第八十九話 暴走
前回
特殊防衛課は首領Д・道成寺太の凄まじい力に圧倒されながらもどうにか彼から別府幡黎子を奪還し、新華族令嬢三羽烏を再びそろえることに成功した。
一方で、岬守航と麗真魅琴、虻球磨新兒は久住双葉に改めて強く拒絶され、もう彼女との絆が戻らないことを悟った。
そんな双葉に対し魅琴は、彼女がどう思おうが自分はずっと彼女を友達だと思い続ける、何かあれば助けるとだけ告げ、彼女の許を去った。
九月二八日、日曜の夕刻。
根尾弓矢は一人、街を車で走っていた。
十五日月曜日、別府幡黎子の救出と牧辻野愛琉、久住双葉の無事には心から安堵した。
しかし、首領Д・道成寺太を取り逃がしたこと、椿陽子、道成寺陰斗姉弟の所在が分からないこと、そして神瀛帯熾天王の謎など、問題解決に進展は無い。
それどころか、更に悪いニュースが彼らに舞い込んできた。
前週、皇奏手がこれまで日本を守る名目で、本心では出世の為に行ってきた数々の違法行為を週刊誌で曝露されるという情報が漏れてきたのだ。
木曜には次期政権与党となる事が確定している現野党のみならず自党内からもこれを糾弾する声が上がり、皇は翌日金曜日に緊急入院。
この時、事前に特別警察特殊防衛課の任期を現状の十月三日から更に一カ月更新し、十一月三日までとした。
そして明後日の九月三十日、火曜日、特別警察特殊防衛課の法的根拠を作り上げた現政権は終わりを迎え、各種法令の破棄を宣言している新政権が誕生する。
どう頑張ってもこれ以上の任期延長は出来ず、長くても後一カ月で全ての形を付けなくてはならない。
根尾は留守番を白蘭揚羽にに任せ、少し外に出ることにした。
日が落ちるまでの間、どうしても街を車で走りたくなってしまった。
窓を流れる景色、日常を取り戻した街並み。
人々は逞しいが、それに比べて自分はなんと不甲斐無いのだろう。
特別警察特殊防衛課課長という肩書は立派だが、彼は元々警察関係者でも何でもない。
有事に急造された組織のトップに偶々都合良く据えられた素人である。
「仁志旗の様にはいかないな……。」
仁志旗蓮、狼ノ牙に潜入し、殺された彼は優秀な懐刀だった。
その調査能力はチートクラスだったと言っていい。
或いは彼なら、この状況でも有力な情報をあっさり入手し既に解決していたりするのだろうか。――そんなことを考えながら、根尾は車を走らせていた。
ふと、彼は見覚えのある通りへと出た事に気が付いた。
皇奏手の議員秘書時代、何度か通った道だ。
有力な支持者であった神社を参っていた記憶が昨日のように思い出される。
雇い主が落選した彼はふと当時の事が懐かしくなり、車を近くの駐車場に停めて神社に行ってみたくなった。
行き詰った現状に、過ぎ去った時代の残り香に誘われるまま現実逃避したかったのかもしれない。
鳥居を前にした彼が最初に感じたのは、議員秘書時代には無かった寂しさだった。
建物も敷地も、鳥居も獅子狛犬も、心なしかすべてが小さく見える。
気の持ちようで景色の見え方はこうも変わるのか。――彼は溜息を吐いた。
どれだけ気を紛らわせようが、現実は変わらず存在し続ける以上、気晴らしというものの何と無意味な事か。
余り長居するものでもないし、根尾は軽く参ってその場を立ち去り、ホテル戻ろうと考えた。
しかし、車に戻ろうとした根尾に見た事のある中年女性が声を掛けてきた。
痛々しい傷跡の残った愛犬の散歩をする彼女は、以前もこの神社で見かけたことがあった。
「根尾さん、お久しぶりです。」
「二井原さん……。」
二井原椛、武装戦隊・狼ノ牙に拉致されてすぐに亡くなってしまった女子高生、二井原雛火の母親である。
以前は娘の日課だった愛犬の散歩も、現在は彼女が担当しているらしい。
二人は互いに一礼した。
「二井原さん、娘さんの件は力になれず、誠に申し訳御座いませんでした……。」
根尾にとっては合わせる顔がない人物だった。
確かに狼ノ牙によって皇國に拉致された何名かの帰国は実現したが、救出する前に死亡してしまった人物や救出後の不手際で自ら命を絶った人物もいた。
そして椛は、この事件発覚の切欠であり、皇奏手に藁にも縋る思いで調査依頼をしてきた人物であり、最も若く、帰らぬ人となった被害者の遺族である。
しかし、そんな根尾の後ろめたさとは裏腹に椛の表情は穏やかだった。
勿論、そこには大きな悲しみが秘められていたが、彼を非難するような意図は感じ取れなかった。
「他の方が帰国されたということは、皇先生は娘の為に力を尽くしてくださったということですよね。それに、根尾さん自身、自らが皇國に乗り込み、命辛々戻られたと聞いています。私たち家族としては感謝こそすれ、恨み辛みを申し上げるつもりは毛頭御座いません。」
罵倒をも覚悟した椛の言葉が意外だった根尾は瞠目し、一瞬返答まで間を開けてしまった。
「勿体無い御言葉です……。」
「それに、今は娘達を誘拐した犯人たちを追い掛けてくれているのでしょう?」
「いえ、それも国家の安全保障の為ですから……。」
根尾は自らの胸に心なしか西日が射したような気がした。
どこか温かい気持ちになる、そんな会話だった。
「では私はこれで……散歩の途中ですので……。皇先生にも宜しくお伝えください。ほら、行くよミッキー。」
椛は根尾と礼を交わし、愛犬を連れて散歩の続きへと向かっていった。
根尾はその後ろ姿に考える。
出来れば彼女の許に娘さんを返してやりたかった。
二井原椛の娘、雛火を拉致したのは首領である道成寺太本人である。
その情報もまた、亡き有能な部下仁志旗からのものだ。
根尾は奥歯を噛み締めた。
こんなことをしている場合ではない、まだ日数は残されている。
まだ特別警察特殊防衛課が廃止される具体的な日程が決まったわけではない。
何としても、道成寺に然るべき報いを受けさせなくては。
決意を新たにした根尾の足取りは、行きとは打って変わって力強いものだった。
根尾にとって、勿論他のメンバーにとっても、ここが踏ん張りどころだ。
⦿⦿⦿
十月九日木曜日。
とある高級マンションの一室で、椿陽子は困惑していた。
八社女征一千、弟の道成寺陰斗と共に転移したのは良いものの、その直後から何やら陰斗の様子がおかしいのだ。
頭を抱え、苦しそうに呻いている。
「陰斗……! どうしたの?」
「これは……首領はまあ随分と、無茶をしたようだね……。」
陽子とともに陰斗の様子を窺う八社女の表情にいつもの薄笑いは無い。
それはこの事態が彼にとっても想定外で、そして深刻であることを物語っていた。
「八社女さん、陰斗はどうしちゃったんですか?」
「フム、首領は陰斗君にも新しい力を与えた。穢詛禁呪によってね。」
「ええ……。」
陽子にとっては苦い記憶だった。
陰斗はそれまでの力に加え、陽子を自分の許に転移させる能力を術式の一部として獲得していた。
「それと何か関係があるのですか?」
「大ありさ。術式で出来ることが多くなったということは、要するに神為が増したということだからね。それも急速に……。」
「神為が増す……。それって問題なんですか?」
「通常は問題無いよ。ただ、物事というか、人間の器には限度があってね……。如何に穢詛禁呪と言えど、無限に神為を増やせるわけじゃないんだ。その人間の器を超えた神為を得ようとすると、齟齬が生じて今の彼の様に苦しむことになる。そしてその先に待つものとは……。」
八社女の声は低く、言い回しには不穏さをたっぷりと含んでいた。
陽子の心臓は早鐘を打つ。
「私が陰斗と一緒にいることも、悪い影響があるんじゃ……。」
「まあ、そうだね。知っての通り男女の双子は相互に爆発的速度で互いの神為を成長させ合うことが判っている。加えて道成寺は息子に対し虐待に近い訓練を施していたようだね。これも、神皇が強大な神為を得ることになったと言われている原因の再現かな? いやいや、道成寺は余程陰斗を莫迦大い神為の貯蔵庫にしたいらしい。いや、もしかしたら壊したいの間違いなのかな? この様子だとそう取れてしまうな……。」
「そんな……。」
陰斗は突然、獣のような叫び声を上げた。
まるで人狼が満月に理性を失うように、彼の眼は爛々と輝き焦点が合っていない。
「このままだと、陰斗はどうなってしまうんですか?」
「器を超え過ぎた巨大な神為を身に着けてしまった者の末路は二つに一つ。一つは神為の暴走に耐えかねて東瀛丸の複数錠接種の様に全身から血を噴き出して死ぬ。もう一つは、まあこれは滅多にないことだけど、器となる肉体そのものを巨大化させて適応する。」
陽子は暴れようとする陰斗を必死で抑える。
涎を垂らす彼の表情は、あまりに苦しそうで見るに堪えないものだった。
「どうすればいいですか⁉ どうすれば陰斗を救えますか⁉」
「ま、簡単な方法は神為を低く抑えるか除去してしまうことだね。ただ、僕は基より首領すら東瀛除丸も東瀛封丸も持っていないからねえ……。」
八社女は深刻な状況の姉弟を横目に薄笑いを浮かべつつ只考え込む仕草をしていた。
どうやらこの男は真面目に状況を解決するつもりは無いらしい。
「八社女さん、貴方の穢詛禁呪では神為を増幅だけでなく減少させたりは出来ないんですか?」
「うーん、それは答えにくい質問だね。結論から言えばこの場合は出来る。穢詛禁呪で水増しした分の神為ならね。ただ、陰斗の神為上昇の理由はそれだけじゃないから、焼け石に水程度にしかならないかもしれない。」
「ではこのまま生き残れる可能性は?」
「うーん、先程二つの道を示したが、十中八九は死ぬ……どころか、万や億、兆……想像もできないくらい低い可能性でしか後者の道は開かれない。逆に神為量が足りないんだ。何せ後者の可能性に至るには神皇級の神為が必要だからね。」
陽子は八社女の態度に腹を立てたが、それよりも陰斗を抑えるのに手いっぱいで彼に食って掛かることは出来ずにいた。
そんな彼女を嘲笑うように、八社女は続ける。
「とりあえず当面の応急処置としては、君と陰斗君を離れ離れにするしかないだろうね。そうすれば彼の苦しみも多少はマシになる筈だ。神為も落ち着くだろう。」
「くっ……!」
陽子はどうにもできず、陰斗の首筋に力一杯を込めて帯電させた手刀を入れた。
危険だが、彼を止めるにはそれしかないと判断してのことだ。
「解りました、首領補佐。では私が東瀛除丸を手に入れます。」
「当てはあるのかい?」
「はい。双葉が……久住双葉が飲まされていたので、私達を追ってるこの国の調査機関にはあると考えられます。」
「ふむ……。」
陽子は八社女の答えを待たず、部屋を出ていった。
彼女は弟の為なら何でもすると決めている。
仮令父親の言いなりに自分を傷付けようがそれは変わらない。
二度と会うまいと思っていた双葉に、恥を忍んでもう一度縋り付こうとも……。
⦿
ホテルの一室に取り残され、陰斗を無理矢理預けられる形となった八社女は肩を竦めた。
丁度その時携帯電話が鳴ったので、八社女は煩わしさに顔を顰めながらも応答した。
「もしもし?」
『私だ。』
「ああ、何だい推城? 今ちょっと面倒なことになっていて出来れば後にして欲しいんだが……。」
推城朔馬、八社女と同じ神瀛帯熾天王の一員である。
『どうせ自分で蒔いた種だろう。それに、収穫の時期も近いのではないか?』
「まあ、そうだけど……。」
八社女は気を失って横たわる陰斗を見下ろしながら頭を掻いた。
『我々の計画を邪魔立てするとなれば、まず特殊防衛課の連中だ。道成寺やその娘息子を先兵としてぶつけ、少しでも戦力を削いでおくための仕込みだろう?』
「ああ。だがそれも必要無くなるかもね。」
『例の記者がどこまで動いてくれるかにもよるな。上手く行けば週刊誌の記事が爆弾となり頭が潰れ、組織としては動けなくなる。』
「ま、それでも個人として勝手に色々やってきた実績が彼らにはあるからね。だからこそ用心したいんだけど……。」
『で、誰が要注意だ?』
推城の言葉に一瞬、八社女は硬直した。
訊かれるまでもないことだと思った。
「戦闘力で言えば麗真魅琴、あれは群を抜いて異常だ。まだ神為を全く使えない状態が続いているが、素の膂力だけでもヤバいのは体験済みだからね。誰かさんは奴さんが現れたと見るやすぐに逃げ一択だったからわからないかもしれないけれど。」
『まあ、当然だな。それでも出来れば弱体化している今の内に始末しておきたいな。』
「そうだね。あとはまあ、根尾弓矢かな。彼は随分僕達のことに深入りしているようだし、葬っておいた方が良いだろう。」
『ふむ……。』
今度は電話口からの推城の声に一瞬間が空いた。
『それだけか?』
「他に誰かいるとでも? 後はどっこいどっこいでしょう?」
『何故、岬守航を挙げないのか理解に苦しむ。』
皮肉のこもった駄目出しに八社女の表情が歪んだ。
「岬守? 確かに為動機神体の操縦士としては脅威だが、軍に参加できる組織を離れただの個人になってしまっては所詮凡夫。大したことは出来ないだろう?」
『その凡夫に足元を掬われたことがあったはずだがな。それに、奴の術式神為は予想外に厄介だぞ。』
「ああ……。君や〝広目天〟の御媛様から聞いた『実は他の仲間の術式を使えるんです。』って奴かい? でも、随分と条件がゴチャゴチャとややこしくて使い勝手が悪そうだという印象しかなかったがね。」
『そうだ。まず、神為を身に着ける前に自分から名乗った相手に限定されるという条件は当然の縛りだろう。無節操に他人の術式神為を使えるなどという術式であれば六摂家当主の鷹番夜朗ですら上回る脅威だ。唯の二十歳過ぎの若造には過ぎた力だ。』
「唯の二十歳過ぎの若造、ね……。評価しているんじゃなかったのかい?」
『ふ、だからこそ評価しているのだ。』
推城の声は何処となく嬉しそうに聞こえた。
『それに、奴の術式はそれ以降の付加条件がかなり厳しい。実際に術式神為の発動を見ている必要がある、これは良いだろう。だが、一度本来の使い手が使用不能の状態に陥らなければならない、というのは……。』
「一番わかり易いのは死んだ場合だね。武器形成や鏡の術式は本来の使い手が死んだことで発動条件に適った。」
『あとは、東瀛丸の効果切れだな。植物の術式がそうだ。だが、これは皇國臣民ならほぼ起こり得ないだろう。通常、効果を切らさないように東瀛丸は継続服用するからな。』
「結局、神為を身に着ける前から互いに名乗り合うほど親密な相手と死別しなければ事実上意味を為さないんだよね。かなり稀な境遇だし、普通は外れ能力だよこんなの。」
『そうだな。何でもそうだが、こういう効果能力というのは条件が単純であるほど強力だ。逆にあれこれ縛られると能力自体が〝死に〟になり、無能化する……。』
ここまでだらだらと話したが、航の術式は使い勝手が悪い、と言う所は二人とも一致しているようだ。
「それで、そんな彼に執着する理由は何だい? 二度も退けられたことを正当化しているとしか思えないんだけど。」
『わからんか? 生きてしまったのだ。通常であれば死ぬはずの使い勝手の悪い術式が。』
「まあ、結果的にはね。」
『私には、奴に何か運命的なものが味方をしているように思えてならぬ……。稀にいるのだ。通常役立てられぬまま終わる筈だった特技のはずが、歴史や時代の悪戯で英雄に推し上げられる決定打となる様な者が……。』
「ほう……。」
八社女は漸く、推城の懸念を理解した。
まだ彼の中ではそれほど脅威視していないが、推城が恐れる理由にも納得した。
「あいわかった。じゃあ麗真魅琴、根尾弓矢に加えて岬守航も要注意人物として優先的に消すように動こう。」
『うむ、その方が良いだろう。それに、岬守航の術式神為には一つ、とんでもない禁断の組み合わせがあるかもしれん。それがもし出来たとしたら、そして見つけられたとしたら、非常に厄介だ。』
「禁断……?」
八社女は少し考え込んだ。
今までの話を総合し、岬守航に出来得ること、使え得る相手の術式神為と、その組み合わせを考える。
「ちょっとよくわからないな。」
『これは持国天から聞いた話だが、超級為動機神体の武装にある光線砲というのはだな……。』
推城の語る言葉に、八社女は見る見る青褪めていった。
どうやらここへ来て彼は通話相手と危機感を共有したようだ。
「待て待て……! そんなことが出来るとしたら……!」
『だが、条件を満たしているかは微妙な所でな……。広目天の尋常ならざる眼に視えていたか、奴に訊いてみないことにははっきりせん。』
「成程……。」
八社女は双眸をギラリと光らせ、横たわる陰斗を再び見降ろした。
「訊く前に始末してしまおう。」
『その気になったようで何よりだ。それで、私やお前自身を含む此方の駒をどう使うかだが……。』
「僕に考えがある……。」
姉、陽子がいないところで、陰斗を利用しようという良からぬ企みが密かに話し合われていた。
何にせよ、ここへ来て初めて岬守航が彼らにとって大きな障害だと認識を変えられてしまった。
今後は彼らが陰で動く時、航のことも抹殺の対象に加わることになるだろう。
⦿⦿⦿
同日、夜。
都内の豪邸で住人が皆殺しにされる凄惨な事件が発生した。
警察も警備会社の人間もすぐに駆け付けなかったことから、事件は通報する間も無く完遂されてしまったらしい。
翌日、殺害が行われたと思われる時間帯に痩せ型長身の壮年男性が邸宅に侵入したことが複数の目撃者から証言されており、捜査情報として容疑者を確定させる一つの要素となっている。
後に残された指紋、監視カメラの映像に残っていた人物の特徴から、犯人は道成寺太と断定された。
「グフフフフ……資本家め、たんまり蓄えておるわ。この資産は全て、新生狼ノ牙の軍資金として我輩が有効活用してやろう……。」
箪笥から出てきた通帳と、金庫に仕舞われていた現金を眺めながら、道成寺太は両眼を爛々と輝かせていた。
別府幡黎子を奪還され、一人となった彼は穢詛禁呪によって力を得た影響かどんどん言動が狂気染みてきていた。
「本拠地、金、力……。あと必要なものは革命を次代に繋ぐための女だ……。そうだな、金もまだいくらあっても足りぬ……。」
にたり、と道成寺の顔面に不気味な笑みが張り付いていた。
「明日はこの通帳を持って銀行へ行こうか……。序でに、他の資本家共が蓄えに蓄えた金もがっつり頂いてやろう……。女はそれからだな……。」
気味の悪い、狂気に満ちた高笑いが豪邸から夜の空へと響き渡った。
無残にも殺害された嘗ての家主、家族、使用人たちの死体は突如訪れた理不尽な惨劇に無念の呪詛を吐くことすら出来ずにただ打ち捨てられていた。
正に、狂気の夜。
そして翌日、多くの人間の運命の歯車が一斉に狂った結末へ向けて廻りだす。
裏で蠢くは四人の闇、神瀛帯熾天王。
これはまだ、彼らの目的のほんの序での部分に過ぎない。
そしてそれは着実に、一歩一歩、怨敵とその同胞の破滅……。
否、三千世界の終焉に向けて動き始めていた。
・二井原 椛
西暦1980年(皇紀2640年) 10月27日生
身長 149㎝
3サイズ B89W68H90
血液型 O
次回更新は、11月20日㈯




