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まっすぐな告白《昭和島》

男の子同士だったからできなかった告白……しかしその障壁はなくなり傑は凛に告白した。その言葉に驚きと戸惑い、そして焦りを覚えるばかりだった。そして傑はある問題を抱えることになる。

 昭和島はここまでするかと言う程に細長く正直使い勝手が良さそうには見えなかった。


 いや、こんな構造にっているのはこの駅も乗降客が少ないからで東京モノレールの駅で混雑するのは各空港のターミナル駅と終点だけではないのかと凛は思った。意外なこの東京モノレールの運用と言うものを発見したさまに感じると同時に、その意外な想いというのが蘇る。それはあの時の傑の言葉、凛にとっての初体験……


「なぁ凛……俺達、付き合わないか?」


 吹奏楽部の先輩で三年生になって全てのイベントが終了し、受験準備のため引退した部長、佐藤傑さとうすぐるの言葉だった。彼は真っすぐな瞳で見詰めながら、凛がこの中学に入学してからずっと気になってたということ……そして、彼は打ち明ける。傑は男の子同士だったから告白を躊躇い、迷い、解を探したことを。そして思いがけず凛の立場が変わり障壁は消滅したと感じて告白を決心したことを。


 壁ドン状態に追い詰められた凛は傑が日本語を話しているにもかかわらず、その言葉の意味を殆ど理解出来なかった。いや、音として感じることは出来るが言語であることを認識出来なくなってしまったのだ。そこまで激しく動転した気が体内の大動脈すら振るわせる。ここまで人の顔が自分の顔に近づいているのは母親の顔以外に経験が無い。その圧に焦りまくる凛を無視して傑はそのまま彼女の頬に軽くキスをしてから徐に体を起こした。凛は頬が傑の唇の感触を察知した瞬間、視界の色がすっと消え、世界が一気にモノクロへと変わると同時にその異常事態をいち早く察知した本能が『ぴっ!』と短い警告音を鳴らして脳を動かすOSが強制再起動を始めた。


「返事は今すぐここでとは言わない。決心がついたら言ってくれ」


 その言葉はの右耳から入って鼓膜を振動させ電気信号となって脳内で響き渡った後に脊髄から末梢神経にとんでもない負荷の刺激を与えた後、鳥肌と共に体から抜けて行った。その震えを感じたのか傑はゆっくりと凛から離れると教室のドアに向かって歩き出す。そして扉の前まで移動してから引手に手をかけ静かに開き途中で一度振り向くと凛に向かって微笑みながら一言。


「いい返事を待ってるよ」


 柔らかな言葉を残して傑は凛の前から立ち去った。それを追いかける凛の視線の先端は明らかにピントが合っていないのははたから見ても明らかだった。全身が心臓になっているんじゃないかと思えるくらいの胸の鼓動で体が揺れるのを感じながら部室の窓から差し込む茜色の夕日を浴びる凛の瞳にぼんやりと焦点が戻って我に返った彼女はまるでマリオネットみたいにふわふわとした足取りで傘の部分を下にして床に置いたユーフォニアムを本能だけでケースに戻し再びふわふわとした足取りで教室を出ると部室に向かって歩き出した。


 秋の陽はつるべ落とし……と言うか彼女の動きが普段の1/10以下だったからだったかもしれない。それにも拘らず、誰にも出くわさなかったのはある意味、凛の運命が本格的に転がり始めたことを示しているのかも知れなかった。ただ、傑の言葉に凛は不快感を覚えなかった。それは、彼の視線と言葉がまっすぐで偽の無い素直さを見せていたからだ。だからその言葉に凛の心も体も素直な反応を見せたのだ。


 背中を丸めてバッグに突っ伏しながらそんなことを思い出した凛は更にその後の出来事が頭の中を駆け巡る。後に聞いた話では、紗久良がその場でその様子を近距離から見ていて自分も実は思考が吹っ飛んだと聞いた時には凛は顔が爆発したんじゃないかと感じるくらいの羞恥を感じ思わずその場から全速力で走り去ろうとしたのだが、紗久良はくすくすと笑いながらこう言って見せた。


「でも、それが切っ掛けで、凛君との関係を持たなかったら傑さんって、ひょっとしたら元気になれなかったんじゃないかしら?」


 ……瞳から何かが落っこちたような気がした。


 透明で柔らかな笑顔を湛えて見詰める紗久良の視線がなぜかとても嬉しく感じながらふっと凛は思った。自分にとってこれは人生初めての本格的な人助けだったのではないか。少しおごった考えかも知れないが思い返せば今、全てが丸くおさまっているのは奇跡としか思えない、傑が試練を乗り越え、生きる為の光を掴むことができたのは凛の心が導いたと、言えるのかも知れなかった。そして、その後、触れた紗久良の唇の柔らかな感触が凛の全身をあたためてくれた。


 傑は宣告を受ける、それは視界の焦点を奪うには十分だった。おそらくだが、これが全ての医者のスタンダードなやり方なのだろう。極めて冷静にそして少し冷たく、あくまで事実だけを淡々と、余すことなく伝える。それが医師の仕事なのだ。


 ……急性リンパ性白血病


 5年生存率が15〜19歳で約75〜85%、不治の病ではないが極めて深刻な病気である。彼は高校受験を控えて日夜受験勉強に励んでいたが、強いだるさ、ちょっと歩いただけで感じる強い疲労感。更に微熱が続いたものだから風邪かと思い、風邪薬を飲みながら何とかやり過ごそうとしたのだが症状は一向に回復しない。思い切って近所の医院を訪れ診察を受けたのだが、そこで医師が気づいたのだ。胸や二の腕のあたり、通常あまりぶつけることの無い場所に青痣が出来ていることを。そして、大きな病院で検査を受けることを勧められて検査を受け、その結果がこれだった。


 溜息すら出なかった……と言うかそれを事実として受け止めることが出来なかったのは付き添って傍らに立つ母親も同様だった。そして、緊急入院を言い渡された。

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