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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
内通者

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アラウィリアへ到着



ラルシャーク領での視察は順調に終わり、最終日には待ちに待った天馬合戦と相成った。

相成ったのだが、何とも手応えのない天馬合戦であった。



バルデミアンがそこそこの人数を相手取り、彼が取りこぼした騎士たちをムナグレークが相手取り、それだけで充分なくらいの戦力差だった。


リディオノーレの初めての天馬合戦がアラウィリアだったこともあり、ラルシャーク領ではほぼほぼアインズビルの相手にならなかった。


4対15という人数差だったが、それを埋めるほどのバルデミアンの剣の実力、ムナグレークの天馬による撹乱、そしてリディオノーレの魔法。

呆気ないものであった。


「………アラウィリアでのあのお話は、実話だったんですね…っ」

ラルシャークの騎士団長が息を切らせながらそう言った。

やはり、あのときの会食にいた騎士は団長だった。


「今度は、楽しませてくださいね」

リディオノーレは少し頬を膨らませながらそう言った。

全然面白くなかった。

リディオノーレが一瞬風を吹かせただけで全員が飛んでいくものだから、彼女の方が驚いた。


魔法の繊細な調整をしなくてもよかったので楽だったのは有り難かったが。


「………流石グレイザック様の弟子を名乗るだけの魔力量ですね」

団長は苦々しげに呟く。

「これでそんなに褒められても嬉しくないですよ。実力の半分も出してません」

リディオノーレは言う。

その発言に、ムナグレークが後ろから彼女の袖を引っ張った。

彼女が振り向くと、ムナグレークが静かに首を振る。

それ以上言うな、という動作だ。


「だって………」

リディオノーレは唇を尖らせた。

「これで分かったろう」

グレイザックがリディオノーレの額を弾く。

「お前は規格外なんだ。………そして、ラルシャーク騎士団長殿、彼女の実力が分かったなら幸いです」

グレイザックはにこりと微笑んだ。


「グレイザック様、出来れば何か助言をもらいたいのですが」

団長は言う。

「………」

グレイザックは面倒くささを誤魔化すためににこりと微笑んで、リディオノーレを見た。

何故、俺がそんなことをイチイチ教えてやらねばならんのだ、みたいな思考だろうか。

何となく分かってしまったリディオノーレは、少し息を吐くと団長に話しかけた。


「まずは騎士団員たちの底上げからではないでしょうか。私の護衛騎士であるバルデミアン1人に何人が止められましたか。まさかそこまでとは思っておりませんでしたので、驚いたのはこちらです」

リディオノーレが辛辣な言葉を吐く。


その言葉にムナグレークは後ろから彼女の袖をまた引っ張る。

バルデミアンは苦笑いだ。

あまりにも辛辣すぎる。


グレイザックも少し片眉を吊り上げた。

まあでも任せたからにはもう仕方がない。


「アラウィリアでの天馬合戦の話を信じていなかったのも敗因の1つですね」

リディオノーレはにこりと微笑む。

「………また挑戦させて下さい」

団長は唇を噛みながら、悔しそうにそう発した。

「楽しみにしています」

リディオノーレはそう答え、今度は領主子息に視線を移す。


自尊心を打ち砕かれてしまったようで、地面に打ちひしがれている。


「……そっとしておきましょう」

ムナグレークが進言する。

「これ以上、あいつの自尊心を折らなくて良い。もう充分、折れている」

グレイザックも同意する。


子息がつけていた鈴をリディオノーレが鞭で奪い取ったのだ。

別に鞭を使いこなせるようになったとかそういう類ではなく、本当に単純に何も苦労なく鞭を振るっただけで鈴を奪えたのだ。

本当にラルシャークの騎士たちが弱かっただけだ。


ラルシャークの天馬合戦では完全に物足りなかった。


「……相手が悪かったとしか言いようがないですね」

バルデミアンが呟いた。

ラルシャーク側に同情してしまう。


「さあ、次に向かうぞ」

グレイザックはリディオノーレの背中を押し、それぞれが御者台や馬車に乗り込む。


「お世話になりました」


そうして、4人は次の領地へと向かって行った。




次はアラウィリアへと向かう。

今回は、たくさんのお土産を準備している。

リディオノーレはウキウキとワクワクが止められない興奮状態のまま向かう。


天馬車を2つ縦に繋げて、御者台にはムナグレークが乗ってくれているのでリディオノーレとグレイザックは車の中でゆっくりしていた。


「いつぶりでしょうか」

リディオノーレは向かいに座るグレイザックに尋ねる。

「さあな。一年半?くらいか?」

グレイザックは腕を組みながら答える。


「多分質問攻めだぞ。それを考えただけで憂鬱だ」

グレイザックはため息をつく。

「そういえば、結局アブストール様からのお手紙を返していなかったでしょう?」

「………」

グレイザックは視線を逸らしたまま何も返事しない。


「アブストール様の対応はお任せしますからね。私はティア様とお茶するんです」

「……お前、本来の目的を忘れてないか?」

「あー………、えーと、視察ですよね?もちろん、分かってますよ」

リディオノーレも視線を逸らす。

グレイザックは彼女の額を弾いた。


「いったっ!!!」

結構鈍い音がして、リディオノーレは声を上げて呻いた。




2時間ほどすればアラウィリアに到着し、領主筆頭に総出で出迎えてくれている。

リディオノーレは馬車から身を乗り出して、手を振る。


「おいっ、こら、やめろ」

グレイザックが慌てて彼女の服を引っ張る。

半分以上身を乗り出すものだから落ちそうだ。

地上に降り立つまで、グレイザックは服を引っ張って落ちないように支える羽目になった。


地上に降り立った瞬間、リディオノーレは天馬車から一目散に降りると、グレティアーナの方へ走る。


グレティアーナは少し驚いた顔をしたが、それでも嬉しそうに手を広げた。


「ティア様っ!!!」

リディオノーレは勢いよく抱きついた。

「リディ!」

グレティアーナも名前を呼んでくれて抱きしめてくれる。


他の者は全員唖然としていた。

特にアブストールなんて呆けている。


領主とグレイザックは顔を見合わせると苦笑した。


「少しの間、グレティアーナ様を借りても?」

グレイザックは領主に尋ねる。

「構わん」

許可が出たので、グレイザックはリディオノーレを呼んだ。


「リディ。少しの間、グレティアーナ様と話でもしてこい。積もる話があるだろう。グレークを連れて行くように。バルデ、お前は俺の補佐だ。先に仕事を終わらせる。あー…、アブストール。お前も先に仕事の話だ」

グレイザックは次々と指示を出す。

アブストールもグレティアーナと同行しようとしていたので、グレイザックは呼び止める。

先に聞いておきたい件がある。


「………分かった」

アブストールは渋々頷いて、領主たちの後をついて行った。


リディオノーレはムナグレークと共にグレティアーナの部屋へと移動した。


そこで3人は久方ぶりの再会に花を咲かせていたが、グレイザック達は違うかった。


領主の執務室へと案内され、部屋の中に通されたのは領主とアブストールとグレイザックのみである。

バルデミアンは扉の外で護衛する。


「アブストール、報告を」

領主が命じる。

アブストールは懐から書類を取り出した。


「グレイザックからの依頼の件ですが、これだけ姿を現さなかったのでもう死んだんだろうという見方が増えていました」

その報告にグレイザックは眉を上げた。

「………いました?過去形か?」

グレイザックの声が低くなる。


「そうだ。リディオノーレ様が元気な姿を見せたのが約ひと月前だろう?この短期間にカルムクラインの生き残りが復活した、との噂が出た」

そのアブストールの返事にグレイザックは「ほぉ…」と呟いた。

魔力がほんのり漏れる。


「グレイザック、やめてくれ。お前の魔力に耐えられる自信がない」

アブストールは苦々しげに呟いた。

はっきり意見されたのは久しぶりで、グレイザックは少し目を瞬くと漏れていた魔力をおさめる。


アブストールは安堵の息をついた。


「復活した、とはどういう意味だ」

領主が尋ねる。

「目が覚めた、というわけではなく、か?」

グレイザックも尋ねる。

意味合いが変わってくるからだ。


「ああ。あれだけ眠っていた者が目を覚ました所ですぐに動けない。普通は目を覚ました、とか意識を取り戻した、と表現するだろう」

アブストールの目が鋭くなる。


「だが、潜入させている者からの情報によると違った。復活した、とのことだった。もう歩き回っていると。不調な様子も見られない。まさに奇跡、という声もあればそんな馬鹿なことがあるわけない、という声の2つだった」


その情報にグレイザックの顔から表情が消えた。


「……漏れているな」

情報が。


領主が静かに呟いた。





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