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人間には向いていない  作者: 咲紫きなこ
番外編
32/33

黒木の過去2

 僕は髪を切りズボンをはいて親の部屋に入った。

 部屋の中にはお母さんと恵がいた。


「お母さん、僕ね、プリンスになりたいんだ」

「何言ってるの? 僕? 私でしょう? そんなのあやめちゃんじゃない。どうしちゃったの? いつものあやめちゃんに戻って」


 認めたくなかったけれど、いざ目の前にして思っていた事を言われてしまった。

 本当に僕が思ってる様な、クソな親だと、本当は信じたくなかった。

 本当は、本当は、願ってた。

 愛してほしいと。


「ふふ、ありがとうお母さん。そう言われるとは思っていたけど、これで、本当に、決心が……ついた」


「決心? なんの話をしているの?」


 僕は本当の僕を拒絶された事実により、本当の僕に価値なんてなく、僕は愛されていなかったと知ってしまった。

 知りたくなくて逃げて来たのに、無理して笑っていたのに、知ってしまった。

 僕の中の全てが壊れ、憎悪と悲しみでいっぱいになった。


 そこで、僕は彼と変わる事を決意した。

(君に、この体を明け渡すよ。黒木恵愛の人生、是非、僕の夢、理想の王子に導いてやってくれ。よろしく頼む)

(ねぇバタフライちゃん、僕だけはね、君を、愛しているから)

 彼が僕の唇を喰み、薄笑いを浮かべた瞬間に、僕の中の悲しみや憎しみを一気に叫んだ。


「う、あっ、あぁっ……うっ……うああああ!!」


  頭が割れるように痛い、その苦痛と共に僕は、意識を失った。


              ***


  意識と共に閉じていた目が開かれた。

 目の前には地面、近くで僕の名前を呼ぶ声、両手で頭を抑えていた様なので手を目の前に持っきて、握ったり開いたりしてみた。

(出来た、あ、息をしている)

 無意識に鼻から息を吸い、それでお腹が少し膨らみ、そしてその分息がまた鼻から出ていく。

(生きている。僕は、僕はやっと体を手に入れたんだ!!)


「ふふふふ、あはははは!!」

「あやめ様?」

「あやめちゃん?」

「やっとだ、やっとこれで始まるんだ!! 僕の物語が、プリンスを形で表現出来るんだ!!」


「王子? まだそんな馬鹿な事言うの? やめてちょうだいあやめちゃん!!」


  僕の事を”あやめちゃん"という忌々しい名前で呼んでくる女は、肩を掴んで僕の顔を覗きこんできた。

  目が合った瞬間に、この女は僕が世界で一番憎むべき女だと理解した。


「ふふ、あやめちゃん。だって? 誰に対してものを言っているんだ低俗が! 触るな!!」


  しゃがんでいた僕は立ち上がり、急に立ち上がったことでその女はよろめいたのでそのまま左足で蹴った。

 バランスを崩し、その女は無様にも顔を床にぶつけたので、その頭を左足で踏みつけ、這いつくばらせた。


「黒木家の当主ともあろう女が、地面に這いつくばる様子。はははは、見ていて気持ちが良いよ。それをさせてるのが僕って事に、あぁっ……とってもゾクゾクするよぉ……これって、なんて言う感情なんだろう」

「あやめ様! いくらなんでも、おやめ下さい!」


  先程近寄ってきていたもう一人の女が、僕の肩を掴んだので振り向いて顔を見た。


「あやめ様か、君が恵だよね。

 ねぇ恵? この感情って、なんて言うんだか知らないかぃ? ねぇ、教えておくれよ。お前は、この女のメイドじゃないだろ? 僕の、メイドさん。そうだろ?」


  そう言ってから、僕は恵の顔を左手で引き寄せ、目を見つめた。

  恵は僕の顔を見るなり、怯えた様な顔をした。


「まさか、僕のメイドなのに、この女の心配なんてしているのかぃ? そんな悪い子じゃあ、ないよね?」

「や、やめてください」

「そうか、君もこの女の味方なのか……残念だよ」

「いいえ、あやめ様の味方です。でも、そんな事をしてはいけません」

「君に免じてやめてあげるよ」


 一番憎むべき女の頭から足を退けてやると、すぐ様立ち上がり、僕の方を睨んだ。


「何するのあやめちゃん! それにその口の聞き方は何? どうしちゃったのよ」

「どうしたも何も、これが僕だよ。今まではお前の前で嘘をついていたんだ。そんな事もわからないのか」

「そんな筈ない。あやめちゃんはいつも大人しくて清楚でかわいくて、それで」

「あやめちゃんの話をやめろ!」


 僕はイラついた声でそう言い放つと、その女は黙り込んだ。

 そうだ、せっかく僕が僕になったのにそんな話ををしたくはないんだ。


「僕は今日からプリンスを目指す。黒木家の跡継ぎなんて知らない。お前が僕を認めなくても、僕はプリンスをやめない。わかったな? これからは好きにやらせてもらう」


 そうして晴れやかな気持ちで、僕は部屋を出た。

読んでくださりありがとうございます。

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次回もお楽しみに。

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