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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
内通者

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視察の始まり




リディオノーレは日中は騎士団と訓練をし、鞭の使い方を身につけ、体力もつける。執務仕事も時間があれば手伝い、視察の準備に追われ、あっという間に出発となった。


「リディ、くれぐれも。くれぐれも、1人で突っ走らないように」

見送りのフェルバールがそれはそれはしつこく言い聞かすように喋る。

「だーかーら、何で皆同じようなこと言うんですか」

リディオノーレは唇を尖らせる。


見送りに来ている全員にリディオノーレは同じようなことを言われている。

騎士団長にも、騎士たちにも、ジャンドバルトにも、シャイリーネにも、領主にも、だ。


あと因みにシャーリネーヴェからもわざわざ手紙で注意された。

どれだけ信用がないのか。


そして、サムエルと最後に挨拶を交わす。

リディオノーレの前に腰に手を当てて立つと、サムエルは懇々と話し始める。


「必ず、誰かと一緒に行動すること」

「……はい」

「何かをしたい時は、グレイザック様の許可を得ること」

「……はい」

この状態のサムエルに逆らう方が無駄骨なので、リディオノーレはひたすら頷くしかない。


「あと、他領で実験したりしないこと。徹夜しないように。これは、グレイザック様もですよ!?」

サムエルはグレイザックにも話を振る。

グレイザックは、げ、と思わず呟いた。


「げ、とは何です?げ、とは」

サムエルが微笑んだ。

「……分かってる分かってる。徹夜はしない」

グレイザックはため息をつく。

「あなたしかリディを止められないのですから、しっかりして下さいよ?一緒になって実験しないように」

サムエルは言い聞かせる。


「ムナグレーク様、バルデミアン様、よくよくリディから目を離しませんように」

サムエルは同行者の2人にも注意を促す。

「サムエル分かったから、もうそれくらいで良い」

グレイザックは息を吐く。


「これくらいでも足らないくらいですよ。……あと、これを」

サムエルは薬を渡す。

「お2人とも既につくっているかとは思いますが、回復薬です。あまり無茶をされませんように」

「………」

リディオノーレが受け取った。

何だかんだでサムエルは優しい。


「無傷で帰ってきて下さいね」

サムエルは最後そう締めくくって、彼女の頭を撫でた。

「では、行ってらっしゃいませ」

サムエルは挨拶して後ろに下がった。


「行ってきます」

リディオノーレは天馬車に乗り込んだ。

彼女の天馬車の御者台にグレイザックが乗る。

ムナグレークも天馬車をひとつ操るため、御者台に乗り込む。

バルデミアンは単独で天馬に跨った。


「あとは頼んだ」

グレイザックはそう言ってから手綱を握り、空へと駆け上がった。






最初に視察で到着したのは小領地であるラルシャーク領である。

旧カルムクライン領の4割を引き受けてくれた領地だ。

リディオノーレは初訪問である。


「お待ちしておりました、アインズビル領主代理・グレイザック様。並びにリディオノーレ様」

ラルシャーク領主が出迎えてくれて跪く。

柔和な雰囲気の40代くらいの男性だった。


「部屋に案内させます」

領主は側近を呼ぶとすぐさま手土産の交換をムナグレークと行い、他の3人は先に部屋に案内してもらう。

「……お部屋の数は3つだと聞いているのですが、お間違えないですか?」

案内してくれた者が恐る恐るグレイザックに確かめる。

「ああ、大丈夫だ」

グレイザックは軽く微笑む。

「それなら良かったです。では、夕の鐘が鳴ったあとにお迎えに参ります」

「了解した」

グレイザックはそう返事して、リディオノーレの背中を押して先に部屋に入れ、バルデミアンには廊下で見張りを頼んだ。


部屋に入ると、グレイザックは荷物の中から何やら茶色の粉末が入った瓶を取り出すと部屋全体にふりかけた。


「……大丈夫だな」

何を確認したのか分からないが、グレイザックは納得がいくと洗浄魔法をかけて粉末を綺麗に掃除した。


「……何をしたんですか」

リディオノーレは恐る恐る尋ねる。

「毒がないか確認した」

「………」

そこまで警戒しないといけないのか、と尋ねたい所だが害された本人が言う台詞ではないので黙り込むリディオノーレ。

その代わり別の質問をすることにした。


「その粉末は何の粉末なんですか?」

「そこらで取れるゲリルだ」

「え、ゲリルって毒があるんじゃ?」

「草はな。これは根の粉末だ。毒があると反応して色が変わる」

そんなのはどの本にも載っていなかった。

ゲリルは雑草で、毒を含んでいるため魔獣除けに植えられていたりする。


「……研究したんですか」

リディオノーレは尋ねる。

「そうだ。草に毒があるから皆触りたがらないが、根まで毒があるとは限らないだろ?先入観を取っ払うと色んな発見があるぞ」

グレイザックはにやりと笑う。


「これは発表しないんですか?」

お金になると思うし、教科書に載せてもいい類のことだ。

「仲が良い者にだけ教えている。しかもこの情報は有料だ。血判証明も結んであるからおいそれと広がらない。他の奴に教えたいときは、俺の許可がいる」

本当にちゃっかりしている。


「まあそういうことだ。とりあえずお前は着替えろ。衣装はこれだな」

グレイザックは運び込んだ荷物の中からひとつ選ぶ。

薄い水色の衣装だ。

シャーリネーヴェからもらった衣装の中で、グレイザックが適当に見繕ってくれたものだ。


「その腕輪はそのまましておけ」

市で彼が自ら渡した金色の腕輪をずっとしているリディオノーレ。

魔法攻撃を防ぐ術がかかっている。

「髪飾りはこれだ」

グレイザックが次々とあてがう。


衣装や飾りに関してはいつもグレイザックが決めてくれるし、髪も結んでくれるのでリディオノーレは殆どすることがない。

本来なら同性の側近が色々やるものらしいのだが、彼女にはいないので仕方がない。

純粋な貴族は側近ありきの生活をしているので、学院での寮生活で苦労するらしい。

リディオノーレは別に自分で服も着れるし、特に困ったことはないので全く気にしていない。


貴族なら本来あり得ないことらしいが、グレイザックもリディオノーレも特殊なので、本人たちも何とも思っていない。

自分のことは自分でするのが普通だと思ってるし、2人共他人から狙われたりする対象であることから、自分のことを他人に任せられないのが現状である。


「じゃあ俺も着替えてくるから、着替えたら隣室に来い。髪を結ぶ」

グレイザックはそう言って、部屋を出た。




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