最終回 祝福の絆
レベル解放によって状況は一変した。女性だけのパーティでも充分に戦えるようになり、祝福の絆は瞬く間に日本一のクランへと昇り詰めた。加入希望者は後を絶たず、全国に七つの支部が設立されるまでになった。
グリフォンのダンジョンは、クラン「祝福の絆」の重要なレベル上げ拠点として活用された。優斗がいなくなっても大丈夫なように、クランメンバー全員を連れて行き、徹底したパワーレベリングを敢行する。目標は全員レベル70。かつて英雄と呼ばれた者たちと同等の力だ。
「今日はBチーム、行くわよ!」
カグヤの号令で、次々とダンジョンへ潛っていくメンバーたち。次の上級ダンジョンがいつ出現するかわからない。それまでに少しでも戦力を底上げしなければならなかった。優斗はほぼ毎日、休むことなくメンバーを入れ替えながらダンジョンに潛り続けた。
地方ダンジョンの攻略も視野に入れ、各支部から実力のある女性探索者を集めての合同訓練も実施した。ダンジョン攻略は、いつしか祝福の絆を中心に回るようになっていた。他のクランも彼女たちの指導を仰ぎ、日本全体の探索者レベルが底上げされていく。優斗が蒔いた種は、確実に国全体へと根を張り広がっていた。
そんな慌ただしい日々が続く中、春の訪れとともに、祝福の絆に新たな命の誕生が告げられた。
分娩室から元気な産声が響き渡ったのは、桜が満開を迎えた四月のことだった。
「おめでとうございます! 元気な男の子です!」
助産師の声に、廊下で待っていた全員から歓声が上がる。
優斗は震える手で、初めての我が子を抱き上げた。小さな、けれど確かな温もり。まだ目も開かないその命が、自分の血を分けた存在だと思うと、胸が熱く締め付けられた。
「綾斗…綾斗だ」
綾乃と優斗、二人の名前から一文字ずつ取って「綾斗」と名付けられた。疲れ切った顔で微笑む綾乃の隣で、優斗は涙が止まらなかった。
綾斗は瞬く間にクラン全体のアイドルとなった。不思議なことに、優斗が抱くとギャン泣きするのに、女性メンバーが抱くとたちまち笑顔になって、小さな口で乳を欲しがるのだ。
「あらあら、綾斗くん、お腹すいたの?」
「はいはい、灯お姉さんのだよー」
灯や日向、静香までもが、乳も出ないのに嬉しそうに乳首を吸わせたがる始末。綾斗も気持ちよさそうにしているから、余計にたちが悪い。
(こいつの将来が心配だ…)
優斗は頭を抱えながらも、その光景に自然と笑みがこぼれた。
季節は巡り、祝福の絆にはさらに幸福が続いた。灯、日向、静香も無事に妊娠し、次々と新しい命が誕生した。クランハウスは赤ん坊の泣き声と笑い声で溢れかえり、かつて戦いに明け暮れていた場所が、今では温かな家族の巣となっていた。
そして優斗は、凛、翠、美鈴、藍、沙織、美月、雪乃、巴、千尋、カグヤとも結婚を果たした。もはやハーレムを超えた大家族だが、誰も気にしない。彼女たちにとって、紙切れよりも深い絆で結ばれている自信があった。カグヤも正式に日本の戸籍を取得し、名実ともにこの世界の住人となった。
新婚初夜を迎えたカグヤは、優斗の腕の中で照れくさそうに呟いた。
「異世界から来た女が、まさかこんな幸せを掴めるなんて思わなかった」
「こっちの世界に来てくれて、ありがとう」
優斗の言葉に、カグヤは涙を浮かべて笑った。戦い一筋だった女戦士が見せる無防備な笑顔は、優斗にとって何よりも愛しい宝物だった。
ある夜、全員がリビングに集まっていた時のこと。巴がふとおどけた口調で言った。
「でもまあ、どうせまだ嫁は増えるんでしょ?」
「間違いないわね」凛も悪戯っぽく笑う。
「優斗のことだから、またどこかで誰かを助けて、そのまま…ねえ?」沙織の言葉に、全員がクスクスと笑った。
優斗は苦笑いしながら首を振る。
「もう充分だよ。これ以上増えたら、俺のベッドが破裂する」
「あら、それは楽しみだわ」美鈴の一言で、部屋は爆笑に包まれた。
だが、楽しい時間はいつまでも続かないことを、彼らは誰よりもよく知っていた。
その夜、カグヤが皆の前に立って、静かに語り始めた。
「みんな、聞いてほしい話があるの」
空気が一瞬で引き締まった。
「私がいた元の世界では、上級ダンジョンの上に『特級』が存在していた。そして、さらにその上…『神級』と呼ばれる災厄も、記録には残っていたの」
「神級…?」優斗が眉を潛める。
「ええ。伝説の英雄たちすら、神級には手も足も出なかったという伝承が残っている。もし、こちらの世界にもそれが出現したら…私たちは今のままでは太刀打ちできない。もっと強くならなければ」
部屋が静寂に包まれる。
「いつ来るかはわからない」カグヤは続けた。「もしかしたら明日かもしれないし、十年後かもしれない。でも、必ず来ると思った方がいい」
優斗は立ち上がり、窓の外を見た。夜空には無数の星が輝いている。この平和な日常の向こうに、まだ見ぬ脅威が潛んでいる。だが、彼の心に恐れはなかった。
「なら、その時に備えよう」優斗は振り返り、全員を見渡す。「俺たちならやれる。どんな敵が来ても、みんなで戦えば必ず勝てる」
その言葉に、全員が力強く頷いた。綾斗をはじめとする子供たちを見守りながら、彼女たちは新たな決意を胸に刻む。守るべきものが増えた今、負けるわけにはいかない。
まだダンジョンの脅威は去っていない。だが、優斗と14人の妻たち、そして増え続ける仲間たちは、どんな脅威が迫ろうとも、手を取り合って立ち向かう覚悟を固めていた。
祝福の絆。それは単なるクラン名ではなく、彼らが紡いできた絆そのものの名だった。この絆がある限り、どんな絶望も乗り越えられる。たとえ神の如き敵が現れようとも、彼らは決して諦めない。
今日も祝福の絆のクランハウスには、子供たちの元気な声と、その成長を見守る女性たちの優しい眼差しと、何よりも深い絆で結ばれた彼らの笑顔が溢れている。戦いの日々はこれからも続く。しかし、彼らにはもう恐れるものは何もなかった。
祝福の絆の戦いは、これからも続いていく——。
──────
数ヶ月後、綾斗が初めて言葉を発した。
「とーと」
優斗に似た、くりくりの瞳で自分を見上げる息子に、優斗は目を輝かせた。
「お、おい! 綾斗がパパって言ったぞ!」
「違うわよ、『美月』って言ったのよ!」
「いいえ、『灯』に決まってるでしょ!」
母親たちの争奪戦が始まる中、当の綾斗はケラケラと無邪気に笑っていた。カグヤが呆れたようにため息をつく。
「親バカならぬ母バカばかりね…」
「カグヤだって人のこと言えないだろ。昨日、綾斗に1時間も乳首吸わせてたじゃないか」
「なっ…! あ、あれは、その…」
カグヤが真っ赤になって言い訳する姿に、リビングは温かな笑い声に包まれた。
この笑顔を守るために。彼らは今日もダンジョンへ潛り、明日を切り拓いていく。
祝福の絆の物語は、これからも続いていく。
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