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ダンジョンがある世界で女性のステータスを大幅に上げるバフスキルを獲得したら、ハーレムみたいなクランが出来上がって最強のクランになりました  作者: ミコジ
クラン祝福の絆

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1人目の仲間

朝の探索者協会は、いつものように喧騒に包まれていた。


掲示板の前には、パーティ募集の依頼書がびっしりと貼られている。《上級ダンジョン攻略、前衛求む》《B級探索者急募》《火力職歓迎》――どれもこれも、戦闘力の高い者を求める文字が躍っていた。


白夜優斗は、その喧騒から少し離れた場所で、ため息交じりにコーヒーを啜っていた。二十歳になったばかりの探索者だ。ダンジョンに潛り始めて三年、ランクはようやくD級まで上がったが、戦闘力は中の下といったところ。昨日も、パーティ加入を申し込んで断られたばかりだった。


「戦闘力C-……やっぱり厳しいよなあ」


自分のステータスシートを眺めながら、彼は苦笑する。筋力も敏捷性も、せいぜい中の下。持っているスキルは二つだけ。一つは《アイテムボックス》――これは便利だが、戦闘には直接関係ない。そしてもう一つが――


「《祝福の絆》……」


それが彼の固有スキルの名前だった。女性のステータスを大幅に上昇させるという、珍しいバフスキル。効果は絶大で、親密度が高ければ高いほど、上昇率も跳ね上がる。理論上は、何十人もの女性を同時に強化できるらしい。


だが、問題があった。


「要するに、女の子とパーティ組まないと意味ないスキルってことで」


しかもただ組むだけじゃダメで、「仲間」として認め合い、信頼関係を築く必要がある。そんな条件、見ず知らずの女の子探索者に説明したところで、怪しまれるのがオチだ。現に何度か説明してみたが、胡散臭そうな顔をされるか、ナンパ扱いされるかの二択だった。


「そろそろ、クランも考えないとな……」


探索者協会では、パーティの上位組織として「クラン」が存在する。クランに所属すれば、安定した依頼が回ってきやすくなり、拠点も持てる。大きいクランになれば専用の訓練施設や回復施設まで完備しているところもあるらしい。だが、優斗にはまだ縁遠い話だった。どのクランも、入団条件は戦闘力C以上が当たり前。そして何より――


「おっ、見ろよ。桜庭さんだぜ」


掲示板の近くで、どよめきが起こった。優斗が顔を上げると、そこには一人の女性探索者が立っていた。


年の頃は十九か二十。長い黒髪を高い位置でポニーテールに結い、凛とした雰囲気を漂わせている。腰には一振りの刀。彼女が所属する藤宮クランは、この地域でも五指に入る名門だ。


「桜庭綾乃、か……」


彼女を見るたびに、優斗の胸は小さく軋む。かつて一度だけ、同じ初心者講習を受けたことがあった。あの頃はまだ戦闘力にも大差はなく、言葉を交わしたこともある。けれど今や彼女はA級探索者。藤宮クランの中核メンバーとして、上級ダンジョンに挑む存在だ。


彼女はちらりと掲示板を見回すと、すぐに目的の依頼書を見つけたらしく、一枚を手に取って去っていく。その間、優斗のことなど視界にも入っていないようだった。


「当然か」


優斗は空になったコップを手に立ち上がる。今日もまた、一人で低級ダンジョンに潛るしかないか――そう思ったときだった。


「あの、すみません」


声をかけられた。振り返ると、そこには小柄な少女が立っていた。年の頃は十七か十八。栗色のショートカットがよく似合う、まだあどけなさの残る顔立ちだ。装備は初心者用の簡素な革鎧で、手には小さな杖。ヒーラーの証だ。


「探索者の方ですよね? 私、今日登録したばかりで、よかったら――」


「ダメだよ」


優斗はすぐに遮った。少女の後ろから、別の声が飛んでくる。


「そいつ、戦闘力C-だぜ。しかも変なスキル持っててさあ。女の子と組むと強くなるって口説くんだってよ」


優斗の顔がわずかに強張る。そうだ、この前パーティ加入を断られたとき、あのリーダー格の男が言いふらしたらしい。おかげでこの一週間、掲示板前に立つたびにこんな調子だ。


「ち、違います! 私はただ――」


少女は慌てて何か言おうとしたが、優斗は小さく手を振った。


「あいつらの言う通りだ。俺のスキルは特殊で、説明が難しい。信頼できる相手じゃないと、ちゃんと機能しないんだ」


「それって、私のこと、信頼できるかわからないってことですか?」


少女のまっすぐな瞳が、優斗をじっと見上げていた。


「名前、教えてください。私は月島灯。F級探索者です。ヒーラーを目指してます」


「……白夜優斗。D級だ」


「白夜さん」


灯は一歩、優斗に近づいた。


「私、さっき説明聞きました。《祝福の絆》っていうスキルなんですよね。女性を強化できるって。それってすごいスキルだと思います」


「……本気か?」


「はい。私、戦闘力はE-しかなくて、どこのパーティにも入れてもらえないんです。でも、ダンジョンには潛りたい。両親をダンジョン事故で亡くしてて、私だけでも探索者になりたかったから」


彼女の声は震えていなかった。むしろ、決意に満ちていた。


「私、白夜さんを信じてみたいです」


優斗はしばらく彼女の瞳を見つめ返した。そこには虚勢でも強がりでもない、何かもっと純粋な光があった。


「わかった」


優斗はうなずいた。


「でも、条件がある。まずは俺のことを知ってもらう。それからスキルを使うかどうかは、灯が決めてくれ」


「条件って?」


「一緒に依頼をこなす。まずは簡単な採取依頼からだ。その中で、お互いのことを話そう。俺のスキルは親密度で効果が変わる。つまり、ただのビジネスパートナーじゃ意味がない。本当の仲間になれるかどうか――それを確かめてからでも遅くはない」


灯は一瞬驚いた顔をしてから、ふわりと微笑んだ。


「優しいんですね、白夜さん」


「……別に」


「はい、じゃあ今日からパートナーです!」


そう言って灯は、優斗の手を取ってぶんぶんと振った。周囲の探索者たちが何事かと振り返るが、優斗はもう気にしないことにした。


「そういえば、白夜さん。クランって入ってるんですか?」


「いや、まだ。パーティすら組めてなかったからな」


「じゃあ、私たちでクランを作りましょう!」


「……は?」


優斗が目を丸くする。クラン設立には最低三人のメンバーが必要だ。今は二人しかいない。


「まだ二人だぞ?」


「これから増えるんです! だって白夜さんのスキルって、何人でも強化できるんですよね? それってたくさんの仲間と力を合わせられるってことじゃないですか」


灯の目が輝いている。その無垢な熱意に、優斗の胸の奥で何かが動いた。


――もしかしたら。


「とりあえず、今日の採取依頼が終わったら考えよう」


「はい! じゃあ早速、依頼を受けに行きましょう!」


灯は軽やかに掲示板へと歩き出す。優斗はその背中を二、三歩遅れて追いかけながら、久しぶりに口元が緩むのを感じていた。


ふと、窓の外を見ると、先ほどの桜庭綾乃が別の探索者たちと話しながら通りを歩いていくのが見えた。遠い存在だと思っていた彼女も、元は同じ初心者講習の仲間だったはずだ。


「白夜さん、これなんてどうですか? 《月光草の採取》ですって」


「ああ、それならE級ダンジョンの浅層で見つかる。初心者向けだな」


「よし、決まりです!」


灯が楽しそうに依頼書を掲げる。その横顔を見ながら、優斗は静かに決意を固めた。


いつかきっと、自分のクランを大きくして、彼女と同じ舞台に立つ。そんな日が来ることを、今はまだ漠然と、けれど確かに信じ始めていた。


優斗はアイテムボックスに装備をしまい込みながら、新しい相棒の後を追った。春の陽射しが、二人の影を協会の床に長く伸ばしている。


これは、後に「祝福の絆」のクランマスターと呼ばれる男と、最初の仲間との、ささやかな始まりの物語だった。

読んでいただきありがとうございます

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