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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
カルムクラインの生き残り

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縁談の手紙



食後、リディオノーレの執務机にお茶と茶菓子を用意する。

椅子を持ち寄り、1つの机で話を始めた。


「お前宛てばっかりだ。読んでみろ」

グレイザックは紐でくくりつけて束になっている手紙をそのままリディオノーレに渡した。

彼女は受け取り、中身を見る。


「………」

一枚、中身を読んだリディオノーレは、無言でグレイザックを見つめた。

ちょっと困った顔をしている。

グレイザックはその彼女の表情に苦笑いになってしまった。


「私の縁談……ですか?」

リディオノーレは我に戻り、口を開いた。

「そうだな」

茶菓子をつまんでから返事するグレイザック。

「………どうすればいいんですか」

リディオノーレは本当に困った顔をする。

そんな彼女を見て、グレイザックは息を吐くと額を弾いた。


「どうするもこうするも俺が選ぶから大丈夫だ」

「……え!?」

リディオノーレは目を見開く。

「え、え、え、ええええええっ!?」

彼女は大声を出してしまう。

「うるさい」

また額を弾かれるリディオノーレ。


「え、え、私、婚約させられるのですかっ!?」

リディオノーレは助けを求め、サムエルを見る。

サムエルは思わず苦笑する。

「うるさい」

グレイザックはまた額を弾いた。

「いっったっ!!!」

あまりにもすごい音がしたのでリディオノーレは叫んでしまった。


「今すぐ婚約するわけがないだろう」

「え?え?じゃあどういうことですか」

リディオノーレは額を押さえながら尋ねる。


「どうもこうもない。今のところ、お前に釣り合う相手はいない」

「ええ?」

リディオノーレは何枚もある手紙の差出人を確認する。

殆どがアラウィリアからだ。


アインズビルが国の最大領地ではあるが、アラウィリアはそれに次ぐ大領地だ。そんな領地から縁談が来ているのに、釣り合う相手がいないとはどういうことだろうか。


リディオノーレはグレイザックを見つめた。


「どこにお前と釣り合う奴がいるんだ」

「アラウィリアなら上位領地ですよ?」

その言葉にグレイザックは鼻で笑った。

それはそれはもうとても馬鹿にしたように。


「お前の結婚条件は忘れたのか?」

「……………素材と蔵書の数ですか?」

「そうだ。お前は、それが重要なんだろ?」

「もちろん」

リディオノーレは大きく頷く。


「じゃあ今来てる相手で、それに当てはまる奴はいない」

「………え、じゃあ、返事はどうするんですか?」

「燃やす」


「??????!!!!!!」

リディオノーレは目を高速で瞬いた。

「え?ええ?ぇええ??そ、そんなことしていいんですか」

「駄目なのか?」

グレイザックが聞き返してくる。

「え?……いいんですか?」

分からなくなって、リディオノーレはサムエルを見た。


「駄目に決まってますが、グレイザック様がそうすると言っているので放っておいて大丈夫です」

サムエルはにこりと笑った。

「返信もしなくていいんですか?」

「それも含めてグレイザック様がどうにかすると仰せですので任せておいたらいいんですよ」

サムエルの微笑みでリディオノーレは少し安堵した。


「私は何もしなくていいんですね?」

「あー、この手紙だけは返していいぞ」

グレイザックは手紙の束から1枚抜き取って渡す。

見てみると何とグレティアーナからだった。


「ティア様からじゃないですか!」

リディオノーレは笑顔になる。

「それには返信しておいてやれ。あとの縁談の手紙は何も気にしなくて良い」

「………本当にいいんですか?」

「これにイチイチ返信して会ってから断りを入れるのか?」

「……それは面倒くさいです」

リディオノーレは眉を下げる。

「興味があるならその場をつくってやるがどうする?」

グレイザックが意地悪く笑う。


「……グレイザック様が全て処理してくれると言うならお言葉に甘えることにします」

リディオノーレは弱く微笑んだ。

「というより、何故、私に縁談が?」

首を傾げる。

「あれだけの天馬合戦を見せたら、そりゃあこうなる」

グレイザックは息を吐く。


「え?」

リディオノーレはもっと首を傾げた。

「え?」

サムエルが思わず聞き返す。


「私、何かしました?」

「え?」

サムエルはまた聞き返した。

そのやり取りにグレイザックはため息をつく。


「アラウィリアは天馬合戦の領地だぞ。その領地の者に勝ったんだ。そりゃお前と縁を結びたいだろうさ」

「……え?そんなことで?」

リディオノーレは目を瞬く。

「何も特別なことはしてないですよ?」

本当にたまたま勝っただけだ。

策は悪辣非道だと言われたし、あれくらいしか使える技が無かったのだから仕方ない。


「あれくらいしか思いつかなかったですし、まず、普通を知らないですし」

リディオノーレは茶菓子をつまむ。

普通を知らずに参戦したのだから仕方ない。

本当に仕方ない。


「あんな奇策を思いつき、学院にも行ってないのにあれだけ魔法が使え、魔力も豊富。そりゃ嫁に欲しいだろう」

「………それだけ聞けば、私って結構優良物件ですか?」

リディオノーレは目を瞬きながら尋ねる。

「……実物はこんなちんちくりんだがな」

グレイザックはため息をついた。

その言葉に彼女は頬を膨らます。


「まあ、お前の価値が知れたということだ」

「……それはいいことなんですか?」

その質問にグレイザックは少し考え込んでから口を開いた。

「カルムクラインの異常児、という名は払拭できたかもしれんな」

「……その二つ名、浸透してたんですか」

彼女は苦い顔になる。

その不名誉な名前はやめてほしい。


「俺の弟子がどれ程の者かと皆、元々興味があったのは事実だ。そして俺の弟子と名乗るに相応しい魔力と魔法をお前は見せつけたんだ」

「あのグレイザック様の愛弟子、という二つ名が今回広がりました」

サムエルが言う。そして、続ける。

「厳密に言うと鬼畜師匠の弟子は悪辣非道、と」

なんて二つ名だ!

リディオノーレはあからさまに憤慨した。


その様子にサムエルは苦笑いになる。


「そりゃ怒りますよね」

「当たり前じゃないですか!師匠は鬼畜ではありません」

その発言にグレイザックは目を瞬いた。

サムエルは吹き出す。


「そっちですか」

サムエルは苦笑しながら突っ込む。

「当たり前ですよ。私のことはどう言ってもいいですが、師匠のことを貶すのは許せません」

本当に当たり前のようにグレイザックのことに対してだけ怒るリディオノーレ。

サムエルは微笑ましくなる。


「……俺のそれは昔からだから気にしなくていい。自分の心配だけしてろ」

グレイザックは額を弾いた。

本当に調子が狂う。


「師匠はそれでいいんですか」

リディオノーレは頬を膨らませている。

「これからはお前の方が重要だから、俺のことはどうでもいい」

「じゃあ私は私で師匠の良さを皆に伝えていきます」

その発言にグレイザックの顔がすごい引き攣った。


「待て。やめろ」

頬が引き攣り、ピクピクしているグレイザック。

「何でですか。私だって師匠のことを誤解したまま皆にいてほしくないです」

「やめてくれ。俺のことは放っておけ」

「嫌ですよ。鬼畜ではないことを公言しないと。少し厳しいだけ、ですよね」

「………あ?」

グレイザックが眉を吊り上げた。


あ、発言間違えた、とリディオノーレは口を歪めた。


「厳しくないですよ。とっても優しいです」

リディオノーレはにこりと微笑んだが、遅かった。

グレイザックの大きな手が彼女の頭を鷲掴む。


「痛い痛い痛い痛いです」

力が強いので涙目になる。

グレイザックの腕を掴むリディオノーレだが、全然はがせない。

「師匠は優しいですー!自慢の師匠ですー!」

彼女は慌てて言い繕う。

グレイザックは彼女の頭を掴んだまま意地悪く笑う。


「何がどう自慢なんだ」

「………まず、知識量がえぐいです」

「……もっと言い方があるだろ」

グレイザックが突っ込む。

サムエルはそんな2人のやりとりを面白そうに見ている。


「他には?」

「他には、素材をたくさん持ってます」

「それで?」

「研究資料もたくさんあります」

「ああ」

「ええっと…、天馬合戦がとっても強いです」

「勿論だ」

「すごく強いんですよ!魔法攻撃でも武器を使ってでも負けなしです」

「当たり前だ。俺だからな」

「えっと、一緒にいると安心します」

「何だそれは」

グレイザックの頭を掴む力が緩み、代わりに眉間に皺が寄る。

それは自慢なのか、と呟くグレイザック。


「勿論、自慢ですよ。いるといないとじゃ安心感が違います。だって、何があってもどんな状況になっても対応してくれるでしょう?」

力が弱まった内にリディオノーレは彼の手を頭から外す。

「……勿論だ。後見人だからな」

「だから馬鹿できるんです。間違ったことしても教えてくれるし、見捨てないですし、とっても優しい師匠です」

微笑むリディオノーレ。


「本音ですよ、本音。師匠には感謝しかないですけど、もう少し口数を増やしてくれると意思疎通がしやすいです」

リディオノーレはちょっぴり意見も述べてみた。

「何か言ったか?」

「……いえ、何も」

リディオノーレは視線を逸らしながら否定した。

残念ながら、意見は通らなかった。


「皆が口々に言う〝あの″グレイザック様に引き取ってもらったんですから、それに恥じないようにいっぱい魔法を覚えるんです」

リディオノーレは笑う。

「……ん?それは違う気がする」

グレイザックはまた眉間に皺を寄せた。

「首席取らないといけないですからね!」

「心配しなくても取れるから大丈夫だ。もし取れなかったら勘当だな」

「えええっ」

彼女は目を見開く。それはもう盛大に目を見開く。


「今の知識量でも下級生では首席だろう」

グレイザックは茶菓子を口に放り込んでそう告げた。

「本当ですか?」

「ああ」

グレイザックがさも当たり前のように言うのだから、実際そうなのだろう。

リディオノーレは思わず頬が緩んだ。


「勉強に関しては全く心配していない。心配なのは、お前が学院で何をやらかすかだ。寮生活だから、基本は保護者も介入不可なんだ。それまでにどうにかしないといけないことが山積している」

「例えば?」

「集中しすぎたら周囲の音が聞こえなくなる所」

その言葉に、う、と口を噤んでしまう。

それを直すのが難しいことは、本人が1番よくわかっている。


「まあ追々で構いませんが、少しずつでもいいので改善しないといけませんね」

サムエルは苦笑しながら告げる。

「今は俺とサムエルがいるから構わんがな。どうすれば気付いてくれるかも分かってるしな。そんな所も直しながら上級生までの授業を入学までに終わらせる予定だ」

簡単に言っているが、そう簡単なことではないことは確かである。


「直近はとりあえず仕事の合間にウィスナビアに行くことと、視察のこと、領主会議中の不在時についてのことと、訓練をそのまま続けることが優先だ」

グレイザックは指を4つ立ててそう真剣に述べる。


「アラウィリアに長居しすぎたせいで仕事が溜まってる。視察に行くにもある程度の下調べが必要だから、それもあってなかなか休みが取れん。領主会議までに連れて行ってやりたいのだが、難しいかもしれん」

「……それは仕方ないことなので大丈夫です。私もお仕事頑張って手伝いますし」

ぐ、と拳を握るリディオノーレ。

「だが、お前は訓練を優先させた方がいい。今のままでは体力が無さすぎる。魔力をたくさん使ったあとの反動が大きい」

「そうですね。魔法を使うようになってから熱が酷いのは確かですね。まだ安定してない内に大型の杖を使っているのが原因ではありますが」

サムエルが苦い顔になる。


「だが、ばかすか杖を崩壊されて素材が減るのは防げる」

グレイザックが言う。彼も苦い顔をしていた。

「難しいところですね」

サムエルは眉間に皺を寄せた。

リディオノーレは心中で、すいません、と謝る。

自分ではどうしようもできないことなので、グレイザック達に任せるしかないのだ。


「まあどうにかなるだろ」

グレイザックは考えるのを放棄して、お茶を飲み干した。

「とりあえず手紙の内容が分かれば今日はそれでいい」

グレイザックは手紙を全て回収する。


「話は終わった。さあ、自分の部屋に戻れ」

さっさと追い立てられるリディオノーレ。

彼女は訝しがりながら、腰を上げた。


きちんと食器も全て回収し、それを持って扉を開けてからふと思い出したことがあり、尋ねてみた。


「グレイザック様にお手紙は?」

振り返りながら尋ねた。

その質問にグレイザックは貼り付けたような満面の笑みを見せた。


「………何も聞いてません。お休みなさい」

リディオノーレは笑顔を引き攣らせながらそう答え、部屋をあとにした。

彼女の気配が完全に消えてから、サムエルは口を開いた。


「気付かれてしまいましたね」

苦笑いのサムエル。

「…ちっ」

グレイザックは舌打ちをした。


手紙の量は彼女よりグレイザック宛ての方が断然多かった。倍以上は来ていた。

それは全て燃やした。返信もせず、問答無用で。

それはそれはもう面倒くさそうに。

そして、彼女宛ての手紙に関してはもう不機嫌極まりなかった。彼女に見せた手紙は、その中でも厳選して厳選して、まだマシだと思った相手だけ残したのだ。

それでも釣り合う相手はいないのだが。


「これが続くと思うと苛つくな」

グレイザックはそう上を向いて呟いた。





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