25ページ
今日も私は、その匂いを辿る。 結末が分かっていても、彼女が嫌いではないから。
朝、ゆずきが登校してくる前に、くろきさんが私のクラスにやってきた。
くろきさんは私の前の席に座った。
「おはようゆいらちゃん。今日もかわいいね」
「おはようくろきさん。今日も元気だね」
「うふふ。朝から君の顔が見られる。それだけで、こうして笑顔になってしまうんだよ」
「キョウモキレノイイスケコマシダネ」
「僕は思った事を、言ってるだけだよ」
そう言って私にウィンクを飛ばした。
(うっ、眩しい……)
くろきさんは芸能人とかになれば良かったのでは? といつも思っている。
くろきさんは左手で頬づえをつき、私の顔を見つめ、笑った。くろきさんが近くに居ると、決まって高そうな香水の匂いがする。
なんにも気にしてなかった空気が、彼女が来るだけで一掃される。
好きな匂いかと問われたら、そうでもない。
「くろきさんが来ると、一気に高そうな匂いするよね」
「え? 香水の事かぃ?」
「そう」
すると彼女は、自分の手首を少し嗅いだ。
「これはね、ジャスミンノワールって言う香水さ」
「へー」
「僕にピッタリの香り。そう思わないかぃ?」
「思う。めちゃくちゃ思う」
好きな匂いではないものの、彼女と近くて、この香りがすると、美しい、かっこいいとより思ってしまう。
「罪深いね」
「え? どうして」
「美しくてかっこいいプリンスから、そんななんか、女の子がよりドキドキする香りまでして」
くろきさんにそう告げると、目をぱちくりさせた。
(アイラインで書いてるからキリッとしてるだけで、こういう気の抜けた表情の黒木さんは、普通にかわいいと思う)
すると彼女は両手を顎の下で組んで、にこやかに私の方を見た。
「ドキドキした?」
「えっ?」
「ゆいらちゃんは、そんな僕にドキドキしたの?」
「は?」
その言葉に、疑問符しか浮かばなかった。
「いや、私がなんて言ってないじゃん」
「ドキドキ、しなかったの?」
「え? して欲しいの?」
「したら嬉しいよ」
「なんで!?」
「ゆいらちゃんが、もっと僕の事考えて、好きになってくれたのかな。って、嬉しくなるよ」
うっ、ごめん意味わかんない。
「思わせぶり過ぎだよ!! ギルティ過ぎ」
「え?」
「世の中の女子は、そんなイケメン過ぎるあなたにそんなこと言われたら、ゆずきみたいに流せないんだよ⁉」
「他の子はさておき、もしゆいらちゃんが僕にドキドキして、もっと、僕の事好きになったら、僕は嬉しいよ?」
「駄目だ、話が通じない……ゆずき助けて」
「僕の事、もっと好きになって、辛くなったら言ってね? 君の為なら、その気持ち受け止めるよ」
「うわあぁぁぁぁ! ゆずきハリーアップ!!」
頭を抱えていると、ゆずきが登校してきた。
「おーくろき、ゆいら、おはようフレンド!」
「おはようまき」
「助けてゆずき……くろきさんが」
「はぁ⁉︎ てめぇまたゆいら困らせたのかよ」
ゆずきは私の隣の椅子だけ持ってきて、くろきさんの隣に座って、くろきさんを睨んだ。
「困らせたって、お前は何にも事情を知らないだろ。何にも知らないお前が僕を悪者にするのは腹が立つ」
「いや、明らかにゆいら困ってんだろ! 何したんだよ」
「僕は、ゆいらちゃんが僕の匂いがドキドキするって言ってくれたから、僕の事、好きなんだね? って話をしてたんだ」
「てめぇの匂い? タンスみたいな匂いするよな」
ゆずきはくろきさんのシャツを強引に引っ張り、匂いを嗅いだ。
「タンっふふ、確かにゆずきの言う事も一理ある」
「Non!! これはジャスミンノワールだよ!」
「かっけぇな! あたしの技名にしようかな、くらえ! ジャスミン、ノワアァァァァいってぇ! なぁにすんだゴリラァ!!」
「うるさいんだよお前は!」
いつもの漫才が始まった。
本当に二人は仲が良い。
「あたしの匂いの方が、ゆいらは好きだよな!」
「え? いや、別に」
「脂くさいの間違いだろ」
「んだとゴリラァ! ちげぇから、あたしは――これ!」
そう言ってゆずきはカバンから小さなピンク色のボトルを出した。
雑貨屋さんに売ってる様な、かわいいボトルで、フローラルの香りとかシトラスの香りとがあって、五百円くらいで買えるやつだ。
「これをー、プッシュ! ほれ、どうよ?」
ゆずきがボトルを一回押して、手の甲、首元に付けた。
近寄れば、ふんわりと甘い香りがした。
でも、好きかと問われたら、苦手な香りだ。
「今時の派手な子が付けてそうな、なんとも眉間に皺がよる香りだね」
「なんでだよ!」
「うわっ、そんな甘い匂いで僕に近寄るな! やはりお前は趣味が悪いな」
「なんでだよ!」
嗅いでから、私は少しゆずきから離れ、くろきさんも椅子を後ろにずらし、ゆずきから少し離れた。私は甘い香りが得意ではない。
くろきさんは甘い物が苦手だから、私より嫌だっただろうな。
「あたしはこういうチープな香水の香り嫌いじゃねぇけどな」
「香水なんて、別に一々付けなくても」
「くろきその香水いくらした?」
「え? 今使ってるのは二十五mlの小さな持ち歩けるやつだから、三千円くらいかな」
「さっ」
「二十五mlで!? てめぇ頭おかしんじゃねぇの? あたしの五十mlだぞ!」
「それだけお前はチープな香りなんだよ」
「その匂いに三千円、でも、その匂いくろきさんに似合うし……流石だね。すごいや」
「うふふ、ありがとう、ゆいらちゃん」
「てめぇそれなんで自分に合うってわかったんだよ。因みにあたしはパケ買い」
「馬鹿め」
「んだとゴリラ」
「テスター?」
「いや、これはね、名前がかっこいいから買ったんだよ」
「てめぇだって馬鹿じゃん」
「それな。今私も思った」
「僕メイク用品や美容用品はすぐにチェックして、気になったり、こうして名前や見た目が気に入るとすぐ買っちゃうんだよね」
「うわぁ、流石金持ち。すごいや」
「あ、でも、自分に似合わない匂いの奴は、化粧台に飾ってあるよ」
「よこせー! 使わねぇならよこせー!」
ゆずきはくろきさんの肩をばしばしと叩いた。
「ビンが好きで置いてあるのに、お前にやるわけないだろ」
「よーこーせー」
「まあ、そんななんか付けなくても、私は良いと思うけどな」
「うーん、そうだね。でも僕、ゆいらちゃんの飾らない匂い好きだよ」
「ゆいら無臭じゃね?」
「うん、そうだね」
「別に自分の好きなやつを、好きに付ければ良くね?」
「そうだな。でも僕はお前が今つけた香水は嫌いだ」
「文句言ってんじゃねぇか!」
くろきさんに掴みかかるゆずき。
くろきさんはゆずきの顔を見て、手を握った。
「掴むな。あとお前は何か勘違いしている」
「は?」
くろきさんはゆずきの手を握り、見つめあったまま話を続けた。
(この状況に動揺しないゆずきは流石だな。てか、ゆずきもくろきさんも距離が近いの気にならないのかな)
「僕はお前がつけたチープな香りが嫌いだとは言ったが、お前の香りが嫌いだとは言ってない」
「は?」
「お前は何にも付けなくて良い。お前の匂いが好きだ、お前だとわかるから」
「お、おう。サンキュ」
「だからお前はもう付けてくるな。わかったな」
丁度良いタイミングで鐘がなった。
「じゃ、僕は教室に帰るよ。二人共、またね」
何事も無かったかのように、颯爽と居なくなってしまった。
「ゆずき氏」
「なんでござるかゆいら氏」
「今のは乙女ゲーイベントシーンでござるか?」
「ほんとだよな! ふざけんなよ流石に恥ずかしかったわ! あたしが異世界人で良かったなくろき。あたしがこの世のきゃっぴきゃぴ☆るんるん族だったら恋してたぞ」
「何族?」
「きゃっぴきゃぴ☆るんるん族」
「今作ったの?」
「おう」
「でもくろきさんのあれは思った事言ってるだけだからなあ」
「思わせぶり過ぎだろ」
「それな」
まだ一日の前半だと言うのに、今日も私達三人の日常は騒がしい。
読んでくださりありがとうございます。
よろしければブックマークや評価や感想やいいね等お願いします。
次回もお楽しみに。




