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月落ちる森  作者: 小湊世月
後編 Ⅰ 遠足の狼

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49 幕間の狼Ⅱ 『ある書簡』

 親愛なるエリオット・リーネ先生へ




 ***




 その後、セラの体調はどうですか?

 毎回桃では飽きられてしまうと思うので、今度は梨にしようかと思っています。最近は苺も作り始めました。気に入ってくれるといいのですが。


 ところで、ラファエルとは誰ですか?

 セラとどういう関係ですか?

 セラとよく一緒に出掛けているようですが、友人ですか?

 少し馴れ馴れしいのではありませんか?


 朱の月 二十四日  A.L.セシル




 ***




 まさかラファエルが馬だったとは予想外でした。人間の男じゃなくて良かったです。


 しかし用心に越したことはありません。セラに悪い虫がつかないよう、しっかりと目を光らせてください。

 先生がお忙しいようでしたら、僕が先生の代わりにセラを守ります。お気軽にお申し付けください。


 紫の月 十日  A.L.セシル




 ***




 来月はセラの十六歳の誕生日ですね。誕生日プレゼントを贈りたいと思うのですが、なかなか希望を聞き出すことができません。

 前に、アクセサリーを贈ったら『こんな高そうなものは貰えない!』とセラに怒られたので、今回は花にしようかと思うのですが……セラはどんな花が好きかご存知ですか? 大きい花、小さい花。色鮮やかな花、香りの良い花……セラのためなら、どんな珍しい花でも咲かせてみせます。


 緑の月 五日  A.L.セシル




 ***




 写真をありがとうございました。可愛くて、毎日持ち歩いて眺めています。

 プレゼント喜んでもらえて良かったです。次は、直接渡せれば良いのですが。


 真珠の月 二十七日  A.L.セシル




 ***




 セラが騎士になるので結婚はできないと言うのですが、本気なのでしょうか?


 先生の教え子でもある僕の三番目の兄は、第五騎士団に所属しています。兄から話を聞く限りですが、騎士はお世辞にも行儀のいい連中ではありません。セラが苦労するのは火を見るよりも明らかです。

 とても、心配です。


 紅の月 十五日  A.L.セシル




 ***




 先生は、まだ僕とセラを会わせられないとお考えでしょうか? しかし、このまま会わずに僕はどうやって彼女の信頼を勝ち得ることができるのでしょう?


 セラが十八歳になるまで、あと一年と九ヶ月しかありません。

 先生のお許しをいただいたなら、いつでも、何処へでも会いに行きます。どうか、ご一考をお願いいたします。


 青の月 十日  A.L.セシル




 ***




 先日、父がそちらに伺う際に、僕は近くの街で待っていました。街を散策していたところ、花の香りに誘われてフラフラと市場へ迷い込みました。


 そこで、長い黒髪の女性を見ました。――セラでした。


 会いたかったのに、話したかったのに。いざ目の前にしたら何もできず。僕は、あの頃と何も変わっていない自分に嫌気がさしました。


 声を掛けようと思い至った時にはもう、セラは街を出た後でした。


 僕は随分と長い時間、その場に立ち尽くしていたようで、パン屋の女将さんにパンが大量に入った袋を押し付けられて、迷惑そうに追い払われました。

 物乞いにでも見えたのでしょうか……。


 虹の月 二十日  A.L.セシル




 ***




 一目姿を見れば落ち着くと思っていたのに、今はただ苦しいばかりです。


 月女神(ルーネ)は月光花の香りがすると伝えられています。あの香りがそうなのでしょうか?

 こんなにも狂おしく心を掻き乱されるとは……。


 夢を見ます。早く、早くとルシオンが急かすのです。


 僕はいつか、そう遠くないうちに、その声に負けてしまう気がします。その時に、側にセラが居てくれたら良いのですが……。


 虹の月 二十五日  A.L.セシル




 ***




 先日、御印(みしるし)の継承には三つの方法があると知りました。


 親から子など、相手を指定して譲り渡す【委譲】


 保持者が事故で命を落としたり、殺害された場合など外的な要因により、緊急的に一族の最も若い者に移動する【剥離】


 保持者が老いや病で緩やかに死んだ後、初めて生まれた子が持って生まれる【神授】――僕の場合はこれにあたります。


 月女神(ルーネ)御印(みしるし)は、どうしてもセラが継がなくてはいけないのでしょうか?

 御印は、前の持ち主の記憶を強制的に見せる。御印が無ければセラは■■■■■の記憶を見ずに済むのに。


 先生、ルシオンは僕の幸福が許せないようです。もう、手紙のやり取りだけでは無理なのだと思います。


 蒼の月 十日  A.L.セシル




 ***




 先生のお返事を読んで、自分が如何に浅はかだったかを思い知りました。同時に、先生が如何にセラを愛し、その幸せを願っているかを知りました。


 そうですね。仰る通り、ぼくは寿命のことを失念していました。御印(みしるし)を受け継いだ者は、寿命が延びる。僕はセラの居ない世界に遺されるなど、考えたくもありません。


 でも、譲った後の先生はどうなるのでしょう?


 蒼の月 二十八日  A.L.セシル




 ***




 セラが王立学院に転入するというのは本当ですか!?

 もうすぐここで会えるのですね。セラが不自由しないように、僕が全力で支えます。


 ところで、王族から平民までいる中で上手く立ち回るには、婚約者がいた方が良いと思いますが、先生はどのようにお考えでしょうか?


 洋の月 三日  A.L.セシル




 ***




 この手紙が先か、僕がそちらに伺うのが先かはわかりませんが、これから会いに行きます。

 婚約をお許しいただけるまで帰りません。


 洋の月 十四日  アルファルド・ルシオン・セシル

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