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薄墨の魔術師  作者: 水遁
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魔具の無い①

設定その物は気に入っているけども、書くのに行き詰って筆を折ってしまっていた処女作をリワークしました。ので実質処女作です(強引)

魔術師、文字通り魔術を操る人を指す言葉である。魔術師の歴史は今使われている紀年法が成立するよりもずっと前に遡る。魔術師の大元、全ての魔術師の祖先に当たる者は人ならざる者と密約を交わし、それが人類史上に於ける初めての魔術師であった。魔力の器としての機能、そしてその用法が記された肉体、それは世代を経る毎に世界中へと遍満して行くのであった。


時は現在に戻り、魔術師は悪魔や魔獣と対峙する職業として公に認められる、誇りある職業となった。何故誇りあるかと言うと、これは魔術師にしか出来ない仕事であるからである。だから魔術師は重用された。


彼もまた魔術師であった。ただ、彼においては少し事情が違ったわけだが。


***


「魔具無し君はまたしてもクビになった訳だ」

「そりゃ言っちゃいかんぜ」

「怒んなって」


強くは言い返せない。何故なら私は今、飲み屋でこうして奢られている身だからである。


魔具無し、妥当な名称である。魔具は魔術師の肝であり、魔術師はこれがないと魔術を使えない。分霊箱と言う道具を使い作り出した魔具を用いないと魔術師は魔術を扱えなくなる。魔力を持つ人間は等しく魔具が作れるはずであったのに、魔術師学校2年の春、分霊箱は僕の体に反応しなかった。まさしく青天の霹靂であった。


こうして魔術を扱うために16歳まで基礎魔術の修練に努めてきた僕は、今更魔術師以外の道を選ぶのも無謀と言った感じで、こうして今の今まで魔具無しと嘲られつつも基礎魔術だけで食い繋いでいる訳である。


「あー、まあそうだ。ごめんだな。ごめん」

「僕も悪かった。奢られている身なのに」

「それもそうだわ魔具無し」


酔うたびにこの絡み方をしてくるから、そろそろ慣れてきたと言うのもある。それと、自身の境遇について受け入れ始めた、言い換えるなら現実がいい加減見えてきたというのもある。基礎魔術だけで熟せる依頼というのは正味たかが知れている。例えば小鬼(ゴブリン)。背丈は人の3分の1ほど、膂力は背丈の割には強いがただそれだけ。力仕事を生業とする成人男性が手頃な武器を持っていれば個人で対処できる程の魔物。そう言った簡単な魔物しか相手に出来ない。そう言うのは高齢化の進んだ地域が偶に出している程度であり到底これだけで食べてはいけない。後は日雇いの労働力としての仕事があればそれでトントン、食い繋ぐのが精いっぱいと言う感じである。


「まあ最近羽振りいいからさ。食べて良いよ」

「不甲斐ないね」


山ほどの炒め物がドサッと乗った皿が運ばれてくる。彼女は手際よくそれを取り分けてこちらに差し出す。会釈をしそれを受け取る。ふわりと山椒の良い匂いがする。


羽振りが良いというのは本当の話なのだろう。彼の所属するギルドが最近は遠征などにも出たりしているらしいと言う事は、広報誌を通じて知っていた。遠征と言えば本当に凄い事だ。ここのような人がそこまでいない地方都市で魔族や魔獣狩りを生業とする魔術師は魔術師の花形ではなく、花形はルスベルセルみたいな都市で護衛だの、大型の魔物を狩りに行く遠征隊に組まれたりする魔術師こそが魔術師という役職の花形である。つまり彼は花形に王手をかけたわけである。その事実を頭の中で揉む内に、喉を滑る麦酒が生暖かくなったように感じた。


別に彼におんぶにだっこのまま生活していこうと思っているわけじゃない。ただ同期で高めあった仲間が上へ上へと行くのを、この先の見えない魔術師業をしながら見ているのがとても歯痒いと言うだけである。


それが表情に出ていたのか、程なくして彼からはお開きを提案された。割り勘のそのまた更に割り勘として食事代の4分の1を払った。


***


月が明るい晩だ。お酒が回ってきて頭がふわふわし、頬は触らずとも分かるほどに熱くなっている。彼は繁華街の中心部にある宿舎へと戻っていった。彼のギルドは衣食住の保証があると言っていた。羨ましい話だ。


半面、僕は魔物の住まう森に戻っていく訳である。家はないが毎日宿屋を借りれるほどの稼ぎが得られるわけではないから、森の中に家を建ててそこに魔除けの結界を掛けてそこに住んでいる訳である。森の中は土地代も掛からないので一度建てれば生涯タダと言う訳だ。ただ彼と比べるとやはり惨めだ。飯を奢って貰った相手にこんな感情を感じる事もやはり野暮ったい。


「まほーがつーかえたらなぁぁーーーーーー」


喉は開けずに出せる中で一番大きな声を出す。獣道の両端に生える草木がガサゴソと鳴る。リスやらモズやらが逃げたのであろう。魔物が来たらどうしようか。酔ったまま召されるならそれはそれで良しとしたいようにも思える。


いっそこの腕その物が魔具であったらな。右手をかざしてみる。


その瞬間、いつも扱う基礎魔術とは全く異なる魔力の起こりを感じた。


魔力は、へその辺りで練り、出したい部位に流し、魔術に合わせて外に出したりそのまま留めたりする。今回のは明確に違う。ニュートラルな、言い換えると練られていない魔力が右腕に流れ込んだ。内臓と腕が直で繋がったような、そんな筋張った感覚。


そしてかざされた右手には魔術という形象に変化した魔力が溜まっていき、なし崩し的に繰り出された魔術。基礎魔術には存在しない謎の魔術。


放たれるその瞬間、僕は目の前にあった木を直感的に対象として選んだ。何が起こるかは分からなかった。ただ使えば分かる。これは知識で知っていた。魔具を介した魔術と言うのは、使ってみるとその魔術が一体どの様なものか手に取るように分かるようになると言う話であった。


放たれた魔術は目の前の木に飛んでいったように思う。飛んで行き、着弾を感じ、そして1秒、2秒、3秒、突然木の根元の地面がベコッと沈み込み、そしてそのまま木が地面に吸い込まれるようにグズグズに破壊されながらめり込んでいき、そしてそこで僕の魔術はどうやら終わったようだ。


「うおっ...」


そして体が凄まじい倦怠感に襲われた。魔力切れの症状だ。しかもかなり重度。肉体の節々が軋むように痛み、そして目がチカチカとする。マズい。魔獣、ここら辺には低級のしかいないがこの状態で出くわすのは相当にマズい。


まだ歩けなくはない。そう言えば高校の頃、初めて魔具を使った友達が出力を誤ってそのまま気絶した。後悔してもしょうがない。悲鳴を上げながら家に向かって進む体は足で歩いていると言うよりも心に引きずられているような感覚であった。

続きます

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