第二十話 運命の双子
前回
岬守航と虻球磨新兒が久住双葉を連れ去った為動機神体を追って雲野研究所に潜入している間、殺人鬼・折野菱の監視に残された虎駕憲進と三日月由奈は武装戦隊・狼ノ牙八卦衆の一人、土生十司暁と交戦していた。
優位に立った虎駕だったが油断から折野菱の解放を許してしまい、折野は土生と相打ちになり命を落とした。
一方、怪しげな地下室を発見した航は中でハイテンションになった久住双葉と彼女の術式によって一面花畑になった部屋、そして酩酊する敵らしきものたちを発見した。
異様な光景に困惑する航の前に、二人の小さな子供が姿を現した。
神為について皇國で秘匿されている特性の一つに、双子の相互強化作用がある。
特に一卵性双生児と男女の双子に関しては、互いの神為に影響を与え合い加速度的に強化されて行くことがわかっていた。
これは本来門外不出で皇國でも限られた人間しか知らない事実なのだが、あろうことか叛逆組織、武装戦隊・狼ノ牙はこれを偶然把握してしまった。
切欠は首領Д、道成寺太その人の子である椿陽子と道成寺陰斗である。
狼ノ牙は彼らが互いの神為を通常では考えられない程急速に高めた事から調査を行い、この事実を知ったのである。
では、もし仮に一卵性でかつ男女の双子ならばどうなってしまうのか。
実は、これはあり得るケースである。
一卵性双生児の分裂前の卵子が性染色体XYだった場合一般的には男性となり(XYから女性となったりXXから男性になるケースも稀ながらあるので注意されたい。)、双子もまた両者とも男性になることがほとんどである。
だが稀に分裂した片方の卵子からY染色体が欠落することがある。
この場合、一卵性でありながら片方は性染色体XYで男性となり、もう片方は性染色体XOで女性となる(Oは性染色体の欠落を意味する)。
武装戦隊・狼ノ牙はこのような双子を意図的に作り出し、絶大な神為のアシストを得る事で、神皇の強大な神為に対抗しようとしていた。
雲野研究所は嘗て、国土の豊穣を願い神為によるエネルギーやその反応を食料生産に利用するために作られた国営の生体科学研究施設であった。
だが、武装戦隊・狼ノ牙はここに密かに人員を送り込んで乗っ取ってしまったのだ。
そしてその設備を利用して、死体や生きた人間に対して非人道的な研究の数々が行われた。
そんな中で生まれた集大成がこの双子、雲野幽鷹と雲野兎黄泉である。
⦿⦿⦿
申し訳程度にみすぼらしい衣服を身に纏ったその二人はまだ十歳前後に見えた。
だが双子の妹、兎黄泉が言うには精神の年齢と肉体の年齢は食い違っているのだという。
「兎黄泉達は元々違う所、皇國でも貴方達の国でもない日本で生まれた双子だったのです。もう元の名前は覚えていませんが、確か今年の四月には十八歳になったはずなのです。ふみゅ、何から話せばいいのでしょう。お伝えしなければならないことが多すぎますです。」
十八歳、というには二人はあまりにも幼かった。
ただ小柄だというばかりではなく顔つきも、話し方もひょっとすると体格以上に未熟に思えた。
そして、唐突に出てきた『皇國でも自分達の国とも違う日本』という奇妙な概念。
さらにまだまだ多くの情報があるのだろう、彼女は酷く混乱して伝えたいことを整理できていないようだった。
「まず、教えて欲しい。」
困り果てた様子で首を傾げる兎黄泉に対し、岬守航は最も知りたいことを尋ねた。
「君たちは狼ノ牙とはどういう関係? 仲間かい?」
「違うよ。」
即座に否定したのは兄の幽鷹だった。
「僕達、あの人達は嫌いなの。」
この少年の方は、妹と違い見た目の年と相応の話し方をするだろうか。
「僕達は……、ずっと出たかったの……。あの人達、嫌い……。酷いから、嫌い……。」
「お兄様、お兄様は兎黄泉以外の人と喋るのが苦手なのですから黙っていてくださいなのです。」
「ふにゅぅ……。」
どうやら大して変わらないどころか、まだ妹の方がはっきり話す分マシなようだ。
「ええと、とりあえず君たちは狼ノ牙にずっとこの場所に閉じ込められていただけで、あいつらの味方じゃないって事で良いかな?」
航は念を押して尋ねた。
答えるのはやはり妹、兎黄泉である。
「そうです。お兄様と兎黄泉は元々別の所で事故に遭って、死んではいないけど目が覚めなくなってしまっていたのです。そのあいだに私たちの国は皇國と一つになって、さらにあの人達につかまって、今の体に心を入れ替えられてしまったのです。その時、半分くらい記憶も無くなってしまいましたです。」
次から次へと奇妙な言葉が飛び出してくる。
とりわけ航が気になったのは、別の体に彼らの心を入れ替えたという狼ノ牙の所業であった。
「どうしてそんなことを……。」
武装戦隊・狼ノ牙が身勝手に他人の運命や人生、尊厳を弄ぶことはもう散々思い知っているので今更そこに驚きは無いのだが、これまで彼らがされてきたものと違い、目的が見えない。
「あの人達は多分、強い神為を持った都合の良い道具が欲しかったのです。それでこの体を作った。でもどうやら作ってみたはいいもののうまく動かなかったようなのです。入ってみてわかったのですが、この体は空っぽだったです。」
「空っぽ?」
「お兄様と兎黄泉は一度自分の体を離れたせいか、自分や他の人の魂がわかるようになったのです。」
〝魂〟という、聞き慣れているが故に現実感のない単語は航を更に怪訝の渦へと際限なく呑み込んでいく。
疑念と混乱を隠すこともできずに首を傾げる航に構わず、兎黄泉は言葉を続ける。
「それで、二人は事故で目が覚めないまま病院で五年、捕まってから今の体に閉じ込められたままここで五年生きてきたのです。」
十年間、二人は外界から遮断されてきたということか。
もし元の体で生まれて十八年経ったというのなら、人生の半分以上を朦朧とした意識の中で過ごし、経験としては八年分しか積めていないことになる。
それでこの幼さなのか、と航はその一点だけようやく腑に落ちた。
「じゃあ、ここで僕達を待っていたというのは?」
「そこのお姉さん、初めての人だったの。」
「捕まってきた久住双葉さんは私たちの所に来た、あの人達以外の初めての人だったのです。だから力を貸してあげて、ここの人達をやっつけてもらいましたです。」
二人の言葉に、航は相変わらず浮かれている双葉へと目をやった。
一体彼女は今どういう状態なのだろうか。
普段の大人しい彼女とはかけ離れたその様子に、航はどうしても心配になってしまう。
「久住さん、大丈夫なのか?」
「大丈夫。あれは今だけ。」
「お兄様が神為を貸してあげたので、今だけ自分の持つ神為を超えて気分が良くなっているだけです。その内神為と一緒に元に戻るので心配いりませんです。」
事の顛末の中で当然のように告げられる新たな事実に航はほんの少し引っ掛かりを覚えた。
「神為って貸し借りできるんだ……。」
「そのために、僕たちは作られたの。」
「強力な神為を持ち、誰かに貸してあげる事が出来る。それが兎黄泉たちの役割だそうなのです。」
必要に応じて受け取る。――そんな言葉が航の頭に浮かんできた。
彼らは人間性を無視した道具、機関として生み出されたという事か。
いかにも狼ノ牙が考えそうなことだった。
だが、そんなことは今や大した話ではない。
双葉も見つかった今、後は虻球磨新兒と共に虎駕憲進達と合流し、日本への帰国を目指すだけだ。
あと一日二日歩けばもうその目途は付く。
そうなればもう神為のようなものと関わることは一生無いだろう。
「君達、一緒に来るかい?」
航は幽鷹、兎黄泉と目線を合わせ、二人に尋ねた。
話を要約すると、この兄妹も自分達と同じように狼ノ牙に拉致された様なものだ。
ならば然るべき機関に保護されなければならないだろう。
日本政府が彼らをどう遇するかはわからないが、人権擁護の必要上悪いようにはできまい。
少なくとも狼ノ牙の手から逃がし公の人間の下へ送り届けるべきだ。
勿論、自分達と共に行動することに懸念点が無いわけではないが、それでもこの場に置いて行くわけにはいかないだろう。
「うん。僕達、そうしたいゆ。」
「そのために航さんにお話ししましたです。二人は皇國の子でもないし、多分皇國じゃ生きられないので、できれば貴方達の日本に連れて行って欲しいです。」
話は決まった。
「じゃああともう一人、僕とここに来た人がいるから彼と合流して一緒に行こう。」
航は膝を伸ばし、夢見心地にいる双葉の腕を引く。
「ほら、久住さんもそろそろ行こう。あと、悪いけど術式も解いてくれないか? これじゃ進みにくいよ。」
「んもぅ……。こんなに綺麗に咲いてるのにぃ……。」
「その代わり、あの二人に服を用意してくれると助かるな。極細の蔓で編んであげたり、できる?」
航の要望に、双葉は得意気な顔をして手を二人に翳した。
すると辺り一面に咲き誇っていた花が千切れ、細かく裂けた茎を繊維、潰れた花弁を染料として子供サイズの衣服が二人分あっという間に作り上げられた。
「ふにゅ、お姉さん、ありがとう。」
「色遣いが素敵です。」
「一応、絵に関わる仕事を目指してたからねぇ。」
双葉の誇らしげな表情は気分の高揚だけでなく、自身のセンスを褒められた素の喜びも少なからず混じっている様に思えた。
そんな様子を見て航は、かつて彼女の自作漫画を勝手に読まないように配慮したことを思い出していた。
もしかしたら、改めてちゃんと読ませて貰った上で感想を言った方が良かったのだろうかと、ほんの少しだけ機を逸した悔いを覚えた。
「じゃ、行こうか。」
地下室を出るよう促す航に対し、幽鷹と兎黄泉は付いて来るでもなく顔を見合わせている。
「どうしたの?」
声を掛けた航に対し、兄妹は二人同時に顔をまっすぐ向けた。
「その人、居場所がわかると思うの。」
「案内してくれる魂があるのです。三人分。」
三人分、という具体的な数が引っ掛かる。
航はこの二人に従った方が良いと、直感的にそう思った。
「わかった。君たちに付いて行こう。」
二十歳過ぎの男女と、見た目十歳前後の兄妹は花畑が消え研究員が横たわるばかりとなった地下室を後にした。
⦿⦿
抜け殻の様になった彼は、さめざめと泣くことしかできないでいる。
苦労を掛けた分穏やかな余生を過ごして欲しかった両親、誰よりも可愛く幸せになって欲しかった妹、そんな家族との久々の旅行は、掛け替えのない楽しい思い出の一つとして末永く共有されるはずだった。
だがそれは、彼が拉致されてしまったことにより不本意ながら中断を余儀なくされ、ケチが付いた。
それだけならばまだ良い。
それだけならば帰り着くことさえ出来ればまた新しい思い出を作り直せば良い。
だが、それは二度と叶わない。
彼の家族はあの旅行を最期に皆殺しにされてしまっていた。
その事実は彼が今血を流しているどんな傷よりも深く心を抉り、立ち直るにはあまりにもダメージが重すぎる。
その光景は、破れた入り口からに入室した航や双葉が事の顛末を察するに十分な痛々しさを放っていた。
「虻球磨……。」
航に声を掛けられ、虻球磨新兒は虚ろな目を彼の方へ向けた。
「岬守か。それに久住ちゃん、無事で良かったなあ……。」
いつもの明るさ、喧しさが微塵も無い掠れた声だった。
彼の無駄に元気な振る舞いは馴れ馴れしく厚かましい所はあったものの、少なからず航達のムードメーカーとなっていた部分はある。
彼がこうなる理由に凡その見当がついてしまうのは、それだけ彼が自慢げに家族、とりわけ妹の話をよくしていたからだ。
それは見ているこちらまで辛くなってくる推察であった。
航には次に掛ける言葉が見つからない。
そんな彼の許に、先程出会った幼い兄妹が駆け寄る。
彼らがついて来たいきさつを知らない新兒だったが、彼には最早それを尋ねる気力すらない。
ただ呆けた顔で兄妹の顔を見上げていた。
「兎黄泉ちゃん……。」
「そうですね、お兄様。もうお兄様は一度貸してしまいましたので、今度は兎黄泉が貸してあげるです。」
航、双葉、それから新兒が疑問を挟む暇もなく、兎黄泉の体が光を放つ。
その光は辺り一面を包み込み、あたかも別の世界へといざなったかのように航、双葉、そして新兒の見える景色を変えてしまった。
⦿⦿⦿
神為によって強化されるのは何も単純な身体能力ばかりではない。
例えば人間の感覚や認識能力もまた神為が高まれば上昇する。
虻球磨新兒自身、視力の向上は自覚していたことだ。
今、雲野兎黄泉によって神為を借り受けた三人は、その認識能力を大幅に強化されている。
それは、普段見えないその場に存在する霊魂を感知する事が出来るほどに。
元々目が良くない双葉は朧気な靄の塊にしか見えず、その場で何が起きているか把握する事は出来ない。
航は視力に問題は無いが、神為が乏しいため強化されても双葉と同じようによくわからない。
二人はただなんとなく、そこに三人分の魂があると分かるだけである。
十分な神為を備え、さらに元々目が良い新兒だけが、そこにいるのが誰なのか理解できた。
「親父、お袋、千草……。」
憔悴しきった新兒を穏やかな表情で見下ろしていたのは死んだ彼の家族であった。
父の虻球磨敦毅、母の虻球磨凛、そして妹の虻球磨千草が家族でただ一人遺された青年と最期の語らいを交わすために現れたのだ。
「ごめん。俺、暴れる事しか能が無くて家族や色々な人に散々迷惑を掛けたのに、肝心な時に役立たずで、誰一人守れず一人だけ生き残っちまったよ……。」
涙ながらに謝罪する息子に、まず父が首を振って答える。
『何を言っているんだ。それは父親である俺の役目だぞ。妻と娘を死なせ、息子のお前を酷い目に遭わせてしまったことを謝らなくてはならないのは俺の方だ。お前が気に病むことじゃない。』
頭にそっと置かれた父の手は小さかったが、暖かく、そして優しかった。
「でも俺、何も親孝行できなかった……!」
『真っ当に生きてくれればそれでいい。お前の将来を悲観せず、楽しみにすることが出来るようになっただけで十分だ。そのことを考える何気ない時間が俺にとってどれほど幸せだったことか……。寧ろお前に感謝したいくらいだよ。』
生前は滅多に聞けなかった父の優しい言葉に、枯れたように思えた新兒の涙がまた瞼の裏から溢れてくる。
「だけど、家族みんなを殺したって言われた時、頭に血が上っちまってそいつのこと殺しちまうところだったんだよ。家族三人がかりで止めてもらわなきゃ、今度こそ取り返しのつかないことをしちまってた。俺、全然大丈夫じゃなかったんだよ……。」
『それは違うわ。』
今度は母が首を振り、頬にそっと手を添えた。
『私達は何もしていない。もし私達の姿を見たのなら、それは新ちゃんが自分で私達のことを思い出して思い止まったのよ。貴方はちゃんとしているわ。だから大丈夫。』
両親の微笑みが新兒の乾き切った心を少しずつ潤していく。
「有難いなあ……。もう一度話が出来て嬉しいよ。ただ、なあ……。」
新兒は視線を両親の後ろに控える妹の方へやった。
「ただ千草、俺だってお前の将来は楽しみにしていたんだよ。それがこんな形で終わってしまって、それだけはどうしても受け入れられねえよ……。お前は俺の全てだったからなあ……。」
妹、千草は再び泣き出した新兒の手をそっと握る。
『ごめんね、先に行っちゃって。辛い思いをさせちゃったよね……。』
「違う! 責めたんじゃない! 何でお前が謝るんだ! ただ、どうしていいかわからないんだよ。」
『忘れないでいてくれればいい。だから生きて。真面目に生きて、幸せになって。』
顔を上げた新兒の目の前で、妹は朗らかに笑っていた。
だが、まだ彼は前に進めないでいる。
「無理だよ。忘れられないのに幸せになんてなれない。なあ、一人にしないでくれよ。やっぱりまだ家族みんなに傍にいて欲しいんだよ。急にこんなことになって、二度と逢えないなんて寂しいじゃないか!」
『お兄ちゃんは一人じゃないよ。仲間がいるし、きっと素敵な人だって現れる。寂しいならまた夢で逢いに来てあげる。でも、いつかは私達がいなくても歩けるようになって欲しい。忘れないって言うのは、引き摺る事じゃないの。ただ幸せになって、時々綺麗な思い出、光り輝く人生の一頁として懐かしんでくれればいいから……。』
「千草……。」
新兒は自らの手を妹の手に重ねた。
『だから前を向いて歩いて、真面目に生きて、幸せになって。それが私たちの生きた証になるから。』
家族三人が笑顔で新兒を取り囲んでいる。
漸く、新兒の表情にうっすらと光が戻って来た。
「わかったよ。俺、頑張って歩く。俺が俺の家族が生きた証になるってんなら、何とか前に進める気がするよ。ありがとう、逢いに来てくれて。」
彼のその言葉を聞き、三人は安心したように笑うと、その姿は次第に薄れ始める。
『じゃあ、俺達はそろそろ行くからな。ちゃんと生きるんだぞ。』
『愛してるわ、新ちゃん。』
『またね、大好きなお兄ちゃん。』
辺り一面が光に溢れ、家族三人の霊魂が包み込まれて行く。
新兒は彼らが消えていくことを悟り、最後に笑って見せた。
「じゃあな……。」
新兒がそう呟くと同時に、その場を取り巻いていた幻想は影も形も無く消え去った。
⦿⦿⦿
その場には元通りの滅茶苦茶になった所長室の中で生きる気力を取り戻した新兒と、そんな彼を見守る彼の仲間、そして幻想を齎した幼い兄妹、後一応ついでに、気絶しているこの部屋の主が取り残されるばかりとなった。
「虻球磨、もう立てるか?」
航は新兒の表情が変わったことを受け、彼に手を差し伸べた。
新兒は小さく笑うと、航の手を取って立ち上がる。
「悪い、心配かけちまったな。」
そして見慣れない兄妹の方へと目をやると、彼が家族にそうして貰ったように二人の頭に優しく手を置く。
「お前達がみんなに逢わせてくれたのか? 初めましてだけどいい子達だなあ。ありがとうよ。」
幽鷹と兎黄泉はその手の優しさからか、子犬の様に屈託の無い笑みを浮かべた。
「ふにゅぅ、家族にはまた会えるよ。」
「ふみゅぅ、お空の上からかは知らないですけど、夏になると大きな坂を通ってこの世界に旅行に来て楽しんでいる魂も多いです。新兒さんも最期まで生きたらその後で家族一緒に旅して周ればいいですよ。」
何故か三人の名前を知っていること、死んだ人間の魂がわかる事、神為を貸し与えられる事など、実に摩訶不思議な兄妹である。
だがその笑顔には不気味な邪心は見られず、ただ純粋な少年少女の愛嬌を小動物の様に振りまいていた。
「じゃあ、行こうか。きっとみんな待ってる。」
航の号令と共に、五人は雲野研究所を後にした。
⦿⦿⦿
倭岡州から首都統京へ上る高速道路を一台の車が走っている。
運転するのは水徒端早辺子。
武装戦隊・狼ノ牙を離れた彼女がこの時こんな場所を走行しているのには様々な理由がある。
碧森支部から磐手支部の道のりは900粁近くあり、首領Дを自動車で送り届けるべく昼過ぎに出発すると、必然的に辿り着く頃のは深夜になってしまう。
そこから休息をとって、翌日回転翼機で本部へ戻る手筈になっていたが、磐手支部では前日ある理由で回転翼機を使えない状態にしていたため、その復帰に半日かかってしまった。
さらに磐手支部の操縦士が全員前日から体調を崩している念の入れようだったので、早辺子が回転翼機を操縦して本部まで付き従う破目になった。
結局、早辺子は首領Дを本部まで送り届ける為に丸二日を要し、丁度航達が雲野研究所で一悶着あった頃に漸く自由の身になれたのだ。
彼女は首領Дとその娘息子を巫璽山の組織本部へと送り届けた後、屋渡倫駆郎を補佐するという名目で彼らから離脱していた。
勿論、そんな理由は出まかせであり、最早狼ノ牙に用の無い彼女は姉の居場所を知るという仁志旗蓮と合流するために統京へと向かっていた。
そんな彼女に電話の着信が入る。
彼女はその相手を確認すると、捨て置けないと思い応答することにした。
「電話に出ます。繋いでください。」
運転中なので、音声で電話に指示を出す。
すると相手と繋がり、男の声が聞こえてきた。
『水徒端君か。』
「推城様、どういったご用件でしょうか。」
推城朔馬、水徒端早辺子が名を連ねる皇道保守黨の青年部長であり、ある大人物の秘書を務める男だ。
『明治日本の政府から遣いがあり、消息が掴めなかった君の連絡先がやっと把握できた。まさかあのような組織に身を置いていたとはな……。』
「申し訳ございません。全てが終わればいかなる罰もお受けしますので今暫くの御猶予を頂きたく存じます。」
『それはいい。我が主も連中の情報が君から入るなら不問にすると仰っている。だから早く戻れ。』
「恐縮です。しかし、私にはまだやらなければならないことが御座います。ですから…」
『ならん。』
早辺子の言葉を遮る推城はどうやら訳知りの様子だ。
『水徒端早芙子の詮索をこれ以上続けることは許さない。』
「何ですって⁉ どういうことですか?」
『それを問うことも許さない。何も訊かずにただその身でこちらに馳せ参じろ。』
許さない、とだけ言われて納得する早辺子ではない。
彼女は暫し沈黙する。
『繰り返す。水徒端早芙子に関する一切の詮索を完全に中止し、早急にこちらまで帰還せよ。良いか、これは私の命令ではない。』
「推城様ではない、という事はもしや……。」
『そうだ。これは我が主、甲夢黝前内閣総理大臣閣下の御意向だ。故に逆らうことは許されない。良いな。』
甲夢黝、六摂家でも最も力がある大貴族、甲家の当主であり、現総理能條緋月の先代で、議会への影響も未だ絶大である。
事実上、皇國臣民の頂点に立つ人物であり、その名を出されるといくら早辺子でも拒否し続ける事は出来ない。
「畏まりました。速やかに戻ります。」
電話が切れた。
勿論こんなところで終われない彼女は、最後の賭けとして一人の男に電話を掛けることにした。
「仁志旗蓮、様に電話を繋いでください。」
『お繋ぎします。』
コール音が二回鳴った後、電話が繋がった。
しかしそこから聞こえた来た声は、仁志旗のものではなかった。
聞き慣れた蛇蝎の如く嫌う男の邪悪でドスの効いた声がおどろおどろしく車内に響き渡る。
『仁志旗に何の用だ、扇?』
「屋渡⁉」
早辺子が驚き声を上げると、電話口から狂気に満ちた笑い声が長々と聞こえてきた。
『目的は知らんが、やはり仁志旗と結託して我々を裏切っていたようだな。だが、お前の頼る相手は既に粛清した。次はお前の愛しの岬守様だ。そして最後にお前も殺す。何処へ逃げようが見つけ出して必ず殺す。首を洗って待っていろ、出来損ないの尻軽女!』
屋渡倫駆郎は一方的に捲し立て、電話を切った。
姉へと繋がる全ての道筋を断たれた早辺子はそれでも車を走らせる。
姉は生きているという、仁志旗の遺した言葉と、岬守航の無事を願う心をただ胸に仕舞って……。
・雲野 幽鷹
西暦2007年(皇紀2667年) 4月4日生(肉体を入れ替えられる前の実年齢)
身長:135㎝
体重:30㎏
血液型:Oh
・雲野 兎黄泉
西暦2007年(皇紀2667年) 4月4日生(肉体を入れ替えられる前の実年齢)
身長:128㎝
3サイズ:B58 W49 H64
血液型:Oh
次回更新は、11月8日㈰




