたのが仇となったわね。そっちにもっと魔力を割いていれば追えたんだけど。どっちの入れ知恵かしら』

「使えねえ……。いつまでも逃げられてんじゃねえよ!」


『私が見ているから、彼は隠れていることしかできないと言ってほしいわね。私がいなかったら、あなたなんてイチコロよ』

「……あっ?」


『フフ。言い争いはこのへんで。二人目の勇者(あの子)がまだ未熟な内にさっさと捕まえて。アサシンも殺してくれたら言うことないわ』

「……いいぜ。やってやるよ」


『殺すのはダメよ。勇者さまが怒るから』

「あいつに伝えといてくれ……。行きてえところがあるってな」



「この格好で直接会うのは初めてだね」

 僕を助けてくれたのは、暗殺者姿のルナだった。

「ありがとう、ルナ」

 逃げた先の森の中で、僕はお礼を言った。


「メイドの仕事はどうしたの?」

「君のために事前に七日間休暇を取っていたの……アーニャは心配いらないって」

「そっか……。君が誰なのか、ニコライに気づかれてないかな?」

「それなら平気。さっきこの『秘密の指輪』を使ったから」


 ルナはそう言って、右手の人差し指にしてある金色の指輪を見せた。


「魔法使いがくれた私だけの魔法の道具。これを使うと一分間気配が消せるの」

「なるほど。それがあるから、スパイとして潜入していられるんだね」

「喜べ。しばらくルナと二人っきりだぞ」


 鴉の言葉は、スルーした。


 ルナは、アサシンに言われて駆けつけてきたらしい。

 ピンク色のドラゴンは、彼女の使い魔でフロッティと同種だそうだ。


 それとルナは、『鴉の黒羽根』を手にしていた。


「その羽根を使って、僕のところまで来れたんだ」

「そうだよ。移動呪文ビューンが籠められた魔法の羽根」

「私も使えると言っただろ」


 魔法使いが移動呪文を籠めた鴉の羽根か。


「さて、カケル。さっきの授業でわかっただろう」


 鴉に話しかけられて、僕は魔法使いと向き合う。


「君はまだ勇者を殺すどころか、その仲間から逃げることすらできない」

「十分思い知ったよ。誰かさんのおかげで命がけだったからね」


「それは何よりだ。君と敵は、互いに『隠れる力』と『見つける力』を持っている。奴らが魔力感知で君を見つけ、君が魔術消去で奴らから隠れたように」

「暗殺勇者になるためには……僕は二つとも身につけないといけない」

「そのとおりだ」


 それができなければ、僕は勇者と魔王を殺すどころか、密偵ニコライから逃げることすらできないんだ。


「そこでだ。今の君に、いい修行場所がある。ルナ」


 ルナが、《移動呪文》の黒羽根を使った。

 僕たちは北東の方角へ空高く飛んで、遠く離れた崖の上に降り立つ。


 崖の上から見えたのは、のどかな山の風景。

 高い山々に囲まれ、緑豊かな森に覆われた美しい光景だった。


「ここは……」

「アインズガーデン。西方の人間たちと東方の魔族たちの世界の境目として、時に歩み寄り、時に血塗られてきた大地だ」


 鴉が、僕の足元に並んだ。


「今は、戦争の真っ最中。町が一夜で滅ぼされ、互いの部隊が森と崖に潜み、昼も夜も眠れぬ日々を送っている。今の君を鍛えるのにもってこいの場所だろう?」

「知ってる……。確か十二魔将の一人、蠍魔女スカーレットがどこかに潜伏して、兵や冒険者たちが探し回っているけど、ずっと見つけられていないんだっけ?」

「密偵ニコライと因縁深き相手だ」


 その言葉に驚いて、僕は鴉を見下ろした。


「『まずは一週間』と言ったね。最初の一週間で、ニコライとスカーレットを殺せるようにしてやる。ただし、殺すかどうかは君が決めろ」


 鴉の嘴の中から、死神が告げる。


「カケル、君の最初の暗殺だ。密偵ニコライから隠れながら、蠍魔女スカーレットを見つけ出せ。二人についてよく調べ、よく考え、自分で決めるんだ。二人を殺すか否かをな。暗殺勇者の隠れる力と見つける力、《シャドウ》と《アイズ》で」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。