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キャバリア・スラップスティック  作者: シベリウスP
暗黒領域・魔王決戦編
159/171

Tournament159 The Demon King’s Army hunting:2(魔王軍を狩ろう!その2)

アルケー率いる魔軍は、ついに攻撃を開始した。魔軍2万を相手に『勇士の軍団』本隊は6千の兵力で決死の陣地戦を挑む。その結末は?

【前回のあらすじ】


魔王を確実に倒すため、『勇士の軍団』と別行動を取ることになったジンたち。

だが、それを見破ったアルケー・クロウは、エピメイアからマロンを守るため、マロンに戦場の一時離脱を勧めるのだった。


     ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★


 アルケー・クロウが率いる魔軍2万は、陣地に拠る『勇士の軍団』本隊6千に襲い掛かった。


「本当に来たか。霧が深いうえに、街道を外れたらどこに沼や池があるかも分からない地形なのに攻めかかって来るとは、アルケー・クロウは自分の戦闘力が高いゆえに集団戦の指揮官には向いていないのかもしれないな」


 シールは天幕の中でそうつぶやくが、戦況が心配で松葉杖をついて外に出る。相変わらず、20メートルほどしか視界はないが、これでも一日のうちで最も霧が薄くなっている時間だ。


「傷の具合はどうだ、シール?」


 そこに、衛兵を引き連れてオーガ侯スピリタスがやって来た。右腕を肘から失った彼は、剣を右の腰に佩いていた。


「ごらんのとおり、何とか魔力で傷口は塞いでいる。松葉杖こいつを操りながら戦うのはなかなか面白いぞ?」


 そう言って笑うシールを頼もしげに眺めながら、スピリタスはうなずき、


「うむ、余も左手で剣を扱うのは久しぶりだ。だが、このような事態も想定内だからな、すぐに慣れるさ。それよりも……」


 そう言いながらシールの側に近寄り、


「魔軍の数は推定2万。ワイバーンやらコンドルやらの空を飛ぶ魔物は、そなたの予想どおり沼や池の上を飛んで攻撃してきている。『地上で頑張る奴らを空から援護する』という発想はないようだな。うはははは……」


 そう言う。シールは陣地がある『霧の湿原』の地形を見て、『空を飛べる魔物は池や沼の上を通って攻撃してくる』と考え、湖沼の陣地側には弓兵を展開させていたのだ。


 シールは真剣な顔でうなずいて訊く。


「戦況はどうだろうか? 急ごしらえだが堀と柵があれば、魔王以外なら何とかなるとは思うんだが」


「心配ない。この陣地は両翼をかなり深くて大きい湖に依託しているから、霧の中では迂回も難しいだろう。敵の第1波は約4千が街道沿いと北東の湖の上を通ってやって来ているが、もうそろそろ撃退の報告が来るはずだ」


 ご機嫌で言うスピリタスに、シールは忠告する。


「だが、配置の工夫が通用するのも第1波に対してだけだ。敵さんだって諦めるつもりはないだろうからな。第2波は敵さんだって工夫するだろう。

 わしの部隊から1個大隊をスピリタス殿の陣の北側にある細道に送って防御させよう。今のところ、この陣地の防御はその方面が最も危険だからな」


「ああ、あの細道か。あそこは狭いし崩れやすい地形だから、大きな部隊は通れないだろう。余の部隊から1個中隊を送っておこう。

 それよりワイバーンたちが陣地の後ろに回り込んだ場合が怖いぞ?」


「この陣地を全周陣地にして、全軍の半分を予備にしているのは、その攻撃を想定してのことだ。空を飛ぶ奴らは心配していない、占領ができないからな。

 だが、ナスホルンやティーガー、パンテルたちが進出してしまったらことだぞ。それを防ぐためにも、北の小道はせめて1個大隊でしっかり防御してくれ」


 シールの真剣な表情に、スピリタスは初めて笑顔を引っ込め、真面目な顔で答えた。


「分かった。前回の戦役でもマイティ・クロウ様に適宜適切な献策をしてきたお前が言うことだ、ちゃんと1個大隊を送って、しっかり守らせることにしよう」


 その時、ユニコーン侯国部隊の伝令が走って来て、


「敵部隊が敗走していきます。追撃の許可をお願いいたします!」


 そうシールに報告する。シールは厳しい顔で首を振った。


「それは敗走ではない、戦略的撤退だ。追撃は認めない。現在地をしっかり確保せよ」


 そう鋭い声で命令し、次の瞬間には表情を緩めて、


「全兵員に、『よくやった、次の攻撃も跳ね返せ』と伝えてくれ」


 そう言うと、伝令は一瞬笑顔になり


「はい!」


 そう答えて前線へと引き返していった。


 遠ざかる伝令の後姿を見ながら、スピリタスが訊く。


「シール、この陣地を守れるか?」


 するとシールは笑って答えた。


「わしもスピリタス侯も、いくつもの修羅場を潜りぬけて来たではないか。今、この陣地が陥ちると思うか?」



「第1波のワイバーン連隊とナスホルン連隊が撃退されたか」


「はい。我がワイバーン連隊は、防御施設がない湖沼の上を飛んで敵陣の背後に回り込もうとしましたが、弓兵の組織的迎撃に遭いました。戦死戦傷5百です」


「ナスホルン連隊は街道沿いに進み、敵の防御施設を2か所で突破しましたが、罠と弩弓の雨を浴びまして。戦死戦傷9百で、防御施設も奪回されました」


 『髑髏の谷』にある本陣で、アルケー・クロウは攻撃失敗の報告を受けていた。やって来た両連隊長は、面目無げに顔を伏せているが、アルケーの機嫌は思ったほど悪くはなかった。


「まあ、そんなに気落ちするんじゃない。第1波はあくまで様子見だ。攻撃に当たって何が不利に働いたか、君たちの意見を聞きたいな」


 アルケーが優しくそう言うのを、二人は意外そうな表情で聞いていたが、すぐにワイバーン連隊長が、


「霧です。霧のために矢がどこから飛んでくるのか分かりませんでしたし、その発見も遅れました。敵は矢に魔力を込めていませんでしたし」


 そう言うと、ナスホルン連隊長もうなずいて、


「こちらも同様です。特に弩弓の発見が遅れたことが致命的でした。霧さえなければ、ワイバーン連隊に空から弩弓を抑えてもらいながら前進できるのですが」


 そう答える。


 アルケーはうなずくと、


「よく分かった。君たちのおかげで敵陣の弱点が分かって来たよ。ご苦労だった、兵たちにもよくやったと伝えてくれ。第2波の攻撃は追って指示するので、君たちは地上部隊と空中部隊から、次の攻撃部隊を選んでおいてくれ」


 そうねぎらって、二人の指揮官を部隊に戻した。


 アルケーは立ち上がると、臨時に指揮所としている崖の上の天幕から出て、遠く『霧の湿原』を眺める。


「……あの霧は、ミストリたちが発生させているんだったな」


 そうつぶやくと、アルケーはすぐに転移魔法陣を発動した。


 アルケーが姿を現したのは、深い霧に覆われた湖の真ん中にある島だった。


「あら、『魔族の祖』様が一体何用で?」


 アルケーの姿を見たひとりの乙女が、ゆっくりと近付いて来て訊く。長い銀色の髪に細い身体を白い布で覆い、青い瞳がアルケーを見て輝いていた。


「相変わらずアヴァロンは平和だな」


 アルケーが言うと、乙女はうなずいて答える。


「霧は何もかもを隠しますゆえ」


「その霧を、しばらく払ってもらう必要がある。『摂理の黄昏』のために」


 アルケーがそう言うと、乙女はうなずいて、


「そう、もうそんなに時間が経ちましたか。では、1週間」


 そう言うと、アルケーもうなずき、


「分かった。恩に着る」


 そう言って踵を返す。その背中に、乙女が語りかけた。


「マロンには会って行かれませんの?」


 アルケーは後ろ姿のまま、


「マロンはまだ忘却の淵にいるんだろう? まだ彼女に現状を思い出してもらいたくはないんだ。会わないのが無難だろう」


 そう答える。


「……マロンはあなたの名前をしきりに呼んでおりますが?」


 乙女の言葉に、アルケーはぐっと手を握りしめたが、


「……会えば俺の心が乱れるんだ。あと少ししたら会いに来ると伝えておいてくれ」


 そう言い捨てて、サッと転移魔法陣を発動した。



 次の日、スピリタスは突然早朝の来訪にたたき起こされた。


「国主様、ユニコーン侯国戦士長様がおいでです!」


 スピリタスはその声でハッと目覚める。そして悪い予感がした。理由は判らないが、早朝にシールが来訪したことや、衛兵の不安のこもった声を聞いてそう感じたのだ。


「すぐに参る。司令部の幕舎でお待ちいただけ」


 スピリタスはそう天幕の外に怒鳴り、急いで身支度を整える。そして天幕を出た瞬間、先ほど感じた悪い予感の理由を知った。


「……霧が……晴れている、だと?」


 スピリタスは、昨夜まで見通せなかった陣地の様子が見えることに驚き、それは霧が晴れてしまったからだと気づいた。


 ブワサッ、ブワサッ!


 スピリタスは、空から聞こえる羽ばたき音に、思わず天を振り仰ぐ。ワイバーンだろうか、2・3匹が悠々と空を飛び、陣地を見下ろしている。攻撃準備のためだろう。


(……これでこちらの配置は敵さんにバレバレか。シールが何を言ってくれるかだな)


 そう思いながら天幕に入ったスピリタスは、シールが陰鬱な顔で座っているのを見て、わざと陽気に話しかける。


「シール、朝の散歩には少し早いんじゃないか? 今日も敵さんを存分に叩いてやらにゃならんのだ。寝不足では頭も回らんし、身体のキレも落ちるぞ?」


 そう言って自分に目の前に腰かけたスピリタスに、シールはいきなり言った。


「スピリタス、わしは撤退を勧める」


「……霧が晴れたからか?」


 スピリタスの言葉に、シールはうなずいた。


「この陣地の強度は、霧が支えていた。霧のおかげで敵は陣地の構成も、配置も判らず、ただ闇雲に突っ込んできて陣地構成を知って行くという方法を取らざるを得なかった。


 だが、霧が晴れた今、敵はワイバーンとかで陣地を空から偵察し、こちらの手の内をすっかり見通すだろう。それに、北の小道が見つかるのも時間の問題だ。


 ここは急いで撤退し、遊撃部隊と手を握ろう。遊撃部隊も陣地に依って魔王を待ち受けていると聞いた。そこに合流しよう」


 シールは必死の面持ちだった。『勇士の軍団』の副司令官として、21年前にも『右鳳軍団』を指揮しマイティ・クロウに従った彼は、誰よりも『勇士の軍団』を誇りに思い、そして部下の将兵を愛していた。


 そんなシールにとって、ジンのいない戦場で部下たちを危険に晒し、戦死させることは到底容認できない状況だろう。『同じ死ぬなら英雄のもとで』……そんなシールの願いがスピリタスにはよく解った。彼とても同じ気持ちではあったからだ。


 だが、スピリタスは静かに微笑むと、首を横に振った。


「シール、余はここで『左龍軍団』が全滅しても、余自身が討ち死にしても、一向に構わぬぞ? なぜなら、魔軍をここにできるだけ拘束し、余らが全滅するにしても魔軍も道連れに全滅させれば、『勇士の軍団』の誉れと伝説は永久に残るからな。


 そもそも、余らはジン殿のために囮になっている部隊だ。囮の役割も果たさず後退できはしない。そんなことで『勇士の軍団』のこれまでの武勲いさおしを汚すわけにはいかんのだ」


 笑顔でそう言い切ったスピリタスの顔を、シールはじっと見つめていた。長い時が経ったかと思われたが、数分の沈黙の後、シールは静かに口を開いた。


「……敵は全周攻撃に出るでしょう。『四囲は必ずく』というように、北側にわざと隙を作って将兵の脱出を誘うかもしれませんが、兵員には『ここを死処とする』ことを十分に指導してください」


「……ありがたいな、シール。余と共に死んでくれるか。アンタレス侯にはヴィザーヤ・ヤジュロフからお詫びとお礼を伝えさせよう」


 シールの眼を見て言うスピリタスに、


「……では継嗣様と内務主幹に、ヤジュロフ様の護衛をさせましょう。ですがスピリタス殿、わしはまだ勝負を投げてはいませんぞ。ですから死に急いではなりませんぞ」


 力強く言うシールだった。


 スピリタスは万感の思いを込めた瞳でシールを見て、


「うはははは、シールは最後の一兵になって寸土に追い詰められても、勝利を諦めない主義だったな。余も同じだ、首が胴に繋がっている限りは戦いを止めぬ主義だ。

 アルケー・クロウも余らのような者の相手をせねばならんとは、至極気の毒な奴だな」


 そう豪快に笑った。


   ★ ★ ★ ★ ★


 『勇士の軍団』本隊が守る陣地への攻撃第2波は、第1波が後退して2時間後に始まった。今度はコンドル連隊がパンテル連隊とデビルゴート連隊を援護する、空陸一体の攻撃を仕掛けて来た。


 パンテル連隊は街道筋を、デビルゴート連隊は北の小道を主攻線として激しい戦闘が3時間も繰り広げられたが、パンテル連隊は2千のうち5百の、デビルゴート連隊は連隊長以下1千7百の死体を遺棄して撤退した。コンドル連隊も2千のうち1千が撃墜されて命を落としたため、魔軍側は攻撃参加将兵6千のうち3千2百の戦死と、損害は5割を超えていた。


 『勇士の軍団』の方の損害は『左龍軍団』で3千のうち3百を、『右鳳軍団』は3千のうち2百を失っただけだった。


「さすがは『勇士の軍団』だ。だが、我らは1週間もすれば兵員や物資の補充を受けられる。対して奴らには補充する兵員なんてものはない。攻めろ、攻め続けろ!」


 アルケー・クロウから指揮を引き継いだナスホルン連隊長は、アルケーの指示どおり『主攻撃は街道筋から、補助攻撃は北の小道から指向し、空陸一体で陣地線を突破する』作戦を基に攻撃を仕掛け続ける。


 だが、軍事的センスがアルケーに比べ数段落ちるナスホルン連隊長は、戦闘指導上いくつもの失策を犯し、それが結果的に『勇士の軍団』の壊滅を遅らせた。


 第3波の攻撃では、北の小道を攻めたティーゲル連隊がグライフ連隊の協力のもとで北の陣地を突破した。


 しかし主攻撃を担当したトイフェルカッツェ連隊が第3の陣地帯に引っ掛かってしまった時、それを督戦するだけで援軍を送らず、ティーゲル連隊にも特に指示を出さなかったため、せっかく陣地帯中央部にまで突進できたかもしれないチャンスを失ってしまった。


 しかも、ティーゲル連隊にも援軍を送らなかったために、この連隊はせっかく1千もの損害を受けつつも奪取した北の陣地を確保できず、なすところなく攻撃発起地点に戻ってしまった。


 さらに、トイフェルカッツェ連隊は深く入り込んでしまっていたため撤退に難渋し、遂に第1防御線まで戻ったところで連隊長以下全員が戦死または戦傷し、ここに丸々1個連隊が消えてしまった。


 第3波は、魔軍攻撃参加将兵6千のうち損害は4千5百にも達したが、『勇士の軍団』側は北の陣地を守っていた『左龍軍団』に6百、『右鳳軍団』に4百の損害が出た。


 この段階で『勇士の軍団』本隊の兵力は、『左龍軍団』2千2百、『右鳳軍団』2千7百、計4千9百だった。ただし、この段階で『勇士の軍団』は、ヤジュロフの連絡隊5百を分離しているので、陣内に残る兵力は4千4百である。


 一方で、魔軍の方はすでに8千5百の兵力を戦線から失っていたが、まだ1万1千5百もの大軍だった。


「ふん、どれだけ魔軍が押し寄せようと、余とシールがいる限りこの陣地を落とせるものか。いくらでも無駄な努力をするがよいわ!」


 戦闘指揮所に戻って来たスピリタスは、大剣を血振りして戦場を睥睨し、そう笑う。しかしシールは浮かない顔だった。


(総大将たるスピリタスが護衛隊を引き連れて前線に立たねばならない状態になったか。わしも左足が奪われていなければ、スピリタスと肩を並べて戦えるのだが……)


 シールは考えた末、得意とする槍は従者に持たせ、弓を執って前線に出ることにした。自身を護衛する護衛隊士は、隊長以下10名を残し、残りはすべて戦死した大隊長以下の各級指揮官として部隊に出したのだ。


 陣地は平地に造られていて、高台というものは北の陣地を除けば他にはない。そのためシールは1メートルほどの踏み台を護衛の兵に持たせていた。


「よし、次の迎撃で危ない場所が出た場合、わしもそこに赴く」


 シールがそう決意した1時間後、もう日がだいぶ傾いた午後4時頃、運命の第4次攻撃が始まった。



 魔軍では、連隊長たちが集まって攻撃案を見直していた。


「アルケー様がいらっしゃれば、霧のヴェールが無くなった陣地など、容易く占領できるのに」


「思ったよりも被害が大きいのは何故だ? トイフェルカッツェ連隊など、第3防御線まで攻め込んだにも関わらず全滅だぞ?」


「こうなったら、まともな編成の連隊を全部投入して、遮二無二あの陣地を占領するか」


 8人の連隊長たちは、侃々諤々の議論を交わしたが、ゴブリン連隊長がふとこんなことを口にした。


「そう言えば、第3波ではティーゲル連隊が北の陣地を占領したんだよな。なぜ先に進まなかった?」


「敵を敗走させたは良かったが、その段階で損害が7百に達していたんだ。俺たちをそこの占領に残し、ヴォルフ連隊でも送ってもらえたら、敵陣の背後に出られていただろうな」


 ティーゲル連隊長がそう言う。


 すると、今まで軍議を黙って聞いていたフックス連隊長が、ナスホルン連隊長に言う。


「なぁ、先任連隊長さん。あの陣地の弱点はやはり北の小道だぜ。あそこは進撃もし辛いが防御も大人数じゃできない。『勇士の軍団』だって1個大隊5百人ほどしか置いていなかったろ?

 けれどさ、攻める方は工夫すれば1個連隊で行けるってのはティーゲル連隊で証明されている。だからさ、主攻撃を北の小道に向けちゃどうかな?」


 フックス連隊長が言うのはこうだった。


 まず、北の小道にはヴォルフ連隊とグライフ連隊を向けて攻撃。


 正面にはエレファント連隊を向け、ワイバーン連隊とコンドル連隊が援護する。


 北の小道の陣を破ったら、ヴォルフ連隊とパンテル連隊が敵陣後ろに回り込み、敵陣を後方からも攻撃する。北の陣地はティーゲル連隊で確保する。


 正面の『勇士の軍団』が下がったら、エレファント連隊はゴブリン連隊と共に敵を押していく。ナスホルン連隊とフックス連隊は全軍予備として最後尾を進撃する。


 この計画を聞いて、全員が了承した。


 こういった計画のもとに、第4波の攻撃は行われたのだった。


「……敵の主攻線が変わった。北の陣地がこの戦いの焦点になるだろう。あそこには今、1個中隊ほどの兵しか配置できていない。あそこは抜かせるわけにはいかん!」


 当初、『霧の湿原』陣地は、街道より北側はオーガ族の『左龍軍団』が、南側はユニコーン族の『右鳳軍団』が守るという分担を行っていた。

 しかし何度かの防衛戦で損害が出たこともあり、第4波を迎え撃った時には、北から右鳳軍団第1連隊、左龍軍団第1連隊、右鳳軍団第2連隊、左龍軍団第2連隊とサンドイッチ状になっていた。


「スピリタスが正面を抑えているから、魔軍が力で正面を突破することはあり得ない。北の陣地を守れれば、今度の攻撃も撃退できるはずだ。」


 シールはそう確信し、


「北の陣地に向かう。第1連隊第3大隊は我に続け!」


 と、4百人ほどの部隊を自ら率いて北の陣地に向かった。


 シールが陣地近くまで近寄った時、すでに魔軍はヴォルフ連隊2千で攻撃を開始していた。北の陣地には1個中隊80人ほどの人員しか詰めていなかったが、


「ここは抜かせられないぞ。ここが抜かれたら、敵が陣地の後ろに回り込んでしまう!」


 全員がこの陣地の重要性に気付いていたため、死に物狂いで戦っていた。


「陣地守備隊よ安心せよ。ユニコーン侯国戦士長シール・レーズン推参っ!」


 ビュンッ! バフンッ!


 シールは踏み台の上に立ち、ヴォルフたちの陣列に矢を次々と射込む。ユニコーン族は雷属性なので、魔力が乗った矢は単に敵を貫くのではなく、途中で炸裂して感電を起こす。


 そのため、シールの『雷箭』を受けた敵は、次々と地面に倒れた。


「よしっ、この間に陣内に入るぞ」


 シールは援軍と共に北の陣地に入ることに成功した。


 一方、第1連隊長オルト・メタノリスは、シールが僅かな手勢で重要拠点の防御に向かったことを知り、


「戦士長殿をお助けせねば」


 と、第1大隊、第2大隊の9百人を連れてヴォルフ連隊の退路を断とうと、北の小道へと向かっていた。


 だが、メタノリス連隊は、ヴォルフ連隊に追従していた魔軍のパンテル・ティーゲル2個連隊2千4百と遭遇し、あっという間に包囲されてしまった。


(いかん、ここで殲滅されてしまったら、敵は北の小道を使わずに陣地中央部まで突進してしまう。ここは辛いが、何としても包囲を突破して元の位置まで戻るしかない)


 苦渋の決断をしたメタノリスは、槍を携えて先頭に躍り出し、


「みんな、俺に続け! 元の位置に戻るぞ」


 そう叫んで走り出す。二人の大隊長や部下たちも、メタノリスに遅れまいと走り出した。


「退けっ! 邪魔だっ!」


 ドスッ!

「げっ!」


 バンッ!

「ぐほっ!」


 メタノリスは何とか重囲を脱し、元の位置でティーゲル連隊を待ち受けたが、連隊長を討ち取られていたティーゲル連隊は、パンテル連隊に挨拶もなく戦線を離脱してしまった。


 ティーゲル連隊の動きを見て、陣内部に通じる隠し道が他にもあることを知ったパンテル連隊は、ヴォルフ連隊救援に1個大隊を派遣し、残り2個大隊でメタノリス右鳳軍団第1連隊の後を追って来た。


「来たか、性懲りもなく」


 パンテル連隊の接近を察知したメタノリスは、急報を隣にいる左龍軍団第1連隊に飛ばし、自らは7百の将兵と共にパンテル連隊を待ち受けていた。


 この時パンテル連隊長は9百人を率いており、メタノリスの第1連隊の兵力を半分ほどだと認識していたため、簡単に撃破できると考えていたようだ。


 だが、メタノリス連隊の陣地前の隘路で射すくめられているうちに、メタノリスからの急報を受けた左龍軍団第1連隊長エル・カンタービレが派遣したカンタービレ連隊第3大隊と挟撃され、パンテル連隊長以下8百人もの死者を出して後退してしまった。



 陣地北側は混戦模様だったが、東正面の戦況は膠着状態になっていた。


 こちらには左龍軍団第1連隊の主力がスピリタス侯と共にあり、それを支えるのはナディア・パラメータ率いる右鳳軍団第2連隊とアザッス・ストロニコフが指揮する左龍軍団第2連隊である。


 対する魔軍はエレファント連隊2千を主力とし、ワイバーン連隊とコンドル連隊1千2百が空から援護する。そしてゴブリン連隊2千が第2梯団として控えており、全軍予備としてナスホルン連隊1千とフックス連隊2千があった。


 兵力的には『勇士の軍団』が不利だったが、正面の防御施設は幾重にも造られており、さらに逆襲のための工夫もされていたため、敵は最初から今まで第3の防衛線を抜くことができなかった。


 その最たる例が、第4波のエレファント連隊である。この連隊は身体が大きく表皮が堅い将兵で構成され、ナスホルン連隊と共に最強を謳われる部隊だった。


 しかし、エレファント連隊が第2の防御線を突破し、少し広い曲輪に出た時、


「待っていたぞ。余はオーガ侯国国主であり、『勇士の軍団』総司令官でもあるスピリタス・イエスタデイ。アルケー・クロウと人混ぜせずに戦いたい。臆せず出てこい」


 そう言いながら、身長2・5メートルを超えるオーガ戦士が、大剣を肩に担いで立ちはだかった。


「スピリタス・イエスタデイか。そなたの勇名は21年前から聞き及んでいる。一度は剣を交えてみたかった相手だ。みな、邪魔をするな」


 そう言いながら巨大なハンマーを抱えた戦士が出て来た。身長も横幅も、スピリタスと同じか若干大きく見える。


「貴様、アルケーではないな?」


 スピリタスが言うと、エレファント連隊長はせせら笑って、


「ははは、『魔族の祖』たるアルケー・クロウ様には、貴様のような者と戦う暇はない。

 代わりと言っては何だが、魔王第3親衛連隊アイン・エレが相手してやる。相手にとって不足はないぞ?」


 するとスピリタスは、大剣を背中の鞘に戻し、


「引っ込め! 貴様程度が余の前に立てると自惚れるんじゃない。アルケーに命が惜しいなら降伏せよ、そうでないなら早く一騎打ちに応じろと伝えるんだな」


 そうエレを睨んで決めつけた。


 エレ連隊長は、怒りで顔を真っ赤にし、広い耳をバタバタさせて言う。


「身の程知らずめ! このハンマーが受け止められるか!?」


 エレは巨大なハンマーを振り上げると、一気に間合いを詰めて振り下ろす。ぶううんっ!……と空気を切り裂く音が聞こえ、続いて鉄の塊が肉体を叩き潰す嫌な音が、聞こえなかった。


「なっ!?」


 代わりに周囲に聞こえたのは、エレの当惑の声だった。


「……遅い。これで余の頭でも潰すつもりだったか? 余を誰だと思っている?『伝説の英雄』ジン・ライム殿の麾下にある『勇士の軍団』総指揮官だぞ?」


 スピリタスは、巨大なハンマーを自分の頭上で止めていた。それもいとも容易く。


「う、うるさいっ! ちっとばかし馬鹿力な程度で悦に入るなっ!」


 エレはそう言いながらハンマーを押し下げる腕に力を籠める。しかし、スピリタスががっちりとつかんだハンマーは微動だにしない。


「うおおおっ! 魔王様麾下随一の怪力であるオレが、たかがオーガに力で負けるなどありえんっ!」


 ぐぐぐっ……エレの腕の筋肉が膨れ上がり、額にはミミズのように青黒い血管が怒張する。しかし、スピリタスは相変わらず左腕一本でハンマーを握りしめ、涼しい顔をしている。ハンマーの位置は微動だにしない。


「貴様、余が右腕をアルケーから取られていて助かったな? 本当なら、これが止められた時点で、貴様の胸には風穴が開いているところだがな」


 スピリタスは唇を歪めてそう言うと、カッと目を見開き、


「だが、余もそう暇ではない。お遊びはここまでにしようじゃないか」


 そう言うと、エレの手からいとも容易くハンマーをもぎ取った。


「ぐおっ!? まさかっ!?」


 エレは今まで得物を取られたことがなかった。そのため、一瞬自分の身に何が起こったか理解できなかった。


「隙を衝かれれば、どんな強者もそこで終わりだ!」


「げええっ!」

 ブジュリュッ!


 転瞬の早業でもぎ取ったハンマーをつかみ直すと、スピリタスはエレの頭に叩きつけた。エレの頭は断末魔の叫びと共に血煙りを上げて消し飛んだ。


「ここはオーガ侯スピリタス・イエスタデイが守っている。死にたくなければ近寄るな!」


 ぶうんっ!


 スピリタスはハンマーをエレファント連隊に向かって投げつける。幾体もの魔物が、ハンマーに潰されて消し飛んだ。


「あわわわ、連隊長殿が……」

「あいつ、化け物だぁ!」


 蜘蛛の子を散らすように逃げ去る兵士たちを眺めて、スピリタスは勝利の微笑を浮かべながら言った。


「ふん、シールが考えたこの陣地、余が守れば金城鉄壁だ。思い知ったか!」


   ★ ★ ★ ★ ★


 さて、東正面で主攻のエレファント連隊を撃退したスピリタスだったが、陣地の運命は急速に暗転する。


 エレファント連隊長の戦死と連隊の敗北を知った魔軍の指揮官代理、ナスホルン先任連隊長は、すぐさま後続のゴブリン連隊と共に前進することを決心した。


「だが、このまま前進しても埒はあきません。

 隘路で全身が遅くなっているところにスピリタスが出てきたら、これまでとまったく変わらない経過をたどるのは火を見るより明らか。


 ですから、指揮官代理殿は北の街道脇を通る道を使って、敵陣地のど真ん中に進む姿勢を示しては?」


 フックス連隊長はそう言って、ゴブリン連隊を東正面に進ませ、自分とナスホルン連隊は北の陣地を攻撃する部署へと変更する案を提示した。


「北の陣地にはヴォルフ連隊がかかっているが苦戦しているようだ。足場が悪くて狭い場所だ。3千もの部隊が展開する余地はないだろう?」


 ナスホルン指揮官代理はそう言って難色を示したが、


「まあまあ、フックス連隊長の意見を聞きながら進めばいいですよ。俺はちゃんと正面を抑えておきますから、後ろは気にせず戦ってください」


 ゴブリン連隊長の言葉に従って出撃した。


「なるべく派手派手しく行進しろ。脳筋スピリタスをこっちに釘付けにするんだ」


 ゴブリン連隊は、連隊長の指示どおり、鉦や太鼓を鳴らしながら行進し始める。その情報はすぐにスピリタスの許に届き、彼を呆れさせた。


「やれやれ、魔軍の奴らは何も学ばないんだな。では、余がもう一度思い知らせてやらねばなるまい」


 スピリタスとしては、北の砦で奮闘しているシールのことが気に掛かったが、第1連隊長エル・カンタービレから、第3大隊を右鳳軍団第1連隊の支援に送った旨の報告があったため、安心していた。


「また性懲りもなく魔軍が攻め寄せて来た。余が出陣して蹴散らしてやる。司令部護衛隊と第2連隊第3大隊は余に続け!」


 かくして、スピリタスは5百名を率いて、第1連隊第1大隊、第2大隊が布陣する前線へと押し出して行った。



 一方こちらは北の陣地である。シールが4百名を引き連れて加勢に訪れたため占領は免れていたが、相変わらずヴォルフ連隊の猛攻を受けていた。


 ただ、シールをはじめとする弓兵や弩弓兵の活躍もあり、ヴォルフは攻めあぐねていた。


「くそっ! 攻撃開始から1時間が経とうとしているのに、まだ柵一つ、塹壕一つ手に入れていない。弓や弩弓のせいで損害ばかりが増えていく。どうしたものかな」


 ヴォルフ連隊は5百人を定数とする大隊4個でできている。そのうち第2大隊はすでに壊滅し、第3大隊も大隊長以下2百の損害を受けて後退を要望してきている。


 ここで第1大隊を投入して戦局を変えられればいいが、そうでない場合はなけなしの第4大隊まで投入することになりかねない。


(第4大隊がなければ、陣地の占領など思いもよらない。これはいったん第3大隊を下げ、応援の部隊を待つしかないか……)


 懊悩の末、ヴォルフは第3大隊に後退を命じた。第3大隊で戻って来たのは2百人余りで、苦戦の様子がしのばれた。


「第2大隊長は柵を乗り越えたところでシールの矢に当たって爆散しました。それを見た第2大隊の兵たちは統制が取れなくなり、あっという間に壊滅してしまいました」


 辛うじて生き残り、第3大隊の兵をまとめていた第13中隊長がそう報告する。攻撃にかかった2個大隊10個中隊のうち、中隊長は彼ただ一人が生還したというのだから、北の陣地の攻防戦がいかに激しかったか、攻める側がいかに不利だったかが分かる。


「分かった、ご苦労だった。貴官が第3大隊長心得として残兵をまとめておいてくれ」


 ヴォルフはそう言って中隊長を下がらせる。そして怨嗟のこもった瞳で北の陣地を睨みつけた。


(現状での兵力は、第1大隊4百、第3大隊2百、第4大隊4百、計1千か……たった1時間で連隊の兵力が半分になるとはな。これはどうしても、シール・レーズンを討ち取らねば、ここは落とせないだろうな)


 一方でシール側も、ヴォルフ第3大隊が退いたことで少し余裕ができていた。


「矢が少なくなってきたな。それにメタノリスは他の敵に捕まったのか、援軍に来ない。

 このままではじり貧になるから、誰かをメタノリスのところに送るか」


 シールはそう決心して、心利いた部下を呼び出し、


「そなたは補給部隊百人を率いて軍団司令部に至り、物資の補給をすると共にメタノリス第1連隊長に北の陣地への援軍を要請せよ。第1連隊が援軍を出せなければ、ナディア・パラメータ第2連隊長に援軍を要請してくれ」


 そう命令し、なけなしの守備兵から抽出した百人を急ぎ『右鳳軍団』司令部へと送り出した。


 右鳳軍団司令部は、参謀のソフィア・アルタイルが主導していたが、アルタイルの脱出以降は実務要員だけが残っていた。


 伝令となった護衛隊員は、まずもって軍団司令部に行って矢などの補給品を受け取ると、


「君たちは先に北の陣地に戻ってくれ。防衛には欠かせない補給品だから、一刻も早く戦士長殿の許にお届けしたい」


 そう依頼して、百人の補給部隊を先に陣へと戻した。


 そしてその足で、第1連隊本部を訪れ、メタノリス連隊長に陣地の現状を訴えた。


「守備兵は3百に満たず、戦士長殿が自ら弓を引く状況です。ヴォルフの部隊は大損害を与えて撃退しましたが、このままでは兵力差から陣地を占領されてしまいます。

 どうか1個大隊でも援軍をお送りください」


「……戦士長殿の状況は判る。しかし、敵がこの小道の存在を知ってしまった以上、この小道の防御もゆるがせにはできないんだ。

 左龍軍団第1連隊から第3大隊を援軍で回してもらったが、それもすぐに前線へと引き抜かれてしまった。よって我が連隊7百がここを動いたら、陣地の内部を引っ掻き回されてしまう」


 メタノリスは苦しげな表情でそう答える。実際問題として、彼は現在地の防御で手いっぱいで、とても援軍を出せる状態ではなかった。


 そのことは伝令も理解したので、何も言えずに黙ってしまう。


 そんな伝令を見てメタノリスはうなずき、


「パラメータに援軍を出すよう言ってみよう」


 そう言いながら、お付きの副官を呼び出した。


「戦士長が北の陣地で奮戦されている。すぐにでも援軍が必要な状況らしい。

 すぐに第2連隊本部に至り、この書簡を渡して援軍を要請してくれ」



 だが、メタノリスの手配は少し遅かった。彼の副官が第2連隊本部を訪れたときには、北の陣地にフックス連隊が襲い掛かっていたのだ。補給品が間に合ったのがせめてもの幸いだった。


「今まで被害ばかり多くて敵にさしたる打撃を与えられなかったのは、あまりにも無理押しをしすぎたからだ。こちらも敵と同様、まずは矢を射込むんだ。できれば火矢がいいな」


 フックス連隊長は狡猾だった。力で押すより相手を翻弄するのが得意な彼は、部下にそう言ってまずは矢戦を挑ませたのだ。しかもご丁寧にも、部隊全員に弓を持たせているという徹底ぶりだった。


 先鋒を命じられた第1大隊長は、まず部隊を遮蔽するために土塁を築き、将兵には置き盾を持たせて前進した。そして遮蔽物の後ろに位置を占めると、中隊ごと一斉に火矢を放たせる。


「放てっ!」

 ザザザッ!


 5百の矢は、小鳥の群れのように羽音を残し、煙を曳いて飛んで行った。


 シールの方は新たな敵が現れたことを知り、今までのように踏み台に登って敵を観察する。そして深刻な表情でつぶやいた。


「ふむ、マズいな。すぐにかかって来ないところを見ると、奴らも矢戦を挑んでくるのかもしれない」


 そしてシールはすぐに部下に注意を促した。


「魔軍が戦のやり方を変えるようだ。矢戦を挑んで来るかも知れない。全員、遮蔽物の近くにいるか、置き盾を準備せよ」


 シールの命令を受けて、弓兵は置き盾の後ろに隠れ、弩弓手は弩弓の前に置き盾を立てる。そして槍兵などは、いつでも持ち場に近い塹壕にもぐり込めるよう心の準備をした。


 やがて、敵は簡易的な遮蔽物を造り上げる。狭い道しか通っていない場所をわざわざ構造物で塞ぐのであれば、魔軍はこれまでのようにすぐに近付いては来ないと見たシールは、


「弩弓手、魔軍は火矢を打ち込んでくるかもしれない。弩が燃えないように注意しろ。

 それと全将兵、消火準備も整えておくんだ。柵が燃え落ちれば、敵はそこから侵入して来るぞ」


 再度全員に注意を促した。


(……今、この陣地には3百を少し超えるだけの兵員しかいない。わしの弓を封じられ、防御施設を焼かれれば、この陣地は守れない。

 そうなったときは、『瘴気の密林』にある物資集積所に逃げ込んで態勢を整えるしかないだろうな)


 シールの見立てでは、北の陣地方面にはまだ4千ほどの魔軍がいると考えていた。それでも防御施設があれば、そして援軍が来れば、この陣地は守れる。


 だが防御施設が破壊されれば、敵の突進を抑えながら陣地の西側まで撤退するしかなく、そこに全軍を集めて乾坤一擲の野戦を行う腹積もりだった。


(その態勢まで持っていければ、スピリタスが勝利をもぎ取るだろう。少なくとも、ここの魔軍はジン・ライム殿を邪魔することはできなくなるはずだ)


 ザザーッ!


 不意に空中から羽音が聞こえて来る。シールはそれが何かを確認する前に、急いで踏み台を降りて遮蔽物に身を隠した。


 ザザザザザッ!


 間一髪、5百筋の矢が陣地のあちこちに突き立つ。その内のかなりの数が、木の柵に突き立って炎と煙を噴き上げ始めた。


「火を消せ!」


 陣内のあちこちでそんな声が聞こえる。兵士たちは水瓶や井戸からくみ上げた水を担いで走り回るが、火の手はなかなか鎮まらない。敵の矢が断続的に打ち込まれるので、消火作業を思うように進められないのだ。


(……敵の矢の勢いを見ると、最大に仰角をかけて射こんでいるようだ。とすると、陣地中央まで矢を打ち込める射手はいないと思われる。だったら、わしが迎え矢を放って敵の射手の心胆を寒からしめるか)


 そう決心したシールは、念のため革鎧の紐を締め直し、鎧袖も少し高めに結わえ付けた。そして踏み台に登ると、シールは敵の遮蔽物に狙いを定める。


「……わが『雷箭』、受けてみよ」

 バシュンッ!


 魔力が乗ったシールの矢は、青い光の筋を残して一直線に飛んで行き、敵が苦労して作った遮蔽物に突き立った。


 バオウンッ!

「うわっ!」

「げっ!」


 シールの矢は、突き刺さると同時に炸裂し、遮蔽物を破壊する。岩の欠片や石が弾け飛び、それが周囲にいた敵兵を薙ぎ払った。


 ズドン、ボカンッ!

「ぐあっ!」

「げへっ!」


 次々と突き立つシールの矢は、遮蔽物を散々に吹き飛ばし、フックス連隊第1大隊に大きな損害を与えつつあった。


「くそっ! 相手はただ一人なのに。誰か、あの射手を仕留めるものはいないのか!?」


 第1大隊長がそう叫んだ時、


 バフンッ!

「がっ!?」


 シールの矢が大隊長の横に立っていた副官に突き立ち、炸裂する。大隊長もそのあおりを受けて、身体中に副官の血を浴びながら吹き飛ばされた。


 だがその瞬間、大隊長の言葉が聞こえていた数人の弓兵は、思い切り弦を引いて矢を放っていた。


「よし、もう少しで敵の遮蔽物を根こそぎにできる。敵が丸裸になったら、弓兵、矢の雨を浴びせてやれ!」


 シールがそう叫びながら弓を引いた時、


 ザシュッ!

「うむ!」


 飛来した矢がシールの右目に突き立った。


 ザシュッ!

「うぐっ!」


 痛みを堪えて矢を引き抜こうとしたシールの首筋を、2筋目の矢がえぐった。


「……全軍、陣地を捨てて第1連隊と合流せよ。急げ!」


 シールは弓をかなぐり捨ててそう叫ぶ。シールの思わぬ命令に、全員が驚いてシールに視線を向ける。


 ドスッ!

「ぐ……」


 北の陣地の将兵が視線の先に見たものは、真額を射抜かれて後ろにのけ反り、踏み台から落下するシールの姿だった。


 ユニコーン侯国戦士長シール・レーズン。21年前の『魔王の降臨』の時も『右鳳軍団』を指揮して『暗黒領域』にその名を轟かせた勇士は、43歳を一期として『霧の湿原』に散った。彼の戦死が、『勇士の軍団』の終焉の始まりを告げる弔鐘となる。


   ★ ★ ★ ★ ★


 シールの戦死は、戦局を大きく魔軍側に傾かせることになった。


 遠くシールの落下を見たフックス連隊長は、しばらく様子を見ていたが、いつまで経ってもシールが再び姿を現さないことから、


(シール・レーズンは、少なくともすぐには立ち直れない傷を受けたに違いない)


 そう判断し、


「敵の司令官を仕留めたぞ! みんな、後は殺戮だ。突撃っ!」


 自ら剣を抜いて真っ先に駆け出した。第1大隊長がそれに続く。


 連隊長と大隊長の突撃を知らされた第2大隊以下の3個大隊も、それに引き続いて突撃に移った。とは言っても狭い道である、多数が一度に押し寄せるというようなものではなかった。


 それが幸いし、シールの戦死を目の当たりにして茫然としていた将兵は、フックス連隊の吶喊の声を聞いてハッと我に返り、


「戦士長殿の敵討ちだ! 全員ここで戦死せよ!」


 次席指揮官は、シールの『撤退して第1連隊に合流せよ』という遺命を無視することに決め、壮絶な『玉砕命令』を発した。


 ユニコーン族には、他の種族にはない特徴がある。それは、各々が額に持つ角を通じて魔力を連結したり、拡散したりできることである。


 この時も、次席指揮官の念が全員に乗り移ったのか、3百の将兵全員の角が青広い光を帯び、そして全員が全身を雷電のような魔力に覆われた。


「な、何だ、こいつらは!?」


 異様な光景に目を見開き、思わず立ち止まったフックス連隊長は、全身の毛が逆立つようなぞわぞわした空気に包まれた。


(落雷!? まさか、雲一つない夕暮れだぞ!?)


 フックス連隊長が諦めと恐怖の中でそう思った瞬間、その周囲は青白い強烈な閃光に包まれていた。


 ズガガーンッ!


 天地を揺らす大爆音と、一瞬、太陽が戻って来たかのような強烈な光が北の陣地で起こった。


「何事だっ!?」


 北の陣地のすぐ近くで、小道を守っていた右鳳軍団第1連隊長オルト・メタノリスは、変事に驚いて思わず丘の上を見上げる。北の陣地があったところからもうもうと煙が上がり、幾千とも数えきれないほどの何か黒いものが宙を舞い、ゆっくりと地面に落下してくるのが見えた。


「……戦士長殿が?」


 気が動転していたメタノリスだが、目の前の光景をはっきり認識した時、シールの戦死と北の陣地の陥落、そして魔軍の全滅を理解した。


「副官、すぐに左龍軍団第1連隊とナディア・パラメータ連隊長に伝令を出せ。『シール戦士長殿散華。直ちに陣地からの出撃が必要と認む』だ。

 ナディア連隊長には別に、『貴連隊挙げて第1連隊に合流せよ』と伝えてくれ。急げ!」


 そう命令を出すと、北の陣地の異変を見て本部に駆けて来た第1大隊長と第2大隊長に、


「いいところに来た。これから連隊本部は北の小道を使って敵の右翼に攻撃を仕掛ける。

 第1大隊が先鋒、続いて連隊本部。第2大隊はその後に続け。すぐに出撃するんだ!」


「はいっ!」

「了解致しました!」


 二人の大隊長が部隊に駆け戻るのを見て、メタノリスは本部部員を呼集する。


「軍団長殿が散華された。連隊は軍団長の遺命に従い、魔軍殲滅のために敵右翼に夜襲を仕掛ける。雑魚を討ち取るのは大隊の将兵に任せ、本部部員はただ敵の将のみを狙う。よろしいか!?」


 メタノリスの命令で、本部部員の顔色が変わった。死中に活を求める乾坤一擲の行動だと理解したのである。


「副官、君はここに残り、第2連隊長に私の行動を伝え、後に続くよう我が命を伝えてほしい。作戦終了まで、伝令たちと共に第2連隊と行動を共にせよ」


「分かりました!」


 副官がそう答えた時、第1大隊から出撃準備完了のラッパが聞こえて来た。それを聞いたメタノリスは、暮れていく空を見上げた後、本部部員に告げた。


「行くぞ。虎穴に入らずんば虎子を得ず、臆した時は死ぬ時と思え!」



「ふむ、あの動きは陽動だな。とすると奴らの狙いはシールが守る北の陣地ということか」


 スピリタスは、左龍軍団のほぼ全軍と右鳳軍団の1個大隊で守る東正面の前線で、寄せ来ると見せて動かず、動かないと見せて寄せ来るゴブリン連隊の動きを見てそう看破した。


「……シールが率いる兵は6・7百はあるはずだが、敵の連隊が複数、車掛かりで来られたらキツイだろうな」


 そう独り言ちたスピリタスは、参謀のランドルフ・マッカートニーを見て訊く。


「マック、シールに援軍を送りたい。どの部隊なら出せる? もちろん、今余の陣営で合力してくれているシールの大隊とは別にだ」


「第1連隊第3大隊を総予備にして、第2連隊第3大隊を右鳳軍団第1連隊が守る陣に送られては?」


「うむ、さすればシールは北の陣地から2個大隊で進撃すればよいのか。よし、そうしよう。すぐに手配を」


 スピリタスがそう言った途端、遥か後方で一瞬まばゆい光が閃き、次いで数千の雷が一度に落ちたような轟音が響き渡った。


 ズガガーンッ!


「何事だ!? 北の陣地の方から聞こえたぞ?」


「すぐに見て来させましょう。小隊斥候を出します」


 マッカートニーが伝令や使者でなく小隊斥候を選んだのは、この異変が北の陣地防衛戦に関係があると睨んだからだ。右鳳軍団は北の陣地を中心に防御している。今朝から幾度も攻撃目標になって来た北の陣地に異変が起こったとすれば、そこに敵軍が関わっている可能性は極めて高い。


「むむ……小隊斥候の派遣を許可する。まずは状況を把握しないとな。それと、この変事で目の前の敵に何か動きがあるかもしれん、余の名でシールの各連隊に命令を下すこともあるやもしれぬゆえ、司令部命令で注意喚起しておいてくれ」


「分かりました。先ずは偵察の結果をお待ちください。前面の敵が攻めてきたら、一旦は無視しましょう」


 マッカートニーの言葉にスピリタスはうなずいたが、その目は煙に包まれた北の陣地方面に向けられている。


「シールに限って遅れは取らぬと思うが……」


 そうつぶやくスピリタスの顔には、言い表しようのない翳がまとわりついていた。


 それからの1時間は、スピリタスにとって最も長い時間だった。変事を受けてゴブリン連隊が初めて矢が届く所まで前進してきたが、スピリタスは敢えてそれには構わず、手出しも控えさせた。


 ゴブリンたちは最初こそおっかなびっくりだったが、左龍軍団に何も動きがないことを見て取ると、途端に悪態をついたり、見るに堪えない動きで挑発したりと、好き放題やらかしていた。


「……魔物め、こっちが相手にしないと、やりたい放題、言いたい放題だな」


 第2連隊長のアザッス・ストロニコフが苦虫を噛みつぶしたような顔で言うと、


「まあ、好きにさせておけ。どうせ俺たちが前進し始めたら、ちびって逃げ出すような奴らだ。こんな戦闘の場に出て来たのがいっそ不思議なくらいの種族だからな」


 第1連隊長のエル・カンタービレが手厳しいことを言う。


 二人の会話を聞いていたスピリタスは、呵々大笑して、


「うはははは、カンタービレ連隊長の言うとおりだ。小物ほど図に乗りやすく、謀りやすい。北の陣地の状態によっては、『()()()()()()()()()()を行うことになるだろう。

 その時は、魔物という魔物を討ち取って、有終の美を飾ろうではないか。頼むぞ、ストロニコフ、カンタービレ、そしてマッカートニー」


 口にこそ出さないが、すでに四人とも、右鳳軍団の指揮官であるシール・レーズンの戦死を薄々感じていた。あれがシールの仕掛けた罠に魔軍が引っ掛かっただけならば、とっくにシールから報告があっているはずだからだ。


 そこに、やっと小隊斥候が帰って来た。その報告は、さしものスピリタスをして顔色を無からしめるものだった。


 いわく、北の陣地は完全に吹き飛んでおり、守備隊はシールと共に全員戦死と思われる。


 いわく、魔軍の1個連隊はそこで壊滅。その後ろから1個連隊1千が追従していたが、北の陣地の爆裂を見て後退中。その先にも1個連隊1千ほどの部隊が休止している。


 いわく、空を飛べる魔物は、すべてが爆発の影響を受けて吹き飛んでいる。よってワイバーンやグライフなどの姿は見えない。


 それを聞いて、スピリタスは身体中から魔力を噴き出して立ち上がった。


「むむむ……余の親友、年来の戦友たるシール・レーズン戦士長は、ついに『勇者の楽園(ヴァルハラ)』に召されたか! 余はこのままではアンタレス殿に顔向けがならん。

 全軍、すぐに発つぞ! 目の前のゴブリンどもを蹂躙しさらに前進して、魔軍を根こそぎにするのだ。アルケー・クロウがいる所まで押し通るぞ!」



 シールの復仇に燃えるスピリタスは、『出撃・殲滅』を決めたが、すぐに動くことはなく、数十もの小隊斥候を発出して、魔軍の位置や動静を探り始めた。


 そして夜明けには、魔軍の位置と戦力はおおむね判明していた。


 まず、北からヴォルフ連隊9百、ティーゲル連隊5百、ナスホルン連隊8百、エレファント連隊3百、パンテル連隊2百が並んでおり、スピリタス軍の前面にはゴブリン連隊1千5百が戦うでもなく陣を張っていた。


 一方で『勇士の軍団』は、右鳳軍団第1連隊6百が北の小道から魔軍に突進を開始しており、第2連隊1千がそれに続いている。


 そしてスピリタスが率いる左龍軍団は、2個連隊で2千。これに右鳳軍団第1連隊第3大隊3百が付属していた。


 魔軍4千2百に対し『勇士の軍団』は3千9百。まだ劣勢とはいえ、対峙当初と比較したら、ずいぶんと彼我の兵力差は縮まっていた。


 しかも、魔軍は連隊単位でバラバラに散らばっているのに対し、『勇士の軍団』は大きな2本の枝として進撃している。メタノリス率いる劣勢な右鳳軍団主隊1千6百ですら、各個に魔軍と交戦すれば撃破可能である。これが、スピリタスに野戦を選ばせた理由であった。


 魔軍は左龍軍団の出撃にはすぐに気が付いた。怒涛のような攻撃で、ゴブリン連隊1千5百が瞬殺されたからである。


 ナスホルン指揮官代理は、すぐさま自分の部隊とエレファント連隊、パンテル連隊、そしてゴブリン連隊の生き残り計1千5百で左龍軍団を迎え撃った。

 ナスホルンとしては、自分の兵団で左龍軍団を抑えているうちに、ヴォルフ連隊とティーゲル連隊、それにゴブリン連隊の脱走兵計1千7百が右鳳軍団主隊を撃破して左龍軍団の側翼を叩いてくれることを計画していたのだ。


 左龍軍団を抑えていたナスホルンは、エレファント連隊長代理をエル・カンタービレに、パンテル連隊長代理をアザッス・ストロニコフに討ち取られながらも、自身でカンタービレとストロニコフを討ち取り、何とか戦線を支えていた。


 だが、右鳳軍団の方は、ヴォルフ連隊長がオルト・メタノリスに、ティーゲル連隊長がナディア・パラメータに討ち取られ、両連隊は壊滅。右鳳軍団がナスホルン隊の背後に回ったことで勝敗は決した。


「サイのバケモン野郎! あとはお前だけだ。観念して首を置いていけ!」


「退きなさい! 生きて帰りたければ、私の前に立たないことね!」


 メタノリスとパラメータの突進に、ナスホルン連隊は陣形を崩した。

 二人の姿を遠望したナスホルンは、反対側から突進してくるスピリタスを見つけると、巨大なハンマーを振り回しながらスピリタスの方へと駆けだす。


 メタノリスとパラメータは、そんな敵の大将を見て、


「大将はこっちの大将に任せようか。俺たちは雑魚が二人の邪魔をしないよう、掃除をしてやろうぜ」


「了解。これで戦士長様も少しは慰められるでしょうね」


 と、残敵掃討にかかっていた。


 スピリタスはナスホルンが近付いて来るのを見ると、


「敵将に手を出すな! 道を開けて差し上げろ!」


 大声で味方の兵士に呼びかける。兵たちはスピリタスの命令どおり道を開け、ナスホルンをスピリタスの目の前まで通した。


「久しぶり……といってもまだ1日も経っていないのか。余に勝つ工夫はしてきたか?」


 スピリタスが冷たい声色で訊くと、ナスホルンはニヤリと笑って答える。


「いや。ただ、同じ死ぬなら貴様のような戦士の手に掛かりたくて推参しただけだ。

 魔王様の配下、ノイン・ナスホルン。部下や同胞の仇、覚悟せよ!」


 ナスホルンはそう名乗ると、ハンマーを振り回しながら突進してくる。


 スピリタスは、左手でゆっくりと大剣を抜き放ち、一言つぶやいた。


「余は、余の半身を奪った恨みを晴らすぞ」


 駆け寄るナスホルン、立ち尽くすスピリタス、二人の距離が互いの指呼の間に入った時、


 ジャガギーンッ! ドババッ!


 火花が盛大に散り、鉄が焼ける匂いが立ち込める中、鉄を鉄が斬り裂く音と、肉を断つ音が響いた。


「……さすが、『伝説の英雄』の仲間だな……」


 ナスホルンは、そう言って斃れた。


「……余も終生の仲間を失ってしまった。戦のならいとは言え、慣れぬものだ」


 辛そうに言ったスピリタスが顔を上げた時、彼の目に映ったのは信じられない光景だった。


「何だ、奴らは?……」


 スピリタスが見たのは、『勇士の軍団』の将兵たちを次から次へと屠っている人物だった。金髪で長身、黒いフード付きマントを着て、手には水晶玉のような法器を持っている。


「待てっ、パラメータの仇っ! 貴様、人間じゃないな!? 名を名乗れっ!」


 メタノリスが叫んで斬りかかるが、その人物はメタノリスの斬撃をいともたやすく外すと、


「……無理だな」


 そうつぶやいたと同時に、


 バシュンッ!

「グあっ!?」


 メタノリスの腹に大穴が開き、


「……出てくるといい」


 ブジュルジュルルジュルルジュル……

「がああーっ!」


 腹腔から内臓を引きずり出し、メタノリスを振り回した。


 ビチビチッ、バシュンッ!

「ご!」


 腸がちぎれる音と共に頭から地面に叩きつけられたメタノリスは、一言発して絶息する。


「……魔族も人間も、同じだけの血を……」


 余りの光景に立ち尽くすスピリタスに、その人物はそう言って躍りかかった。


   (魔王軍を狩ろう!その3に続く)


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

『勇士の軍団』は、魔軍主力2万の殲滅と引き換えに全滅しました。シール・レーズンはジンの仲間であるラムの、スピリタス・イエスタデイは『ドラゴン・シン』のウォッカの父になります。

二人の戦死が、娘や息子のどんな影響を与えるか、それが今後の魔王やエピメイアとの戦いでどんな結果を生むか、ちょっと想像がつきません。

それに、最後の最後で現れた金髪の魔導士。その正体が何者なのかも気になります。

次回は、魔王と『勇士の軍団』遊撃部隊との戦いになります。お楽しみに。

★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

【主な登場人物紹介】

■ドッカーノ村騎士団

♤ジン・ライム 18歳 ドッカーノ村騎士団の団長。典型的『鈍感系思わせぶり主人公』だったが、旅が彼を成長させている。いろんな人から好かれる『伝説の英雄』候補。

♤ワイン・レッド 18歳 ジンの幼馴染みでエルフ族。結構チャラい。水の槍使いで博学多才、智謀に長ける。『PTD7・淑女』と共に『PTD6・ナルシスト』を倒した。

♡シェリー・シュガー 18歳 ジンの幼馴染みでシルフの短剣使い。弓も使って長距離戦も受け持つ。ジン大好きっ子で負けフラグをへし折った『幼馴染ヒロイン』。

♡ラム・レーズン 19歳 ユニコーン族の娘で『伝説の英雄』を探す旅の途中、ジンのいる村に来た。魔力も強いし長剣の名手。シェリーのライバルである『正統派ヒロイン』。『右鳳軍団』に先行し、ジンと合流を果たした。

♡チャチャ・フォーク 14歳 マーターギ村出身の凄腕狙撃手。謎の組織から母を殺され、事件に関わったジンの騎士団に入団する。シェリーが大好きな『百合っ子ヒロイン』。

♡ジンジャー・エイル 21歳 他の騎士団に所属していたが、ジンにほれ込んで移籍してきた不思議な女性。闇魔法の使い手で、『PTD4・幽霊』を倒すも、右腕を失った。

♡メロン・ソーダ 年齢不詳 元は木々の精霊王マロン・デヴァステータだがその地位を剥奪された。『魔族の祖』アルケー・クロウの関係者で、彼を追っている。現在ジンたちとは別に『先遣隊』を率いて行動中。

♤ダイ・アクーニン 28歳 賢者ストックの息子で卓越した知力と魔法を誇る弓使い。魔王を目の敵にし、傭兵隊長だったコア・クトーや錬金術師のシロヴィン・ボルドーとともに先遣隊に加わった。現在、マロンと行動中。

♡アイリス・ララ 『PTD10・ドール』を名乗り、ジンを瀕死に追い込むほど善戦した自律的魔人形エランドール。ジンの魔力マナで再起動し、新たに仲間となった。

■トナーリマーチ騎士団『ドラゴン・シン』

♤オー・ド・ヴィー・ド・ヴァン 21歳 アルクニー公国随一の騎士団『ドラゴン・シン』のギルドマスター。大商人の御曹司で、頭も切れ双剣の腕も確かだが女好き。

♤ウォッカ・イエスタデイ 21歳 ド・ヴァンのギルド副官。オーガの一族出身である。無口で生真面目。戦闘が三度の飯より好き。オーガの戦士長、スピリタスの息子。『左龍軍団』を連れてド・ヴァンと合流した。

♡マディラ・トゥデイ 20歳 ド・ヴァンのギルド事務長。金髪碧眼で美男子のような見た目の女の子。生真面目だが考えることはエグい。狙撃魔杖の2丁遣い。

♡ソルティ・ドッグ 21歳 『ドラゴン・シン』の先鋒隊長である弓使い。黒髪と黒い瞳がエキゾチックな感じを醸し出している。調査・探索が得意。

♤テキーラ・トゥモロウ 年齢不詳 謎の組織から身分を隠して『ドラゴン・シン』に入団した謎の男。いつもマントに身を包み、ペストマスクをつけている。現在、ド・ヴァンの許可のもと、『暗黒領域』で単独行動をしている。

♤ブルー・ハワイ 25歳『ドラゴン・シン」の遊撃兼偵察隊長である槍使い。金髪碧眼で観察力と記憶力に優れる。変装に優れ、情報を分析する能力に長ける。

♡メアリー・ブラッドレイ 25歳『ドラゴン・シン』で物資調達を引き受けている槍使い。ド・ヴァンを詐欺ろうとして失敗、許されて彼に心酔し仲間になった。

■退場した仲間たち

♡レイラ・コパック 博識で氷魔法の使い手。スナイプのスカウトで加入した。『PTD5・法律家』を倒すも『PTD3・道化』に止めを刺された。享年17歳。

♡ウォーラ・ララ ジンの魔力マナで再起動した自律的魔人形エランドール。彼に献身的に仕えたが、『PTD2・戦士』との戦いで相討ちとなった。

♡ガイア・ララ 謎の組織の依頼でマッドな博士が造ったエランドールでウォーラの姉。『PTD1・学生』と対峙したが、相討ちとなって果てた。

♡エレーナ・ライム(賢者スナイプ)28歳『賢者会議』の一員だった才媛。ジンに自身が人工生命体ホムンクルスであることを明かし『風の宝玉の欠片』を譲る。『PTD3・道化』を倒すも、『道化』が残した瘴気に侵されてしまったが、マーリンの秘薬『諸刃の韻律』によって命は救われた。現在、視力を失いマーリンの許にいる。

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