第49話 魔王の本質
神の核が、脈打つ。
勇者の剣が、きしむ。
俺の胸を貫いた光が、肉を焼き続ける。
意識が、遠のく。
その奥で。
声。
深い、底のない声。
――解け。
――名を、思い出せ。
俺は、問う。
「解放すれば、どうなる」
声が、笑う。
――お前は、お前でなくなる。
――だが、届く。
神に。
勇者が、叫ぶ。
「何をしている!」
血を吐きながら。
それでも、核を押さえている。
限界だ。
あと一瞬で、押し返される。
村が、消える。
勇者も、消える。
俺は、目を閉じる。
思い出す。
追放。
石。
裏切り。
恐れ。
そして。
子供の手。
震えていた。
あれを、離したくなかった。
――なら。
「解放する」
静かに、言う。
内側の鎖が、砕ける。
音はない。
だが、世界が、軋む。
黒が、溢れる。
影ではない。
闇でもない。
存在そのものの反転。
勇者が、目を見開く。
「……お前」
俺の影が、地面から立ち上がる。
巨大。
角。
無数の目。
翼。
王冠のような歪んだ光。
空気が、凍る。
兵が、膝をつく。
村人が、声を失う。
神が、初めて揺れる。
「それは……」
三つの目が、震える。
「原初の……否定……」
俺は、核を掴む。
片手で。
焼けない。
消えない。
逆に。
神の光が、軋む。
「神?」
自分の声が、二重に響く。
低く。
深く。
「選ぶのは、お前じゃない」
握る。
核が、悲鳴を上げる。
勇者が、叫ぶ。
「待て! それ以上は――」
止まらない。
止めない。
圧縮。
収束。
神の核が、ひび割れる。
総司祭の身体が、崩れ始める。
「人が……我らに……!」
砕ける。
爆ぜる。
光が、四散する。
空の魔法陣が、完全に消滅する。
静寂。
闇が、ゆっくりと引いていく。
俺の背後の影も、沈む。
だが。
消えない。
内側に、残る。
確かに。
勇者が、膝をつく。
俺を見る。
恐れ。
理解。
そして、覚悟。
「……それが、お前の正体か」
俺は、息を吐く。
声が、元に戻る。
「多分な」
胸の傷は、塞がっている。
代償。
あるはずだ。
まだ、来ていないだけ。
広場に、沈黙が落ちる。
神は消えた。
総司祭は、灰。
村は、かろうじて残った。
だが。
俺を見る目が、変わる。
村人の目。
兵の目。
勇者の目。
理解している。
さっきまでと、違う。
俺は、守った。
だが。
人ではない。
勇者が、ゆっくり立ち上がる。
剣を拾う。
刃を、俺に向ける。
「約束だ」
静かに。
「終わったら、決着をつける」
俺は、笑う。
「ああ」
影が、揺れる。
完全には、収まっていない。
「今度は、本当に最後だな」
村の夜は、静かだ。
神は消えた。
だが。
物語は、終わらない。
なぜなら。
勇者と魔王が、まだ立っているからだ。




