エピローグ
北海道の空は、もうすっかり秋の色をしている。
鮮やかな紅葉が緩やかに風に揺れるその日――兎衣は、誠と二人で、再び彼の妹の墓地へと向かっていた。
事件が一段落したことを、彼女に伝えるための来訪だった。
誠と並んで歩く小道は、落ち葉を踏むたびに音がした。
「そういえば誠先生、最近鷹中さんとどうなんですか?」
「あいつ、新しくアカウント作り直してまで俺に連絡入れてきたからな。そこまでして拒否する理由もねえし、札幌に帰ってきた時は会うようになった」
「へえ~っ! 何だかんだ仲良いですもんね?」
そんなことを話しているうちに、墓地に辿り着く。
兎衣は、手に抱えた花束を、小さな墓の前にそっと置いた。静かに手を合わせて、誠の妹の死を悼む。
祈り終わって隣を見れば、誠はもう、あの日のように泣いていなかった。
帰り道、丘を下りていると、道の向こうに人影が見えた。
白髪交じりの男性と、落ち着いた雰囲気の女性だ。いつもここにはほとんど誰もいないのに、珍しいなと思った。
誠の足が止まる。誠がぽつりと呟いた。
「……父さんと、母さんだ」
向こうにいる男女は、釘付けになるように誠を見ている。彼らもまた、彼女の墓参りに来たのだろう。
妹の死後、両親と一度も会っていないという誠は、立ち止まったまま動かない。
その時――誠と兎衣の背中を、突然、強い風が押した。
振り返ると墓地がある。まるで誰かが誠の背中を押したような風だった。
誠は泣きそうな顔で正面に向き直り、足を一歩踏み出した。その足の動きが、どんどん速くなっていた。誠が両親の元へと向かっていく。
兎衣は思わず声を上げた。
「誠先生! 頑張って! 私、先生のことちゃんと見てますからー!!」
思いのほか大声になり、それは静かな墓地に恥ずかしいほど響く。
誠は、「……バカが」と少し照れ臭そうに呟き、走っていった。
兎衣は、両親と合流した誠の背中を見つめながら、満足して微笑む。
離れた位置で空を見上げると、雲の隙間から光が差していた。
【完結】




